「そこ、左に曲がって。」
「了解した。」
最初は汗を恥じていた砂狼は、辺りを舞う砂煙に目を細めながらに方向を指示してゆく。
流石に慣れた道だからか、非常に的確。
案内を頼んで正解だった。
道に迷い緩く右往左往を繰り返していた一人の時とは違い
迷いない進路指示の助けもあり、ものの数分で目的地に近づく。
気づけばあそこまで追い求めたアビドス高校は目と鼻の先だ。
「学校内まで入っても?」
「大丈夫。多分。」
「であれば、なにかあった際の責任は君に負ってもらおう。」
「えっ。」
「冗談さ。」
軽くスロットルをひねり上げ、ブウォンと一息上げて駐車場に乗り上げる。
駐車場を抜けた先のグラウンドで、各々の手持ちの銃を携えた少女たちが小さく見える。
「先に行って彼女たちの誤解を解いてくれるか?」
「ん…このままだと話し合いの前に穴だらけ、だね。」
「笑えない冗談だな…」
「冗談で済むといいけど。」
「待ってくれ」
「冗談。さっきのお返し。」
トッ、と軽い調子でバイクから飛び降り
砂狼は軽く小走りをしながら此方に向けて、ん。とその冷静な表情のままピースサインをする。
「敵わないな…」
軽く頭を掻きながら、男はバイクのエンジンを停める。
あとは彼女が上手く説得してくれるのを祈るのみだった。
駐車を完了した後、グラウンドまで歩き進めれば
先ほどの砂狼、それに加えて黒い髪の少女が2人と
長い髪でピンク、そしてベージュに近い髪色の少女が居た。
それぞれの獲物は、ARが2。散弾銃が1。
そして――ガトリング式機銃。
その銃はよく見た事のある型の物だ。
解放戦線にも、あの型のガトリングを積んだ航空機が存在した。
それ故にゾクリと背筋が凍る。
覚えている限り、本体重量だけで約20Kg。
弾薬重量を考えればその倍はくだらない。
それをニコニコとした笑顔の少女が、さも余裕を感じさせる顔で手を振る。
そう。軽く見積もっても40Kgの鉄の塊を、片手で。
眩暈がする思いだ。
もはやいっそ彼女が機械で出来ていると考えた方がまだ理解できる光景。
「あ~、貴方がシロコちゃんを送ってくれた人、だよねぇ?」
その恐ろしい光景を目の当たりにして幾つか頭が混乱するが
それを引き戻すが如く、低身長の少女が言葉を紡ぐ。
「…あぁ。連邦捜査部、ラスティだ。」
「じゃあ、やっぱりあの手紙!」
「読ませてもらったよ。それで、微力ながら助太刀にね。」
「そう言う君は奥空アヤネ、で合っていたか?」
「はい!アビドス高校1年、奥空アヤネです。」
「わぁ〜、支援物資が受理されたんですね!良かったですねアヤネちゃん!」
「はい…これで弾薬や補助品の援助が受けられます!」
安心したと喜び合う奥空とベージュ髪の少女。
――懐かしい感覚だ。
かつて兵として生きていた頃も、支援物資の供給を行うことは少なくなかった。
彼らは支援物資を積んだトラックに乗った我々を見て――
まるで、神を見たように喜び合うのだ。
それを見る度に、この身を我が故郷に捧げて良かった。と
どうしようもなく気持ちが上がったものだった。
「今回は一先ず挨拶程度だが、多少の援助品を持ってきた。」
「確認を頼む。」
「流石先生、ですね~!」
「はは、煽てても私は何も出せないぞ。」
――グラウンドまで車両を横づけしよう。
と軽く手を振り、駐車場に戻る男の姿を見て
薄く醒めた目を向けた少女が居た。
「ホシノ先輩?」
その横で振る手もそのまま、少し困ったようにベージュ髪の少女
十六夜ノノミは小鳥遊ホシノを見た。
「ん~?どうしたのノノミちゃん?」
「お顔が堅かったですよ?」
「んぇ~、だってせっかくお昼寝してたのに、あ~んな爆音で起こされちゃぁ」
「おじさんびっくりしちゃったんだよぉ?」
あくまで、緩い『表面』を保つ。
信頼はしない、が敵ではない。と言った所だろうか。
「ん~、そうですね…そういうことにしましょうか」
「そういうことってなぁに~?ノノミちゃぁ~ん」
「もぉ~、ホシノ先輩~?」
管を巻くようにノノミにじゃれつくホシノ。それに付き合うノノミ。
それを見て、後輩の皆は呆れて少し笑う。
暗い感情に目ざとく気づく自分を、彼女はどう感じているのだろう。
互いに心の内は判っているのに続ける茶番。
意味には敢えて気付かないふりを続け
私たちは後輩の笑顔の為、仮初の平穏を見せかけるのだ。
アビドスの生徒との邂逅を終え物資を運び込んだその後。
初対面の他人という不信感は感じられつつも新しい物資に歓喜する様を見れば
やはりここに来て正解だったと思える。
人が救われる光景は、やはり見ていて嬉しい物だ。
血に塗れた私の手でもそれが出来る。
それは、何物にも代え難い幸福に思えた。
暫く感傷に浸っている矢先、新しい声が聞こえた。
「なによ、じっと見て。」
見れば、黒い髪の――猫の耳のような物がある――少女。
気の強そうな反応を見るに歓迎される空気は無い。
その跳ね返りのある態度に、ある種懐かしさを覚える。
解放戦線に加入したばかりのツイィーも
当時あのような態度を取っていた頃があった。
その眩さを感じるほどの若さに思わず目を細める。
「いや――何、私の知っている物資とは少し違いがあるな、とね。」
だが、そんなことを口にする訳にもいかず
単純に気になったソレに触れた。
弾薬に食料品。我々がよく見るありふれた物資だ。
しかし、女性下着や制服の新品が梱包された袋が
グリーンの軍用ケースから出てくる光景は
この街ではありふれたものなのだろうが、やはり私には新鮮に映る。
「制服が軍用ケースから出てくるのを見ることになるとはな。」
「何勝手に見てるのよ!」
そう言うと、彼女はケースを身体全体を使ってすっぽりと覆い隠してしまう。
その彼女の行為を先輩であろう目立つ髪の二人が仄かに咎める。
そんなひと時。
寂しいこの土地で、何よりも美しい平穏を感じる。
目を閉じて今はその喧騒に、ただ一人揺れていた。
――セリカちゃん、ダメだよ――。
――でも、――。
ありふれた、声。
――どうやらあの気の強そうな娘は、セリカと言うらしい。
――ノノミ先輩も――。
――セリカちゃん――ですよ~――
あのベージュ髪の少女は、ノノミ。
活気有り余る子供の、いっそ可愛らしいと言える声。
――おじさんは――だよ――。
――ホシノ先輩も――。
――そこに混じり始める、複数のエンジン音。
咄嗟に目を見開く。
「敵か。」
脈絡なく呟いたその言葉に、瞬時に皆此方を見据える。
「バギーが5、6台。少なくとも6人、多くて10人以上、と言った所か。」
言い切る時を同じく、先程まで歓談していた少女たちは
各々使用する銃器に弾薬を装填し始める。
「もぉ~何度もやってきて懲りないなぁ」
その和やかな声とは裏腹に、ホルダーにショットシェルを取り付けるその手はとても素早い。
「君は。」
「小鳥遊ホシノ、アビドス三年生。いっちょよろしくぅ。」
「散弾銃か…最前線は君が?」
「そぉう。可愛い後輩を傷物にされたくないからねぇ。」
装填を完了し、ピンクのラインの入った白いショットガンの金属の噛み合う音が響く。
「オペレーターは私がします。」
先までの笑顔は鳴りを潜め
真剣な表情でドローンを組み立てるアカネ。
「方角がわかったら教えて、アヤネちゃん。」
獣の耳をぶるり、と傾け周囲警戒に入るセリカ。
「弾薬も充分ありますし、これなら百人力〜、です!」
変わらず片手に重火器を携え、力こぶを作ってみせるノノミ。
「ん、分かり次第援護に入る。」
そして、セリカと同じ獣の耳を揺らし
チャンバーチェックを済ませるシロコ。
「――
「当たり前でしょ!?何年ここをこの5人で守ってきたと思ってるのよ!」
「5人…。」
「そうよ、ヘルメット団なんか目じゃないんだから!」
そうきつく睨みを聞かせながら叫ぶセリカの目は、どこか嬉しそうだ。
学園で共に生きる学友でありながら、戦いも共にする戦友でもある。
恐らくは、そう言ったことなのであろう。
であれば、私の出る幕はない。
宙に浮くUIを真剣な表情で眺める奥空の肩を叩く。
「私はサブオペレータに回ろう。獲物がないのでね。」
「SNSで戦闘を見ました。オペレーションも出来るのですね…」
「此方は本業ではないがな。足りない部分は優秀なAIに任せるとするさ。」
そう呟き、タブレット端末に触れる。
「オペレーションモード、起動!」
「初めての出番ですね、先生!」
小さくAR出力されたアロナが嬉しそうに告げる。
「そうだ。――歴戦のアビドスの姿、見せてもらおう。」
発言者が分かりづらくなっている場面があるとご意見いただきました。
個人的にはこのセリフの出し方の見栄えが好きなので続けていきたいのですが
なんとか地の文で発言者を判り易くするなどして書けるよう努力していきます。
ご意見有難うございます、今後も何かあればコメント頂ければ幸いです。