【完結】転生おっさんin公爵令嬢は人型ロボを作って乗る   作:はるゆめ

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第二十四話 アテナの土木作業

 ラーヤミド王国の国境は険しい山と深い大森林。

 山の麓には見渡す限りの畑と、それを森から隔てるように獣避けの高い柵が地平線まで続いている。

 

 王家所有の耕作地。

 働くのは農兵である。

 ラーヤミド王国は国民皆兵。

 農兵はその名の通り平時は農作業に従事する。

 

 ここ、第八国境耕作地で働く農兵と工兵、併せて四百名余りが緊張した面持ちで整列している。

 無理もない。

 

 彼らの眼前には巨人、大型ゴーレムが跪いているのだ。

 白い、まるで白鳥が羽を広げたような鎧を纏い、金色の髪が特徴的な顔は美しい顔。

 その前に立ち戦装束に身を包んだ公爵令嬢と同じ顔なのだ。

 

 その隣にはここ、第八耕作地の所有者である第八王女アーシアが立っている。

 

 背はレイテアより頭一つ低く、十五歳にしてはやや幼く見えるが、意思の強さを示すかのような釣り上がった眉と目、王族の証である濃い紫色の髪。

 

 彼女は先程から今日の作業内容について自ら説明をしている。

 

「最近森を抜け出てきたバボが畑を荒らすので柵を強化してほしい、だったわね?」

「はっ! 先月も二回、バボ数頭に柵を破壊され作物を荒らされました」

 

 兵士長が答える。

 

「しかも巡回の隙をついて、だったわね?」

「はっ!」

「安心なさい。その心配は今日限り。ここにいるレイテア嬢が発案した柵を設置していくから」

 

 アーシアが誇らしげに胸を張る。

 

「それじゃレイテア、見本をお願いするわ」

「承知しました」 

 

 兵士達は驚くことになる。

 跪いた姿勢の人型ゴーレムが右手をレイテアに差し出す。

 彼女はその手のひらに飛び乗ったかと思うと、ゴーレムの胸部装甲が左右に開いた。

 

 ゴーレムがその開口部へ手のひらを持っていき、レイテアはその中へ入る。

 すぐに胸部装甲は閉じ、人型ゴーレム『アテナ』は立ち上がる。

 そのまま山積みになっている木製の杭を掴むと、器用な手つきで地面に突き刺していく。

 

 二メートルほどの杭、これを三本交差させた姿は野外で使う篝火の脚部と同じ見た目だ。

 

「見ての通り、この杭はバボに対する障害物よ。アテナが杭を刺していくから、あなた達は杭を運びなさい。そして交差した部分を縄で固定していくのよ」

「総員、作業開始せよ!」

「はっ!」

 

 兵士長の号令とともに兵士達が一斉に動き出す。

 既にアテナは十個以上の障害物を完成させている。

 

『そうそう、レイテアちゃんその調子でいこう』

(これを人力で行うには苦労しますわね、おじさま)

『ああ。ハンマーでやるにしても台がいるだろうし、いくら屈強な兵士達でもすごく疲弊しちゃうよ。アーシアちゃんから相談された時にはどうしようか悩んだけど、思い出せて良かった』

(おじさまのおかげです)

 

 男が思いついたのは、第二次世界大戦時に鉄骨を組み合わせた対戦車バリケードだ。

 大型の草食獣バボ。サイに似たその獣の足は短い。

 乗り越えるわけにはいかず、押すしか出来ないバボにこのバリケードを突破するのはまず不可能だろう。

 

 アーシアに提案すると彼女は大層喜んだ。すぐに王族の威光を使って学院に『ゴーレムの実習作業』を命じ、レイテアを指名。それが今日の作業である。

 

『それにこのバリケードは万が一帝国兵が攻めてきても有効だと思う。騎兵はもちろん歩兵ですら通り抜けるのは難しいだろうし』

 

 剣や槍、盾を持って通り抜けるのが不可能な間隔で設置されていくバリケード。

 

(おじさまも帝国が攻めてくる……そう思いますか?)

『そりゃ来るよ。ドラゴンをけしかけてきたのは小手調べの実験だと思う』

 

 日が傾いてあと一刻もすれば夕焼け空になろうかという頃に、用意された杭が全てバリケードとなった。

 およそ一キロメートルに渡っている。

 

「ご苦労様! 次の杭は明日の朝には搬入されるから、今日の作業は終わりよ。ゆっくり疲れを取ってね。明日、農兵百名は通常通り、障害物設置はあと三日で終わらせるわ。ゆっくり休んでちょうだい」

「はっ!」

「レイテアもお疲れ様。あとは宿舎でね」

 

 アテナが跪き、胸部からレイテアが降ろされる。

 

「承知しました」

「あまり堅苦しくしなくていいわよ。私たちは学友でしょう?」

「そ、それはそうですが……」

「学院にいる間だけでもいいのよ。もっともっと気楽にしてね」

「は、はい……」

 

『レイテアちゃんって本当に同世代の子が苦手すぎるね』

(……おじさま、私(わたくし)はこれを克服出来るでしょうか?)

『慣れていくしかないかなぁ。オリドアちゃん相手だと緊張しなくなっただろう?』

(はい、それはまぁ)

 

 講義では常に隣の席、昼食も一緒に過ごすオリドア・メティル・ディーザ侯爵令嬢。

 茶会にも常に呼ばれ、他の学友との架け橋になってくれているオリドアとは、いつしかレイテアも気安く話せる間柄となっていた。

 

『アーシアちゃんも同じだよ』

(殿下相手でもでしょうか)

『王族だって人間。背負ってるものが違うだけで』

(御伽噺の冒頭ですね)

 

 レイテアが幼い頃から愛読している『白い巨人の物語』。最初のページにはこう書かれている。

 

『王と王族、貴族は国を守るもの。国とは人、国民なり。奢る支配者はやがて国を滅ぼすだろう』

 

 この御伽噺の書は初代ラーヤミド国王が執筆者なのだ。

 貴族の子女は必ず幼い頃に読み聞かせられる。

 

『初代国王は立派な人物だと思うよ。レイテア公爵やディーザ侯爵しか会ったことないけど、虚礼みたいな言い回しや儀礼とかなくて実直だもん』

(おじさまの世界では違うのですか?)

『かなりね。国は人なりってのを忘れない限り、ラーヤミド王国は安泰だと思うなぁ』

 

 三日後。

 ここ第八耕作地で事件が起こる。

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