【完結】転生おっさんin公爵令嬢は人型ロボを作って乗る   作:はるゆめ

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第三十四話 走って跳んで燃やして消して

『よっし! レイテアちゃん、作戦開始だ!』

(はい)

 

 ───あれから二週間。国王から出撃命令が下った。

 

『敵の補給基地の破壊。山火事の消火活動』

 

 それに備えて工房でテルミット爆弾製造の突貫作業が始まった。どうにか出撃に間に合ったテルミット爆弾三つをアテナの腰に装着する。

 

 背中には短めの薙刀。最初は槍にしようかと思ったんだが、耕作地へ出かけた時に木の伐採にも使える方がいいかなと考え直したんだ。

 王国にはこのタイプの武器は存在しないので、ガードのおやっさんに図面を渡し『槍の先を短い剣にしたような武器』と説明して作ってもらった。

 

 早朝。

 王城横にある格納庫から出ると、王家直属軍の兵士が整列し、剣を捧げたポーズでアテナを見送ってくれる。

 

 城のバルコニーからこちらを見ている人物。心配そうな顔のダロシウ王子だ。

 

『レイテアちゃん、手を振って安心させてあげようよ』

(はい)

 

 王子、アテナが自分に手を振ったことで驚いた顔してるな。

 

『さあ行こうか』

(全速力ですね、おじさま)

『そう。まずは国境付近の森だね』

 

 報告だとそこが帝国軍の補給基地だ。

 まずアテナは小走りでスタート。小走りとは言え、全長十メートルを超すアテナのそれは、体感で時速六十km以上はある。

 

 そして加速する。

 前傾姿勢となり、腕の振りも大きく、足も大きく踏み出す。

 

 事前に打ち合わせた通りのルートを外れないように。

 

 さらに加速する。

 

 生前、何度も見た新幹線からの眺めに近い。

 既にアテナの全天球視界のうち、下の方は何があるのかわからないぐらい、後ろへ流れ去っていく。

 

(おじさま! 見えました)

『あそこか。教えた通り三段跳びで!』

(はいっ)

 

 国境手前でホップステップ!

 そしてジャンプ!

 

 二百メートルは飛んだかな?

 

 目の前の森が迫ってくる。

 

 ほい! 着地っと。

 

 その衝撃と轟音に驚いて、木々から鳥たちが一斉に飛び立ち、イタチっぽい小動物の群れが駆け出して逃げていく。すまんな。

 木をへし折りながら森の奥へ進むと、あったあった。

 

 帝国軍兵士たち、大量に積み上げられている補給物資の山。大型ゴーレムが二体。その向こうには天幕が多数ある。

 ここが王国侵攻の前線基地なんだろう。

 

 アテナの腰に下げてある樽、テルミット爆弾をゴーレムと補給物資の山へ次々と投擲する。

 兵士たちは散り散りに逃げ始め、その背後からオレンジ色の火柱が上がる。二千度を軽く上回る炎がゴーレムと補給物資を包み込み、熱気があたりに充満していく。

 

 帝国軍のゴーレムに何の金属が使われているか不明だが溶け始めた。一番融点が高い金属は……確かタングステンの三千六百度だったか。

 何にせよ効果は抜群。炎はゴーレムの胴体部分に大きな穴を開け、下半身が溶けていく。あれじゃもう使い物になるまい。

 山火事になることはなさそうで俺はホッとする。

 

「よし! 次へ行こう」

(はい)

 

 雲のような煙が空高く上がっているので山火事の現場は遠くからでも一目瞭然だ。

 

 多くの兵士が川の水を馬車で運び、火の手が迫る中、懸命に消火活動をしているのが見えた。

 

「おお!」

「あれが!」

 

 アテナを見ると一様に驚く兵士たち。

 まず延焼を防ぐために、背中の薙刀を振るって周囲の木を切り倒していく。やはり薙刀にして正解だったみたい。

 

 今燃えているものを消すのは困難だ。木というのは消火出来たように見えても、奥の方や地面の中で熾火の如く燻っていることがある。

 だから周囲の木を切り倒し、燃えているエリアを隔離して封じ込める。

 

 さらに用意した巨大な皮袋に川の水を入れて背中に担ぎ、激しく燃えているあたりへ水を盛大に撒いていく。

 ひたすらそれを繰り返し、気がついたら夕方近くになっていた。

 

 燃えているエリアからは煙が立ち上っているが、目立って燃えているのは見えない。どうにか鎮火の目処が立った。

 

 アテナから降りたレイテアちゃんを兵士たちが歓声をあげて取り囲む。まるでアイドルのコンサート並みだ。

 

「レイテア様!」

「ご助力ありがとうございます!」

「レイテア様万歳!」

「アテナ万歳!」

 

 煤だらけの顔に浮かぶ笑顔、笑顔、笑顔。彼らの装備も煤まみれ。

 奮闘ぶりがよくわかる。

 

 レイテアちゃんはどう応えていいものか、モジモジしてるんだよな。

 

『レイテアちゃん、笑顔で手を振ろう』

(は、はい)

 

 おずおずと手を振るレイテアちゃん。

 歓声はより大きくなり、音の渦のようにあたりを揺るがした。

 

 指揮官ぽい人が進み出てくる。

 

「レイテア様、サーナス侯爵領軍のタラクと申します。この度のご助力に侯爵、並びに領民全てわを代表して感謝を」

「こ、こ、国王陛下の命に従っただけです……」

 

 レイテアちゃんこういうのに慣れてないからしどろもどろ。うーん。今後の課題か。

 

「レイテア様、この後のご予定は?」

「日が暮れる前に王都へ戻ります」

「なんと! 聞きしに勝る機動力なのですな」

「敵の補給基地、及びゴーレム二体は完全に破壊しました。なので……」

「そちらもですか! これで我々領軍は山火事の方に専念できます。いずれ侯爵よりあらためて感謝の意をお伝えするでしょう」

「あ、はい」

「では王都までの道中、お気をつけて」

「ありがとうございます」

 

 アテナの周りにも兵士たちが集まってる。

 

 レイテアちゃんが乗り込み、アテナが立ち上がると地響きのようなアテナコールがあがる。

 

『あ、レイテアちゃん、貴族の礼をするといいかも』

(ご挨拶にですか?)

『彼らの健闘を讃えてさ』

(それ、いいですね)

 

 アテナが貴族令嬢のような礼をする。

 一瞬だけ静まり返った兵士たち。

 次には大歓声となり、その中をゆっくりアテナは歩き始め、そして走り始める。

 

『レイテアちゃん、あのテルミット爆弾は歩兵や騎兵、それと城攻めに使う』

(わかっています)

 

 その時には油を詰めた樽も一緒に使う予定だ。

 樽は壊れやすくして。

 火の海を作り出す。その中でバーベキューとなる帝国兵士には少し同情するが、戦争だからと割り切るしかない。

 

 帰還するとダロシウ王子が格納庫の前で待っていた。

 レイテアちゃんが報告をすると安心した顔で一言だけ。

 

「そうか。大義であった」

 

 と言いながらレイテアちゃんを抱きしめた。

 おーおー王子さま、やるねぇ!

 レイテアちゃんは固まってる。異性に抱きしめられるなんて初めてだしな。

王子は慌てて身を離し、照れたように視線を合わせず謝罪する。

 

「すまない、レイテア嬢。とにかく無事に帰ってきて何よりだ」

 

 足早に立ち去る王子。周りにいた兵士たち、顔がニヤけるのを必死で堪えてるのが丸わかりだぞ。

 

『レイテアちゃーん、帰ってきて……あ!』

 

 このタイミングでレイテアちゃんは眠りに落ちた。

 

 よし。

 

「レイテア様っ!」

 

 侍女のカシアとエミサがこっちへ向かってる。

 俺も完璧なレイテアちゃんを演じて、アテナを収容するとしよう。

 

「カシア、今日はここへ泊まります。まずは湯浴みの用意を」

「……今は御使(みつかい)様ですね」

 

 エミサには見抜かれる。さすがだ。

 

「そうだ。彼女は先ほど眠りについたよ」

 

 貴族令嬢っぽく歩く俺。

 

「やっぱ違う?」

「ええ。目つきがお嬢様とは全然違います」

「そこかぁ」

 

 俺の目つきは悪いらしい。生前、中高生時代に『初対面の時、怖い人かと思った』ってよく言われたもんな……。

 

「しかし殿方が女性に向けがちな視線は全く感じませんね」

 

 さすが凄腕の護衛侍女。

 

「前にも言ったろ? 俺には娘もいたんだ。レイテアちゃんも同じようなもんだよ。欲情なんてないない」

「それは信じています」

 

 格納庫の奥にある居住スペース。

 作業が立て込み、連泊もある事態を想定して、ホテルのように設えてある。

 周りに人はいない。

 

「さっき王子さまに抱きしめられてレイテアちゃんはパンクしたから、目覚めたらフォローよろしく」

「ぱんく?」

「いっぱいいっぱいになったってことさ。年頃の子どもだから無理もないがな」

 

 王子、君の想いは充分に伝わったと思うよ。

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