大変お待たせして申し訳ありませんでした。
アルフィアの目の前で大声で罵り合った事にようやく気づいたラウルとヨクバリスが、仲良く肩を抱き合わせて震え上がる一幕があったが、何故かため息と共に見逃された。
「ほれ、見てみい。おっちゃんの『ぷりてー』さにアルフィアの姐さんも『メロメロ』やん! 不細工言うた事謝ってや!」
「おまっ、調子乗ってんじゃねえっすよ! 気が変わって消し飛ばされる前にボールに戻るっす!」
普段は気のいいおっちゃん栗鼠なのに、可愛いマスコットとして絶対の自信を頑として抱いているヨクバリスをラウルは無理矢理ボールに押し込めた。「し、失礼しました……」と愛想笑いを浮かべてすすっと引っ込んでいく。
「……まあ、これで一応ロキ・ファミリアのアピールは終わりって事だな」
「あはは……。でも、仲間同士の連携が優れてるって点は凄く良かったと思うよ。僕もポケモンの指示を出すのは慣れてるけど、誰かの指揮下で戦ったり、人に指示出したりした経験はほとんどないから。実際に入団したら安心感あるね。ラウルと一緒に指揮の勉強をするのも良いかも。他の人と連携しながらポケモンと一緒に戦う際に、絶対に役に立つし」
呆れるザルドにそう総評したベルに対し、ロキは感触は悪くないやんと小さくガッツポーズする。ラウルを同伴させることを決めたフィンの判断は正しかった。
そんなロキを尻目にフレイヤが美の女神らしい自信と気品に溢れた笑みで、ベルに声を掛けた。
「ふふ、次は私達の番ね」
団長なのに
なお、この場にいる眷属でオッタル以外団長はいない。他ファミリアの団長は皆、
更に加えてフレイヤからは護衛に専念するよう言い含められていた。言外にベルのスカウトへの戦力外通知を受けている。
オッタルはちょっとだけ心の中で涙を流していた。
可哀そうなオッタル……ひとえにてめぇが日頃団長の仕事を投げ出してるせいだがbyフレイヤ・ファミリア一同。
そんなオッタルとは対照的に主神様は絶対の自信に溢れていた。フレイヤは自分ならばベルを手に入れられると確信していた。
何故ならベルは男で、フレイヤは美の女神だからだ。
今までフレイヤに靡かなかった男など存在しない。
「ベル。貴方が私のファミリアに入ってくれたなら――」
「先に言っておく。メリットが女神の寵愛などと抜かせば入団はなしだ」
美の女神の鼻っ柱は、最恐の魔女の手で『マッハパンチ』よろしく真っ先にへし折られた。
「……………………」
フレイヤは笑顔のまま固まると、器用にそのまま冷汗を流し始めた。オッタルがこれどうすんのといった感じで見てくるが、フレイヤは微動だにしない。
(だ、大丈夫。美の女神はこんな事くらいで取り乱さない)
そもそも過保護過ぎる母親が横槍を入れてくることくらい予期していた。ベルに色目を使う者は全て抹殺対象とする
当然、それに対する対策もばっちり――。
(……………………ベルを迎え入れる事に夢中になり過ぎて、忘れていたわ!)
フレイヤ様、まさかの痛恨のミス。
美神の内心を読み取ったのか、オッタルが『えっ? マジ?』みたいな目で見てきた。
どれだけ焦ろうとも曇りもしない美しい横顔を、だがしかし冷汗まみれにしながら、挽回の手段を必死に模索する。
(……アルフィアごと魅了で引き入れる?)
論外である。
そんな無様な行為は美の女神のプライドに掛けて許されない。
有象無象ならいざ知らず、愛しい男を手に入れる為に形振り構わず魅了するなど、美の女神のプライドに反する。そんな美の女神がいたらその看板を下ろした方が良い。恥さらしにもほどがある。
そもそもベル達に魅了がまともに通じるとは思えなかった。異界の未知の手段で防がれる予感がする。
ならばどうするべきか?
数分間も口を閉ざしていたフレイヤは、厳かに艶やかな唇を開いて美しい声を響かせた。
「オッタル、フレイヤ・ファミリアに入った際の利点を上げてみなさい」
「…………っ!?!?」
フレイヤ様、前言を覆してのまさかの無茶ぶりである。
護衛に専念するよう言われていたオッタルは、無論この面接で何を話すかなど考えてすらいない。
だが、例えどんなに理不尽な言葉であろうと、女神の言葉は絶対なのだ。
オッタルは学のない頭で必死に考えた。ポケモンの事だけとはいえ最近勉学に励み始めたオッタルは、決して良いとは言えないが悪くはない地頭をしている。
オッタルの賢さも成長しているのだ。どこぞの自称清く正しく美しい団長とは違って。
(強さを手に入れられる。…………いや、ありえん。俺達の『洗礼』よりもよほど【暴食】や【静寂】の方がベルを強くできる。利点にはなりえない。……冒険者としての心得を教えようにも、ロキ・ファミリアには数段劣る)
普段眷属同士で殺し合い同然の『洗礼』を行っているから個人個人の強さは勝っている自信はあるが、冒険者としてはロキ・ファミリアに劣っている事をオッタルは自覚していた。
ダンジョン内でも協力するどころか故あれば殺し合いをするような団員達である。
どうしてこうなった。団長としての責務を半ば放棄している事を棚に上げてオッタルは嘆いた。
それでもなんとかして利点を探そうと思考を必死に巡らせ、重々しく口を開く。
「…………『
なんとか絞りだした利点は、二大巨頭としては何処かずれたようなものだった。とは言え強さを押し出すにはザルド達相手には酷である。
「まあ、お前達が出せるには妥当なメリットだな。普段から殺しあってでも強くなろうとする餓鬼共だ。それを支えるノウハウは揃ってる訳だ」
「常にポケモンセンターが隣接している状態で強くなれるみたいな感じですか。確かにそれはそれで魅力がありますね」
苦し紛れに捻りだした利点ではあるが、男二人からは悪くない回答が返ってくる。
(オッタル……全く期待していなかったのに、やれば出来る子じゃない!)
無茶ぶりした張本人が大変失礼な事を内心思っていた。
これはもしやいけるのか……?
そんな空気になりかけた矢先にザルドが釘を差してくる。
「とはいえミアが抜けた現状、食事に関しては一段劣っているだろう。ミアが残っていれば食事に関しても大幅な加点になりえたんだがな」
容赦のない指摘にオッタルが呻く。今の食卓が数段劣っていることを実感してるオッタルにとって、その指摘は致命傷になりえた。
ミア、どうして肝心な時に傍にいてくれないのとフレイヤは嘆く。本人がこの場にいたら
更に不幸な事に、内心フレイヤ・ファミリアは絶対にあり得ないと考えているアルフィアが、ここぞとばかりにいびり出す。
「治療ならばオボンの実か、私のブリムオンに『いやしのはどう』を頼めば十分だろう。治療役は必要ない」
「……つくづくベルが居た世界は出鱈目ね」
食べるだけで傷を治す木の実やら、無詠唱で回復させるポケモンの技に、フレイヤは頼もしさを感じつつも今だけは口元を引くつかせた。
「料理もミアがいないのなら、俺が作った方が上等だろう。ミアがいれば考慮したが、残念だったな」
「…………むう」
ザルドの追撃に、オッタルは今だけはミアが復帰してくれないかと願った。
馬鹿いってんじゃないよ糞猪と頭の中のミアが殴り飛ばしてきた。
このままではフレイヤ・ファミリアに良い所なしで面接が終わってしまう。焦るフレイヤとオッタルだったが、何も良い案が浮かばない。
このまま無残な結果で終わってしまうのかと思われた時、意外な所から救いの手が出された。
「何を言っているザルド。ベルの食事なら私が作る」
「「……えっ?」」
アルフィアのとんでもない発言にベルとザルドが凍り付いた。
「この前のサンドイッチも上手く作れたからな。料理を作るのは母である私の仕事だ」
「「……………………えっ?」」
突然後ろから刺された男二人が、可哀そうなサンドイッチを幻視しながら呆ける。
だが生存本能が働き、すぐに来るかもしれない最悪の未来を予測する。
(お母さんのサンドイッチ、見た目はアレだけど食材や味付けは固定だったから、味は良かったんだけど……)
(もっと美味しくするためだとか言い出してアレンジし始めたら…………ベルが死ぬ!!)
ザルドが大変失礼な事を考えているが、残当な考えである。
前に一度アルフィアが料理の練習中に変なアレンジを加えた際、味見(強制)させられて死を垣間見た。ポイズンヒールが無ければ即死だった。
レシピ通りに作れば独特な盛り付け(オブラートに包んだ表現)に目を瞑ればちゃんと食べられるものが作れる。いや、むしろ数回こなせばザルドにほんの少し劣る程度の腕前になるのだ。
災禍の怪物の面目躍如と言えるだろう。……見た目から目を逸らせば。
だが、味付けに独創性を入れた途端、料理が何故か劇毒物に変貌してしまう。
愛ゆえに他人とは一味違う料理を食べさせたいと思った結果、あれやこれやとやらかして、存在してはいけない料理という名の
余計な真似をしなければ、本来アルフィアは十分美味な食事が作れる。
…………だが不幸な事に、母は愛する息子のために料理の味を高める(貶める)ことに余念がなかった。
もちろんザルドだってベルを殺したくはないからアレンジをやめろと説得した。だが、あの時は少し失敗しただけだ。次は上手くいくとアルフィアは取り合ってくれなかった。
可愛い甥っ子のためにしつこく説得を続けたが、返事は【
ザルドは後に己の無力さをベルに懺悔した。ベルは知りたくない真実を知って宇宙猫になった。
――つまり何が言いたいかというと、このままではベルの死が確定するという事である。ついでに味見係のザルドも。
「お母さんは僕に修行つけるのに忙しいだろうから、フレイヤ・ファミリアのお世話になるのも良いかもね!! だからお母さんは料理なんてしなくても大丈夫だよ!!」
「そうだな!! 料理を作る暇があったら、ベルを鍛え上げた方がいいぞ!! その方が絶対にベルのためになるからな!!」
迫真の表情で男二人が決死の命乞いをした。
内心に気づかないアルフィアが「……そうか? いや、しかしな」と反論しようとするのを必死になって宥めるベル達の姿を、フレイヤが口元を引くつかせながら見つめる。
「……何故かしらね。負けた気がするのは」
結果的に良い感触を掴めたが、なんだか釈然としないフレイヤ様であった。
短めで本当に申し訳ありません。
お詫びと言ってはなんですが、少しですが書き溜めしてますので数日後に次の話を投稿します。