お礼を兼ねて連続投稿します。
続いてガネーシャが自己アピールする番が回ってきたが、他の神々は特に誰も気に掛けてはいなかった。
どうせ『俺がガネーシャだ!』とか『下界の子供達の安寧を守るために協力してほしい!』とか『俺がガネーシャだああああああああ!!』とか、いつもの訳わからん主張の合間に微妙なアピールをしてくるくらいだろう。
優しいベルの事だから人々を守る事には共感してくれるだろうが、別にそれは他のファミリアでもやろうと思えばやれることだ。
あまりの暑苦しさと五月蠅さに、アルフィアがキレて吹っ飛ばされるオチまで見えていた。
全知の神々どころかその眷属達も、なんならいつの間にかまた勝手に出てきて、木の実片手に観戦気分のヨクバリスでさえ結果が分かり切っていた。
そんなただの消化試合のような面接は――。
「うむ! ベルはたくさんのポケモンを連れていると言っていたな! ならばガネーシャ・ファミリアはその世話に協力できると思うぞ! ポケモンのようにゲットはできないが、この世界でもモンスターをテイムする事ができてな、うちにはそのテイマーが多い! 必然、モンスターの世話をする機会も多いから、多少勝手が違ってもすぐに適応できるぞ!」
善神らしい誠意があって――。
「さらに
相手を重んじる魅力に溢れ――。
「それだけではないぞ! 俺の子供達がポケモンと共に常日頃民の安寧を守れば、ポケモン達もぐぐぐーんと受け入れやすくなるはずだ!」
ガネーシャらしからぬ真っ当さで挑んでいた。
「どうだ、ベル! ガネーシャ・ファミリアに入団しないか?」
普段とは打って変わって饒舌に言い切ったガネーシャが、暑苦しい笑顔で手を差し出した。
ベルが満面の笑みを浮かべ、ノータイムでがっちりと握手する。
「僕、ガネーシャ・ファミリアに入団します! これからよろしくお願いします、ガネーシャ様!」
即断即決で、ベルはガネーシャ・ファミリアに入団する事を決めた。
「わーい! これからよろしくね、ベル!」
ガネーシャの傍に控えていたアーディが、両手を上げて無邪気に歓迎する。
という訳で、なんやかんやで無事にベルが入団するファミリアが決まり――。
「……………………って、ちょ、待てやあああああああああああ!!」
「なにこういう時に限ってまともに勧誘してるのよ!!」
先に面接していた女神二柱が、鳶に油揚げを搔っ攫われて切れ散らかした。
「おまっ、お前なぁっ! そりゃ卑怯やん! ベルにぶっ刺さりの勧誘やん! なにしでかしてんのじゃ、ボケェェェェ!!」
「いつもの頭ガネーシャはどうしたのよ!? お笑い担当の癖に! お笑い担当の癖にっ!!」
神としての威厳どころか女であることもかなぐり捨てて、凄まじい形相で怒鳴りつけてくる女神達。
ガネーシャはあまりのプレッシャーに冷汗をかきながらも呟くように抗弁する。
「…………ガ、ガネーシャだって、優秀な子供がいたら誠心誠意、真面目な勧誘だってするんだもん」
「うっさいわ!! なーにが、だもんや、だもん!!」
「気色悪いのよ!! ぶりっ子ダルマッチョ!!」
至極真っ当な言葉であるが、怒れる女神達は聞き入れようとしない。
「あ、あわわ……ガネーシャ様が僕のせいで大変な目に」
「ほっといても大丈夫だと思うよ。ガネーシャ様だし」
ベルにとっては心優しき偉大な男神が責められている状況なのに、肝心の眷属が能天気な顔でスルーしていた。
哀れガネーシャ。このまま延々と猛抗議が続くかと思われたが、この場には雑音を決して許さない魔女がいた。
「雑音をまき散らすなら消すといったぞ。余計な横槍を入れてもだ」
効果覿面、やばい鎮静剤でも打たれたかのようにロキとフレイヤが真顔になって静まり返る。
その声色は本気であった。遊びが微塵もない殺るといったら殺る状態のアルフィアには、例え神であっても逆らう勇気は持っていない。
「……嘘だろ。今ので【
大変失礼な事を言ったザルドは、今度こそ前置きの一切もなく【
アルフィアはベルの手前暴力を控えていたが、相手がザルドだとそれも緩む。こう、以前の癖でついうっかり。
「お、おじさーーーーーん!!」
悲痛なベルの叫びを背景に、身を持って本物と確認した代償としてザルドは壁にめり込んだ。
ベルが駆け寄り揺さぶるが、死角からの『
レベル7が一瞬で制圧された光景を見て、この場にいる全員が改めて逆らう真似はしないと固く決めた。
だがしかし、恐怖を覚えながらもロキとフレイヤは思考を高速で回していた。
自分達の勧誘する時間は終わった。ガネーシャが姑息にもベルの勧誘をほぼ決めてしまった。もはや自分達に打開策は一切ない。
それでも、どうにか挽回しようと足掻く。
女神達が莫大な支払いの代価を得ようと藻掻く。
しかし、どう考えても今の自分達にできることは何もない。余計な事を喋ればザルドと同じ末路を辿る。アルフィアなら二度目は警告もなしに容赦なく殺る。
ならばと最大派閥の二柱である女神は、小賢しくも視線で格下のヘルメスにどうにかしろよとパワハラを仕掛けた。おう、その良く回る舌でどうにかしろよ、と。
ヘルメスはいつもの胡散臭い雰囲気をかき消して、神妙な顔つきで頷いた。おっ? もしかしてこれはイケるのかとロキとフレイヤの瞳に期待が宿る。
かくしてロキに比肩する希代のトリックスターの本領を発揮せんと、ヘルメスがベルに語り掛けた。
「あっ。俺、今回のベル君の勧誘辞退します。その代わりといっちゃなんだけど、ポケモン世界で面白い道具あったら融通してくれたら嬉しいなあ。アスフィの気を逸らすために」
「アスフィさんに負担掛けまくってますもんね……。わかりました、何か考えておきますね」
こいつ、女神の期待を裏切った上に、ちゃっかり自分の利益を確保しようとしていた。
隣で前髪が寂しい男性眷属も「俺が使う訳じゃないけど。なんか、こう、『すごいけはえぐすり』的なものがあったりしないかなー、なんて。――かぁーっ!! 俺が使う訳じゃないけどなあ!」 とかほざいていた。
厚かましいにもほどがある。やはりハゲは駄目だな。
「お前なあ……」
「死にたいのかしら?」
ロキとフレイヤに鬼神のような顔で睨まれたヘルメスが、冷汗を流しなら苦笑いする。
「いや、どう考えても無理だって。俺じゃ交渉材料が少なすぎるんだから」
ちっ、使えない奴と言わんばかりに、女神二人が唾を吐き捨てた。
ロキはともかくいつもと異なり品格を忘れているフレイヤに、オッタルがちょっとショックを受けて固まっていた。
……いや、よく見るとちょっとだけ口角が上がっているぞ?
キビキビダンスの時といい、最近オッタルの性癖が歪んでいないか?
そんな異常性愛が産まれつつあるオッタルを余所に、ならばアストレアならどうだと目線を遣るも、正義の女神も困った笑顔で答えた。
「下手な口添えしてもアルフィアに無下にされるだけよ」
「うあああああ! 知っとったけど! これで、よりにもよってガネーシャに取られたんが決まってもうた! 最悪やあああああ!!」
「あは、あはははは……。私はガネーシャ以下なのね……。もういっそ、美の女神の称号を返上しようかしら…………」
「お前ら、いくらなんでも酷すぎるぞ」
嘆くロキとフレイヤの言葉の暴力に、ちょっとだけガネーシャは泣きそうになっていた。
「ア、アストレア様? なんだかクラネルさんがガネーシャ・ファミリアに決まったみたいな雰囲気になっていますが、まだ私達がいますよね? ここから逆転できますよね?」
可愛い眷属の期待に応えたいアストレアであったが、その願いは到底叶えられるものではなかった。
「……ごめんなさい、リュー。私だってベルが入団してくれたら嬉しかったんだけども、ガネーシャの劣化版の待遇しか出せないわ。残念だけど、ベルの勧誘は諦めてちょうだい」
「そ、そんな、アストレア様! どうにかならないのですか!?」
「ごめんなさい、どうにもならないわ」
アストレアに謝られたリューは、あまりのショックに頭が真っ白になった。
それならば自分で名案を思いつかなければいけないのだが、ポンコツと化したリューには無理な話であった。
ただ、今まで過ごしたベルとの思い出だけが浮かんでは消えていく。
――今まで散々、愛だの恋だの周りに囃し立てられていたが、本当にそうなのかはリューにはわからない。
でも、初対面の異性なのに肌に触れるのを許せた時、アリーゼに囃し立てられるのを否定しつつも、内心リューはベルと運命染みたものを感じていた。
ベルがアストレア・ファミリアに入団し、共に時間を過ごすようになれば、この気持ちにきちんと名前を付ける事ができるのではないかと考えた。
しかし、現実はそんなに甘くなく、ベルは他のファミリアに入団しようとしている。敬愛するアストレアが諦めた今、それを防ぐ方法をリューは思いつかない。
「ク、クラネルさん…………」
どうしようもなくベルを縋りつくように見つめるが、お目当ての兎はアーディに密着されてうりうりと可愛がられていた。
「アストレア様も辞退された事だし、これでベルも正式な可愛い後輩になるんだね。ほーら。これからはちゃーんと先輩である私の事は敬うんだよ」
「ちょ、頭撫でないでよ、アーディ。子供じゃないんだしさ」
「ふふふ、良いではないか、良いではないかー」
…………近い、なんか近くない?
それにベルもベルでいつの間にかタメ口になっているし、しかも呼び捨て?
えっ、抜け駆けされた? 大切な親友に泥棒チョロネコされた? ごめリューされた?
「わ、私は未だにさん付けで、ちょっと距離感があるのに…………」
信じていた親友による唐突な寝取れら展開(寝てから言え)に脳が破壊されたリューは、白目を剥いて現実逃避した。
「リュー? ちょっと大丈夫、リュー? ……………し、死んでる」
揺さぶっても頬を軽く叩いても生き返らないリューにアストレアは愕然とした。
こんな有様できちんと恋路を叶えられるのかと処女神に心配されるポンコツエルフは、脳破壊の衝撃が強すぎてこの日目を覚ますことはなかった。
ボールの中のガラルギャロップまでもが、あまりにもあんまりな主人のポンコツっぷりにショックを受け――いや、こいつ喜んでやがる! お前、こんなんでも可愛いと思うんか!?
きっちりベルとアーディの間に恋愛感情がない事を読み取っているガラルギャロップは、安心して主人の痴態を楽しんでいた。
「…………きっしょ。おっちゃんドン引きやわぁ」
ボールの中から滲み出る不穏な感情を読み取ったヨクバリスが、思わず木の実を取りこぼしていた。
…………かくして、ベルの所属するファミリアはガネーシャ・ファミリアに決定した(急な話題転換)。
リューが白目を剥いたり、ロキとフレイヤが夢破れて膝をついて慟哭したり、女神の痴態にオッタルがニヤついてたり、ザルドが壁にめり込んだままだったり、アルフィアがベルに絡むアーディを物凄い表情で見てたり、アルフィアの威圧の余波でハゲの毛が十数本抜けて行ったり――。
なんだかとてもじゃないが目出度い光景ではない。
……で、でも、とにかく! ベル・クラネルは晴れて冒険者になる事が決まったのだった!
滅多に見かけないガネーシャ・ファミリア所属のベル君爆誕!!
ちなみにフレイヤ様がロキ並みにキショくなっているのは、ベル君の魂の光に脳をこんがり焼かれたから。
イレギュラー・レコードの時みたいに一目惚れしたんだから、痴態を見せても仕方ない。
後からアストレア経由で話を聞いたイシュタル様もこれには大爆笑。