感想返しをするよりも作品を早く投稿した方が、皆さんにとって良いと考えていますのでやりませんが、感想を頂けるのは本当に励みになっております。
なので更に連続投稿します。
ガネーシャは天を仰いで慟哭した。
脇目も振らず神としての威厳もかなぐり捨てて滂沱の涙を流し続けた。地面に落ちた涙が水たまりを作っていく。
そんな主神の痛ましい姿を見たガネーシャ・ファミリアの団員達は、しかし誰一人として駆け寄り慰める事をしなかった。遠巻きに眺め、なんともいえない微妙な表情をしている。
中にはこっそりガッツポーズをとっている不埒者までいた。
団長であるシャクティは頭を抱え、妹のアーディは知ってたという顔で半笑いしている。
ようやく勇気ある団員の一人がガネーシャに声を掛けようとするが、アーディが手の平を向けて押しとどめた。情けなく独り泣くガネーシャを、ただ一人、恐ろしく美しい女が見下ろしていたからだ。
アルフィアである。
彼女は片手をとある方向に向けたまま、まるで『こごえるせかい』のような冷たい目でガネーシャを見つめている。
普段の彼女なら雑音が五月蠅いと【
一番近くにいるベルとザルドはそれ以上足を踏み入れることができず、複雑な顔つきでただ見ているだけでいる。
「…………うわぁ。マジでやりやがったよ、こいつ」
しばらくガネーシャの泣き声だけが響いていた中、ようやくザルドが口を開いた。
「酷い……酷いんだけど、安心している僕もいて、素直に怒れないよ」
そう言ったベルの視線の先にはあるものがあった。
いや、正確には本来あるはずのものがなかったというべきか。
ガネーシャ・ファミリアの本拠地である『アイアム・ガネーシャ』 。
あらゆる意味で象徴的である、団員達からは股をくぐるようで嫌だと大不評な正門前の巨大なガネーシャの像。
団員達の頭を悩ませていた巨大ガネーシャ像が、アルフィアの魔法で完全に、欠片も残さず塵にされていた。
器用にも本拠地や門自体には傷一つ着けず、先ほどまで異様な存在感を放っていたガネーシャ像だけが綺麗さっぱり消え去っている。
「うおおおおおおおおおおおお!! お、俺の、俺のガネーシャ像がああああああああああ!!」
この中で唯一巨大ガネーシャ像の消失に慟哭するガネーシャに、同情するものは誰もいなかった。
ガネーシャ・ファミリアの団員達がベル達を歓迎しようと用意していた横断幕が、風に流されふわふわと遠のいていく。
その後を追うようにガネーシャ像の塵が続いて舞って行った。
「…………うううう。ぐすん。……では……ベルに『恩恵』を刻むぞ……………………」
結局あの後一時間たっぷりと泣き続けたガネーシャは、まだ涙を滲ませながらも主神の務めを果たそうとしていた。
「あ、あの、ガネーシャ様。なんだったら明日に回しても――」
「駄目だ。
ベルが気を利かせて後回しにしようとするが、アルフィアが無慈悲に却下した。
「『恩恵』で得た力を慣らす必要もあるし、《魔法》や《スキル》が発現したら検証する時間が欲しいからな。『静寂』の言っていることに間違いはないのだが……」
正論だがお前がいうなという声色を乗せて、シャクティが同意する。
どうにかガネーシャを泣き止ませ場を収めた立役者でもある彼女は、保護者二人とベルを連れ客間の一室に案内していた。
現在この場にいるのは他にはベルと仲のいいアーディのみで、団員達には待っているよう言い含めている。
アルフィアが雑音を嫌うので最低限の人数で対応しているのだが、あの蛮行を直に見ていた団員達はむしろ当事者にならずに済んで安堵していた。
「まーまー、すでに消されちゃったものは嘆いてもしょうがないし、早速『恩恵』を刻んじゃいましょうよガネーシャ様」
「なんだが冷たくないかアーディ? ガネーシャ少し悲しい……」
ガネーシャはそう言いつつも指に針を刺し、指先に血を滲ませる。ごほんと咳ばらいをして、口元を引き締める。
「それではベル。これからガネーシャ・ファミリアの一員になって下界の子供達を守ると誓えるのならば、このガネーシャ、その身に『恩恵』を刻み責任を持ってポケモン共々お前たちを守ると約束しよう。どうだ、誓えるか?」
「はい、もちろんです! 誓います!」
「うむ、元気があって大変よろしい! ではさっそく、服を脱いでくれ」
言葉面だけ取ればまだ若干幼さを残す少年に手を出そうとする変態神にしか見えないが、知識として背中に『恩恵』を刻むと知ってるベルは、言われるがまま上着を脱いでいく。
周りにアルフィアだけでなく、シャクティやアーディといった女性陣がいるが、姉二人や女友達が多かった環境で育ったベルは、特に気にしていない。
ポケモン世界の冒険の数々で鍛え上げられた、可愛らしい顔に似つかわしくない逞しい上半身を晒した。
「……うわぁ。顔に似合わず漢らしい身体付きをしてるね、ベル」
「こらアーディ。あまりジロジロ見るものではない」
からかいつつもちょっと顔を赤らめている妹をシャクティが窘める。だがそういうシャクティも視線がちらちらとベルの裸体に吸い込まれていた。
お母さんの目付きがどんどん鋭くなっていく。だが暴発する前にガネーシャがベルの背中に指を当て、『恩恵』を刻み始めた。
しばらく真剣な顔で指を這わせていたガネーシャであったが、次第に表情が崩れ冷汗を流し始める。
「……………………おおう」
思わず言葉を洩らしながらも、ガネーシャが『恩恵』を刻み終えた。
「――ううむ。終わったぞ、ベル」
「えっ? もう終わったんですか? なんか拍子抜けするくらい呆気なかったですね」
「全然拍子抜けする結果じゃなかったぞ…………」
そう言いつつもガネーシャが紙にベルの【ステイタス】を写し出し、机の上に広げる。この場にいる皆が周りに集まり、詳細を確認した。
ベル・クラネル
Lv.1
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【
・指揮下のポケモンに全能力値の補正
・補正値はレベルにより上昇。
・偉業の継承
【
・ポケモン世界への順応
・レベルが上がるほど順応度上昇
・技スロット『』『』『』『』
【
・絆を結んだポケモンを覚醒させる
・覚醒ポケモン『ソルガレオ』『』『』
「……予想はしていたが、いきなり《スキル》が三つも発現してるのかよ。しかもどれもポケモン関連の未知の《レアスキル》じゃねえか」
「《魔法》は流石に発現していない上にスロットは一つだけど、十分過ぎるくらい凄いね」
「うーん。僕としては魔法を使ってみたかったんだけどなあ。そうそう上手くはいかないか」
「安心しろベル。後で良いものを読ませて魔法を使えるようにしてやる」
「えっ!? 本当お母さん!?」
「さらっと『
始めはベルの【ステイタス】を見てがやがやと皆で喚きたてていたが、次第にその内容が《スキル》の考察に移っていく。
「【
「以前ラティオス達に『悪意を探せ』と命じたように、単純な命令だけで指揮下扱いになるのか。それともネイティオやラグラージの時のように、細々と指示を出せる状態でないと指揮下に入らないのか。どう考える、ベル?」
「うーん……おそらく後者じゃないと無理だと思う。いつでも的確な指示を出せる状況じゃないとトレーナーって感じがしないし」
保護者達の疑問にしばし頭を悩ませた後、ベルが答える。
実際に確かめる必要はあるが、《スキル》は本人の思考や素質、経験などが『恩恵』の力を借りて形になったものだ。おそらくベルが感じた通りの結果になるだろう。
「百体に適当な指示出せば最強軍団の出来上がり! みたいに簡単にはいかないかあ。実際ベルって何体まで同時に指示出せるの?」
「三体までは十全に指示出し出来るよ。無理すれば六体までいけると思うけど、指示の精度がちょっと下がるからあまりやりたくないなぁ」
トリプルバトルまでなら十分な経験があるベルだが、手持ち六体を同時に使うのはよっぽどの事態になるまではしたことがなかった。
たくさんのポケモンに飽和攻撃されたり、ディアルガVSパルキアVSダークライの三つ巴を止めたり、ネモの「セクスタプルバトルやってみようよ!」という無茶ぶりに付き合わされたり……あれ? 意外に経験あるね。
「その辺りは練習すれば良い。幸い、俺の子供達にはシャクティを始め指揮が得意な子供がいる。存分に学ぶが良いぞ、ベル!」
「はい、ガネーシャ様!」
実際にこの《スキル》を生かすには指揮下に入れられるポケモンが増えれば触れるほど良いので、ベルは素直に元気よく了承した。
「私としては指揮官としての心得を教えるのは吝かではないが、まだ疑問点がある。【
「一応僕、向こうの世界でポケモンバトルのチャンピオンになった事があります。その功績を称える殿堂入りってものがあるんですが、それを指しているんでしょうか?」
シャクティとベルの考察に、アルフィアが待ったを掛ける。
「いや、そんな生易しいものではない。そうであろう、ガネーシャ」
「うむ。実態はシンプルかつ人によっては全く意味を持たない効果だ。だが、ベルが持っていると途端にやばい《スキル》に変貌するぞ」
一息置いて、ガネーシャが続きを重々しく語った。
「ベルは現在、四回【ランクアップ】が可能だ」
衝撃的は発言に、場の空気が凍り付く。口元をぱくつかせて言葉を作れない者や、何を言われたか理解できない者もいる中、ガネーシャは言葉を続けた。
「むろん、【ステイタス】が足りてないので今すぐに【ランクアップ】することは不可能だ。しばらくはレベルは1のままであろうが、そう遠くない内に【剣姫】の最短【ランクアップ】記録を容易く塗り替えるだろう」
「ちょちょちょ、ガネーシャ様!? なんでベルがそんな事になってるの!? 四回【ランクアップ】って、レベル5だよ、レベル5!? 第一級冒険者!! あの
慌てふためくアーディの疑問に、アルフィアとザルドが冷静に答える。
「《スキル》にある偉業の継承とは、『恩恵』を刻む前に達成した偉業を引き継ぐことだ。普通ならば『恩恵』を得る前にどれだけ偉業を達成しても意味がない。だが、この《スキル》がそれを可能にするのだろう」
「ベルの奴、向こうの世界で何度も苦難を乗り越えてやがるからな。それぐらい【ランクアップ】可能になっててもおかしくはない。むしろ想像より回数が少ねえ。ポケモンの力を借りて乗り越えたからか?」
「…………そう説明されれば納得はできる。できるが……なんとも凄まじい話だな」
目の前でぱちくりしている兎のような少年を見て、シャクティはこんな子がと慄きながらも現実を受け入れようとしていた。
「【静寂】や【暴食】がああ言ってるって事は、ベルって向こうの世界じゃ英雄だったの?」
「英雄って言われるほど凄い事をした訳じゃないよ。ただ、ちょっと地方や世界が滅びかけるような事件に何度か巻き込まれただけで」
「いやいや、それを乗り越えたからこそ英雄って呼ばれるんだよ! うわぁ、すっごいなー! ねえねえ、今度ゆっくりベルの冒険譚を聞かせてよ!」
「あはは、面白いかどうかわかんないけど、それくらいだったら是非」
英雄譚好きのアーディがその話に食いつき、ベルが照れながらも受け入れる。
さりげなくアーディがベルの両手を握ったのを、お母さんはしっかりと見ていた。
「続いて【
アルフィアが直情的な行動をとる前に、ガネーシャが無駄に大声を上げ結果的に妨害した。
舌打ちしながらもアルフィアがその話に乗る。
「ちっ……。文面だけ見れば詳細不明だが、下にある技スロットの欄である程度察する事ができるだろうが」
「うん、まあ。たぶんお母さんの考えてる通りだと思うけど……ちょっと試してみようか」
そう言ってベルは自分の鞄から穴の開いた円盤を取り出した。
「あれ? それって前にウインディに使ってた『技マシン』って奴だよね。ポケモンもいないのにどうするの?」
「それはね、こうするんだ」
アーディの疑問に答えるようにベルが自分の額に『技マシン』を当てる。するとバチリと何かが弾けた音がしてベルが顔を顰めた。
「うう、何だか静電気が走ったような感じがする……」
「ええっ!? 何やってるのベル!? それって人間が使っても意味がないんでしょ?」
「本来ならそうなんだけど、多分《スキル》の影響で――『テレポート』!」
ベルがそう叫んだ瞬間、ベルの姿が一瞬で掻き消えた。
異常事態に保護者二人以外がどよめく中、部屋の片隅から「こっちだよ」というベルの声が聞こえる。
「こっちって……ええっ!? いつの間にそんな所に移動したの!?」
「私の目でも捉えきれなかったぞ。いやまて、先ほど『テレポート』と言ったな。まさか……」
「【
ザルドの推測にヴァルマ姉妹が驚愕した。思わずポケモンの技を使って見せたベルの事を凝視する。
「なんとなくやれるかなって思ったんだけど、案外簡単に出来るものなんだね」
「そんな暢気に言う事じゃないでしょ! 『技マシン』で好きな技を覚えられるってことだよ!? スロットが四つって制限があってもズルでしょ!」
「そうは言うけどさ、アーディ。たぶん相性が良い技しか覚えられないよ。それに確かに便利だけど、僕ポケモントレーナーだよ。自分でポケモンの技を使えても、それだけじゃ強い《スキル》だとは思えない」
攻撃技ならレベル1のベルよりも手持ちのポケモンの方が強力である。高レベルになれば話は別だが、今は補助技ぐらいしか使い道がないであろう。
それに今までポケモンの力を借りて共に苦難を乗り越えてきたベルにとって、今更自分で技を使えるようになっても微妙な気持ちである。緊急事態に咄嗟に自分で技を使える有用性はわかるのだが、ポケモントレーナーとしての自負があるからだ。
「…………あー。そっかー。色んな強いポケモンを持ってるベルなら、便利な《スキル》くらいの扱いになっちゃうのか」
なんだ、意外にそこまで強《スキル》じゃないのかと思ったアーディを、しかしベルは自ら否定する。
「『技マシン』が使えるようになるだけの《スキル》なら、アーディの言う通りなんだけど」
「……ん? 他にもまだ何かあるのか?」
「《スキル》の名前に注目して見てください、シャクティさん」
「名前を、か? 【
「なんだかポケモンに似た名前だね、お姉ちゃん。確か縮めないとポケットモンスターだっけ?」
アーディの何気ない一言に、シャクティがはっと気づいた。
「――っ!? そうか、そういう事か!」
「何かわかったのか、シャクティ」
ガネーシャの問いに頷いたシャクティは自論を展開する。
「ポケモン世界への順応とは、ポケモンと同じ事ができるという意味ではないか? だから『技マシン』が使えたし、スキル名も【
「及第点はやって良い考察だな。だが、それだけじゃ満点じゃねえ」
「そうなのか? ガネーシャ、シャクティの言ってる事に抜けはないように思うぞ」
ザルドの言葉に疑問を抱くガネーシャに、ベルが補足を入れようとする。
「ガネーシャ様、確かにシャクティさんの言ってる事はほとんど合ってると思います。ただ、本質が違いまして」
「本質?」
首を傾げるアーディに、ベルがとんでもない事を話す。
「たぶん今の僕、ポケモンそのものになってる」
言葉の爆弾が『だいばくはつ』した。
ノーマルタイプなのに効果は抜群だ!
先ほどのランクアップ四回可能発言を超える衝撃がアーディ達を襲った。
「…………は?」
「どういうことだ!? ベルはガネーシャではないのか!? いや、『恩恵』を刻んだからベルはガネーシャのはず……なのにベルはポケモン? ――そうか。つまり、ガネーシャはポケモンだったのか!?」
固まり切ってしまったシャクティの後ろで、ガネーシャがポケモンへと進化しようとしていた。
Bボタン連打しなくちゃ(使命感)。
だがそんなとち狂ったガネーシャよりも、アーディの方がもっと混乱していた。
「あわわわわわ……な、なら今のベルは野生のベル!? 大変! このまま誰かに捕獲されたらガネーシャ・ファミリアの子じゃなくなっちゃう!」
座った目で腰につけたモンスターボールに手を掛ける。
「だったらモンスターボールで捕まえなきゃ!」
中に入っているピッピがえっ? ワイが入ってるのに投げつけるんですか? みたいな顔で呆然としていた。
「やめろ、小娘」
モンスターボール(ピッピ入り)をベルに投げようとしたアーディに、アルフィアの【
【悲報】ベル君、冒険者じゃなくてポケモンになる。
詳細は次回に置いておいて【
はい。ぶっ壊れです。レベルが上がれば倍率もアップしていきます。
ベル君本人には作用しないと思いきや、偉業の継承で前代未聞の四回【ランクアップ】可能とかいう頭のおかしいスキルです。(【ステイタス】不足ですぐには出来ないですが)
ポケモン世界で大暴れしてたのにレベル5は控えめじゃないと思われるかもしれませんが、ザルドが指摘した通り、ポケモンの力を借りているので偉業判定が厳しめに設定されてました。
それでもヤバ過ぎるスキルだと思います。
……レベルは暗黒期の間は1のままだと思うので、セーフという事で!