Beyond your swordland   作:血中ウィルキンソン濃度

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2.ピクシーズ・テイル

 貴方は、誰ですか。

 あまりに簡潔なその問いにさえ、俺は答えを返せずにいた。

 

 

 ──おはようございます、パパ──

 

 

 ──パパ、ママに言いつけちゃいますよ──

 

 

 ──また会えましたね、パパ──

 

 

 ──パパ──

 

 

 俺が誰かだって?決まっている。ユイ、君のパパだ。

 

 唇を固く噛み、俺は言葉を飲み込んだ。その言葉が彼女に届くとは……その冷たい殻を超えることができるとはとてもじゃないが思えなかった。

 

 ならば、俺は誰だ?

 

 似た問いを、あの時も投げ掛けられた気がする。

 だが「パパ」という役割を差し置けば、俺に名乗るべき名なんて無いような気がした。

 

「·······俺はキリト。剣士キリトだ」

 

 自らの愚かさを突きつけられているようだ。あの時から、ガブリエルとの戦いから俺は何一つ成長していないと。結局俺は、「キリト」以外の何者にもなれていない。娘にさえ語る名を持たないのだと。

 

「キリト、さん」

 

 ぱちりとした瞳が、驚きを写してか僅かに広げられる。微かに漏れる呟き。

 

「どうして······どうして、連れていってくれなかったのですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン。

 

 アインクラッド。

 

 デスゲーム。

 

 電子の牢獄に囚われた一万人もの人々の内、初めの一か月で1000人が命を落とし、()()()()()()()()()1()0()0()0()()()()()()()()()。攻略は遅々として進まず、絶望と諦観が浮遊城を支配した。

 

 調整者であるカーディナル・システムは、プレイヤーに蔓延したこのパラメータを異常と判断し、対処の為下部プログラム、MHCP001へ感情の「収集」を命じた。これは彼女本来の「プレイヤーと触れ合い、その負の感情を低減する」という本来の使命からは逸脱した命令であり、彼らによって蓄積された負の感情は確実にエラーを蓄積させていった。

 

 本質的に感情を理解しないカーディナル・システムが感情を集積する方法として、開発者たちが設定した方法とは以下の通りである。

 

 閾値以上の強力な感情を検知した際、システムは当該プレーヤーデータとその周辺座標を参考データとして一時保存する。その後検出された感情をそれらの情報と紐付け、類似の状況、或いは感情パラメータと関連付ける。そしてそれら一群の感情を事前にインプットされた感情知識と同期してラベリングする。

 一連のアップデート作業により、カーディナル・システムは順調に感情知識を蓄えていき、ユイのAIとしての自我は少しずつ崩壊していった。

 

 

 

 デスゲームの攻略が少なくない犠牲者を出しながら一層、一層と続くにつれ、カーディナル・システムはあるひとつの課題に行き当たった。非常に強い感情を発するプレイヤーのうちの一部が、その後に情動反応を示さないことに気づいたのだ。しかし、その理由が分からない。システムは、「死」という概念を理解していなかった。とはいえ、どうやらその強い感情は、ヒットポイントがゼロになる直前でもっとも多く発生することは理解していた。

 そこでカーディナル・システムはユイに、計算上この強い感情を発する可能性の最も高い集団──攻略組モニタリングを命じた。第五層迷宮区の攻略が大詰めとなった頃だった。

 

 

 第五層迷宮区の攻略は概ね順調に進んだ。二大ギルドの反目はもはや決定的となっていたが、それでも珍しく犠牲者を出さずにボス部屋へとたどり着くことができたのは、特に彼らの運が良かったと言う訳ではなく、茅場晶彦の悪辣だろう。

 

 

 

 

 

 結果だけを言えば。

 第五層ボス攻略パーティーは壊滅した。

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