SEKIRO: SHADOW DIES AGAIN, in KIVOTOS   作:まーぼーどーふ

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序幕
人に返りて、生を成す。


 

一閃。

 

雷鳴を背景に静寂を保っていたすすき野に、刹那の血しぶきが舞う。

 

「見事…じゃ……隻狼……」

 

眼前に斃れゆくのは、死闘の末切り捨てた男。

 

「さらば……」

 

最早動かない屍となった───それでも確かに類稀なる強者であったその屍を見つめ、誰の血かも知らぬ赤黒い刃を、男を悼むかのように鞘にしまった。

 

死合いを制した者だけが知る、虚しいくらいの静けさは、文字通り『終わり』の予感を彼───隻腕の狼に伝えていた。

 

 

ああ、死ぬのか、俺は。

 

 

長らく待たせてしまった御子の所へ、歩を進めながら想う。

 

今まで何度も死んできた。

 

今までは御子様の血ゆえに回生が適った。

 

だが今からは違う。

 

(まこと)に死ぬのだ。

 

───それでも、澱みのない、本物の死を前に、狼は恐れることはなかった。

 

そして、傷を負ったにも拘わらず、すすき野の中、穏やかな顔を浮かべて天を仰いだ御子の元へ辿り着いた。

 

「御子様……お側におります」

 

「…竜の涙を」

 

倒れた主に膝をつき、懐から桜竜の涙と常桜の花を取り出し、御子の口許にその二つを当てがわせ、ゆっくりと呑ませてゆく。

 

全て吞み込んだ後、御子は、あたかも大願が成就しようとするかのような穏やかな表情で、狼の腕の中で眠り始めた。

 

───全ては御子様の望みのために。この命に代えてでも。

 

遠く見える山並みの向こうから、夜明けを告げる朝日が二人を差す。

 

狼は徐に、背負った鞘から、先の刃を引き抜く。

 

「最後の不死を、成敗いたす」

 

「人として、生きてくだされ」

 

最後に見つめるは御子の貌。

 

ただ純粋に願った言葉は、風に揺れるすすきに消えていく。

 

そうして、その死が定めかのように、不死を征する刀を頸に沿え、力強く切り落とす。

 

瞬間、舞い散る、血と桜。

 

ただ忠義を貫いた隻腕の狼は、かくして命を散らしたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「お前さん、縁、というものを信じるか?」

 

「………儂が信じてないみたいな貌をするんじゃな」

 

「…………まあいい、腐っても仏師だ。でもまあ、これだけは覚えておけ」

 

「縁は呪いだ。お前さんが関わり、触れたもの全ては、必ずお前さんに廻ってくる」

 

「……たとえ、黄泉に行ったとしても」

 

「…………死なんお前さんにゃ、関係ないだろうがな……フン」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

地面の感触。 

 

遠くで戦の音が聞こえる。

 

火銃のような音もだ。

 

始めは夢かと思う。

 

だが、研ぎ澄まされた忍びの耳が、それらの喧騒が夢とは程遠い───いや、葦名とはまるで異質なものであることをありありと伝えてくる。

 

露程も聞こえない刃を交える音。

 

戦にしては血の臭いが全くないのも妙だ。

 

 

此処は、どこだ? 地獄なのか?

 

 

それを確かめに重い瞼を開ける。

 

目に入る、古ぼけた柿色の装束と、奇怪な絡繰り───忍義手。

 

そこで、漸く、己が肉体が自刃する前のままであることに気付いた。

 

 

俺は………死んだ筈、では。

 

 

力が抜けた身体を起こし、辺りを見渡すと、暗闇が下りた、どこか祠の如き洞窟。

 

暫くして慣れた夜目で先まで倒れていた方を見向くと、小さな墓石のような物に、ある言葉が記されていた。

 

「隻腕の狼……遥か西の地に眠る…………」

 

「狼、だと………よもや、俺は…………黄泉帰ったのか?」

 

黄泉帰り。

 

あの時、最期に刃を交えた老爺、葦名一心を思い出す。

 

かの男も、黒の不死斬り───名を開門と言う───その力により黄泉帰った。

 

 

俺も其のようにして、黄泉帰ったのか?

 

 

だが、狼の持つ不死斬りは黒でなく、赤。

 

留めなく疑問が湧き続ける。

 

 

この墓石はなんだ?

 

此処は葦名なのか?

 

西の地とは何処だ?

 

…………御子様は、生きておられるのか?

 

 

御子のことに思い当たり、不意に腰に据えた愛刀、楔丸(くさびまる)に触れる。そして逡巡する。

 

若しここが葦名の国ならば、若し黄泉帰りを果たしてしまったのならば、それは即ち。

 

不死断ちはまだ果たせていない。

 

 

……ならば、為すべきは、再び不死を断つこと。

 

 

そう決意を新たに、狼は薄暗い洞窟の中、冷たい風が当たる方へ視線を向けた。

 

「………先ずはここを出ねば」

 

 






『不死斬り・開門』

死なぬ者さえ殺す大太刀
赤き刃と対を成すその黒き刃は、鞘を持たない
回生の力なくとも、この不死斬りを握る事が能う

この刀は、永く葦名の何処かに秘匿されていた
刻まれた銘は、「開門」

黄泉への門を開くそれは、
一心が握ったのを最期に、誰も行方を知らない

◇◇◇

『楔丸』

主であった竜胤の御子・九郎より授かった刀
葦名の庶家である、平田氏に伝わるもの

御子の望みの為、遍く者を切り伏せてきた

楔丸の名には、願いが込められている
忍びは人を殺すが定めなれど、
一握の慈悲だけは、捨ててはならぬ…

その願い、たとい黄泉で再び果てるまで…
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