SEKIRO: SHADOW DIES AGAIN, in KIVOTOS   作:まーぼーどーふ

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結果はこれからの展開の参考にさせていただきます。
これからの展開によりアンケートが満足に反映されない可能性がある事はどうかご留意してくださると幸いです…!

※グロテスクなシーンがあります。苦手な方はご注意ください。



主と忍び

 

どこか懐かしい、生を取り戻す感覚。

 

昔の夢かと思われたその感覚から目を覚ますと、暗闇から覗く岩肌、そして所々に伸びた鍾乳石が目に映った。

 

「…此処は、何処だ」

 

見知らぬ天井。

 

こうして目覚めて、居場所を再び自問するには些か早過ぎるのではないか。

 

そう思っていると、口腔の内から血の香りが燻ってきて、喉に液体が溜まったような不快感を覚える。

 

「……っごほ……おぉ"ぅ……」

 

咳き込み、気管から舌、舌から体外へと排出される塊。

 

酸化した鉄の味を味蕾に残して飛び出たそれは、黒く淀んだ血塊だった。

 

よく覚えている。

 

その昔、回生を成した折に気肺に入り込んだ血をよく吐いたものだ。

 

いや、待て。回生……?

 

「御子様は……人返りをなさった筈では……」

 

果たした筈の不死断ち、浮かぶ晄輪、回生の力。最早異なる世界に行ってしまったかとしか説明がつかないほどの謎が脳内を駆け巡る。

 

暫く思考に唸っていた狼だったが、ふと、視界の下側に桜の下で目にしたものとは異なる容姿の女子が倒れ、凭れかかっている事に気がついた。

 

死んでいるのだろうか。

 

確認するため起き上がってから、うつ伏せた彼女の頭を上げ、表情を覗き込む。すると、

 

「………御子様?」

 

かつて仕えた主、九郎にそっくりな子供がいかにも苦悶を浮かべた顔で眠っていた。

 

もう会う事はないと思われた者との邂逅に少々動転し、思わず彼女の頭を乗せた腿を大きく揺らしてしまう。

 

「……んぅ」

 

やってしまったと思うがもう遅く、再び彼女の表情を見つめた時には寝覚めた瞳が此方を真っ直ぐ見通していた。

 

「………」

「………」

 

頭上に現れる晄輪。半分寝惚けた眼。脳裏に蘇る、儚げだが芯の通った純真な瞳。暫し、視線の交信だけが交わされる時間が流れる。

 

そろそろ気まずくなったのか、沈黙を破ったのは彼女の方だった。

 

「……夢、じゃない?」

「…現で御座います」

「っ……生きて……!」

 

今にも泣きだしそうな勢いで押し殺した声を漏らし、徐々に歪ませる。狼から目を逸らし、ぷつりと極限を超えた瞬間、彼女は酷く大きな泣き声を上げ始めた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「少しは、落ち着きましたか」

「……うん」

 

狼の膝元で上がっていた泣き声は鳴りを潜め、また静けさが訪れる中、言葉を交わす。

 

「その……迷惑かけて、すまない」

「いえ、構いません」

 

落ち着きを取り戻した彼女は、狼から少し距離を置き、微かに血がこびり付いた岩に背を向けて座り、恥ずかしそうにどこか遠くを見つめる。

 

その姿をじっと見つめる狼は立ち上がり、所持する品を確認している一方で、彼女は思い出したかのようにして名乗りを上げた。

 

「そういえば、名を言うのがまだ……でした。竜源(りゅうげん)ミコ、です」

「竜源、ミコ……」

 

狼は、九郎と瓜二つの少女の名を追唱し、ここが葦名と異なる地であることの確信に至り、対してミコは質問を投げかけた。

 

「そなたの、名は?」

 

逡巡する。忍びとして、名乗りを上げることは義父により禁じられている。だが、最早義父も死に、どこか異なる世界に迷い込んだと来た。

 

そして眼前には、かつて仕えた主と殆ど変わらない容姿の少女、しかも回生の力のことも踏まえると、きっと竜胤の力を持っている。

 

「……俺は」

 

目を閉じる。瞼の裏にはかつての主の後ろ姿。不死断ちを果たさんとする御心のため全てを捧げるほどに、主の存在は狼にとって大きかった。

 

ならば。不死を、竜胤を再び断つこと、それが御子様の望みだったのならば───この逢瀬には、意味があるのではないか。

 

そう思い、岩に背を凭れて座るミコに向かい、狼は片膝を上げ、そして跪いた。

 

「そなた…一体なにを…」

「……狼、忍びで御座います」

「狼、か………いや、それはそうとて私は、そんな頭を下げられるような者じゃ……」

「…かつての主と、同じ面影を見ましたゆえに」

「……そう、ですか」

 

戸惑いを見せるミコ。暫く何か迷うような仕草を見せていたが、再び言葉を投げかけた。

 

「…そなたは、あまり気味悪がられないのですね」

「何をでしょうか」

「こんな寂れた牢に、女子(おなご)が一人生きているのは、きっと気味が悪いでしょう」

 

座り込むミコは、自嘲するように遠回しな口調で言う。何かを誤魔化している様子だった。だが、狼はそれを看破する。

 

「ミコ様は恐らく、死なずかと思われます。以前の主がそうだったように」

「っ、分かるのですか、私が、死なないという事を」

「は…」

「ああなんてことだ…これは、運命なのか…?」

 

興奮したような、落ち着きがないような口調で己の顔を押さえるミコ。少しして冷静になりまた狼に問うた。

 

「はっ、もしや、『主がそうだった』という事は、そなたは不死を殺す術を知っているのですか…?」

「は、その術も、今この手元に」

「ならばっ…!そうならばっ……!!」

 

食い気味に言葉を被せ、勢いづいて狼に近付き、徐に手を取るミコ。

 

「わ…わたしを、殺してください…!」

 

狼に押し迫るその表情は悲痛で必死で、哀れなほどに歪んでいた。

 

「………」

 

押し黙る狼。目の前の少女は、狼の手を取り、自死を望み、それを必死に拝んでいた。

 

これが、竜胤の齎す生命の歪みか、と。狼は心中で思う。

 

「…不死断ちが望みであるならば」

 

と、ミコの手を放して立ち、背負った大太刀、その柄を手取る。

 

今やいなくとも、それが主の望みなら、と。

 

「命を賭してでも、望みを果たしまする」

 

引き抜いた刃は、赤黒く、禍々しい瘴気を纏っていた。

 

「その刀は…?」

「不死斬りで御座います」

「それなら、不死を…?」

「殺せる筈です」

「なら、なら……もうそれで首を、斬り落として……ください」

 

ミコは項垂れ、全身に諦念を漂わせ、介錯を望む姿勢を取る。

 

「もう、死ねないのは嫌なんです…っ!」

 

目的もなく、自由になることもなく、ただ暗闇で生きるという行為を何年も続ける苦行。目の前の少女が積み重ねてきた苦しみを推し量り、

 

「お、ねがい、します…」

「……御意」

 

心中に残すは一握の慈悲。

 

細い首筋に目掛けて、狼は刃を振るった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「っ、これは…」

 

「痛いいたいいたいい”だいぁああ”ぁ!!!!」

 

目の前で信じられない光景が広がる。

 

不死斬りは、確かに死なずに死を齎す。

 

だが、目の前の少女は、否、少女の身体は、切断された首の切り傷を修復していた。首は人の急所。ゆえにこの光景は異常そのものだった。

 

血を撒き散らしのたうち回るミコ。その口からは、凡そ形容出来ないほどにおぞましい叫びが飛び出す。

 

傷口を覗き込むと、血管やら筋繊維やらがまるで百足のように蠢き、絡み合い、大きく開いた傷口を縫うように修復していた。

 

「え”ほっげほっ…!!」

 

修復を終え、ミコは、切り傷から気管に流れ込んだ血液を咳き込み、吐瀉する。

 

そして遂には仰向けになり、浅い呼吸を繰り返す彼女は、大粒の涙を浮かべていた。

 

「もう、無理なんだね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ミコ様……」

「……迷惑かけて、ごめんなさい、狼さん」

「……」

「私を置いて、ここを去ってください」

 

消え入りそうな声で語りかける。届かないと思うほどか弱い言葉は、ガキンと、鋼鉄が弾けた音の後に応えを受けた。

 

「できませぬ」

「……え? えっ、なんで、足枷を」

 

足を締め付ける感覚が無くなっている。足首の方を見ると、狼が、左手に武装された小斧で足枷を叩き割っていた。

 

「此処を抜け出すためです」

「でも…なんで…」

 

彼の突飛な行動に疑問符が浮かぶ。だが、

 

「…不死断ちを、共に果たしましょう」

 

問いの答えは至って単純で。不意に燻ぶった口調で返してしまう。

 

「……さっきは出来なかったのに?」

「手がかりを、探すのです」

「っなんで、そこまで……」

「……なぜ、か」

 

何故絶望の淵にいる者を放っておかないのか───だが、そんな疑問は取るに足らない、後ろを向くための口実に過ぎなかった。

 

枷が無くなった今からでも、歩き出すのは遅くない。

 

再びミコに跪く狼。その姿がそう伝えているように思え、また、それはミコにとってあまりにも真っ直ぐで、ただ、眩しかった。

 

「生命の澱み、不死を無くすことが我が主の願いでした」

 

「……主の願いは、俺にとっての願いでもあった」

 

「ゆえに、不死断ちを望むミコ様、貴女を新しい主に定める。そう、決めました」

「っ……ありがとう」

「ミコ様」

 

より深く首を垂れる狼。主にだけ向ける、忠誠の意だった。

 

「主従の約定に従い、命を賭して貴女に仕えまする」

「……狼、さん」

「は」

「私の、忍びになってください」

 

重々しく話すミコは狼の手を取り、その掌に持っていた御守りを握らせた。

 

「そして来たる時に、その刃で私を殺してください」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

宵闇がかかった雪山、少女の影が3つ映る。

 

「っくしゅ! あ~さむい~……あ、ツクヨ~映像回ってるー?」

「あっ、はい部長……あの、良ければコート、貸しましょうか…?」

「ああだいじょぶだいじょぶ気にしないで~忍者たるものこんな寒さなんか……っくしゅ!」

(大丈夫には見えなさそうですが…)

 

カメラを回す長身の厚着───ツクヨと、見るからに薄着の、防寒という意味でガードが甘過ぎる狸部長───ミチルの二人が、画角を結んだ直線上を並んで、黄昏時の山林を歩いていた。

 

しかし、直線から外れる影が一つ。

 

「……ところでイズナはいったい何してるのさ?」

「乾布摩擦の術です! 部長が寒さに負けないように空気を温めてるんです!」

「それはありがたいな───ってちょっと燃えてるんだけどイズナ!?」

 

物凄い勢いで乾布を振り回し、タオルに火種を付けている狐耳尻尾───イズナであった。因みに彼女が言っている乾布摩擦は本来の意味と大分ズレている。

 

それはさておき、急いで静止に回るミチル、なんか燃えてきたからノリでエスカレートするイズナ、その様子をクソ真面目に撮影するツクヨ、と、到底『今回の目的』の雰囲気にそぐわない珍道中を繰り広げていた。

 

「これは……火遁の術に使えそうですね部長!」

「それはそうだけど、危うく山火事になるとこだったじゃんー…」

「あ、あの部長、そろそろ…」

「はっ…! もうそんな時間…!!」

 

その目的とは何か、それは、火を治め再びカメラの前に立ったミチルによって語られた。

 

「カメラは……おっけー! じゃツクヨ、配信開始よろしく〜」

「は、はいっ…!」

「………ドーモ、みなさん、ミチルです……んぅ第8巻少女忍法帖ミチルっち~特別生ライブ始めるよ~!」

「わーーっ!!パフパフパフ!!」

「い、いえーい…?」

「2人ともありがと~~で、今回の企画はというと~……ででん!」

 

ミチルがいつの間にか手にしたパネルフリップをカメラレンズに映るよう上げ、間延びした声で読み上げた。

 

「今巷を騒がす怪談に出てくる『泣き虫』を、オリジナル忍術で撃退してみよう~~!」

「おおっ! なんかいつにも増して今回の企画は凄そうですね部長!」

「私は、ちょっと……怖い、かも…」

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ~私がビシッと撃退してあげるから!」

 

多種多様な反応を見せる彼女らの目的は、平たく言うと肝試し。肝心の内容はというとミチルが目的地に歩を進めながら説明する。

 

「えーと話を戻して…視聴者のみなさんのために説明すると、『泣き虫』ってのは今私達がいるこの黄昏山! ここのとある井戸底から誰かの泣き声が夜な夜な聞こえてくる~……って怪談で、今からそれを私の忍術で撃退しよう~ってワケ!!」

 

得意げに話すミチル。先と同様な反応を繰り返す部員たちであったが、コメント確認要員のイズナがそこで声を上げた。

 

「あっ部長! コメントがついていますよ!」

「えっホント!? 読み上げて!」

「『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)公式チャンネル』さんから、『幽霊退治、なんかこわい…頑張ってたおしてね忍者のおねえちゃんたち!』だそうです! これイブキ殿からじゃないですか!?」

「イ、イブキちゃん…見てくれてるんですね…!」

「コメントありがとう~!! おねえちゃんたち頑張っちゃうからねぇ~!」

 

イブキ───ある出来事(不忍ノ心)にて彼女ら忍術研究部と仲を深めた幼き少女である───が、所属組織の公式アカウントからコメントを発している様子だった。完全なる公的アカウントの私的運用だが、おそらく許されるだろう。万魔殿(彼女ら)はイブキに弱いのだから。

 

それはそうとて、忍術研究部の3人、特にミチルは見るからに表情に喜色を湛えている。彼女の動画の再生数は良くて2桁止まり、コメントは付かないのが当たり前の無名投稿者。ゆえにコメントをしてもらえることはミチルっち史上最上の喜びだった。

 

と、同接数2の数字から目を逸らして思う。ちなみにあと1人はイズナである。

 

そうこうして騒がしく山道を進んでいるうちに、3者は目的地に辿り着いた。

 

「とーちゃーっく、ここが例の井戸、だよね? ……なんか雰囲気感じる…」

「これが………棄てられてから随分経っているよう、です…」

「今にも何か出てきそうですね!!」

「え、縁起でもないこと言わないでよっ!?」

 

見たところ、釣瓶すらない、もはや井戸として成り立っていない、石垣で舗装された穴っころ。穴の内側から苔がむしている所を見ると、そろそろ長年手が入っていない様子だった。

 

「うぅ……ま、まあとりあえず本当に井戸が見つかったので忍術の準備をするとして…」

「えっ、もしかして部長、場所を知らずに───

「あーっ! 気にしない気にしない終わった事は気にしないで~! はいツクヨ井戸バックにして準備始めるからカメラよろしくね~!!」

「あっ、はい…」

 

殆ど行く当てもなしに夜になりかけの雪山を登るこの部長。危険な行動この上ないが、苦笑いを浮かべながらツクヨはいそいそとカメラポジションについた。

 

「……イズナちゃん? 井戸の縁に座ると危ないですよ…?」

「…何か、聞こえます…! 金属の音…?」

「えぇ……や、やっぱり…」

「ツークーヨー? そろそろやるよ~?」

「す、すぐ行きます! ケガしないようにね、イズナちゃん!」

「……」

 

途中で目にかかるイズナ。まるで吸い込まれているようにして穴に耳を澄ませているのを注意するツクヨ。よく分からない玩具の筒を取り出して手持ちのショットガンに括り付けるミチル。

 

画角を井戸とイズナ、そしてミチルが映るよう漸くポジションについたツクヨは、

 

「えーと、今回使うオリジナル忍具は───」

 

ゴンッ

 

「……っえ」

「……ん?」

 

井戸から飛び出た影が、イズナの額に思い切りぶつかるのをレンズ越しに目にした。

 

「痛ああぁぁぁっ!!??」

 

「出たああぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」

 

ガチャンッ

 

「カ、カメラがぁぁ!?」

 





『不死斬り・拝涙』
 
死なぬ者さえ殺す大太刀
その赤き刃は、刀を抜いた者を一度殺す
回生の力なくば、不死斬りの主とはなれぬ
 
不死斬りならば、死なぬ者の命を奪うことができる
 
葦名に流れ着いた澱みは、しかしこの地にも流れ着いていた
変若水が齎すは、肉体の澱みである
澱みを正すこの刃ならば、この地の者を深く傷付け、
遂には死を齎すだろう

しかし、ミコには死が訪れぬ
それはなにゆえあってこそか…
 
◇◇◇
 
『ミコの御守り』
 
かつて、ミコが言う
あの方が持っていたとされる御守り
 
雪地の地下牢で狼が回生し、
主従の約定を結んだ折にミコがくれたもの
 
この御守りには微かな奇跡が宿っており、
苦難を抑え、狼を守るものである
死を齎すものを、僅かながら逸らす力を持つ
 
ミコは、最期の望みとして、死人返りした狼に願った
 どうか、私の忍びになってください
 そして来たる時に、その刃で私を殺してください
 
◇◇◇
 
忍術研究部に狼のガチ忍者スタイル見せてェ〜〜
 
って気持ちで書き始めたのがこの作品です()
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