SEKIRO: SHADOW DIES AGAIN, in KIVOTOS 作:まーぼーどーふ
感想・評価・コメント等、ありがとうございます!
それとミチルお誕生日おめでとう!
あと、この話からキャラが増えます。一部オリ生徒がいるので苦手な方はご注意を(ミコがいるから今更感ありますが……)
廃校舎の一教室、忍術研究部の部室。
宵の口を過ぎた室内は、奇妙な静けさに包まれていた。部屋の隅で、狼が己の義手や刀の手入れを黙々と行っている。その冷たい金属音だけが、等間隔で響く。
ミチルは、自分の机に突っ伏しながら、その音を背中で聞いていた。
(……気まずい、気まずすぎるよぉ……)
以前、狼がヘルメット団の少女を───結果的には峰打ちであったが───本気で殺そうとしたあの瞬間。ミチルは、自分たちが掲げる『忍者』と、彼が体現する『忍び』の絶対的な溝を垣間見た。
底抜けに明るい性格でもない彼女は、あの一件以来、狼にどう接していいか分からなくなっていたのだ。
居ても立っても居られなくなったミチルは、気を紛らわすように手元のスマートフォンを開き、ニュースサイトをスクロールする。
クロノススクールが配信する『クロノスチャンネル』。そこに踊っていた一つの見出しが、ミチルの目を引いた。
『特ダネ!? 百鬼夜行外れの廃墟に、火を吹き続ける奇妙な筒が出現!』
「……火を吹き続ける筒?」
思わず、独り言が漏れる。その直後だった。
「……それは何処にある」
「ひゃあぁっ!?」
気付けば、ミチルの背後に狼が音もなく立っていた。その瞳は、いつになく鋭い光を放っている。
狼は確信していた。『火を吹き続ける筒』───それは間違いなく、己が失った義手忍具の一つ、『火吹き筒』であると。
「あ、あの……百鬼夜行の外れの、廃墟、らしいんだけど……」
「案内せよ」
有無を言わさぬ圧。手元に取り戻そうと、表向きは冷静さを保ちながらも、その奥にある焦燥感がミチルにも伝わってくる。
「え、えっと、その……」
脳内がパニックに陥ったミチルは、どう返答していいか分からず、口から出まかせを放ってしまった。
「そ、それを! 私の動画の『忍術紹介』で使わせてくれるなら、教えてあげる!」
言ってしまってから、ミチルは顔面を蒼白にした。
(やばい! 怒られる! 斬られる!)
しかし。
「……承知した」
「えっ」
「行くぞ」
狼は即座に了承し、窓枠へと足をかける。
まさか了承されると思っていなかったミチルは、半ば強引に、夜の廃墟探索へと連れ出されることになってしまった。
◇◇◇
夜の百鬼夜行。
「ひ、ひぃぃぃ……っ!!」
ミチルは狼の背中にしがみつき、必死に悲鳴を噛み殺していた。下に広がる夜の街には、暖かい色のした街灯や露店から差す光が広がっている。
狼の左腕に仕込まれた鉤縄が、建物の屋根から屋根へと、常軌を逸した軌道で二人を運んでいく。
ミチルは鉤縄での激しい空中移動に叫びたい気持ちでいっぱいだったが、狼がいる手前、そんな大声を出すわけにはいかなかった。そして。
「……もう、声を出しても構わんぞ」
人影の途絶えた外れに差し掛かった頃、狼が告げる。
「げほっ、ごほっ……も、もう慣れたというか……疲れたから、気にしないで……」
ミチルはぐったりとした様子で、狼の背で息を整えた。
そこから先は、夜風の音だけが響く静寂の道中となった。
お互いに口を開かない。その沈黙が、ミチルの気まずさをより一層加速させる。百鬼夜行の外れは中心部とは異なり夜分は殊に静かであったので、その気まずさは尚更なものであった。
耐えきれなくなったミチルは、空気を紛らわすように、ぽつりぽつりと語り始めた。
「あのさ、狼殿……私が思う『忍者』って、困っている人を助けたり、悪い奴をこらしめたりする、正義の味方なんだよね」
聞かれてもいない、自分の『理想』。
「でもさ……狼殿みたいな『本物』の前じゃ、私の言ってることなんて、ただのごっこ遊びだよね……分かってるんだ、本当は」
自嘲するようにはにかむミチル。
狼は、背中の重みを感じながら、ただ黙って聞いていた。
否定も、肯定もしない。
だが、その言葉の端に、かつての主・九郎が抱いていた『成すべきことを成す』という真っ直ぐな意志の面影を、確かに感じ取っていた。
やがて、二人は目的の廃墟へと辿り着く。
外からでも分かる。建物の奥深くから、不自然な赤い光が明滅している。
狼は鉤縄を放ち、二階の崩れた窓から音もなく潜入した。
眼下の広間を覗き込むと、そこにはチンピラのような出で立ちのスケバンたちが数人、獲物を囲んで嗤い合っていた。
その中心で縛り上げられているのは、ジャーナリストのような腕章をつけた、小柄な少女だった。
「ちょ……勘弁してくださいよ旦那ぁ! ちょっと覗いただけじゃないですか!?」
少女が、涙目で懇願する。
「何? 勘弁するぅ~? 勘弁はしたことねぇなぁ~?」
スケバンのリーダー格が、下品な笑いを浮かべながら、その手に持つ『筒』を弄んだ。
その筒口からは、ボォッ、ボォッ、と尋常ならざる熱量の炎が漏れ出している。
「許してほしけりゃ、この『花火』の試運転に付き合ってくれよなぁ~?」
「ひ、ひぃ!? ちょ、待っ、暴力反対! 命あっての物種でしょう旦那ァ!」
丸焼きの刑に処されそうになっている少女。
「狼殿! 早く止めてあげて!」
ミチルが小声で急かすが、狼は動かない。敵の配置、筒の射線、仕掛けるべき最善の『機』を見極めているのだ。
だが、ミチルにその意図は分からない。目の前で、人が理不尽に焼かれようとしている。
「……っ!」
何もしないままでいられるはずがなかった。
「や……やめてあげて!!!」
ミチルは、震える声で叫びながら、二階の縁から身を乗り出した。
「あぁん? なんだテメェ!」
スケバンたちが一斉に見上げ、反射的に手にしたサブマシンガンを乱射する。
「ひゃああっ!?」
唐突な銃撃に驚いたミチルは、足を滑らせ、そのまま二階からスケバンたちのど真ん中へと落下してしまった。
「いてて……」
「なんだこのコスプレ女? 忍者かぁ? でも、実験台が一人増えたなぁ~?」
一気に包囲され、銃口を突きつけられるミチル。
恐怖で足が竦む。
(あぁ……狼殿の言う通りに待っていれば……)
後悔が脳裏をよぎる。
けれど、ふと、先程自分で語った言葉が蘇った。
『私が思う忍者って、困っている人を助けたり……』
(……忍者は、どんな時でも、絶対に諦めない!)
「ひっ……」
徐々に近づくスケバンたちに対してミチルは怯える。だが、その目は確かに彼女らの隙を狙っていた。そして、スケバンたちの警戒心が最も緩んだその瞬間。
懐から取り出した球体を、足元に叩きつけた。
パンッ!!
「わっ!?」
「なんだ、煙っ!?」
炸裂音と共に、濃厚な煙幕が広間を包み込む。
その僅かな『隙』を、狼が逃すはずもなかった。
煙の中を、一条の影が疾る。
狼は瞬く間にアキナの縄を斬り裂き、同時にスケバンの頭領に音もなく近付き、彼女が持っていた『火吹き筒』を強奪する。
「あ!? 筒がねぇ!」
煙が晴れかかる中、ミチルの姿を捉えたスケバンが、逃げようとする彼女に銃口を向ける。
「調子乗ってんじゃねえぞコスプレ女!!」
タタタタンッ!
放たれた銃弾。
だが、ミチルの背中に当たるより早く、狼がその前に立ちはだかった。
キィーーーン
金属音が連続し、一つの大きな音になる。楔丸が、軽々と鉛玉を弾き落としていた。
そして狼は、奪い返した筒を、自身の左腕───義手に当てがった。
ガシャンッ。
絡繰りが噛み合う、重厚な音。
「……」
狼が左腕を突き出す。
ズゴォォォォォォォッ!!
暴炎。
ただの火炎放射器とは次元の違う、紅蓮の劫火が轟音と共に広間を舐め尽くした。
「熱っ!? ひぃぃぃっ!!」
「な、お、お化けぇぇぇぇっ!!」
炎が天井まで届くほどの火力と、無表情で火を噴く隻腕の男の異様さに、スケバンたちは完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
◇◇◇
静寂が戻った廃墟。
「いやぁ助かりました。あっしは藤岡アキナ。しがない情報屋です」
自身をアキナと語る少女が、埃を払いながら狼に頭を下げる。
先ほどまで命乞いをしていたその瞳は、狼の強さと、その異質な『武器』を値踏みするように光っていた。
(これは……とんでもない金脈の匂いがしますね)
「旦那、この恩は忘れませんよ。今後、何か知りたいことがあればいつでもその番号にかけてきてください」
アキナは懐から手書きの電話番号のメモを取り出し、狼に押し付けると、「それじゃ!」と足早に去っていった。
狼は『電話』というものがよく分からなかったが、情報網の価値は理解しているため、無言でそれを懐にしまった。
その後。
廃墟の隅で、ミチルが膝を抱えてうずくまっていた。
「……帰るぞ」
狼が促す。
だが、ミチルは顔を上げず、ぽつりとこぼした。
「……結局、守られてばかりで……私なんて、やっぱりごっこ遊びなのかな」
自分の煙玉など、あの圧倒的な火炎の前では児戯に等しい。
そう自嘲するミチルに、狼は静かに告げた。
「……お前の煙がなければ、あの娘を無傷で救うことは能わなかった」
「え……?」
「敵の目を欺き、隙を作る。……見事な忍びの働きであった」
ミチルが掲げた『弱きを助ける』という掟。
それを、恐怖に震えながらも有言実行してみせたその姿勢を、狼は確かに『忍び』として評価したのだ。
「狼殿……」
ミチルの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
「うわぁぁぁん狼殿ぉぉぉ!!」
ミチルは泣きじゃくりながら、憧れの『本物』の言葉を噛み締めていた。
◇◇◇
数日後の、廃校舎。
「ドーモ、みなさん、ミチルです! 第97巻少女忍法帖ミチルっち〜特別編始めるよ〜!」
ミチルの、いつになく上機嫌な声が響く。
「今日はスペシャルゲスト! 本物の忍術を見せてくれる、お面のお兄さんです!」
画面の端には、百鬼夜行の土産物である天狗のお面を無理やり被らされた狼が、微動だにせず立っていた。
約束通り、『火吹き筒』を動画のネタとして提供させられているのだ。
「それじゃあ余計な前置きは無しっ! お兄さん、お願いします!」
狼が、無言で左腕を掲げる。
ボォォォォッ!!
「うおおおおっ!! すごい! 本物の火遁の術だぁぁぁっ!!」
無邪気に歓喜し、跳ね回るミチル。
カメラを回すツクヨと、アシスタントのイズナ。そして、その様子を端でおにぎりを食べながら見守るミコ。
「なんだか、部長と狼殿、凄く仲良くなりましたね?」
「ですね……前みたいな、ピリピリした感じがなくなりました」
「ツクヨ殿もそう思いますか……何があったんでしょう?」
不思議そうに首を傾げるイズナとツクヨを余所に、ミチルと狼の奇妙な動画撮影は、夜更けまで続くのだった。
その後アップした動画の再生数は今までで最高数を記録したのだが、コメント欄は天狗面の謎の男の話で持ち切りだったらしい。天狗面の噂はミレニアムやシャーレにまでも広がったとか広がっていないとか……
◇◇◇
百鬼夜行連合学院、陰陽部。
煌びやかな装飾が施された、権の中枢たる一室。
「……だから! 本当なんだって!」
血相を変え、声を荒らげる者が一人。いつぞや、廃校舎にて狼に命を散らされかけた、兜の少女である。
彼女は必死であった。
得体の知れぬ大人の男に、真に殺されかけた恐怖。だが、それを誰に訴えても「寝言は寝て言え」と鼻で嗤われるばかり。
すがるような思いで、この百鬼夜行を纏める陰陽部へと押し掛けたのだ。
「本物の刀を持った、気味の悪い大人の男だったんだ! あいつ、マジでアタシを殺そうとして……っ!」
喚く少女の前。
優雅に寝椅子へ腰掛け、鉄扇を口元に当てる影。陰陽部部長、天地ニヤである。
彼女は、少女の必死の形相を前にしても、その狐の如き笑みを一切崩さなかった。
「件の動画、もうご覧になりましたかね?」
唐突な問い。
「えっ、ど、動画……?」
毒気を抜かれたように、少女が呆ける。
ニヤは手元の端末を弄り、ちょうど配信されたばかりの『少女忍法帖ミチルっち』の映像を流し見ながら、カラカラと笑った。
そこには、紛れもなく少女が語る『大人の男』が、手から猛火を放つ姿が映っている。
「あら、ご存じでないと。にゃは、まあそれはそれで好都合ですしぃ? もちろん貴女の言うことは信じますとも」
「し、信じてくれるのか……!? や、やっとまともに取り合ってくれる人が……! ありがとう陰陽部!」
少女は安堵のあまり、その場にへたり込みそうになる。
狂人扱いされ続けた孤独からの解放。だが、目の前の笑みこそが、真の底知れぬ暗闇であることなど、知る由もない。
「にゃははっ、そんな煽てても何も出ませんって♪」
気さくに笑いながら、ニヤは立ち上がる。
窓辺へと歩み寄り、眼下に広がる百鬼夜行の絢爛な街並みを、冷ややかな一瞥で睥睨した。
動画が上がる以前より、彼女は耳聡くその存在を把握していた。この街に潜む、異質の死の匂いを。
鉄扇を閉じ、何か含みのある様子で、独り言のように呟く。
「その件については、この天地ニヤ。よぉ~く知っておりますよぉ?」
薄暗い室内に、得体の知れぬ妖気が漂う。
「なんせ、
『火吹き筒』
火吹き筒を仕込んだ義手忍具
吹き出す火で、敵を炎上させる
葦名に住まう赤目は、その暴虐ゆえ御することは難しい
だが、やつらは何より火を恐れる
火吹き筒ならば、怯ませることができる
この地で回収された筒は、
今では動画の余興として、少女の笑顔を照らしている
◇◇◇
『青春の記憶・千鳥ミチル』
心中に息づく、生徒との青春の記憶
千鳥ミチル、百鬼夜行連合学院忍術研究部
その部長である
狼にとって、彼女らが宣う忍術は、
児戯のようなものである
だが、かつて己が定めた忍びの掟に準ずるならば
彼女が掲げる忍者の鉄則は
まさしく本物の忍びに通ずるものであった
◇◇◇
これから更新速度が少し遅れます。エタることは多分ないです。