トゲアイスのパーフェクトさんすう教室   作:じゅぺっと

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一限目、トゲアイスのパーフェクトさんすう教室

 

 トゲアイス「それでは皆さん、トゲアイスのさんすう教室を始めます。私みたいな天才目指して頑張っていってください」

 

 マンチネル魔女協会の講堂、その教壇で銀雪の魔女、チクトゲ・トゲアイスが授業開始の合図を告げた。

 座席には、イチを含めたデスカラス班一行がしぶしぶといった感じで座っている。

 

イチ「……まぁ約束は約束だからな! 1時間だけなら話を聞こう!」

デスカラス「なんで私まで付き合わなきゃいけねーんだ」

トゲアイス「連帯責任。教育が必要なのは貴女も大概だからです。クムギさんもよろしいですね?」

クムギ「は、はい! トゲアイス様の授業を受ける機会をもらえて私は嬉しいです」

 

 何故こんなことになったのか? それはキノコ狩りの際に交わした約束があるからである。

 イチが勝てば魔男のイチを公表、トゲアイスが勝てばイチに魔女としての教育をトゲアイス自らがみっちり行ってから、というものだ。

 結果、街を覆うキノコの魔法を先に習得したのはトゲアイスだった。

 とはいえ、反世界の魔法が現れなければ勝負は分からなかったし半壊した町の復興や反世界の魔法への今後の対策もある。どのみち時間をかけてイチを教育するのは不可能になってしまった。

 

トゲアイス「とはいえ、約束をなかったことにするのは美しくありません。せめて一講義だけでもイチに受けさせることで、最低限魔女達がどういう教育を受けているのかは知って頂きます」

デスカラス「だからってなんでさんすうなんだよ。イチだけに数字の1から教えるっていうギャグ?」

トゲアイス「……そうです」

デスカラス「嘘つけ。まぁ大方約束を果たさにゃ気が済まんけど山育ちの狩人相手に通じそうな教育がさんすうしか思いつかねんだろうけど」

イチ「今明確にバカにされた気がするのだが」

 

 マンチネル魔女協会が誇る魔女トップ2が言い合っていると、いつの間にか予言の魔法ジキシローネが椅子に座っていた。

 

ジキシローネ「ああ、トゲアイスはなんて冷徹なのだろう! これから命を捧げようという青年にかける言葉が面白みのない教鞭だなんてあんまりじゃないかな?」

クムギ「うわぁ!? 何故こちらに!?」

ジキシローネ「僕らの救世主が面白い余興をすると聞いて来ちゃった♥」

イチ「面白がられてる……」

 

 トゲアイスは、ジキシローネの相手をしても仕方ないと思っているのか黒板に数字を書き始める。

 

トゲアイス「……では始めましょう。イチ、4×2+9÷3はわかりますか?」

イチ「なんだそれは。暗号か?」

 

 トゲアイスが頭を抱えた。デスカラスがそれを見てニヤニヤ笑っている。

 

トゲアイス「やはりさんすう教室で正解でしたね。貴方、お金を使ったことはないんですか?」

イチ「村で交換してもらったことはある。だが×とか÷とかいう記号は知らん」

トゲアイス「……では特別わかりやすくしましょう。まず村から馬車が出て初めにあなたたちが3人乗りました」

 

 トゲアイスが杖を振るうと、デスカラス班の3人を模した氷人形が現れた。

 

トゲアイス「魔女協会で2人降りて、予言の魔法だけ乗りました」

イチ「ふむふむ」

ジキシローネ「僕の人形なんか適当じゃない? ほら、顔のペイントとかさ」

 

 玉に乗った姿の氷人形も現れる。予言の魔法はこう言っているが、それぞれ即興で作ったとは思えないほど精巧だ。

 

トゲアイス「私の家で1人降りて結局乗客は合計何人でしょう?」

 

 説明と同時に-2、+1、-1と書き足していく。実例を出しながら計算式を理解させるつもりのようだ。

 数式ではなく具体例をイチは見たイチは鷹揚に頷いて答えた。

 

イチ「答えは0人。何故なら予言の魔法は人ではないからだ」

クムギ「そういう問題じゃないよ!?」

 

 想定外の回答にトゲアイスがコケた。笑い転げるデスカラスとジキシローネ。

 

ジキシローネ「面白かったけど僕は心は魔法でも体は人間の乙女なんだからねっ! 証拠におっぱい触らせてあげよっか?」

クムギ「ダ、ダメだよイチくん!」

イチ「なぜ俺に言う?」

 

 顔を赤くしたクムギに困惑するイチ。

 予言の魔法は椅子から立ち上がって朗々と口にした。

 

ジキシローネ「だって僕らの救世主はシラベドンナにちんちんを見せるよう要求されたんだろ? だったら命を犠牲に戦ってくれる救世主くんに誰かおっぱいくらい触らせてあげないと不公平じゃないかなぁ!」

デスカラス「おっぱいだのちんちんだの頭幼児かこいつ。トランプとか使って戦いそうな顔しやがって」

ジキシローネ「なんでそんな的確に魔法を傷つけるセリフが言えるんだよデスカラス! 君から受けた暴言の数々に今頃反くんも膝を抱えて泣いているはずさ!」

デスカラス「んなわけあるか。反くんて」

 

 一方その頃、この世の何処かで反世界の魔法がクシャミをした。

 

反世界の魔法「……氷と菌の魔法のせいか。いっそ鼻を削ぎ落としておくか」

 

 そんな事は知る由もなく、トゲアイスが杖を振るって冷気を放って全員黙らせた。

 

トゲアイス「……静粛に。まだまだ授業は始まったばかりですよ」

デスカラス「私の言った通りこの猟犬に机で教育は無理だと分かっただろうに頑固なやつ……」

 

 ともあれ、それからも実例を交えたさんすう教室は続き、デスカラスや予言の魔法による脱線はありつつもイチはなんとか四則演算の基本と魔女が受ける授業というものについて学んだ。

 

イチ「さて、約束の1時間だ! 正直座りっぱなしはしんどかったが1度だけなら悪くない時間だった。では俺は狩りに行ってくる!!」 

 

 時計の針よりも正確に1時間を刻んでいたイチが早速扉を開けてでていこうとする。

 

イチ「冷たっ。それに開かん」

 

 ……が、なんと扉が凍りついていて開けることができなかった。

 

トゲアイス「……貴方達を見ていてよくわかりました。教育が1時間では到底足りないことがね」

イチ「話が違う! それにゆっくりしている時間はないんじゃなかったのか?」

 

 イチが振り返ると、 トゲアイスの表情は冷静だが静かな怒りに満ちていた。デスカラスや予言の魔法、イチの破天荒さで我慢の限界になったのだろう。扉とトゲアイスからも強烈な冷気がバシバシ漏れている。

 

トゲアイス「かくなる上は一夜漬けです。凍る部屋の中ひんやりした温度も時間も気にせずみっちり私が魔女のあり方を1から叩き込んであげましょう」

クムギ「寒い……」

デスカラス「ちょっとームギちゃん凍えてんじゃん。横暴だと思いま〜す」

 

 あまりの冷気にクムギが肩を震わせるのを見て、イチの表情の真剣さが変わった。

 

イチ「大丈夫かクムギ! やはり一刻も早くここを出なければ!かくなる上は━━」

デスカラス「おいっ、ちょっと待て!! 凍えてるってのは冗だ━━」

イチ「雷狐《イナヅリ》!!」

デスカラス「魔女協会の講堂で何してんだバカ!!」

 

 かくして、トゲアイスのパーフェクトさんすう教室は講堂に大穴を開けて終了となった。

 

マネーゴールド「……全員、始末書よ。いいわね」

 

 

 

 

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