では、どうぞ。
あれからリンは、右も左も分からない状態の私に対して丁寧に事情を説明してくれた。
ここは、数千にも及ぶ学園からなる超巨大学園都市“キヴォトス”。その学園都市で、連邦生徒会長が設立した連邦捜査部“シャーレ”の担当顧問並びに先生として呼び出されたらしい。
またこの都市では、銃火器を持っていることが当たり前らしく、コンビニや自販機でも武器を買い揃えられるなど。どこかのゲームの町を彷彿とさせるほどの治安の悪さだ。
そして、今まさに学園都市は崩壊の危機に直面しているとのこと。
どうやら、私を呼び出した調本人である連邦生徒会長は現在行方不明。彼女が失踪したことにより、連邦生徒会はサンクトゥムタワーの業際制御権を失っており、それに乗じ都市のあちこちで騒動が起こっているらしい。
そして、その問題を解決する
そこで、連邦生徒会に現在都市で起こっている問題解決を求めにやってきた、各学園の生徒であるユウカ・ハスミ・チナツ・スズミと共にシャーレオフィスの奪還に向かうのだった。
現地に着いた私達は、今回の暴動の黒幕と思われる七囚人の一人・厄災の狐と呼ばれる狐坂ワカモと暴徒たちの制圧を行った。私の指揮の下でみんなが迅速に戦闘を行い、暴徒たちの無力化はあっという間に終わった。ただ、ワカモだけは捉えることが叶わず、俊敏な動きで何処かへと消えてしまった。
“みんな、お疲れ様。怪我はない?”
戦闘を終えたみんなの元へと駆け寄った。
「はい。こちらは特に目立った被害はありません。」
そうユウカが告げると、改めて彼女たちの姿を見ても、服に土埃がついている程度で血の一滴も流れてはいない。
それもそのはず、彼女たちの頭上に存在するヘイローと呼ばれるものがついているように、私とは違い銃弾に耐えれるほどの肉体の強度があるというのだ。未だに、その実感が湧かないせいか彼女たちを心配してしまうのも仕方ないことだろう。
ただ、いくら銃弾に当たった所で死なないとはいえ、先生として生徒が戦いに身を投じている姿を見るのは何とも言い難い気持ちになる。
そんな内心複雑な気持ちを抱いていると、スズミが話を切り出した。
「なんだか、いつもより戦闘がやりやすかった気がします。」
「……やっぱりそうよね?」
「これも先生の指揮のおかげですね。」
「流石、連邦生徒会長が選んだ方ということね。」
彼女に続き、みんなが私の指揮能力を評価してくれていると、私の背後で倒れていたはずの暴徒の一人がナイフを片手にこちらに突っ込んで来ようとしているのに気づいたユウカが咄嗟に声を荒げた。
「……!先生、後ろ!」
“……っ!”
私もすぐさま後ろを向き、回避行動をとろうとする。彼女たちも、先生を守ろうと走り出すがどちらも間に合いそうにはなかった。
リンに頼まれた仕事、何より私自身の役目すらまだ全うできていないのに。
(“ここで、死ぬわけには……。”)
そう決意を固めていると……、視界の端に物凄い勢いでこちらに向かってきている黒い物体が見えた。
その物体は、あっという間私の目の前までやってくると、こちらに向かってきていた暴徒を巻き込み、元々何かの売店を営んでいたのであろう建物へと突っ込んでいった。
ドゴオオオォォォ-ン
盛大な衝突音と共に、やってきた衝撃が体の芯まで響くと一瞬の静寂がその場の空気を包んだ。
「“ え? ”」
いきなりの出来事に、私もユウカ達も唖然とするしかなかった。
物体が突っ込んだ衝撃と共にこちらに転がってくるタイヤから、物体の正体がバイクであったと分かると、我に返り、運転手とそれに巻き込まれた暴徒の安否を確認するために、すぐさま建物に駆け寄った。
「ちょ、ちょっと、先生?!」
ユウカ達もすぐに先生の心配をしながらも、そのあとに続いた。
“……大丈夫かい?!無事だったら返事をしてほしい。”
建物に駆け寄ってみれば、バイクは衝突の影響から見るも無残な姿へと変えていた。肝心の運転手たちの姿が見当たらず、あたりを見渡しながら呼んでみた。
「……っ、いって~。」
するとそんな気の抜けた声が聞こえると、瓦礫をどかすようにその下からフルフェイスヘルメットを被った人が起き上がってきた。暴徒も、声からして男性であろう彼の近くで気を失っているだけのようで、ひとまず私も一安心した。
“君、大丈夫かい?”
改めて目の前の人物の安否を確認すると、服に着いた瓦礫の破片を払っていた彼もこちらの存在に気づいたのか、顔こそ見えないが、何処か申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながらしゃべりだした。
「はい、特に大事にいたることはなさそうです。そちらの皆さんこそ、お怪我はありませんか?」
彼の問いに頷いて見せると……
「……いや~、本当にすみません。今日は、大事な仕事の予定だったですけど、迷子を届けてたら見事に遅刻してしまいましてね。速度気にせず、バイクを走らせてたらこんなことに……、ハハハ。」
「よっこらせ」と立ち上がると彼の白を基調とした服を見て、こちらに向かう前にリンが言っていた言葉を思い出した。
『本来、私と共に先生をお迎えするはずだった生徒会のメンバーにもし出会ったら、後で私から話があると伝えてもらえると助かります。』
スラっと高い背丈に、連邦生徒会の制服、そしてなにより特徴的な黒のフルフェイスヘルメットを着けた人物。まさしく、リンが言っていた容姿と一致している目の前の彼。
「改めまして、連邦生徒会所属行政補佐官を務める“アオト”です。どうぞよろしく。」
「……っな!あなたが噂の連邦生徒会の大人にして、行政の陰の立役者と呼ばれる……。」
「ん……、一応そんな認識でも間違えではないかな?」
ユウカが驚きの声を上げたり、ハスミたちが興味ありげな目で彼を見る感じ、キヴォトスではかなりの知名度があるのだろう。
そしてこれが、アオトと名乗る“大人”とのファーストコンタクトだった。
これから先、長く困難な道のりを共にする相棒になるとは、私はこの時微塵も思いもしなかった。
その後、アオトも共に本来の目的地であるシャーレオフィスに向かう道中に、現在の状況と事情を話した。
彼が、一番驚いていたのは私が連邦生徒会長に呼び出された先生、その人であると話した時だった。
「……嘘だろ!?……あんたが、先生?」
「こんな、頼りなそうな奴が?……あいつ、人選ミスったんじゃないのか?」
酷い言われようである。確かに私自身頼りなさそうに見えるのは自覚しているつもりだが、初対面でここまで言われたんのは初めてだった。先ほどまでの口調とは違い、何処か砕けた話し方が本来の彼の素なのだろう。
そんな言葉にユウカ達が彼を睨みつけるが、私が“まあまあ”と止めると彼女たちも落ち着いてくれた。
その後は、場の雰囲気もあって特に会話もすることなくシャーレオフィスまで特に何事もなく着いた。ただ道中、アオトはこちらを見定めるかのように目を向けていたため、内心不安だったのはここだけの話だ。
「着きましたね、先生!」
“そうだね。みんなもここまでありがとう、助かったよ!”
無事にたどり着けたことにユウカ達にお礼を伝えると、みんな顔を赤く染めていた。戦闘で疲れて、体温でもあがったのかなぁ?と考えていると、リンからの通信が来た。
『「シャーレ」部室の奪還完了。私も、もうすぐそちらに到着します。建物地下でお会いしましょう、先生。』
『それと、アオトさん。……着いたら、お話があることをお忘れなく。』
『それでは』と通信が切れると、横にいたアオトは顔が青ざめていた。
“改めてみんな、お疲れ様。今日は助かったよ。”
「はい、お疲れさまでした、先生。機会がありましたら、ミレニアムサイエンススクールまで来ていただければ、またお会いできるかも?では、また。」
「今日はこれでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園にも立ち寄ってください。」
「私も、今日のことを風紀委員会の方に報告しに戻ります。ゲヘナ学園にお越しの際は、ぜひお訪ねください。」
“うん。後の問題は、私に任せて。”
建物に入る前に改めてみんなにお礼を述べると、ユウカに続きハスミ、スズミ、チナツも別れを告げると各々の学園へと帰っていった。
“……それじゃあ、私達も行こうか?”
「いや、あんたは先に建物に入っててくれ。俺は、リンとも話があるし、外であいつが来るのを待ってるとするよ。」
“分かった、また後でね。”
そんな私の返事に、アオトは軽く手をひらひらとさせると、私は建物に入っていった。
ーside アオトー
あいつ建物入っていくのを見届けると、リンが来るのを改めて待つことにした。
“先生”
今は何処に行ったかも分からねぇ、連邦生徒会長が呼び出した存在。パット見、何処も変哲もない普通な大人。ここキヴォトスにおいては、銃弾一発でも致命傷になりかけない風前の灯とも呼べる存在。第一印象は、頼りなさそうな大人。こんな奴が、しっかり役に立つのかという疑問しか浮かんでこなかった。
ただ、生徒たちと関わるときのあいつの雰囲気。カリスマ性とでも呼べばいいのか、あいつには人を惹きつけるような、この人が居れば安心できる、そんな目には見えない不確かな“なにか”があるように思えた。
「でもなー、信用ならないよな、まだ。」
「……何が、信用ならないんですか?アオトさん?」
俺の独り言がこぼれると、背後から問い返してくる声と共に凄いプレッシャーが伝わってきた。
体をビクつかせながら、恐る恐る後ろを振り返ると、表情自体は笑顔だが目が全然笑っていないリンが立っていた。
俺は慌てて、体を地面に伏せると最大限の謝罪の意を含め、渾身の土下座を披露した。
「すみませんでしたーー!」
「……はぁ~、もういいです。どうやら、無事先生とも出会えたようですしね。」
「どうせアオトさんのことですし、困っている人を見過ごせなかったとかでしょうし……。」
「いや~、実はそうなんですよ。俺も遅れるつもりはなかったんですけどね~。ハハハ……。」
こんな状況で、
(「実は寝坊して急いでる途中に偶々見つけた迷子の子と一緒になって遊んでいた。」)
なんてとても言えない。言ったら、今度こそ何をさせられるか分かったもんじゃない。
「……それはそれとして、アオトさんの仕事の書類は増やしときますね。」
「……はい。」
ただ、やはり罰から逃れることはなかった。
コホンとリンが真剣な雰囲気を出し、会話を割り出した。
「アオトさんから、同じ“大人”として先生を見てどう思いましたか?」
リンの表情は、真剣そのものだ。ただ、その陰には不安や焦りの気持ちも見える。それもそのはず、親しかった友人は行方不明、突然の出来事に押し寄せてくる仕事や問題の数々。連邦生徒会は一人じゃないとはいえ、彼女が負っている責任の重さは計り知れないだろう。
ただ、ここで俺が彼女を安心させようと詭弁を語っても、より一層不安になるだけだろう。だから俺は、自分の思ったままを正直に伝えた。
「そうですか……。」
「ただアオトさんの言う通り、先生が居てくるだけで安心出来るような気持ちはわかります。」
そうリンが、シャーレのビルを眺めながら告げる。
「では手筈通り、お願いしますね?アオトさん。」
「ん……。しっかり俺の役目を果たすことにしますよ。」
「それじゃ、先生を待たせる訳にはいかねぇから、行くとしますか。」
リンに任された俺の役目と、これからの行く先に一抹の不安を少し抱きながら先生の所へと向かうのだった。
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