狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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ナーナってどんな子?
どんな一日を過ごしてるの?

そんな、はじめましてのお話です。
よかったら読んでみてくださいね。
感想もお待ちしています。


ナーナびより

 我が家には、狼が住んでいる。

 名前はナーナ。

 ぴんと立った三角の耳に青い瞳が特徴的な女の子だ。

 数年前、たまたま家の前で空腹で倒れていたところを保護して以来、すっかり我が家に居着いてしまった。

 こういう生き物を勝手に保護してもよかったものか。具体的に言えば、法律だの条例だのに違反しないものか。そんなことを今さらになってもやもやと考えたりもするけれど、そうはいっても見殺しにするわけにもいかず、もちろん回復したところを見計らって追い出す気にもなれず。

 まあ、こうやって色々と細かいことを考えて後ろめたくなってみたりはするけれど、結局は『考えても仕方ない』というところに落ち着く。あれこれ考えたところで、もう拾っちゃったんだから仕方ない。

 もう、私もナーナもお互いのことを生活サイクルに組み込んでしまっている。

 

 ナーナの朝は早い。

 どうも彼女は早起きして私を起こすのが自分の仕事だと思っている節があって、眠るのは遅いくせにほぼ必ず私より先に目を覚ます。そして私を叩き起こして一緒に朝ごはんを食べたあとは、出掛ける私に代わって家の留守番をしてくれている。

 ただ留守番とは言うものの、早起きしたぶんの眠気にはしっかりと襲われるらしく、それなりに長時間のお昼寝を堪能している様子。夜行性ゆえの習性なのだろう、たぶん。

 まあ現状、彼女がお昼寝をしていたことによって泥棒を逃がしたとか、そういった事態には見舞われていないのでとりあえずよし。変に出歩かれて迷子になるなどされるよりは、大人しく昼寝でもしていてくれたほうがこちらとしても気が楽だ。

 夜になり私が帰ると、ばたばたと走って玄関まで出迎えにきてくれる。私の足音か、はたまた匂いか、彼女が何をもって察知しているのかは分からないけれど、私が家に近付くだけで彼女の『ばたばた』は外まで聞こえる。そして玄関を開けると、彼女はもうそこに満面の笑顔で立っているのだ。

 今日もまた、いつも通り。

 

「おかえりーーー!!」

「ただいま、ナーナ」

 

 尻尾をふりながら、私に体当たりせんばかりの勢いで駆け寄ってくる。こういうところを見ると狼というより犬に近いような気がするけれど、犬呼ばわりすると怒るので、まあ、狼なんだろうと思うようにしている。

 ぴんと立った三角の耳に青い瞳、ふわふわの長い黒髪にふわふわの尻尾。大きく開けた口から覗く二本の牙。健康的な褐色の肌、裸にワイシャツ。

 この子がナーナだ。

 裸にワイシャツ。この子がこんな格好をしているのには、きちんとした理由がある。別に妙な性癖があるとか、そういうことではない。この子は単純に、服を着るのが嫌いなのだ。

 狼だからなのか、なんなのか。耳と尻尾を隠せば人間の女の子と変わらないような姿をしておきながら、彼女はすっぽんぽんのほうが落ち着くらしい。でもそれだとさすがに私が目のやり場に困るので、無理矢理ワイシャツを着させている。下半身は丸出しだけど、まあ全裸よりは幾らかマシ。彼女にとっては、ワイシャツを着ただけでも頑張っているほうだ。

 

「ナーナね、今日もちゃんとお留守番できたよ!」

「ふふふ、偉いねー。配達屋さんのバイクに吠えたりはしなかった?」

「吠えたよ!」

「吠えたんだ」

「しょうがないもん」

「『しょうがない』の意味、わかってる……?」

 

 やっぱり犬かも知れない。

 保護した当時は警戒心むき出しで、それこそ一匹狼という印象だったけれど、最近のナーナはすっかり『わんこ』だ。

 さておき。

 帰宅したからといって一息つくのは早い。むしろ、ここからが本番といってもいい。

 ナーナに邪魔されながら夕飯を用意して、食べ終わったらはしゃぐナーナをお風呂に入れて、そのあとは暴れるナーナの歯を磨いて、とどめにナーナを寝かし付ける。それら全てがパーフェクトに忙しい。就寝ですら忙しいのだ。

 この子は寝ない。びっくりするくらい全然寝ない。布団には比較的すんなりと入ってくれるけれどそこからが長く、いつまでもいつまでも『ナーナね、ナーナね』とずっと喋っている。早く寝なさいと私が言っても誤魔化すように笑うだけで、すぐにまた喋り始める。これも夜行性だからなのか。お陰で私は、ナーナが喋り疲れて寝落ちするまでは眠れない。そして朝になればまたナーナに叩き起こされる。そんな毎日だ。

 

 でも、まあ。

 なんだかんだで楽しい日々だ。一人暮らしよりは間違いなく大変だけれど、不思議と疲労感はない。いや、疲れてはいるけれど心地よい疲労というべきか。それに何より、寂しくない。

 今にして思えばこの子を拾ったのも、私自身が一人暮らしの寂しさに耐えかねていたせいもあったのだと思う。

 この子が居てくれるお陰で、毎日がこんなにも忙しくて楽しい。毎日おかえりなさいと言ってくれる子が家に居ることが、こんなにも嬉しい。追い出す気になどなるはずもない。

 細かいことを考えても仕方ない。もう、拾っちゃったんだから。

 この子と一秒でも長く一緒に居られるよう努力をしようと、今はそう思っている。

 

 だってこの子はもう、うちの子なんだから。

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