狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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お陰さまで新しいお話が書けました。

恩納さん視点のお話です。

ちょっとややこしいですが、時系列が前後します。
「ムームほふり」「ムームいやし」「勝さんど」の順になります。

※今回、内容がかなりGL寄りかもしれません。苦手なかたはご注意ください。


ムームいやし

 我が家には、狼が住んでいます。

 名前はムーム。

 

 白いお肌に、白い髪。

 真っ白なシルエットのなかで目だけが赤い。

 一見して幻想的とも言えるビジュアルに反して内面はワイルドで、先日まで野良をされていた子です。色々な事情がありまして、一時的に私の家でお預かりすることになりました。

 まあ、お預かりするとは言ってもやっぱり生活習慣的には屋外のほうが落ち着くみたいで、ふらっと出掛けてふらっと帰ってくるような日も珍しくありません。お預かりした経緯を考えるとなるべく家のなかに居てほしいとは思うのですが、そうは言っても抑えられない性分というものがあるのでしょうし、そのへんはお好きなようにして頂くのがいいのかなと思っています。

 幸い、どこかに出掛けたまま帰ってこなくなったり、トラブルを抱えて帰ってきたりというようなことは今のところありませんので、そういった意味でも無理に引き留めたりはしていません。帰ってきてくれるということは、つまりここが家というか拠点であるという認識を持っては頂けているみたいですから。

 

 今日のお話は、そんなムームさまがお帰りになったところから。

 

「ただいま」

「お帰りなさいませ。今日はどちらまで?」

「山を歩いてきたわ」

「あらあら、それはずいぶん遠くまで……」

「うん。それと、これ」

「あらお弁当、食べてくれたんですね」

「美味しかったわ」

「うふふ、よかったです」

 

 お弁当とはいっても手の込んだものではなくムームさまが食べられるものをつめて持たせて差しあげただけなのですが、それでもやっぱり『美味しかった』といって空のお弁当箱を返してくれるのは嬉しいものです。

 調子に乗って色々とバリエーションを増やしたいところではありますが、ムームさまが食べられるもので且つ保存のきくもの、もっと言えばそれでいて栄養が偏らないものと考えると品目が限られてしまいます。なので毎回似たような中身になってしまうのが申し訳ないとは思っていますが、こればかりはどうにも。

 良く言えばメニューで悩む必要がないので簡単、ということでもあるのですが。

 ところで。

 それはそうと、触れずにはいられない点がひとつ。

 

「随分とまた、なんというか……お楽しみだったみたいですね」

「ん?」

「お怪我などはされていませんか?」

「大丈夫よ」

 

 山を歩いたと聞いて、人間が素直に思い浮かべるようなのんびりとした山歩きではなかったご様子。

 適した表現があるとすれば、やんちゃというか、わんぱくというか。危うく、泥んこあそびでもされたのですかと言いかけました。少なくとも、舗装された登山道のようなところを歩かれたわけではないことは確かなようです。もはや道ですらないかも知れません。

 過去にとある方から貰ったという耳隠しのためのフードがついた高価そうなロングコートは、破れてこそいないものの見るかげもなく汚れてしまっています。もちろんと言うかなんと言うか、ご本人がそれを気に留めている様子はありません。

 貰った服を大切にしていないわけではなく、そもそも『服を汚してはいけない』という思考を持ちあわせていらっしゃらないみたいです。まあ、狼ですから。

 近頃では私も慣れつつありますが、最初は卒倒しそうになりました。

 

 ひとまず服は全部脱いで頂いて、クリーニングへ。

 

「さてと……それでは、お風呂にしましょうか。もうご用意ができていますよ」

「えぇ~……」

「大丈夫ですよ、シャワーだけにしますから」

「本当?」

 

 汚れて帰ってくる割にお風呂は嫌いというのが、なんというか『らしい』なと感じます。

 汚れることとお風呂に入ることが結びついていないので『汚れたらお風呂に入る』という発想がないというか、むしろそもそも汚れたとすら思っていない可能性があるんですよね。

 それに加えてムームさまの場合はしっかりと理由つきでお風呂が嫌いなので、お風呂前の押し問答も恒例になってきました。

 まず大前提として、ムームさまは泳げないので浴槽がお嫌い。そして野良生活が長かったことも相まってお湯に浸かる習慣というものが一切ありませんでしたので、熱いお湯も苦手。だから、熱すぎない温度のシャワーでお身体を洗って差し上げないといけません。

 わがまま、というほどのことではないかと思います。ムームさまは外見こそ大人ですが、実年齢は10歳前後。あのナーナさまよりも年下なのです。あの。

 内面も大人びているように感じますが、それは野良生活のなかで習得した『人間のフリ』というある種の擬態によるところが大きく、実際は年齢相応の幼い女の子なのです。

 身体は大人、頭脳は大人っぽい子供。と言うかそもそも狼ですし。

 お風呂が苦手な子も居ますよね、という程度のことだと思っています。

 

 さて、ムームさまがお風呂を嫌う理由はもうひとつあるのですが、そちらに関しては気にしなくても大丈夫かと。

 何故か、というと。

 

 先に裸になったムームさまが、一緒にお風呂に入るために服を脱ぐ私の一部分とご自身の同じ場所を見比べながら言いました。

 

「ねぇ、零」

「はい?」

「零も、生えてないのよね」

「うふふ、そうですね。私は脱毛していますから」

「脱毛……!?」

 

 脱毛したと言うか、させられたと言うか。まあ、それは置いておいて。

 ムームさまはご自身の大切な場所が『つるつる』であることにコンプレックスを抱えていらっしゃるので、人前で裸になることを嫌がります。なのでムームさまにお風呂に入って頂く際は、この点も本来であれば難関となります。

 ただ、私に関してはそういうことなので比較的素直に裸になって頂けるというわけです。あまり凝視されるとさすがに恥ずかしいですが。

 

「なっ、なんで脱毛なんかしてるの……?」

「うーん、お洒落のためですかねぇ」

「お洒落……なの……?」

 

 嘘は言っていません。広い意味では。

 あまり赤裸々にご説明するようなことでもないので、お洒落という一言で済ませるのが丁度よいかと思いそのように申しあげたのですが、何気なく使ったその『脱毛』『お洒落』というワードがムームさまの琴線に触れたらしく、お身体を洗って差しあげている間もずっと気にされていました。

 

「でもっ、でもっ、そこを脱毛しちゃうのってお洒落になるの?」

「ううん……そう、ですねぇ……絶対にお洒落であるという断言は難しいですが、こういうお洒落もあると言うことはできます」

「う、ううん?」

「難しかったですねぇ」

「うん」

「お背中を流しますから、そっち向いてくださいね」

「うん……」

 

 ムームさまのお背中を流しながら、話の続き。

 

「これがお洒落だと思う人も居る、という言いかたなら分かりますか?」

「なんとなく……」

「ふふふ」

「じゃあ、私もお洒落?」

「そう、かも知れません」

「お姉ちゃんみたいになれる?」

「あ……」

 

 どこか不安そうな響きを含んだムームさまのお声を聞いて、ようやく気がつきました。

 どうやらムームさまは、その場所の毛の濃さに関して『濃ければ濃いほど生物として魅力的』とお考えだったようです。ライオンのたてがみとか、孔雀の羽根のようなものと考えればいいのでしょうか。あれはどちらもオスの話ですが。

 なるほど、そのような価値観をお持ちであれば、コンプレックスをこじらせてしまうのも無理はありません。ムームさまの場合、ご自身が『つるつる』なだけでなく、黒いパンツと見紛うほどの剛の者であるナーナさまを姉に持ってしまっているのですから。比べてしまって落ち込んだりすることも、きっとあるのでしょう。

 ですから、ムームさまのコンプレックスは『お姉ちゃんは可愛い、自分は可愛くない』という思考に繋がってしまっていたのだと思います。

 そういうことであれば脱毛という行為は奇異に映るでしょうし、さらにそれがお洒落のためだと言われたら理解も及ばないかと思います。

 そしてそれが、コンプレックス解消の糸口かも知れないと感じることもあるでしょう。

 

「そんな心配をされなくても、ムームさまは十分可愛いですよ」

「か、か、か、可愛い!?」

 

 私が『可愛い』と言った途端、瞬間的に真っ赤になったムームさまがそのお顔を両手で覆いました。

 ポーッという音が聞こえるようでした。

 赤面のポーではなく、蒸気機関車のポー。それほどまでに、ムームさまは分かりやすくお顔を真っ赤にされました。

 可愛いと言われることに耐性がないようです。

 

 きゅーーーん。

 

 これは、可愛い。

 ありがとうございます。

 非常にたすかります。

 危うく取り乱しそうになりましたが、ここは落ちついて。

 

「いいですか、ムームさま。女の子の可愛さとか魅力というものは、その……そこの濃さだけで決まるものではないのですよ」

「そう……なの……?」

「ええ」

 

 やっぱり。

 ムームさまは、そうお考えだったようです。

 

「例えばお耳の形、尻尾の毛並み、狩りの腕前など……そういった沢山の要素を総合した結果として、魅力というものは決まるのだと思います」

「わっ、私、狩りなら得意!」

「うふふ、素敵ですね。でも、それよりももっと簡単なお話があるのです」

「なに?」

「どんなことよりも簡単で大切なことですよ。難しく考えず、要するに可愛いと言ってくれる人が居ればそれだけでもう、その子は可愛いんです」

 

 ムームさまが目を丸くして、ほ、と息を吐きました。

 目からうろこが落ちた瞬間のお顔。

 もしかして、感情が顔に出やすいタイプなんでしょうか。私もあまり人のことは言えませんが。

 ともあれ、少し強引ですが『可愛い』の定義についてお話しました。あまり難しい話にしてもムームさまが混乱してしまうので、簡単に。簡潔に。

 可愛いと言ってくれる人が居れば、その子は可愛い。それでいいと思います。

 

 ですので、次にムームさまが気にされることといえばひとつ。

 

「じゃ、じゃあ、私は……?」

「うふふ、先ほども言いましたけれど、ムームさまはとっても可愛いですよ」

「はわわぁ~~!」

 

 あーーー、あかん。

 待って、むり。しんどい。可ッッ愛い。

 反則です。最高です。ありがとうございます。

 才能がないと『はわわ』は出ません。

 

 ああ、いいことを思いつきました。

 ムームさまはお洒落にも興味がおありのようですから、私の手持ちの服を貸して差し上げるというのはどうでしょう。ちょうどいつもの服はお洗濯中ですし、なにか着るものはあったほうがいいでしょう。

 ムームさまもナーナさまと一緒で、裸のほうが落ちつくという性格の子ではありますが、服の必要性は理解していらっしゃいます。

 私と体型も近いですし、服のサイズに関しては問題ないでしょう。きっとよく似合います。私の趣味でゴシック系のものしかありませんが、ひとまずそこは仕方ありません。

 仕方ありませんとも、ええ。

 

「ちょっと、零、鼻血! 大丈夫!?」

「……はっ」

「どうしたの!?」

「い、いえ、お気になさらず……」

 

 私がムームさまのことを『ムーちゃん』と呼ぶようになるまで。

 あるいは、ムームさまが私のことを『ママ』と呼ぶようになるまで。

 あと、数日。




昼はナーナのお世話、夜はムームのお世話。
そんな生活を私もしてみたい。

余談ですが話数が3の倍数だとムーム回、7の倍数だと飼い主回という法則があります。

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