狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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夜にお散歩をします
新キャラも出ます
かわいいですね

今さらですがキャラクターの名前は全部数字モチーフです


ナーナさんぽ(夜の部)

 ナーナにスカートを穿かせ、いつものシャツの上に白いダッフルコートを羽織らせて夜の公園へ。帽子と違って風で飛んだりしないので、フードつきのコートは耳隠しに便利。

 早く公園に行きたくて仕方ないナーナがそわそわしながら、小走りになって私の少し前に出ては振り返ってを繰り返しているけれど、私は大きめのキャリーケースを引いているのであまり速くは走れない。

 何度か『ナーナがもつ?』と聞かれたけれど、それは丁重にお断りした。お気持ちだけでけっこうでーす。

 確かにキャリーケースをナーナに引っ張らせるという手もあるにはあるけれど、取手を掴んだ瞬間に弾丸みたいに走りだしそうな気配がある。まあそれでもいいんだけど、普通に考えてはしゃぐのは公園についてからにすればいいんだから、道中はゆっくりでいい。危ないし。

 まあ、ナーナのテンションが高いのは仕方ない。

 ナーナがお散歩が大好きっ子なのはもちろんのこと、元来ナーナ(というか狼)は夜行性なので何をするにも夜のほうが適している。だから夜のお散歩というのは、ナーナが最もテンションが上がるシチュエーションのひとつなのだ。隠した尻尾もスカートのしたでふりんふりんとずっと動いているのがわかる。いわば夜バフ。いい感じに仕上がっている。

 毎晩お散歩に連れていけるならそれが一番なんだろうけど、私の生活サイクル的になかなかそういうわけにもいかない。だから翌日がお休みの日なんかに、できるだけ連れ出してあげるようにしている。

 まあそれはそれで『夜にお散歩する日』と『しない日』に分かれるから、それによってたまの夜散歩がより楽しく感じられる効果になってくれている、はず。そうだったらいいな。

 少なくとも、私にとっては日常のちょっとした刺激になっている。

 同じ散歩コースの景色でも、昼と夜では雰囲気が全然違うものだ。日中は人通りがそれなりにある道も、夜になると閑散としていて街灯のあかりが点々と伸びているだけになる。たまーにジョギングの人とすれ違う程度。

 道は暗くなり、人が減り、音も減る。だから感覚が研ぎ澄まされるというか、日頃はなんとも思わないような小さい変化のひとつひとつにも気がまわるようになる。自分が踏んだ葉っぱの音にも『ああ葉っぱを踏んだなあ』と思うようになる。まあ、思うだけで何もしないけど。

 そんなことを考えながら、私たちを追い越していったピザ屋さんのバイクを見送り、遠くで鳴りひびく消防車だか救急車だかのサイレンの音に耳を傾けた。こんな時間にご苦労さまです。

 とまあ私がこんな感じで呑気にちんたら歩いている間も、ナーナは小走りになって振り返ってを何度も繰り返している。

 ナーナには、やりたいことが沢山あるのだ。

 私と違ってモタモタする理由など一切ない。

 

「ナーナ、公園についたら何がしたい?」

「うんち」

「おっ……おおん」

 

 これはいけない。

 事情が変わった。

 

「公園まで我慢できる?」

「かろうじて!」

「難しい言葉知ってるなあ」

 

 少し、走った。

 

 

 公園に到着して公衆トイレでうんちを済ませたのち、さっそく外周のジョギングコースをひとっ走りして帰ってきたナーナを取っつかまえた。放っておくと二周も三周もしてしまうので。

 とりあえず、ペットボトルのお水を飲ませて一息。

 

「うんちーうんちーうんちっちー、うんちがありますよー」

「うんちがありますねー」

 

 テンションをもて余して、ご機嫌でお尻をふりふりしながら謎の酷い歌(即興)を口ずさむナーナに合わせて私も歌いつつ、キャリーケースをあけて中身を漁る。

 ナーナが描いた絵、ナーナ愛用のクレヨン、お絵描き帳、絵本、ドッグフード、食器類、あと私の最低限の着替え、などなど。それらをかき分けて取りだしたのは、正式名称フライングディスク。

 フリスビ○は登録商標です。

 

 取りだしたディスクを見て、ナーナが目を輝かせた。

 

 ナーナのことはできるだけ人間と同じように扱ってあげたいと思っているし、ナーナも犬扱いされることを嫌う子なので、そんな二人でディスク投げに興じるのはどうなのかという葛藤は一応ある。

 でもまあ、ナーナが楽しいならオッケーですということで。

 

「これやる?」

「やるやるー!」

 

 まさにふたつ返事。気持ちがいい。

 さっそく振りかぶってディスクをぶん投げると、ナーナはそれを追いかけて弾かれたように走りだした。

 お散歩の圏内に、広い公園があってよかった。生半可な勢いでディスクを投げてもナーナはすぐに追いついてしまってあまり楽しんでくれないので、思いっきり投げられる環境があるのはとても助かる。

 

 別に意外でもなんでもない話だけど、ナーナは身体を動かすことが大好きだ。そしてもちろん、それ相応の身体能力も持っている。

 公園の外周を全力で一周しても息切れひとつしないどころか、変な歌をうたう余裕があるほど。走れば速いし、持久力もあり、びっくりするほど高く跳ぶ。

 

 ナーナのジャンプはとにかく高い。

 足の裏にスプリングでも仕込んでいるのか、それとも二段ジャンプや空中ダッシュでも使えるのか、そう錯覚するほどナーナのジャンプは人間の常識では考えられない滞空時間を誇る。

 目立つのであまりやらないでほしいけど、ぴょーんと跳んでジャングルジムのてっぺんに乗ったりすることもある。恩納さんが天井に逃げても捕まるわけだ。

 とにかく純粋に脚力が高くて、ナーナ自身もそれを自覚している様子。

 そう言えばムームと喧嘩した時も脚を使ってたっけ。

 

 ほどなくして、ナーナは飛んでいるディスクに追いついて見事に空中でキャッチして戻ってきた。キャッチする時、ディスクよりも高く跳んだように見えたのは、たぶん気のせいではない。

 戻ってきたナーナの頭を撫でて、誉めてあげて、おやつのビーフジャーキーを一切れ。

 ナーナが喜ぶからそうしているだけで、犬扱いはしていない。断じて。たぶん、きっと。

 

 それから暫くのあいだ、同じようにディスクを投げてはナーナがキャッチして戻ってきてを繰り返していると、ナーナが別のものを持って帰ってきた。

 ものというか、人。

 

「かっちゃんいたよー」

「かっちゃん? ああ、勝さん?」

 

 ディスクが飛んでいった先に居たらしい。

 ナーナに連れられて、手にコンビニ袋を提げた勝さんが気だるそうに歩いてくる。ああ、あの感じは絶対寝起きだ。そして袋の中身はたぶんお酒とタバコだ。

 そしてもう一人、勝さんの隣には見覚えのある真っ白なシルエットが。

 

「あーーーっ!!」

 

 こちらを指さして叫ぶ兎さん。

 

「先生、あたしこいつ嫌い!!」

「わかる~」

「えぇ……」

 

 わかられてしまった。悲しい。

 先日、勝さんのところに運んで以来だ。あれから居着いているらしい。

 身体に関しては、検査した結果どこにも異常はなかったそうで、そこは何より。

 

 うーん。

 嫌いって言われた。

 

 お名前はミーサちゃんだそうです。

 真っ赤な目、白い肌に、白い髪。髪はナーナと同じくらいの毛量がありつつ、背丈が小柄なのでなんだか余計にボリュームがあるように見える。そして長身の勝さんの隣に居るせいか、余計に小さく見える。

 服は勝さんから貰ったのものらしきダボダボの白いニットのセーターをワンピースのように着ていて、そこからむっちりとした白い生脚が伸びている。

 トレードマーク(?)の長い耳は『USA』と書かれたキャップで隠しているものの、もちろんそれでは収まりきらずキャップの外にたれている。まあ、事情を知らなければそういうデザインの帽子に見えないこともない。

 

 ナーナは興味津々でミーサちゃんの匂いを嗅ごうと追いかけまわしていて、ミーサちゃんはそれを嫌がって逃げまわり、二人して勝さんの周りをぐるぐる回っている。なんだこれ。

 真ん中で立ってるだけの勝さんはなぜか満更でもなさそう。

 

「ナーナ、戻っておいで」

「はあい」

「ごめんねぇ、ミーサちゃん」

「むうぅ~……」

 

 ナーナは怖くないんだよ、とミーサちゃんに教えてあげたいけど兎さんからしたら狼に追いかけられて怖がるなと言われても難しいだろう。『嫌いなやつ』と『狼』のコンビは、ちょっとミーサちゃんにとっては心象が悪いかも知れない。

 ミーサちゃんはこちらを睨んで唸りながら、勝さんの後ろに隠れてしまった。

 

「奇遇ねー、アンタたちも散歩?」

「ええ。ナーナが夜行性なので、私の都合がいい日はできるだけ夜に連れだしてあげてるんです。『アンタたちも』ということは、そちらもお散歩で?」

「まあね。この子が大福食べたいっていうから、散歩がてらそこのコンビニで買いものしてたのよ」

「そうなのよ!」

「ああ……そうなんですね。じゃあ、その袋の中身は大福ですか」

「それと、ビールとタバコ」

「はい」

 

 だいたい想像通りだった。

 っていうか、大福なんて食べるんだ。へぇ。

 曲がりなりにもお医者さんのもとでの食生活だし、悪いようにはならないだろうと思っておく。心なしか、先日運んだ時よりも一回りむっちり感が増している気がするけど。むっちりというか、みっちりというか、もっちりというか。

 ちょっとくらいなら、ふとましいほうが健康的ということかも知れない。もしくは単に勝さんの好みか。

 まあ楽しく暮らせてはいるようで、そこは何より。

 しかし、この二人がコンビニでお買いものとは。事情を知らない店員さんからしたらどんな二人に見えただろうか。

 異次元レベルの長身美人と、真っ白なちっちゃい子。絶妙に親子っぽくもないし。

 まあ、仮に事情を知ったとしてもその実態は『闇医者と兎』なので、余計に訳がわからなくなるだけなんだけど。属性欲張りすぎ問題。

 

 それから。

 ナーナがミーサちゃんにちょっかいを出したくてそわそわしているとか、そのせいでミーサちゃんが怖がっているとか、ミーサちゃんが早く帰って大福を食べたいとか、あとは私が嫌われているとかの色々な事情を加味して、手短に雑談を切り上げてその場はお別れ。

 なんとなく勝さんの機嫌のベースがいいというか、前回会った時よりも雰囲気が優しくなっている気がした。

 アニマルセラピーという言葉が頭に浮かんだのは内緒。

 

「みーちゃんかわいかったねー」

「ねー」

 

 そして、我々はディスク投げを再開。

 まだまだナーナの体力は有りあまっているのだ。

 ディスク投げに飽きたらまたジョギングコースを全力疾走し始めるだろうし、それも何周かすればまたディスクを投げろとせがんでくる。気が済めば今度は遊具であそび始める。『そろそろ帰ろうか』なんて言っても素直に聞いてくれる可能性は限りなくゼロに近い。その際の攻防もまた様式美だ。

 まあ夜のお散歩は時々しかできないのだから、存分に暴れて頂ければと思う。全力でお散歩をエンジョイするのも、ナーナの大切な仕事なのだから。

 たっぷり汗をかくので帰ったらお風呂に入れてあげないとなあ、などと考えながらペットボトルのお水を一口のんだ。

 

 うーん。

 嫌いって言われた。




ナーナの即興ソングは適当なメロディを付けたしてお楽しみください

少し過ぎてしまいましたが5/24がナーナのお誕生日でした
よかったらお祝いしてあげてくださいね
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