狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

2 / 30
ナーナと一緒に朝ごはん。
お散歩の相談もしないとね。
そんなお話。よかったら読んでみてね。

感想もお待ちしています。


ナーナごはん

 我が家には、狼が住んでいる。

 名前はナーナ。

 

 とは言うものの。

 本来の言い回しとしては、たぶん『我が家では狼を飼っている』とかのほうが正しいんだろう。でもナーナとの暮らしはどうにも『飼っている』という表現だけでは語れないことも多いので、そのように表現することには若干の抵抗を感じている。だから自然と、こういう言い回しになってしまう。我が家には、狼が住んでいる。

 これはよく、考えごとの種になる。ナーナはペットか、それとも家族か。

 ペットのことを家族と呼ぶ人も居るけれど、ああいう感覚ともたぶん違う。あれはまず『うちの子はペットである』という大前提があって、そのうえで敢えて『家族』と呼ぶという、しっかりとした順序があるものだと思う。違ってたらごめんなさい。

 ともあれ。うちのナーナに関してはそういう感覚とは違って、単純にどっちだか分からないのだ。狼のようでもあるし人間のようでもあるから、ペットと呼ぶべきか家族と呼ぶべきかが分からない。ただちに確定的なことを判断するのは、極めて難しい状況と言える。

 

 などと今日もぐるぐると考えつつ、まあそうは言ってもどちらかと言えばそりゃ家族だよなあ、という方向に思考を傾けながら朝ごはんの用意をしている。

 でも次の瞬間、お皿に流しこむドッグフードのジャラジャラという音を聞きつけてすっ飛んでくるナーナを見て、やっぱりペットかも知れないという方向に思考が揺らぐ。うーん、まっしぐら。今の今までテレビの教育番組の体操を真似っこするのに夢中になっていたというのに。

 結局こうやって色々と考えはするものの、ばたばたと暮らしているうちに『まあいいか』となる。そんな毎日。

 

「牛乳! 牛乳のやつにして!」

「はいはい、牛乳のやつね」

 

 お皿のドッグフードに、先に冷蔵庫から出して常温にしておいた牛乳を注ぐ。ナーナは目をキラキラさせながらそれを見守る。

 牛乳を注いだことで、ドッグフードはちょうど人間が食べるシリアル食品のような見た目になった。これがいわゆる『牛乳のやつ』で、ナーナの好物のひとつだ。

 この子はあくまでも狼で、犬扱いされると怒る子なのだけど、色々と調べてみたところ健康管理の目的で狼にドッグフードを食べさせるというのはよくあることらしい。動物園の話だけど。

 まあ、それを参考にしてうちでも食べさせてみたら、普通に気に入ってくれた。

 ただ、この食べものがドッグフードという名前であるという事実は一応伏せてある。

 スプーンを握りしめてテーブルでそわそわしているナーナの前に『牛乳のやつ』を置き、私も同じように自分用のコーンフレークに牛乳を注いでテーブルに置いた。

 これが今日の朝ごはん。

 

「いただきます」

「いただきまーす!!」

 

 器用にと言うべきか不器用にと言うべきか、スプーンをグーで握ったまま食事をするナーナ。どう見ても食べづらそうだけど、本人は満足げに一口一口頷きながら食べているのでよしとする。

 味や食感が好みなのもあるとは思うけど、それ以上に道具(スプーン)を使って食事をしたり、私が同じものを食べていたりすることがナーナ的に満足度が高いらしい。楽しそうで何より。

 

「おいしいねー」

「ふふふ、ねー」

 

 まあ、あまりしょっちゅう食べさせるとお腹を壊すので、頻度は適宜になるけれど。

 

「今日はお休みの日?」

「そう、お休みの日」

「やったー!! お散歩いく!?」

「行く行く」

「もうスカートはく!?」

「ご飯が終わってからでいいよ」

「はーい!!」

 

 大興奮で立ち上がりスカートを取りに走ろうとしたナーナを座らせて、ご飯の続き。

 この子は狼だからかどうにも服を着るのが嫌いで、すっぽんぽんのほうが落ち着くという難儀な性格をしている。しかしそれでは私が目のやり場に困るので、家のなかではどうにかこうにかワイシャツ一枚を着させることで対策している。でもお散歩、すなわち外出となればワイシャツ一枚では困る。だって下は丸出しなのだから。

 下の毛がとても濃い子なので目を逸らしていれば黒いパンツに見えないこともないけれど、たとえ黒いパンツだとしても、そんな格好で外出させる訳にはいかない。色々とアウトだ。だからお散歩の際は黒いロングスカートを穿かせている。

 初めてスカートを穿かせた時は、意外にもワイシャツを着させた時ほどの苦戦はなかった。ナーナとしても『お散歩に行ける』というリターンはスカートを穿いてでも享受したいものなのだろう。最近では自分から穿いてくれるようになった。締め付けの問題なのか、パンツはどう頑張っても無理だったけど。

 

 散歩と聞いてスカートを穿こうとするナーナは、まるで自分からリードを咥えてきて散歩に備える犬のようだと思ったりもする。

 でもまあ、人間のようだとか犬もとい狼のようだとか、結局は考えるだけ野暮なことかも知れない。ナーナはナーナだ。人間のようでもあり、狼のようでもある。ペットのようでもあり、家族のようでもある。全部持っているのがナーナなのだ。

 結局こうして今日も『まあいいか』に着地する。

 

「お散歩はどこに行きたい?」

「えっとねー、公園とーお肉屋さんとー」

「お肉屋さんか。それじゃ、ジャーキーも買う?」

「いいの?」

「いいよ」

「やったー!!」

 

 また立ち上がって小躍りを始めたナーナを座らせる。やれやれ。

 我が家は特に裕福という訳ではないし、一人暮らしをしていた頃に比べて稼ぎが増えた訳でもない。それにナーナがうちに来てからは出費が増えたはずなのに、不思議と生活には余裕が生まれた。ナーナのおやつも全然買える。

 一人扶持は食えないが二人扶持は食える、という言葉がある。今の生活はまさにそれ。

 うーん。

 私たちの場合は『二人』なのか、それとも『一人と一匹』なのか。どっちなんだろう。

 

 まあ、いいか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。