狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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3の倍数はムーム回。
7の倍数は飼い主回。
今回は21話目なので両方のお話をします。


飼いムがわり

 ナーナとムーム、略してナナムム。

 ナナムム、ひっぱり紐対決。

 

「開始めぃッッ」

 

 私の号令にあわせて、ふたりが両端を咥えたぶっとい紐がビンッと音をたてて一直線に張った。

 

 説明しよう。

 ひっぱり紐とは、ひっぱるための紐である。

 

 本来は犬(ナナムムは狼だけど)と飼い主とのコミュニケーションツールというかオモチャのひとつで、紐の一方を飼い主が持って、もう一方を犬が咥えてひっぱりあうというもの。

 ひっぱりあったから何なんだというと、闘争本能を刺激されて楽しいのだ。犬が。

 投げたボールを拾いに行かせるやーつ(正式名称不明)でも、それを咥えて戻ってきた犬がなかなかボールを離してくれなくて二投目にいけない、なんてことがよく起こる。ナーナもたまにやる。あれは犬がボールを使って飼い主とのひっぱりあいを楽しんでいるため。らしい。

 だから見方を変えれば、テンションが上がっちゃって走り回るのをやめない子にとりあえず立ち止まってほしい時などには使える。

 広いスペースを必要としないので、雨で散歩に行けない日の屋内遊びなどにも適している。

 もちろん、そういう目的とか関係なく普通に引っ張るために引っ張ってもいい。楽しいので。

 まあ、なんでもかんでも引っ張る子に育ってしまわないように注意しないといけないけど、そこさえ気をつければひっぱりあいは犬を遊ばせるのにとても効果的なのだ。

 なのだけど。

 残念ながら私と現在のナーナでは力に差がありすぎて、ひっぱり『あい』にならない。ナーナが本気で引っ張ったら、私なんか紐ごと投げ飛ばされてしまう。

 ひっぱりあいならぬ、ひっぱりなげとばし。

 

 そこで、ムームの出番。

 

 ナーナとひっぱりあいができるのは、ムームをおいて他にいない。

 まあムームでさえ純粋な力較べではナーナには敵わないものの、少なくとも投げ飛ばされるようなことはない。

 なので今日はムームに来てもらって、ナーナとのひっぱりあいを楽しんでもらうことに。

 こうしてみるとワンプロ(犬同士のプロレスのような激しめのじゃれあい)の延長という見方もできる。まあ適度に闘争本能が刺激されて楽しいという点では似たようなものかも知れない。

 

「ふーーっ、フゥーーー!!」

「ううゥ、グルル……!!」

 

 適度にね。

 ふたりとも目が血走ってるけど。

 

 それにしても。

 変わったなあ、という妙な感慨がわく。

 以前までムームは完全な野良だったので、渡したいものがあったりナーナが会いたがったりなどの用事があったとしても連絡手段がなく、ふらっと遊びにくるのを待つ以外になかった。

 最近は色々あって恩納さんが保護を申し出てくれたお陰で定期的に恩納さんのところに帰るようになったらしく、間接的ではあるものの以前よりこまめな連絡が可能になった。『連絡が可能になった』というのは、とても大きな変化だ。

 こうして、こちらから呼んで遊びにきてもらうなんてこともできるようになったのだから。

 変化といえば、もうひとつ。

 恩納さんに連れられて現れた今日のムームは、いつもの動きやすそうなタンクトップにジーンズ姿ではなく、恩納さんみたいなゴシック風のワンピースを着ていた。若干、恩納さんが着ているものよりもフリルが多めで可愛い系のデザインに見える。

 恩納さんが趣味で無理に着させたものかと思ったら意外にもムーム自身も気に入っているというか、むしろ自慢げにすら見えたのがすごく意外だった。

 ムームは『服の趣味』などという概念は持ちあわせていないだろうし、なんならナーナと一緒で本来なら全裸のほうが落ちつくと考えているのは変わっていないだろうから、着させられた服に対しては煩わしさを感じこそすれ自慢げにするなんて思いもよらなかった。

 そして、そんな格好でひっぱり紐を咥えている絵面は、いささかシュール。

 

「嫌がられるかなとも思ったんですが、あれはあれで、いつものジーンズの締めつけがないから動きやすいって思ってるみたいですよ」

「あぁ~……なるほど」

 

 私がムームの服装に注目していることに気付いた恩納さんが、嬉しそうに教えてくれた。

 ああ。『締めつけがない』ということは、あのワンピースの下は、そうか。そうかぁ。

 そう考えると、ナーナのワイシャツと同じくらいの着やすさがあるのかも知れない。

 

「うふふ、それに『可愛い』って言ってあげるととっても喜んでくれるんです」

 

 恩納さんとムームの間に何があったのかは定かではないけれど、楽しくやっているみたいで安心した。というか、間違いなく私よりも上手にムームと付き合っている。

 このコンビ、もしかしたらお似合いなのかも知れない。

 なんかカラーリングも似てるし。

 

 一時は私ひとりでナナムムの面倒を見ていこうとも考えていたけれど、こうしてみると恩納さんが保護を申し出てくれて本当によかったなと思う。

 私の身に何かあるなどしてギブアップする羽目になったりしたら、誰も幸せにならないのだから。

 

 というわけで。

 ひっぱりあいを楽しむナナムムを眺めながらの、恩納さんとの雑談タイム。

 

 室内をきょろきょろと見渡しながら、恩納さんは何か言いたそうにしている。

 

「……全く同じ間取り、なんですねぇ」

「ええ、特に間取りを変える意味もないかなと思いましたし、変えたらナーナも混乱するでしょうから」

「それは……そう言われると、そうかも知れませんけれど」

 

 まあ、分からないでもない。

 引っ越した知人の家に入ってみたら前の家と全く同じ間取りで家財道具などの配置も変わっていないとなれば、奇妙な感覚にもなるだろう。

 その理由はいま話した通り。

 違う間取りの家よりは、同じ間取りの家に移るほうがあらゆる面で(特にナーナが)混乱しないだろうというのが私の考え。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 そう、ここは新居。

 私とナーナは先日、お引っ越しをした。

 キャリーケースを引っ張って夜中のお散歩に出掛けた、あの日のことだ。

 

 まあ新居というよりは、あらかじめ建てておいたスペアの家とでも表現したほうが正しいか。

 

「最近物騒ですからね」

「ああ、はい……それは確かに」

 

 どうにも最近、命を狙われる機会が増えてしまった。

 元々『たまにはそんなこともある』という程度には命を狙われたり狙われなかったりしていたのだけど、最近は特に増えた。

 原因は分かっている。恩納さんとお仕事探しの一環で一緒に出掛けた時に知ったのだけど、どうやら匿名で私の首に多額の懸賞金(?)をかけた人物が現れたようなのだ。しかも複数人。それはつまり、私一人の首を取るだけで複数の懸賞金を一括でいただける状態になっているということ。そこに気が付いた一攫千金狙いの方々がひっきりなしに襲撃してくるようになった。

 前に住んでいた家の場所も特定されてしまい、何者かが侵入を試みているところを捕まえて、お話を伺って、お引き取り願うというような一幕が発生したことも実は一度や二度ではない。三度でも四度でもない。

 もう面倒くさいので、悪意をもった侵入者が選ぶであろうルートを割り出してそこに罠を仕掛けることで当面は凌いでいたのだけど、ある時そこにミーサちゃんが引っ掛かってしまった。

 それに関しては、そのあと『お話を伺って』いた際に失神してしまったので仕方なく勝さんのところに運んで、現在に至る。まあ先日見かけた時は元気そうだったので、そこは一安心。

 嫌いって言われたけど。

 

 さておき。

 そんなこともありつつ、いい加減ナーナにまで危険が及びそうな気がしてきたので引っ越しを決めたというわけ。

 まあ、こんなこともあろうかと建てておいたスペアの家に移っただけなので、引っ越しというほど大掛かりな感覚はない。

 運んだ家財も結局キャリーケースに収まる量だったし。

 それに中に入れば引っ越し前と変わらない間取りなのだし、引っ越しというよりは『移動』とでもいったほうがしっくりくるかも知れない。

 

「突然、お引っ越しされると連絡をいただいた時はびっくりしました」

「いやあ、すみません」

「それで……まさかとは思うのですが、元のお宅が燃えたのって……」

「あ、それは自分でやりました」

「……ですよね」

 

 端的に言えばカムフラージュのため。

 移動に至った経緯を考えるなら、元の家は残しておくより派手に焼失でもしたほうが情報の錯綜を誘えるだろうなという考え。

 もちろん、あちこちにナーナとの思い出が沢山こびりついた家を焼き払うということに対する抵抗感はあった。移動先の家が元の家と同じ間取りだったとしても、壁のシミや傷や落書きまで同じというわけにはいかない。

 

 ただ、こういう時は思いきりが大切。

 思い出はまた作ればいいので。

 

 家を燃やすにあたってあらかじめ恩納さんに連絡をしたのは、もちろん礼儀というかご挨拶としての意味もありつつ、万が一火事に巻き込んでしまったら申し訳ないから。

 彼女は私の知らない間に家のなかに居ることがたびたびあるので、可能性がないとは言いきれない。

 そんな感じのことを話したら、恩納さんは『ほぅん』みたいななんともいえない声を漏らした。

 

 そんな話をしていたら。

 ブチブチという変な音が聞こえて、満足したような顔をしたナナムムが二人して寄ってきた。ナーナは私に、ムームは恩納さんに。

 音がしたほうを見ると、引きちぎられたひっぱり紐が無惨な姿で横たわっている。

 うーん。

 大型犬用のひっぱり紐を三本たばねて作った極太の特別製だったんだけど、それでも二人の力には耐えきれなかったみたい。

 

「ムーちゃん強いわね~」

「ふん、まあね」

 

 ムームを撫でくりまわす恩納さんと、普段通りぶっきらぼうに見えて尻尾をバッサバッサ振っているムームを眺めながら、私もナーナのほっぺをもにもにと揉んだり撫でたりした。

 

「ナーナも強かったねぇ」

「むへへへ~」

 

 はい可愛い。

 このあとは四人で散歩にでも出掛けようかなーなんて考えている。お引っ越ししたばかりなので、周辺の散策というか、確認というか、偵察もしたいし。

 

 希望的観測も込みではあるけれど、当分は襲撃などもない平和な日々が続く見通し。まあもし続かなかったとしても、それは私だけの範囲に止めてみせる。

 私の首に懸賞金をかけた面々の目星もある程度ついてきたので、そのうち直接会いにいって懸賞金を取り下げてもらえるように交渉しようと思う。そもそも、そこさえ絶ってしまえば襲撃される心配もないのだから。

 でもまあ、それはまた別の話。

 

 この子たちが何事もなく平和に暮らすためなら、できることは何でもやろう。

 そのための労力は惜しまない。

 

 スペアの家もまだいくつかあるし。




飼い主ってこういうところあるよねと。

別件でお話を一本書くので次回はこれまでよりも遅くなります、申し訳ありません。
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