狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

22 / 30
意外に一ヶ月以内に書けてしまいました

「話数が7の倍数なら飼い主回」という法則からはズレてしまいますが飼い主回です
新キャラ出ます


飼い主あばれ

☆飼い主あばれ

 警察署。

 

 署長室。

 

 ノック。

 

 がちゃり。

 

「こんにちは、署長さん。私を標的にして出した暗殺依頼を取り下げていただけません?」

「早くないか?」

 

 入室とほぼ同時。

 ドアノブから手を離すよりも先に、第一声で単刀直入に申し上げた私に対する署長さんの返答には、なんだかツッコミ的なキレがあった。

 

「えっ?」

「『えっ?』じゃないよ。いや……わかる、わかるよ? きみが人と話す時、さっさと本題に入る性分なのはわかるんだが、それにしたってという話だ。世の中には社交辞令というものがあるだろう」

「はあ」

 

 なんとなく、怒られている気がする。

 なんとなくだけど。

 

「社交辞令のほうがまだ喋ることがあるよ。いきなり、その……なんだ、身に覚えのない暗殺依頼の話などされても困る」

「違うんですか?」

「……なんのことだか、わからんね」

 

 わからん、らしい。

 

 暗殺依頼というのは、とある『お仕事紹介』の場所でのこと。

 その場所では匿名での暗殺依頼(と報酬)が書かれた紙が壁に貼り出されていて、そのなかから自分に合ったものを受注するという形式で『お仕事紹介』がされている。

 最近そこに、私を標的にした暗殺依頼が出されたのだ。しかも複数。

 つまり、それらを全部受注して私の首をとるだけで複数の報酬をがっぽりと頂ける状態になっているということ。そこに気が付いた一攫千金狙いの方々がひっきりなしに襲撃してくるようになってしまい、とても困っている。お陰で引っ越しも余儀なくされた。

 だから私はその暗殺依頼を出した人たちを特定して、取り下げていただけるようお願いして回っているというわけ。

 

 そのなかの一人がこの署長さん、のはず。

 

「というか、どうやってここまで入って来た? 建造物侵入の現行犯で引っぱるぞ?」

「あ、それでしたら署内に置いてある花瓶のお花の入れ替えの業者ということにしてお邪魔させていただきました。もちろん、その入れ替え作業もきちんと済ませてきましたよ」

「ううむ、それは……小賢しいことを」

「まあ、侵入経路なんてどうにでもなりますけどね。人によっては、身体の関節を外して通気口から出入りするなんてこともできますし」

「そんな人間が居てたまるか」

 

 居るもん。

 まあ私も最初は同じ感想だったけど。

 

 それはそれとして、話が逸れそうだったので本題に戻す。

 

「で、今日は暗殺依頼を取り下げていただきたくて、そのためのお願いに来たんですが……」

「最初にも言ったが何のことだか全くわからんな……いや、全くというのは違うか」

 

 咳払いをひとつして、署長さんは渋々語りはじめた。

 

「不本意ながら、我々が捕まえることができない『犯罪者ではない悪人』は存在する。そして、そういった連中を標的にした暗殺を依頼する場があることも把握している。だが、あそこに出される依頼は全て匿名だろう? きみを標的にした依頼があったとして、それが私からのものだという証拠もない」

「まあ……証拠がないというか、なさすぎるというか……」

 

 署長さんは、当たり前なのかもしれないけど、とても正義感が強い人だ。あまり物事を深く考えずに生きている私なんかがドン引きするほど正義感が強い。

 それ自体はとても素敵なことなのだけど、どうにもご自身の正義を信ずるあまり感情が暴走気味になってしまうことがある。正義感が強すぎるからこそ法では裁けない、彼が言うところの『犯罪者ではない悪人』の存在が許せなくなることがたびたびある。

 

 そんな時、どうするのかというと、あの場所に暗殺依頼を出すのだ。

 

 署長さんは、あの場所の常連といっても過言ではない。彼があの場所のことを把握しているというのは、警察としてではなく個人としての意味あいも含まれていると思う。

 警察としてあの場所を潰そうとしないのは、きっと暗殺という形でしか遂げられない正義もあると考えているから。そして自分も使うから。

 存在が許せなくなったら暗殺。回答としてはある意味一番簡単というか、理にかなっている。

 ただ、当たり前だけどそれが誉められた行いではないという自覚はあるようで(もちろん立場上の理由もあるだろうけど)署長さんは、ご自身があの場所を使った証拠を徹底的に消す癖がある。

 まあ誰だってあんな場所を使ったら、証拠を隠したり消したりしたがるものではある。でも、警察署長がやる『徹底的』はレベルが違う。証拠不十分というものがどれだけ厄介か、身に染みてわかっているからこそ。だから『証拠がなさすぎる』のだ。

 もちろん証拠不十分なのだから指摘したところで素直に認めてはもらえないだろうけど、証拠がないのが証拠ということになってしまう。証拠がなさすぎて逆に不自然というか『ああ誰かが徹底的に証拠を消したんだな』という部分が皮肉にも浮き彫りになる。

 そんなの、あんた以外に誰がここまでやれるんすかという話。警察署長から見て100点の証拠隠滅ができるのは警察署長だけでしょうがー、ってなもんで。

 だから私は、私を標的にして出された『依頼人の証拠がなさすぎる暗殺依頼』は署長さんからのものだとほぼ確信している。

 ただ、向こうは向こうで証拠がないのだからいくら探られても痛くも痒くもないと考えているご様子。

 

「こう言ってはなんだが、きみの暗殺を依頼しそうな者など他にいくらでも居るだろう?」

「まあ、それは……はい」

 

 やっぱり、証拠がないというのは警察からみて最強クラスの防具となるようで、署長さんの態度はちょっと強気。

 まあ暗殺依頼を複数出されていることを思えば、確かに署長さん以外にも疑わしい相手というのは居るんだけど、それは別件。

 文字通りの、別件。

 

「きみを恨んでいる人間は沢山居るし、恨みはなくとも死んでくれたほうが都合がいいと考えている人間も沢山居る」

「署長さんはどちらです?」

「…………私は、後者だ」

 

 話が逸れそうな気配を察知するたび無理矢理にでも本題に戻そうとする私に辟易した様子で、署長さんはため息混じりで答えた。

 

「……きみが関与したとしか思えない犯罪は数えきれないほどあるが、証拠がない。だからきみは、我々が定義するところの犯罪者ではない。よって、遺憾ながら現段階の我々ではきみを捕まえることができない」

 

 まさしく『犯罪者ではない悪人』である、と。

 署長さんは、私のことをそう評したいらしい。

 

「きみの存在が事件の解決に繋がることもあるから、そこに関しては感謝している。だが……きみのせいで生まれる不幸もある。私は私の正義感に基づき、それを看過することができない。このような言いかたをしてしまうのは非常に申し訳ないが……私は常々、きみが死ねばなんでもいいと思っているんだ。もちろん立場上、直接手を下すようなことはしないしできないが、きみが死ぬ確率が上がることに関しては歓迎する」

 

 歪んでいるような気もするけれど、これも正義らしい。

 暗殺を依頼しながら、証拠を消しながら、ご自身の大嫌いな『犯罪者ではない悪人』に限りなく近い存在になってでも通したい正義があるというのは立派なことだと思う。これはこれで一貫性がある。

 

「だから、もし仮に私がきみへの暗殺依頼を出していたとしたらの話だが……何を言われようが、断固として依頼は取り下げないだろうね」

「そうですか……」

 

 内容的には、ほぼほぼ自白したようなものだと思うけど、それでも厳密には自白ではない。あくまでも仮の話。もちろん署長さんだって、そのへんのラインをわかったうえで喋っている。

 そのうえで、取り下げについても暗に断られた。

 なかなかいやらしい。

 

 まあ、それくらいの感じで来てくれたほうが反撃しやすいから別にいいけど。

 

 私はポケットから、ひよこちゃんデザインのキッチンタイマーを取りだして『開始』のボタンを押した。これ可愛いから好き。

 ピッ、ピッ、ピッ、という電子音とともに10分のカウントダウンが開始。

 

「あと10分で話を終わらせましょうか」

「……なんだそれは。どういうことだ?」

「署長さん、あなたは私が死ねばなんでもいいと言いましたね。何を言われようが、断固として依頼は取り下げないとも」

「あ、ああ、確かに言ったが、それがどうした?」

「例えばですが、それは……この警察署を丸ごと吹き飛ばすほどの爆発で、署長さんと現在この署内に居る人たち全員の命を引き換えにして、道連れという形でなら私を殺せる……という状況であっても『なんでもいい』と言えますか?」

「……なんだって?」

「まあ、あくまでも例えばの話です」

 

 署長さんからは『仮の話』を聞かせていただいたので、お礼として『例えばの話』をお返しすることにした。

 ピッ、ピッ、ピッ。

 私の話の意味を、署長さんは考えているようだった。

 ピッ、ピッ、ピッ。

 カウントダウンの電子音は鳴りつづける。可愛い音だなあと私は思っているけど、果たして署長さんにはどう聞こえているのやら。

 

「いくらきみの言うことだろうが……この警察署を丸ごと吹き飛ばす爆発など、現実的ではないな。そんな爆発を起こせるサイズの爆弾を設置するスペースなどどこにもないし、あったとしても設置している間に誰かに気づかれるだろう」

「まあ、爆弾が1個ならそうでしょうね」

「……まさか」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 署長さんが何かに気がついたように、目を見開いた。

 

「きみは、さっき『署内の花瓶の入れ替えを済ませた』と言っていたな」

「ええ」

「……その花瓶はどこにある?」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 

「署内全体に、満遍なく」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 

「……おい、まさか、その花瓶というのは全部……」

「10分経ってみれば分かりますよ」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 

「ま、待て、署内全体なんて、一体何個……」

「ちょうど100個です。配置図ありますけど、使います?」

「うるさい。どのみち10分では何もできん」

「まああと6分くらいですけど」

「黙れ!!」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 

「どうします? 暗殺依頼を取り下げると宣言していただけるなら、タイマーを止めて花瓶の配置図もお渡ししますけど」

 

 ぐう、と呻いて署長さんは頭を抱えた。

 

☆辻ぼやき

 

 帰路、軽バンの車内にて。

 

「割のいいバイトっていうから来たのに、まさかこんなことをやらされるとはにゃー」

「花瓶を入れ替えるだけの簡単なお仕事ではあったじゃないですか」

「リスクが釣りあってねーのよ。それ『ぴょんぴょん跳ぶだけなら簡単じゃないですか』って鉄骨の上の人に言ってるようなもんだからね?」

 

 今日、花瓶の入れ替えを手伝ってくれて車まで出してくれたお友達が、運転席でぼやきまくっている。

 

 辻風仁(つじ ふうじん)さん。

 働くことが趣味で、いつも何かしらのアルバイトで走り回っている変なお姉さん。私は勝手に『スーパーアルバイター』と呼んでいる。

 

 髪は明るいオレンジ色のベリーショート。お洒落というよりは『短くすること』を目的にして短くしている感じで、切り揃えたり整えたりはしていないっぽい。自然体というのが一番しっくりくる。

 フチなしの丸眼鏡の奥には、ブラウンの瞳。三白眼というやつだろうか、目つきはまあまあ悪い。耳にはものすごい量のピアスをしている。

 悪い人ではないんだけど、全体的に顔が怖い。なんか歯もギザギザしてるし。

 服はツナギの上をはだけさせた黒いTシャツ姿で、そこから浅黒い腕が伸びている。ナーナみたいに地肌が黒いのとは違って屋外での仕事によって日焼けした黒さのようで、たまにTシャツの隙間から白い肌がのぞく。

 はだけさせたツナギは袖の部分を腰のところで結んでいて、下は裾を膝下まで捲りあげている。

 なんだか現代版の飛脚というか、トータルの動きやすさを追求した結果みたいな格好をしている。そんな人。

 一見して、スピードタイプって感じの見た目をしている。

 

 余談だけど、勝さんからは『ぷに子』と呼ばれている。ぷに子のぷには『風仁』の読み換え。実際は全然ぷにぷにしてないけど。

 腕も脚も細長くて身体には余分な脂肪がほとんどなく、パッと見だとただ痩せているように見えるけど実はけっこう筋肉質。

 当たり前のように腹筋も割れていて、ナナムムに負けないくらいバッキバキ。日々の労働の賜物らしい。

 

「よりによって、警察署に爆弾を仕掛けるなんてさあ……」

「仕掛けてませんよ? あれは全部、普通の花瓶です」

「えー? そうなん?」

「そうですよ」

 

 爆弾なんか仕掛けたら捕まっちゃうし。あと高いし。

 だから辻さんにお願いしたのは、本当に花瓶を入れ替えるだけの簡単なお仕事。あと送迎。

 

「爆弾だと思いながら作業してたんですか? 怖い」

「うるさ」

 

 署長さんもそう思っていたみたいだけど、私は『あくまでも例えばの話』と念押しした。

 まあなんにせよ、お陰で暗殺依頼の件を認めたうえで取り下げも宣言していただけたのでそれでよし。

 一連のやり取りも録音した。

 ご自分一人だけならまだ分からなかったかも知れないけど、さすがに無関係の人を巻き込む可能性が出てきたとなれば話は変わる。

 署長さんが正義感の強い人でよかった。

 

 これまで署長さんがあの場所を使うたび徹底的に消されつづけてきた証拠が、録音というかたちでこの手のなかにある。

 レアアイテムだ。わーい。

 

「でもさー、なんでわざわざこんな面倒くさいことやってんの? 昔なら、暗殺依頼なんか出されたって『暗殺依頼を出されたなあ』ぐらいにしか思わなかったくせに」

「平和に生きたいんで」

「すげーこと言ったわ」

 

 まあ私も、自分一人なら別に『暗殺依頼を出されたなあ』でいいんだけど、今はそういうわけにもいかないので。

 

「あー、もしかしてペット飼いはじめたから?」

「まあ……そんなところです」

「姿は見たことないけど、お前んちにドッグフードの配達で行くと必ず吠えられるんだよにゃー。何あれ、大型犬?」

「ですねぇ」

 

 ナーナはペットではなく家族ですなんて言えばただの厄介な人になるし、犬じゃなくて狼ですと言えばそっちはそっちでもっと厄介なことになるので、やんわり受け流した。

 辻さんを信頼していないとかではないんだけど、こっそり人型の狼と暮らしてますとかいう込みいった話をするのは気がひける。

 

「あー」

 

 助手席から、流れる景色を眺めていて思い出した。

 私を標的にして出された複数の暗殺依頼、その依頼主のひとりが居る事務所がここから近い。

 あっちは警察署ほど気を遣わなくてもいいから、もうちょっと気楽に『交渉』ができると思う。

 せっかくだから寄っていきたい。

 

「辻さん」

「なにー?」

「もう少し付き合っていただけません? お礼は弾みますので」

「弾む? どんくらい?」

「それはもう、ボヨンボヨンと弾みます」

「そーんなにー? しょうがないにゃー」

 

 とりあえず私は、残り1分ほどまでカウントダウンが進んだキッチンタイマーの設定を3分に戻した。

 これは単品で爆発するので。

 

 この日、辻さんの協力もあって私は全部で3件の依頼取り下げに成功した。

 さらに後日『なぜか一日で3件も依頼が取り下げられた』という事態を受けてか、2件の依頼がしれっと取り下げられた。




辻さんは数字の「2」がモチーフです
狙ったわけではありませんが22話目に初登場なの、ちょっといいですね

一応、1話目の時点で辻さんの話はしてました
よかったら見つけてくださいね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。