狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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四方木さんの元ネタに関してはY○uTubeで「初雪リーチ」で検索してみてください。


ナーナえらび

 唐突に、一万円もらった。

 

 お金をくれたのは、近所の噂好きのおばちゃん。四方木(よもぎ)さんというらしい。

 日頃から顔をあわせれば世間話程度のお喋りをかわす人ではあったけど、今日はスーパーでお買いものをしているところを呼び止められて、いきなりその場で財布から出した一万円札を渡された。

 

「火事で大変だったでしょ。少ないけど何かに使って」

「え、ご存知だったんですか?」

「おばちゃんは何でも知ってんのよぉ~」

 

 我が家を襲撃してくる暗殺屋さんが増えたお陰で引っ越しを余儀なくされた件。旧自宅に関しては派手に焼失でもしたほうが暗殺屋さんたちの混乱を誘えるだろうと考えたので、燃やして片付けた。あんまりやりたくなかったけど。

 だから厳密には火事とは違うと思うけど、まあ、おばちゃん改め四方木さんがそんな事情まで知っているわけではないだろう。あくまでも表面上の情報として『家が燃えて近場に引っ越した』というのを知っているだけ。

 まあそれもびっくりなんだけど。なんで私の家の場所を知ってるんだろう、この人。

 ともあれ、一万円はそのお見舞いということらしい。

 

「申し訳ないです、急にこんな……」

「いいからいいから、おばちゃんこの間パチンコで勝ったから余裕あるの!」

「は、はあ」

 

 つまり、四方木さんとしてもこれは浮いたお金だから遠慮せず受けとっていい、という話みたい。

 

「すみません……ではありがたくいただきます」

「お礼ならヨン様にねぇ」

「ヨン様って、ああ」

 

 ヨン様というのは、あのヨン様のことだろう。

 彼が主役の某海外ドラマとタイアップしたパチンコ台が実際にある。四方木さんはあの台を打って勝ったということらしい。

 言われてみれば四方木さんの出でたちも、彼を意識しているらしいことがわかる。

 パッと見だと、失礼ながらどこにでも居そうな恰幅のいいおばちゃんだけど、髪型と眼鏡がまるっきりあの人だ。

 そう考えてみると、首にストールを巻いていらっしゃるのも、たぶんそういうことなんだろうと思える。きっと、冬になったらマフラーに切り替えるのだ。

 そこに気がついてからは、もうそうとしか見えなくなってしまった。

 好きなんだなあ、ヨン様。

 

 つまりこの一万円は元を辿ればヨン様からの贈りもの。

 ありがとう、ヨン様。

 

「頑張ってねぇ!」

「ありがとうございます」

 

 基本的に、世間の人たちのほとんどは他人に関心などないと思っている。それはそれで大きく間違ってはいないだろう。

 でも、たまに、びっくりするくらい他人に関心がある人も居る。四方木さんは間違いなくそっち側の人だ。

 おばちゃんネットワーク、恐るべし。

 

 さて、いただいた一万円は何に使おうか。

 今日のお買い物で早速使ってもいい。

 

 実は今日は引っ越し後、初めてのスーパー散策。品揃えや価格帯、特売日の周期などを頭に入れておくのは大切なこと。

 まあ四方木さんが居たということは、それだけでけっこうポイントが高い。私のようなニワカがあれこれと小賢しいことを考えるよりも、ああいう日頃からアンテナをビンビンにおっ立てている人が『居る』ということのほうが強い根拠になる。

 この店はしばらく使わせていただくことにしよう。

 そんなことを考えていると、私と四方木さんが世間話をしている間に飽きてそのへんをうろちょろし始めたナーナが慌てた様子で戻ってきた。

 

「たいへんたいへん!!」

「なんだなんだ?」

「ジャーキーがある!!」

「わあ、それは大変だ」

「かわなきゃ!!」

 

 ジャーキー売場を見つけたもよう。

 ナーナにとっては紛れもない大事件。

 

「どっち?」

「こっちこっち!」

 

 手を掴まれてグイグイと引っ張られながら売場へ。

 行ってみると、棚一面に陳列された多種多様で色とりどりのジャーキーの袋にお出迎えされた。これは壮観。ナーナも興奮するわけだ。

 小型犬用に大型犬用、厚切りに薄切り、キューブタイプにスティックタイプ、固いの柔らかいの、などなど。ジャーキー選びはワンちゃんに合わせてあげることが大切。

 うちの子は狼だけど。

 

「ナーナがえらぶからね」

「大丈夫? ちゃんと選べる?」

「こどもじゃないんだから……」

「す、すみません」

 

 呆れ顔をされてしまった。

 軽率でした。

 

「ふーむ……」

 

 棚の前でしゃがみこんで、眉間にシワをよせて目を細め、アゴに指をあてて小さく唸っている。私がよくやる仕草を真似しているだけかも知れないし、実際に考えごとをしているのかも知れない。

 考えてるかな、考えてないかも。いや考えてないなこれ。

 なんかそれっぽく唸っているけど、その視線は微動だにせず棚の最下段にドサッと積まれたお徳用ジャーキーの大袋に注がれつづけている。

 どうやらナーナは美味しさや食べやすさよりも『多さ』に重点を置いているようだ。少なくとも棚の上のほうに並んでいる高級感のあるパッケージの、高い割にちょっとしか入ってないやつにはまったく興味がなさそう。助かります。

 まあ、それはいいんだけど、がに股でしゃがむのはやめてくれないかな。お出かけ用のスカートを穿いているとはいえ、ぱんつは穿いてないんだから。

 

「ふーーむ」

「ナーナ、よだれよだれ」

 

 もう完全に大袋しか見えていない。

 事実上もう買うものが決まっているけど、まだしばらくはナーナの長考(ごっこ)に付き合ってあげようと思う。

 

 しかしまあ『こどもじゃないんだから』か。

 たぶんナーナはテレビで覚えた言い回しをそのまま使ってみただけなんだろうけど、それはそれとして、確かになと思わされる部分もある。

 拾った子だから実年齢は分からないけど、たぶんナーナの年齢はまだ一桁台。10歳にも満たないと思われる。これは人間として見ればもちろん全然子供だけど、狼として見れば大人という考えかたもできる。どちらか片方ではなく、両方持っているのがナーナなのだ。

 身体は大人、頭脳は子供。その名はナーナ。

 

 うん、改めて、拾った当初から考えると本当に大きくなった。

 最初はそれこそ子供みたいに小さくて身体も細かったのに、すくすく育って現在は私より大きくなってしまった。毛量もすごい。

 体格もがっしりしていて、同じ身長のムームと見比べると一目瞭然。私は二人が並んでいるところを見ると『レスラーとボクサーだ』って思ってしまう。以前まで着させていたワイシャツもサイズがあわなくなって、胸のところのボタンが弾け飛んでしまったので、今ではナーナ用に大きいサイズのワイシャツを買ってきて着させている。

 それでもナーナは身体が小さい頃からのノリのまま、この体格で『お帰りなさーい!!』と飛び込んでくるものだから、こちらも気合いを入れて受け止めなくてはいけない。調子がいい時は地面と水平なんじゃないかって勢いで飛んでくるので、私の体幹も鍛えられている。

 

 さて、体格と言えば気になるのは首輪。

 ナーナを拾った当初、私があげた首輪だ。

 当時のサイズにあわせて買ったものなので、現在はちょっとサイズがあっていない。

 さすがにまだシャツのボタンのように弾け飛ぶ心配はないにしても、それはあくまでも現状の話。ナーナがこのまま大きくなり続けるなら、そんな心配が浮上してくるのも時間の問題だろう。

 あと、単純に古くなったかなーと思う。

 言ってしまえば外すか買い換えるかしてあげたいのだけど、それがなかなか難しい。

 

 首輪。

 まあ、ナーナのことを人間でも狼でもなく『ナーナ』として扱ってあげようという気持ちが強い現在の私なら、まず出てこないであろう発想。

 首輪を買ってきてつけてあげるなんて行動は、ナーナを拾った当初の今以上にナーナの扱いかたがわからず試行錯誤していた頃の、いわば迷走の産物。

 なのだけど、それがナーナにとってはクリティカルヒット級に嬉しかったらしい。もしかしたら『首輪をつける=捨てないという意思表示』と受けとったのかも知れない。思い返すとナーナが爆発的に懐いたのは、首輪をつけた日が境だったような気がしないでもない。

 そんなわけでナーナは、ジャーキーよりもオモチャよりも何よりも首輪を大切にしている節がある。隙あらばすっぽんぽんになろうとする子なのに、それでも首輪だけは外そうとしない。

 お風呂で身体を洗う際に、私が外そうとしただけで泣いてしまったこともあった。

 今はさすがに泣くようなことは無くなったものの嫌がりはするので、私もナーナの首回りに触れるときは未だに慎重になる。

 

 とは言え。

 話を戻すと、ナーナが大きくなって首輪のサイズがあわなくなってきたし、なんなら古くもなってきたので外すか買い換えるかしてあげたいなーというのが本題。

 

 まあ、ダメ元で一応聞いてみる。

 

「ナーナ、新しい首輪いる?」

「いらなーい」

 

 知ってた。

 本題、2秒で終了。

 

 まあ無いとは思うけど、変に突っ込んだ話にしてスーパーで泣かれてもいけないので、今日はこの辺で。

 私にとっての本題は首輪でも、ナーナにとっての本題はジャーキーなのだ。

 

「ナーナ、決まった?」

「んー、これ……かなあ……」

 

 ナーナがもっともらしくしかめっ面をして首をかしげながら手にとったのは、長考(ごっこ)モードに入ってから結局1秒たりとも目を逸らさなかったお徳用の大袋。

 それも知ってた。

 私はその大袋を追加でもうふたつ、計みっつ掴んでカゴに入れた。

 いつもは一袋だけど、今日はちょっとお財布に余裕があるので大盤振舞。ありがとう、ヨン様。

 

「……!?」

 

 ナーナは驚きと心配が混じったような『こいつ正気か?』みたいな顔をして、思っていた三倍の量のジャーキーの袋と私の顔を交互に見比べた。いい顔するなあ。ナーナの顔芸はいつも全力。

 でも嬉しいことには違いないようですぐにニヤつきが混じり始めて、表情は『こいつ正気か?』から『いいの? ほんとに?』へ。

 

「いいの? ほんとに?」

 

 そのまんま言っちゃったよ。

 

 まあ近いうちに首輪の話もしなくちゃいけないだろうし、そのぶんナーナには普段以上にハッピーデイズを過ごしておいてほしい。

 こんなん、なんぼ喜ばせたっていいですからね。

 

「ナーナがもつ!」

「ふふふ、ありがとー」

 

 大袋みっつで一杯になったカゴを渡すと、ナーナは満足そうな顔をして受けとった。

 よっぽど嬉しかったのか、他の買いものをしている最中もナーナはずっとウキウキそわそわしていて、たまにカゴを覗きこんでは意味もなく袋を撫でたりして、会計の時もレジの辻さんにドヤ顔をしていた。

 更にその夜、ナーナはジャーキーの袋を抱っこして寝た。

 

 で、そうやってグースカピースカブルルフシューと眠るナーナの隣で私は考えごと。

 

 どうしたもんかなあ、首輪。




実はお話を書くのに使っていたスマホが古くなりまして、ちょっと誤作動が出始めたのでデータの退避もかねて駆け足で書いてしまいました。
アラがありましたらごめんなさい。
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