狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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ムームちゃん、予防注射の巻。
お利口さんにしましょうね。


勝どん

 白いのと白いのが、喧嘩してる。

 

「喰うわよ!」

「蹴るわよ!」

 

 一人は恩納が連れてきた白い狼。

 ナーナちゃんの妹だそうで、名前はムームちゃん。確かに妹だと言われれば似てるような気もする。まあそれが、姉妹だから似てるのか狼だから似てるのかまでは分かんないけど。

 色々あって恩納の家で暮らすようになったとかなんとか。

 そしてもう一人は、うちのミーサ。

 何が気にくわないんだか、ムームちゃんに突っかかっている。

 本音では狼が怖いみたいで私の膝の上からは動こうとしないけど、それでも強気の姿勢を見せようとしてるのはちょっと面白い。

 そこまでして主張したい何かがあるのか、なんなのか。まあミーサは気分屋なところがあるから、どうせ『色が被る』とかそんな理由だろうとは思う。

 そうやって見てみるとミーサとムームちゃんどころか、恩納まで色が被ってるのが面白い。赤白黒だけで三人描けそう。

 恩納だけ黒の比率が異様に高いけど。

 

「ぐるるる……」

「ひぃぃん!!」

 

 ムームちゃんが牙を見せて唸り始めただけで、ミーサは情けない声を出して泣いちゃった。

 まあ目の前で狼に唸られたら、泣いて怖がるのがある意味正しい反応かも知れないけど。泣くんだったら最初から喧嘩なんか吹っかけなきゃいいのにとも思う。

 

「せーんせぇーー!!」

「はいはい……もう辞めときなさいって」

 

 泣きついてきたミーサの頭を撫でて、宥めることしばし。

 その間、恩納も『ムーちゃん、仲良くしなきゃ駄目ですよ』などと言って叱って(?)いた。当のムームちゃんはムスッとしてたけど。

 まあ、恩納の言うことももっともではあるんだけど、ムームちゃんとしては喧嘩を吹っかけられたから応戦しただけだし、それで叱られてもはいそうですかって訳にはいかないと思う。

 そこをムスッとするだけで済ましてるのは、まあ、少なくとも悪い子ではないんでしょうねって感じ。

 

 で。

 なぜこの二人がうちに来ているのかというと、ムームちゃんの予防接種のため。

 ムームちゃんは元々は野良で、その名残であちこち出歩く性格の子なものだから出先で変な病気を貰ったりしないか心配だということで、恩納から要請があった。

 まあ野良でやれてたならその辺の免疫はとっくに獲得してるんじゃないのとは思ったけど、だからって別に打っちゃ駄目なものでもないし、こちらとしてもお代をいただけるならありがたいのでしっかりと用意した。

 それに、私もナーナちゃんの発情期の一件があってから獣医としても『ちょっと』勉強している。だから経験を積める機会があるのはありがたい。

 ナーナちゃん、ムームちゃん、それにうちのミーサも。周りにそういう子が増えてきたことだし、人間と動物の両方を診ることができる医者は、きっと居たほうがいいでしょう。

 ただまあ、いくら勉強したところで『獣医』としては無免許であることへの負い目はあるけど。

 

 さておき。

 本日ご用意したのは、大型犬用の感染症予防ワクチン。

 そんなものを打っても大丈夫かどうかの検査を一通り済ませたのち、いざお注射という段になってムームちゃんと恩納がひそひそと話し始めた。

 

(……あれ何?)

(あれは、ムーちゃんの身体を病気から守るためのものですよ)

(私、病気じゃないけど)

(うふふ、ですからこれからも病気にならないために打つんです)

(刺すの?)

(大丈夫、ちょっとだけですから。怖くないですよ)

(刺すの!?)

 

 ムームちゃんは恩納と話しながらも注射器というか注射針を思いっきりガン見しているし、尻尾も丸くなっている。

 まあ、たぶん注射は生まれて初めての経験だろうから、どんなことを話しているのかは想像がつく。

 

 そして、ここでまたミーサが調子づき始めた。

 二人のひそひそ話は、耳のいいミーサには丸聞こえだったのだから。

 

「フッ」

 

 悪い顔するわ~、この子。

 

「ふ~ん、怖いんだぁ~……へぇ~?」

 

 ここぞとばかりに煽る煽る。

 声のトーンから表情から、それはもう見事なお手本のような煽りだった。

 なんか、防犯ブザーとかが似合いそう。

 

「狼のくせにお注射が怖いなんて、よっわ~い!」

 

 煽られたムームちゃんの、青筋のビキビキという音まで聞こえそうだった。

 冷静に考えると『ビキビキ』って何の音だか分からないけど、それはさておき。

 

「この兎……狼をなめるんじゃないわよ! 怖くなんかないわよ、こんなもの!」

 

 結果的に。

 ミーサの煽りはナイスアシストといって差し支えなかった。

 ムームちゃんは啖呵をきった手前あとに引けなくなって、そのお陰で終始(表面上は)大人しくお注射に応じてくれて、予防接種を滞りなく終えることができた。

 まあ、これに関しては正直助かった。

 お注射の際は大人しいのが一番。万が一にも、狼に暴れられたら私じゃ太刀打ちできないし。

 

「ムーちゃん強いわ~、偉い偉い」

「……」

 

 ムームちゃんは何も言わず、頭を撫でる恩納の服の裾をギュッと掴んで動かなくなった。涙目で。

 怖かったんだか痛かったんだか、思った以上に効いちゃったみたい。

 

(先生、先生)

 

 ふと、恩納が手招きをしつつ耳打ちのジェスチャーをしてきたので、口許に耳をよせた。

 

「なに?」

(よければ、ムーちゃんに『強い』って言ってあげてください。ムーちゃんは『強い』とか『可愛い』って言ってあげると、とっても喜ぶんです)

「あー……なるほど」

 

 そういう感じね。

 思い返してみるとナーナちゃんの飼い主も、ナーナちゃんが服を着るのを嫌がった時は『可愛い』って言ってあげると多少なら我慢して着てくれるとかなんとか話してた気がする。この子たちにとって『強い』と『可愛い』は魔法のワードみたいな作用があるってことなのかしらね。

 狼的な、もっと言うならメスの狼的な価値観っていうのかしら。

 生物として強さや可愛さに重きを置いているから、そこを肯定されると嬉しいってことなんでしょう。

 

 と、いうわけで早速。

 

「強いじゃない。さすが狼ね」

「…………ふん、まあね!」

 

 ぶっきらぼうだけど、ちょっと嬉しそう。

 こんなに分かりやすく効果があるのね。

 

 ミーサにもそういう魔法のワード的なものがあったりするのかしら。まあ、こっちは狼じゃなくて兎だけど。

 そう思ってミーサのほうを見ると、ムームちゃんがまだちょっと涙目なのを見てニヤニヤしていた。

 

「……ミーサ、喧嘩するならあんたにも注射するからね」

「なぁーんでー!? やーーだーー!!」

「ふふん、ばーかばーか」

「うるっっさいわよ、ばーーか!!」

 

 うーん、なんか、幼稚園みたい。

 

 

「先生のお注射でしたら、ぜひ私にも刺していただいて……」

「アンタが『刺して』って言うと垂直に刺してほしいみたいに聞こえるんだけど」

「望むところです」

「望むの?」

「うふふ、複数箇所刺していただいても構いませんよ」

「それはもう事件なのよ」

「……ところで先生、あのミーサちゃんって……」

「ん、なに?」

「ああ、いえ……楽しく暮らしているようで何よりです、うふふ」




そう言えば9/30はムームのお誕生日でした。
よければお祝いしてあげてくださいね。
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