狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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びぶり(bibli)

ナーナと飼い主が図書館にいくお話です。


ナーナびぶり

 みなさんこんにちは、飼い主です。

 今日はナーナを連れて図書館にやって参りました。

 

 日々目にしているテレビの教育番組と、お風呂場に貼ってあるひらがな表による勉強の賜物で、ナーナはひらがなの読み書きをマスターしつつある。『は』と『ほ』を間違えることも減ったし、以前は書くたびに形が違っていた『む』の精度も上がって現在はほぼ完璧。まあ『む』に関しては妹の名前でもあるから使用頻度が高いのも理由。『な』よりも上達が早いのは、なんというかナーナらしいなと思う。

 数字も読めるようになったので時計もカレンダーも分かるようになったし、カタカナも勉強中。控えめにいって天才かも知れない。

 そんな天才児のナーナちゃんなので、なんと絵本を読むこともできてしまう。お留守番中の暇つぶし用としてはもちろん、寝るまえのお喋りタイムに読み聞かせられることも増えた。

 読み聞かせではなく読み聞かせ『られ』なので、聞かされるのは私のほう。ベッドは磨きあげたスキル(読書)の披露の場だ。ナーナASMR。まあ、途中で寝てしまうと『きーいーてー!!』という魂の叫びとともに頭突きが飛んできて起こされるし、読み終わったら拍手を要求されるので眠れるわけではないけれど。

 聞きながら相槌を打っているだけでいいぶん、ちょっと前の『なぜなぜ期』状態よりは遥かに楽なので、ありがたく聞かせていただいている。

 

 とまあそれはいいんだけど、我が家にある絵本は、私がナーナ用に適当に選んで買ってきたメジャーな童話が数冊だけ。

 まあもちろん、一度読んだら終わりというわけではない。繰り返し読むことを加味するにせよ、もうちょっとバリエーションが欲しいよねという話。色々な作品に触れるのはいいことなので。

 ただし、我が家は大して裕福でもないので、なるべくなら本のチョイスで失敗はしたくない。

 でもそれはそれとしてナーナ自身に本を選ばせることは(失敗も含めて)きっといい経験になるので、新作を仕入れるならナーナに選ばせてあげたい。

 まとめると、新しい絵本を仕入れたくて、本はナーナに選ばせてあげたくて、それでいて失敗時の被害は最小限に抑えたい。

 

 ゆえに、図書館。

 図書館ならば、たとえナーナ自身が『読みたい』といって借りたのに、気分が乗らないとかで読まずにそのまま返却期限を迎えたところで、さして痛くもかゆくもなし。

 借りた本をナーナが気に入れば、それは改めて買ってもいい。

 

 というわけで、図書館というわけ。

 入り口の自動ドアを抜けると、そこは独特の空間だった。

 図書館だから当たり前なんだけど、見渡す限りの本棚。恥ずかしながら、これまで滅多に訪れることがなかった場所なので、まずはその『当たり前』に圧倒された。

 本屋さんともまた違う、図書館特有の図書館感。図書館に入らずんば図書館内部の景色は見られない。

 ナーナもこれだけの量の本を目にするのは初めてで、呆然と立ちつくしている。

 

「これが、ぜんぶ、ナーナのもの……」

「うん、まあ……うん……?」

 

 なんか不穏なことを言ってるけど、まあお気に召したようで何より。

 

 真正面には季節や時事に関連が深い本の特集スペース。絵のお上手な職員さんが居るのか、妙にクオリティの高いイラストが描かれた画用紙を切りだして作られた装飾が目をひく。

 是非ともお手にとって読んでみてくださいという気合いの表れか、そこに並べられている本までもが装飾の一部みたいになっていて、むしろ下手に触れると装飾のバランスを崩してしまいそうで手にとるのを躊躇してしまう。

 表紙の色あいとかも考えて配置したんだろうなあ。

 

 館内にはそこそこ人が居る。親子連れ、勉強をしにきたであろう学生さん、暇そう(失礼)な高齢者、何をされているのかよく分からない方、などなど。

 混んでいるというほどではないにせよそれなりの人数が居るはずなのに、シーンと静まり返っている。静かすぎて、入り口から少し離れたところにある机で本を読んでいるおじさんがページをめくる音まで聞こえる。

 よく、ざわざわしているなかで不意に無音の瞬間が訪れた時のことを『天使が通る』というけれど、それだ言ったらここには天使が住んでいる。たぶん、この空間で一番大きい音は自動ドアの開閉音だろう。

 

「ナーナ、ここは静かに本を読む場所だから、うるさくしちゃ駄目だよ」

「まかせてーー!!!」

「待って待って待って」

 

 さっそく『一番大きい音』が更新されてしまった。

 これは予測できなかった私が悪い。

 一瞬、みんながこっちを見た。 

 

「しー、声が大きいよ」

「あっ……しー」

 

 しーできて偉い。

 さて、気を取り直して探索開始。

 

「絵本はどこかなー」

「どこかなー?」

「どっちだと思う?」

「あっち!」

「そっちの棚は『郷土史』って書いてあるけど……」

 

 勘で探すには広すぎる。

 案内図でも探そうかと思ってあたりを見渡したところ、ここの常連らしい小学校低学年くらいに見える背丈の女の子が、私たちの前を横切ってスタスタと歩いていった。

 ここは先人に学ぶことにする。目的の場所にいく方向がわからない時は、そこに行くであろう人についていくのが一番早い。

 女の子が真っ直ぐに向かった先に我々も続くと、お目当ての絵本コーナーがあった。

 小さい子でも本を選びやすいようにという配慮だろう。ぎっしりと絵本が詰まった本棚は二段までしかなく、大人の腰の高さくらいまでしかない。手にとった本を読んでみるための椅子や机もお子さまサイズだ。

 本棚の高さがないぶん場所をとるようで、絵本コーナーは他のエリアより明らかに広かった。

 

「わあ……」

 

 目を丸くして声を漏らしたナーナが、口を『わ』の形にしたまま固まった。

 ここ最近で一番喜んでくれているかも知れない。

 

「好きな本を選んでね、ナーナ」

「……!! ……!!」

 

 ナーナは、ふしぎなおどりをおどった。

 嬉しいことがあった時、ナーナは歌ったり(下手)踊ったり(下手)する癖がある。

 図書館では静かにしないといけないことをさっき学んだので、歌うのを我慢して無言で踊ったんだと思う。

 我慢できて偉い。

 

 というわけで、またジャーキーの時みたいにがに股でしゃがみ込んで本の吟味を始めるナーナ。

 

 私も一緒になって、棚に並べられた本を流し見た。

 よく見ると絵本は他の棚と違って、作者別ではなくタイトル別で五十音順に並べられている。たぶんこれも、本を探すお子さまたちへの配慮だろう。お子さまたちは作者ではなくタイトルで本を探すもんね。

 だからナーナがいま見ている『あ行』の棚につまっているのも『あ行』タイトルの本ばかり。ナーナは並べられた本のタイトルをひとつひとつ指でなぞって音読している。そして数冊に一回はこちらに振り返ってドヤ顔をする。読めて偉いね。

 さて、絵本に関してはジャーキーと違って『こういうのが好き』という感覚がまだ無いだろうから、今回はジャーキーよりも選考に時間がかかるかも知れない。

 まあ閉館まではまだまだ時間があるし、ゆっくり選べばいい。

 

 そうやって二人でのんびりと時間を過ごしていると、さっきの女の子がナーナに駆け寄ってきて話しかけてくれた。

 

「お姉ちゃん、本好きなの?」

「うん!」

 

 このはちゃんというらしいその女の子は、明らかに(外見上は)大人のナーナが絵本を選んでいるのが物珍しいようだった。うん、まあ、そりゃそうか。

 精神年齢が近いのか、ナーナとこのはちゃんは意気投合した様子。

 まあ大人の見た目で、お子さまと同じように絵本を楽しめるナーナはある意味貴重な人材ということになるんだろう。

 お友だちが増えてよかったね。

 

 さて、ナーナもこれほど沢山の『読める字』に触れるのは初めてだからもちろん全ての棚を見て回ることはできず、結局『あ行』を見るのでいっぱいいっぱいだった。まあ『あ行』だけでもけっこうな数だから、そのなかから選ぶにしても厳選に厳選を重ねなくてはいけなかった。

 というわけで最終的には『あいうえおのほん』と、このはちゃんのお勧めで五十音順の棚とは別に専用のコーナーが設けられていた狐のヒーロー(?)の絵本を借りることにした。小さい猪を2匹連れてるやつ。

 

 その後、少し館内を散策。

 絵本コーナー以外も眺めてみたくなったので。

 

 少し歩くと、館内のあるエリアに差し掛かったところでナーナが『へんなにおいがする』と言い出した。

 そこでナーナが指さした棚の本を取り出してみると、その本からは『お薬』の売買の料金表やら売人の『お散歩』のルートやら日程やらが記されたメモが出てきたので見なかったことにした。

 うん、まあ、こういう方法でやり取りをしたがる気持ちは分からなくもない。証拠も残りにくいし。

 

 そしてまた歩く。

 私もナーナにつられて読書欲のようなものが湧いてきたところだったので、目にとまった文庫本タイプの短編集を借りてみることにした。

 煽り文句には『人気作家たちの短編がこの一冊で楽しめる!』と書いてある。目次で執筆陣の一覧を見てもひとりも知らなかったけど、まあ人気作家と書いてあるから人気作家なんだろう。

 

 と言うわけで。

 カウンターに向かうと、このはちゃんが本を借りる手続きをしているところで、こちら(というかナーナ)に気がついて手を振ってくれて、ナーナも元気にぶんぶんと手を振りかえした。

 と、私はこのはちゃんと一緒に居るおじさんに見覚えがあった。

 

「署長さん?」

「…………きみか」

 

 先日、暗殺依頼の取り下げの件で会ってお話をしたばかりの署長さん。

 今のいままでニコニコというかデレデレというかそんな感じの笑顔だったというのに、私の顔をみた瞬間、露骨に『うわー嫌なやつに会った』という表情に切り替わった。

 まあいいけど。

 

「お孫さんですか?」

「うむ」

「へぇ……可愛いですね」

「どういう意味だ?」

「いえ、そのまんまの意味ですけど」

「そ、そうか。きみが言うと、なんでもかんでも不穏に聞こえてかなわんからな……」

 

 心外とはこのこと。

 なんにも悪いことしてないのに。

 

「そちらの女性は?」

「ナーナちゃんだよ、おじいちゃん」

「ナーナです!! およめさんです!!」

「そうです」

「お、おう、そうか……」

 

 元気いっぱいに答えるナーナの勢いに圧されたか、深く追及するのを遠慮された感じがした。

 まあいいけど。

 

 それから少しの間、短く世間話やらを交わしたり、さっき見つけたメモの話を(見なかったことにしようとは一旦考えたものの)一応署長さんの耳に入れてあげたりしたあと、私たちも本を借りる手続きを済ませた。

 貸し出し期間は2週間。

 期限までに短編集を読みきれるかどうかは、いまいち自信がない。ナーナのお世話もあるし、意外と私が普段の生活のなかで本を読める時間なんてないような気もする。借りてから気付いた。

 まあ、それならそれで別にいい。なにせ無料だし。

 

 それともうひとつ、最後に。

 

「うんちしたい」

「わかる」

 

 青木まりこ現象、ナーナにも効果があるようです。




お読みいただき、ありがとうございます。
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次は恩納さんと辻さんの雑談回にしようかなと思ってるんですが、そこに勝さんも混ぜようか悩み中。
どうしようかな。
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