伏線というほどでもありませんが、過去回で匂わせていた描写の回収がいっぱいあります。
とりあえず苗字だけですが、飼い主さんの名前が出ます。
情報が多めなので賛否ありそうなのがちょっと怖い。
辻 :えーっと……ああ居た居た。
勝 :ぷに子ー、こっちこっちー。
辻 :ごめんねー先生、仕事がちょっと長引いちゃってさあ。あ、今日も美人だね。
勝 :取ってつけたように誉めなくてもいいわよ。別に、いつものことだし。先に始めてるわよ。
恩納:こんばんは。お先にいただいてます~。
辻 :わー、恩ちゃんも久しぶり。相変わらず不審だね~。
恩納:照れます~。
辻 :ほ、誉めてないけど……まあいいや。元気してた?
恩納:ええ、お陰さまで。あの頃よりはずっと。
辻 :あ~……そりゃそうか。そうだよねぇ。
勝 :あら、ふたりとも知り合い?
恩納:うふふ、実はメイド仲間といいますか。
辻 :恩ちゃんが働いてた屋敷の元同僚って言いかたでいいのかな。私は速攻で辞めたから、一瞬だったけどにゃー。
恩納:1ヶ月くらいでしたかねぇ。
辻 :1ヶ月も持たないよー、ほんとすぐに『ここはヤバい』って思って辞めたもん。2週間ちょっとだったかな。
恩納:あらぁ、そうでしたか。
辻 :恩ちゃんはよく続けたよね。あの屋敷が無くなるまで頑張ってたんでしょ?
恩納:私はまあ、色々ありましてお屋敷に居ない時間のほうが長かったものですから、そのお陰もあったと思います……。
辻 :へー、そうなんだ。
勝 :とりあえずぷに子、なに飲む?
辻 :あ、私は明日も仕事だから烏龍茶で。あと、普通にごはん食べていい?
勝 :おっけー。
恩納:どうぞどうぞ。
辻 :じゃあ~、焼きおにぎり2個と……ホッケにしよ。
恩納:店員さん呼びますね~。
(辻、注文しつつ店員と談笑)
勝 :ここの店員も知り合い?
辻 :うん。昔ここで働いてたことがあったから、その時からの。
恩納:あらぁ、そうだったんですね。
勝 :アンタはどこの店に行ってもそれ言うわよね……。
辻 :好きだからね~、仕事すんの。
恩納:今はどんなお仕事をされているんですか?
辻 :えーと……とりあえず今日やってきたのは長距離の運送。他には今だと小包の配達、スーパーのレジ打ち、あとピザのデリバリーもやってるね。運転する系が多いかな。お休みの日もなんだかんだ単発の派遣に行ったりしてるよ。
恩納:す、すごい。
勝 :お休みの日は休みなさいよ……。
辻 :えへへ~。んで二人はなに飲んでんの?
恩納:あ、私も、お酒が苦手なので烏龍茶です……。
勝 :私も烏龍茶。
辻 :えっ、先生も烏龍茶? ウーロンハイとかじゃなくて?
勝 :烏龍茶よ。最近は迂闊に酔っ払うわけにもいかなくなっちゃってね。
恩納:居酒屋で三人とも烏龍茶……ふふっ。
辻 :……あー、そっか。先生んところ兎ちゃん居るもんね。まあ先生ならちょっとくらい酔っぱらっても多少の事態には対応できそうな気もするけど。
勝 :あの子、私がお酒くさいと寄ってこなくなるんだもの。
辻 :うーわ……可愛い理由。
勝 :うっさい。
恩納:あら、ご存知だったんですか?
勝 :あ、ぷに子は知ってるから隠さなくても大丈夫よ。ミーサが運ばれてきた時に一緒に居たし。
恩納:あらあら、そうだったんですねぇ。
辻 :まーそれに、先生んところに限らずだけどそれなりに見かけるからねぇ、仕事中とか。
恩納:あら、そうなんですか?
辻 :うん。頻繁ってほどでもないんだけど、見掛ければ『あーまたか』って思う程度には。なんて言うんだろうね、こういうの。
勝 :『まれによくある』?
辻 :あーそうそう、そんな感じ。
恩納:どんな時に見掛けるんです?
辻 :うーん……配達先の家で暮らしてる子を見掛けたり、変装して町を歩いてるけど特有の雰囲気は隠せてなかったり、そんな感じかなあ。
恩納:あー……。
辻 :すっごい語弊があるけど、外国人を見た時の感覚に近いかも。
恩納:言わんとすることは分かる気がします。
勝 :私たちが気付いてないだけで、案外普通にあちこちに居るのかもね。
辻 :そんくらいに考えておくのがいいと思う。別に捕まえたり通報したりするもんでもないし。
恩納:あのう、実は私も……。
辻 :えっ、恩ちゃん兎だったの?
恩納:違います違います。そうじゃなくてですね、実はいま、うちにも狼が一人居まして……。
辻 :えー、そうなんだ。
勝 :うちにも予防接種で連れてきたことがあるけど、可愛い子よ。
恩納:うふふふふ、そうですよね可愛いですよね、ありがとうございます。あ、辻さんの烏龍茶とごはんが来ましたね。
辻 :ありがとー。
(焼きおにぎりとホッケ到着)
勝 :じゃ、改めて乾杯ね。みんな烏龍茶だけど。
恩納:うふふ、かんぱーい。
辻 :かんぱーい。そしていただきまーす。
勝 :……ホッケにそのままかじりつく人間、初めて見たかも。
辻 :え、そう?
勝 :ホッケって少しずつ身をほぐしながら食べるもんじゃない?
恩納:骨も一緒に食べてますよね? それ。
辻 :うん。美味しいよ?
勝 :骨せんべいとかなら分かるけど……。
恩納:バキバキ言ってますね。
勝 :そのギザギザした歯は飾りじゃないのねぇ。
辻 :あー、よく言われるわそれ。生まれつきなんだよにゃー。
勝 :よくにゃーにゃー言ってるから猫かと思うこともあるけど、歯だけ見たら鮫みたいだわ。
恩納:ああ、道理で……兎さんや狼さんへの理解があるのって、そういうご事情でしたか。
辻 :いや私は人間だよ? ある意味ネコだけど。
恩納:あら……♡
勝 :おっさんみたいな下ネタやめなさい。
辻 :いひひ。それよりさっきの話だけどさー、恩ちゃん偉いよねぇ。
恩納:えっ、私ですか?
辻 :そーだよ。さっきも言ったけど、あの屋敷が吹っ飛ぶまで頑張ってたんでしょ?
恩納:まあ……それこそ先ほども言いましたけれど、色々ありまして最後のほうはほとんど外のお仕事で、お屋敷に居ませんでしたから。それでも常々、辞めたい辞めたいとは思っていましたよ。
勝 :なんなら実際に言ってたわよねぇ。
恩納:ええ……セクハラ、パワハラ、エトセトラ……あらゆるハラスメントが横行していましたので。辻さんは早めに辞めて正解だったと思いますよ。
辻 :ううぉ、ホントお疲れさまだね……。
勝 :恩納はドMだから耐えられてるのかとも思ったけど、そういうわけでもないのよねぇ。
恩納:ドMだからこそ相手は選びたいものなのです。好きな相手ならそれはもう、セクハラでもパワハラでもいくらでも大歓迎ですよ。
勝 :それはもうハラスメントではないわね。
恩納:血が出るプレイも大丈夫です!
辻 :そっちの話を広げんの!?
恩納:失礼、熱くなってしまいました。
辻 :ま、まあ、それはそれとしてさ。結果的に辞められたから良かったよね……って言いかたでいい、のかな?
恩納:ええ、ありがとうございます。お陰さまで無職にはなりましたけれど……今は毎日とっても楽しく過ごしていますよ。
辻 :よかったー。『職場爆発しねーかなー』が実際に起きたの初めて見たよ、私。
勝 :私もニュース速報見て笑っちゃったわよ。いや、笑っちゃいけないんだけど。
恩納:まあ……びっくりですよね。犠牲になられたのが元ご主人さま一人だったのが、不幸中のなんとやらです。
勝 :あー、言葉のあやだとしても『幸い』とは言いづらい?
恩納:まあ……はい。
辻 :…………ちなみに、あれってさあ。事故ってことでいいの?
恩納:爆発がですか?
辻 :うん。
恩納:そういうことになっています。
辻 :あー、なんか一番しっくりくる回答かも。
勝 :ん? ぷに子、なんか思い当たることでもあるの?
辻 :いや、思い当たるっていうかさぁ……陰謀論みたいな考えかたになっちゃうんだけど、あの人って死んだらニュース速報になるぐらいのゴリゴリの富豪だったわけじゃん? それに、言っちゃ悪いけど内外問わずあちこちから恨まれてたし……そんな人がピンポイントで爆死して、事故でしたって言われても、ねぇ。
勝 :ああ、なるほど。確かに、はいそうですかとはならないわね。
辻 :それくらいは誰でも考えるでしょ、っていうね。本当にただの事故なの~? って。かといって根掘り葉掘り真相を知りたいわけでもないんだけど。要するに野次馬根性だよね。だから、まさにその『事故』が起きた場所で働いてた恩ちゃんの言う『そういうことになっている』って答えがしっくり来るっていうか、気が済むっていうか。
恩納:ああ、そういうことでしたか。犯人に心当たりがあるとかではないのですね。
辻 :あ、いーやぁーそれは……心当たりっていうか、別な理由で『どうせあいつでしょ』ってのはあるんだけど、そんな理由で名前を出すのもさあ。
勝 :九重?
辻 :うん。
恩納:ぐっふん。
勝 :恩納、鼻から烏龍茶出てる。
恩納:出したんです。いえ『出した』もおかしいんですけど……げっほ、んん。
勝 :あっはっは、やっぱり誰でもそう思うのよね。
辻 :まあ、そりゃあ……っていうか知ってたの? そして合ってたの?
恩納:ええと……あの、はい。あの件、犯人は九重さまです。
辻 :そっか~、そうだよねぇ。あいつ、そういうところあるもんね。
勝 :原因不明ってことになってる事件の、真相に近いところによく居るものね、あいつ。
恩納:そう、らしいですよね……私はあの一件しか知らないのですけれど、先生のお話を聞いていると、他にも色々な事件に関与されているとか。
辻 :そうそう。だからあの爆発も、そういう依頼があったのか、それともあの人が九重に何かしたのか……そこまでは分かんないけど、どっちにしろやったのはあいつだろうなーって。
勝 :原因不明って聞くととりあえず顔が浮かぶのよねぇ。
辻 :そうなんだよね……なんならこの間、そういうことやるの手伝ったし。
恩納:ええ!?
勝 :なにやってんの、アンタ……。
辻 :いやあ……割のいいバイトだからって話で呼ばれて運転とか手伝ったんだけどさ。経緯は省くけど、あいつ、警察署長を脅した帰りにその足でヤクザの事務所に殴りこんで潰してたよ。
恩納:…………事務所の件はニュースになっていましたね。抗争でもあったのかと思っていました。
勝 :じゃあ、あの件を原因不明ってことにした人間も想像がつくわねぇ。
辻 :そうなるねぇ……。
(店内設置のテレビから鳴るニュース速報の音)
勝 :白玉教……あったわねぇ、そんな新興宗教。
恩納:謎の爆発により本部が倒壊、教祖と幹部数名が行方不明、原因は調査中……これは、噂をすれば、ってことになるんですかね?
辻 :わかんない、けど……可能性は感じちゃうよね。
恩納:なんだかタイミング的に勘繰ってしまいますねぇ。
勝 :……でも本部倒壊って、いくらあいつでもそんなことできる? 恩納の屋敷の時だって、爆発は部屋ひとつだけだったんでしょ?
辻 :あー……そう言えば、ちょっと前に大きめの建物を吹っ飛ばす予行演習みたいなことはやってたよ……っていうか手伝わされたよ。たまたまかも知んないけど。
勝 :そんな『たまたま』ある?
恩納:何やってるんですか……。
辻 :白玉教……あそこも変な噂いっぱいあるしなあ。暗殺の依頼を請け負う場を取り仕切ってるとか、非合法なお薬の販売ルートを持ってるとか、独自に開発した愛玩動物を金持ちに売ってるとか……。
勝 :アンタはどっからそんな噂を聞いてくるの?
辻 :スーパーに来る噂好きのおばちゃん。
恩納:それはむしろ、そのおばちゃんが何者なのか……。
辻 :おばちゃんは何でも知ってるからね。
勝 :なんにせよ……ああいうのも、ただの事故かも知れないし、そうじゃないかも知れない。そして九重が関与してるかも知れないし、そうじゃないかも知れない……と。そう言えば恩納。
恩納:はい?
勝 :ムームちゃんの予防接種の時、ミーサに関して何か言おうとしてたわよね?
恩納:あ、あれは……はい。
勝 :私ねぇ、ちょっとした可能性に思い当たったんだけど……あの話の続きを聞いてもいい?
辻 :待って、それ私が聞いても大丈夫なやつ?
勝 :まあ、大丈夫でしょ。
辻 :雑ゥ!!
恩納:……ええと、それじゃお話しますね。私が以前勤めていたお屋敷では、昔、元ご主人さまがどこからか買いつけてきた狼が二人、飼われていました。
辻 :あ、そうなの!?
恩納:はい。ですが、その二人は脱走してしまって……そのうちの一人は現在私のところで暮らしています。
辻 :……ん、あれ? じゃあもう一人の狼って、もしかして……九重と暮らしてたりする?
恩納:それは、あの……。
辻 :ああ、ごめん、言いづらいよね。この間、スーパーに一緒に買いものに来てた子を見て、もしかしてと思っただけだから。青い目で黒髪の、大柄な子。
恩納:……間違いありませんね。その子が、もう一人の狼です。
辻 :なるほど、了解。配達の時によく吠えられるから大型犬でも居るのかなーとは思ってたけど、それがあの子だったってわけね。ああ、話の腰折ってごめんね。
勝 :続けて。
恩納:はい……元ご主人さまは、脱走した二人を連れ戻すべく独自に捜索を続けていましたが、それはそれとして、二人が飼われていたお部屋に……新しく兎を買ってきて、住ませたんです。
辻 :……え、それがいま先生の家に居る兎ちゃん、ってこと?
恩納:それは正直、わかりません。元ご主人さまの指示で私は狼二人の捜索要員として外での仕事がほとんどになっていて、あまりお屋敷に居ませんでしたから、兎さんと顔を合わせることもなかったんです。ただ、他のメイドたちが話す『今度は兎を買ったらしいよ』というのを聞いたというだけでして……。
勝 :……なるほどねぇ。で、その兎はどうなったの?
恩納:お屋敷の爆発のどさくさに乗じて脱走して、そのまま行方知れずです。
辻 :うわー……。
勝 :それがミーサかも知れないし、そうじゃないかも知れない、と。
恩納:はい……ただ、少なくともミーサちゃんは楽しく暮らせているようですから、こんな話をするのも野暮というか不躾かと思って黙っていました。あの、なぜ急にこんなことを……?
勝 :たったいま、別件で『独自に開発した愛玩動物を金持ちに売ってる』連中が居るって聞いたから。
恩納:あっ。
辻 :あー。
勝 :まあ……安易に結びつけるのも違うかも知れないけどね。それに、仮にミーサとその子が同じ子だったからなんだって話でもあるし。
恩納:……それを聞いて安心しました。
勝 :ただ。
恩納:ただ?
勝 :『金持ち』『白玉教』『謎の爆発』『愛玩動物』の全部と『九重』がぼんやりと繋がってるなー、っていう……。
辻 :…………うーーわ……。
恩納:……き、気のせいってことにしましょうよ。
辻 :そ、そうだよ先生……こじつけだって。
勝 :まあ、どっちでもいいけどね……なんにせよ最終的に『どうせあいつだし』って言うしかないんだから。あー腹立つ。
辻 :なんで!?
勝 :私あいつ嫌いなのよ。なのに、なんか知らないけどあいつの話題に時間を持っていかれることがよくあってね……それが腹立つ。
恩納:それは……この話題は先生から振ってませんでしたか?
勝 :恩納、正論、よくない。
恩納:は、はい。
辻 :怒りすぎてカタコトになってる……。
勝 :やっぱり飲むわ。
辻 :えぇー!?
恩納:先生、飲んだらミーサちゃんが寄ってこなくなるって……。
勝 :こっちから無理やり寄っていくから大丈夫。
辻 :それ大丈夫って言うの?
恩納:……何飲まれます?
勝 :焼酎で。
辻 :ちょっと!?
恩納:だって、こうなってしまっては先生を止めることはできませんから……♡
辻 :絶対なんか違う期待してるよね!?
恩納:うふふふ。
勝 :ぷに子、アンタも帰さないからね。
辻 :ねぇ、勘弁して!?
九重(ここのえ)。
これで登場人物の名前で数字が全部揃いました。
こちらでは規約的に投稿したらまずそうなので、登場人物紹介やゆるい会話シリーズなどはpix○vにのみ投稿しています。
よかったら、そちらも見てみてね。