狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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お待たせしました、あけましておめでとうございます。

3の倍数はムーム回。
恩納さん視点です。


恩納まよい

 白玉教。

 先日の飲み会のなかで、お店に備えつけられたテレビから流れたニュース速報であがった名前。

 一緒に速報を見ていた友人の感想は『あったわねぇ、そんな新興宗教』でした。

 正直に言うと、私の感想も似たようなもの。

 

 教祖の喜結院(きゆういん)氏はメディアへの露出が多く、テレビのワイドショーにコメンテーターとして呼ばれたりなどもしていて、なんとなくテレビを点けたらたまたま出ていたなんてこともままありました。

 そのいかにも教祖然とした特徴的な風貌や、ゆるゆるとした穏やかな喋りかた、そしていつも彼の傍に立っている『蝶々』と呼ばれているチャイナドレス姿の綺麗な女性が印象に残っています。

 それだけと言えば、まあそれだけのことで。

 喜結院氏や蝶々さんを『白玉教の人』として認識してはいるものの、白玉教が何なのかはよくわかっていない。それでも白玉教という言葉は一応記憶に残っているので『よく分からないけど信者がいっぱい居るんだろうなあ』という印象は持っている。たぶん、世の中の大半の人がそんな感じだと思います。

 そんな具合でじんわりと認知度を上げた結果として、喜結院氏のメディア露出の増加があったのかも知れません。

 まあ、私が見た限りでは『白玉教の喜結院様』というよりは『教祖もやっている変なおじさん』という扱いの、言ってしまえば面白枠として呼ばれていたような印象がありましたが、それはそれで視聴者に親しみを持ってもらうためのキャラクター作りだったのかも知れません。

 ただ、重ねて申しあげるのもなんだか失礼ですが、それだけと言えばそれだけ。『テレビを点けたらたまたま出ていた人』なんて、点けたテレビの数だけいらっしゃるのです。

 実は以前勤めていたお屋敷で、お客さまとしていらした喜結院氏とその付き添いの蝶々さんを直接お見かけしたこともありますが、それでも、それだけ。あのお屋敷に著名なかたがいらっしゃる機会というのも、数えきれないほどありましたので。

 ですので、私の感想も友人の言った『あったわねぇ、そんな新興宗教』と似たようなものでした。

 

 気がかりなのは、そのあとの話。

 

 ニュース速報の内容自体は『謎の爆発により白玉教の本部が倒壊、喜結院氏と幹部数名が行方不明』というものでした。

 それを見た私と友人たちの見解は、九重さまが関与していそうだな、といったもの。

 一緒に居た友人ふたりは私よりもあの方とのお付き合いが長いらしいのですが、そのふたりでも同じように感じたそうで。どうやら九重さまがこういった事件に関与するのは珍しいことではないようです。

 まあ、本当に九重さまが関与したという確証はありませんが、なんとなく私たちとしては『たぶん確定』みたいなふんわりとした見解で一致しました。

 

 そして、ここからがようやく本題。

 喜結院氏と幹部の方々の安否や、九重さまの関与の真偽も気になるところではあるのですが、それよりも何よりも気になるのはニュース速報を見たあとに友人が話した白玉教の噂。

 曰く、白玉教は独自に開発した愛玩動物を金持ちに売っている、と。

 思い返してみれば、それは心当たりしかない話でした。

 

 以前勤めていたお屋敷にはお客さまとして喜結院氏が出入りしていて、元ご主人さまは『どこからか』狼ふたりと兎ひとりを買いつけてお屋敷の一室に住まわせていました。

 そのうちのひとりは、紆余曲折あってうちで暮らすようになったムーちゃんです。

 つまり、その『独自に開発した愛玩動物』とやらがムーちゃんであり、ナーナさまであり、ミーサちゃんなのかも知れないということ。

 これは、彼女たちの出生の経緯の話かも知れないのです。

 

 ただ、そうは言ってもその件に関する詳細な情報を調べる方法がほとんどありません。

 ニュースの通り喜結院氏は現在行方不明ですし、白玉教の建物も倒壊してしまっています。元ご主人さまも別件でお亡くなりになってしまいました。

 手がかりを握っている可能性がある(そして存命であることが確定している)人物が居るとすればそれは九重さまなのですが、仮に九重さまが何かを知っていたとしても気軽に聞ける内容のお話ではないんですよね。

 まあ、あの方のことですから、聞いてみれば『聞かれたから』という理由であっさり答えてくれそうな気もしますが。

 とは言え、九重さまが白玉教の件に関与しているかどうかも厳密には不明瞭なのですから、何もご存知ない可能性だってあるわけで。もしそうであれば、こちらから迂闊なことを聞くわけにもいきません。

 あれやこれやと考えた結果、私のなかだけでは消化できない、かといって気軽にはどうすることもできない『気がかり』が胸の奥でモヤモヤしているという現状。

 そんなモヤモヤは抱えつつ、それはそれとしていつものように九重さまとナーナさまのお宅に通気口からお邪魔したところ。

 

 そこには、歓迎モードのナーナさまにビシビシとちょっかいを出されながら、九重さまと一緒に憮然とした表情でお茶を飲む蝶々さんがいらっしゃいました。

 喜結院氏と一緒に行方不明になった幹部の方々のなかに蝶々さんは含まれていなかったのか、それとも一応は行方不明ということになっているのか、それは分かりませんでしたが人違いではないと思います。

 テレビで見ていたようなチャイナドレスではなく、ジャージ姿でしたが。

 

 ひとまず、これで九重さまが白玉教の件に関与していたという可能性は濃厚になりました。

 まあ厳密にはまだ確定させるのは早いかも知れませんが、先日の飲み会で話した『たぶん確定』よりは濃厚かと。

 つまり『たぶん確定』以上『確定』未満。

 

 ただ、通気口から頭だけ出して様子を伺っていた私にナーナさまが気づいて声をかけてくださったことで、つられてこちらを見上げた蝶々さんが悲鳴をあげて気を失ってしまわれたので、残念ながら今日のところはその介抱をするだけに止まりました。

 と言うわけで、収穫があったようななかったようなという感じで帰宅。

 ちょうどムーちゃんも帰ってきたところだったので、一緒に家に入りました。

 

 と、そこでまた『気がかり』をひとつ思い出しました。

 出生の経緯に比べれば全然些細な話なのですが、日常の小さな気がかりについて。

 

「ムーちゃん、私の靴下を見ませんでしたか?」

 

 お洗濯の時に気付いたのですが、私の靴下がなぜか片方だけ見当たりませんでした。

 どこかに落としたのかと思って家のなかをあちこち探したのですが、どこにもありません。

 

 ムーちゃんが知っているわけもないのですが一応確認をと思って聞いてみたら、意外な答えが。

 

「貰ったわよ」

「はぇ?」

 

 ムーちゃんがズルリと無造作にポケットから取り出したのは、まさしく探していた私の靴下でした。

 しかも見たところ、まず間違いなく、お洗濯前の状態。

 つまりムーちゃんが『貰う』タイミングがあったとすれば、靴下を洗濯機に放りこんで翌朝に回すまでの間。

 

「なっ、なん……なんでぇ……?」

「お姉ちゃんも持ってたから……駄目だった?」

「あ、いえ、そういうわけではありませんけれど……」

 

 駄目かと言われれば駄目だと思いますが、なんとなくそう言うのは躊躇われました。

 ナーナさまと同じものが欲しかったということであれば、安易に咎めるのもどうなのかなという感じですし。

 

 確かに、思い返してみるとナーナさまのおもちゃ箱には九重さまのものと思しき靴下が仕舞われていますし、九重さまは時々互い違いの靴下を履いていることがあります。九重さまに関しては、まあ、ああいう方なので靴下が揃っていなくても気にせず履いてしまうタイプなだけかとも思いますが。

 よく考えると、ナーナさまが持っていくから靴下が揃わず、その上で揃っていなくても気にしないという順序があるのかも知れません。

 

 さておき。

 

「あの、靴下が欲しいのでしたら、きちんとお洗濯したものをあげますよ……?」

「これがいいの」

「そ、そうですか……」

 

 なにやらこだわりがあるようです。

 

「もしかして、あとでナーナさまに自慢したりするのでしょうか……?」

「今日見せてきたわ」

「おうふ」

 

 見せるつもりならやめてほしいと言いたかったのですが、残念ながら手遅れでした。

 まあ、ナーナさまも九重さまの靴下を保有していることですし、おあいこと考えるほかないのかも知れません。何がおあいこなのか、ちょっとよく分かりませんが。

 それに、お姉ちゃん(ナーナさま)に多大な憧れを持っているムーちゃんにとってこの件を咎められるのは酷でしょうから、そういった意味でも不問としたほうがよさそうです。

 なんだか考えているうちに、半ば無理矢理ですが段々自分のなかで納得できるようになってきました。

 納得というか、諦めというか、はい。

 

 その後、ふたりでご飯を食べて、お風呂に入って、お布団へ。

 ムーちゃんにお尻でぐいぐいと押されて壁のほうに追いやられ(これ好き)ながらの思案。

 

 ちょっと困ることもありますが、なんだかんだでムーちゃんとの暮らしは楽しいものです。

 出生の経緯に関しては、気がかりではありますが無闇に調べる必要もないのかなという迷いも、あったりなかったりします。まあ、知る機会が巡ってきたらその時にでもという感じで考えておくのがいいのかも知れません。

 考えてみれば、出生の経緯なんて知っていても知らなくても、今のムーちゃんとの暮らしに影響はないのですし。

 保留も結論のうち。

 

 今はただ、ムーちゃんと楽しく暮らすことを第一に考えれば、きっと、それでよし。そう考えておきましょう。

 それと、第二に、職探し。

 

 余談として。

 のちに、犬(狼ですが)が飼い主の靴下を欲しがるのは親愛の証であるとか、飼い主の匂いがついたものを持っていると安心するだとかの習性について知った私が興奮して鼻血を出すことになるのは、また別の話。




12月は体調を崩したり忙しかったり病んだりしていてお休みしていましたが、最近はそこそこ元気です。
さておき、次回のお話でこの作品を一区切りさせようかなと考えています。
あくまでも、最終回ではなく一区切り。

一区切りさせたあと、どうするかはまだ迷っています。

とりあえず候補としては……
・おんかじトリオ(恩納、勝、辻)が主役の長編を書く
・九重 vs 白玉教を書く
・pix◯vの『登場人物紹介』だけで済ませているエピソードを書く
・本を作って即売会に出る
……のどれかになると思います。

そんな感じです。
ひとまず次回を頑張って書きます。

感想は毎秒お待ちしていますので、是非ください。
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