狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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お久しぶりです。
新しいお話が書けました。

新キャラは沢山出るし、飼い主さんが主役なのでいつもの雰囲気ではないかも知れませんが、読んでくれたら嬉しいなって。

時間軸は「居酒屋トーク」と同日です。


スピンオフ:九重びより(前)

☆喜結院サイド

 

 白玉教、本部ビル。

 私の居住スペースにて。

 

 プルルル

 プルルル

 

『はい』

 

 私からの定時連絡に出た蝶々の声は、いつもと変わらず落ち着いていた。

 

「九重氏の件、首尾はいかがですか?」

『ご安心ください。すでに始末は完了しております』

「ほ。なんと、さすがの手際ですね」

『恐れ入ります』

 

 まさかまさか。

 失敗するとまでは思っていなかったものの、これほど早いとは。これはこれで思いもよらないこと。

 どうすれば九重氏を確実に始末できるか、あれやこれやと思考を巡らせはしたものの、結局はいつも通り蝶々にやらせるのが一番早かった。

 

 しかしまあ、なんとも。

 言いかたは悪くなるが、思えば九重氏には随分と手こずらされた。

 そんな方とのお別れがこんなにあっさりとしたものになるというのは、なんだか奇妙な感慨のようなものが湧いてくる。顔をあわせる機会には恵まれず、あちらが我々のことを知っているかどうかも分からずじまいではあったが、長らく奇縁とでもいうべき関係性で繋がっていた。

 

 単なる偶然か、それともなにかの意図があったのか。それは定かではないが、我々に多大な不利益をもたらす性質のトラブルが起きる時、その裏では必ずといっていいほど九重氏の名前がちらついていたのだ。

 ある時はトラブルの関係者として。

 またある時は直接の原因の候補として。

 それでも、これまでは本当に九重氏が関与しているかどうかの確証が持てなかったこともあり、邪魔に感じてはいたものの迂闊なことができず『またか』と苦い顔をするだけというようなことも多々あった。

 

 ところが、少し前に私の世話係として迎えいれたふたりから九重氏から直接被害をうけたという話を聞いた。

 そのふたりによると、九重氏の手によって元の雇用主が亡くなったことで職を失う羽目になり、それが理由でここへ来た、と。

 詳しく聞けばその亡くなった元雇用主というのは、我らが白玉教にとっても非常に重要な取引相手だったお方。

 つまり、この話によって晴れて(と言うのもおかしいが)九重氏の行動が我々に多大な不利益をもたらしていたことが確定した。

 言ってしまえば、報復を行う理由ができたのだ。

 それからは九重氏の暗殺を試みる機会も何度かあったが、いずれも失敗に終わっていた。

 

 そして起きたのが、九重氏の自宅と目されていた家屋の焼失。

 元よりあちらこちらから恨みを買っていたとされる九重氏。我々が手を下すより先に、どこぞの勢力が暗殺を成功させたのだろうと、最初はそう考えていた。

 しかしその後、どれだけ経っても九重氏の死亡の報は流れてこず、それどころか当たり前のようにまだ生きているという噂まで浮上する始末。

 というか、まあ、実際に生きておられたわけで。

 

 そうこうしている間に今度は信頼できる筋からの情報で、本当に九重氏の生存および九重氏が別件でまた我々に不利益をもたらしていたことが発覚した。

 さすがにこれ以上対応を遅らせるわけにはいかぬということで、急ぎ九重氏の所在を調べあげて蝶々を遣わし、今に至るというわけ。

 

『あの……?』

「ああ、すみません。物思いにふけってしまいましたね」

 

 なんにせよ、長い戦いが終わったのだ。

 諦めず、耐えて耐えて耐え忍んだ先にこそ光明がある。苦しくとも好機の到来を信じて耐えつづければ、いずれは状況の打破に繋がる。

 それはまさしく、我が白玉教の教義の本質。

 

「それでは、お気をつけてお戻りください。本部でお待ちしておりますので」

『本部といいますと、ええと……』

「ええ、我らが白玉教の本部ビルです。なにか?」

『ああ……郊外のあそこですね。いえ、なんでも』

「すでに人払いは済ませて、信者のみなさんにもお帰りいただきました。今は私のほかに舞と愛武しかおりませんから、4人で簡単にお祝いでも致しましょう」

『……分かりました。では、これから向かいます』

「ほほ、楽しみにしておりますね。それでは」

 

 ピ

 

「蝶々ネキ、殺ったんだ?」

 

 舞の声が耳許で聞こえた。

 私の世話係として迎えいれたふたりのうちの一人、五階堂舞(ごかいどう まい)。

 私の肩にもたれかかり、ニヤニヤしながら話に聞き耳をたてていたのだ。

 

「そのようですね」

「そっかぁ~、アタシも行けばよかったかな。死ぬとこ見たかった」

 

 ぼやくように言いながら、手にもった包丁を弄っている。

 この子は料理が得意だからという理由で常に包丁を持っている。人に向けるようなことはしないので大丈夫だとは思うが、包丁を持った人間が至近距離に居るというのは、少し心臓に悪い。

 

 世話係のもう一人のほう、五所側川愛武(ごしょがわがわ らぶ)は我々の話を聞いているのかいないのか、私の後ろに立って酒(ストロング缶)にストローを刺して飲んでいる。

 この子はあまり喋らず、表情も変化に乏しいので何を考えているかよく分からないところがあるが、夜のほうは間違いがない。

 

「アタシらの前の職場から脱走した『兎』を取っ捕まえて送りこんだりもしたけど、あれも失敗してどっか行っちゃったもんねぇ」

「そんなこともありましたね」

「……そーいえば、九重んとこにも『狼』が居るはずだけど、それはどうなったんだろ」

「そうなのですか?」

「うん。前の職場で、メイド隊長が偵察に行かされてたから間違いないはず。だよねぇ、らぶちん?」

「ん」

「ほう……まあ、それに関しても蝶々が帰ってきたら聞いてみましょうか」

「あそっか。これからお祝いすんだっけ」

「ええ。飲み物と軽食の準備をお願いできますか?」

「りょーかい。じゃ何か軽く作ってくるね」

 

 メイドに『隊長』という階級があることは初めて知ったが、まあそれはいい。

 ようやく肩の荷が降りたのだ。

 今夜は楽しむとしましょう。

 

☆九重サイド

 

 ピ

 

「しーおわり?」

「うん、しー終わり」

 

 しーできて偉い。

 あまりない機会だけど、電話中はナーナには静かに(=しー)してもらっている。

 お陰さまで、どうにか滞りなく話を終えることができた。

 

 さて。

 

「ナーナ、けってないよ」

「うーん……本当は?」

「けった……」

「蹴ったねぇ」

 

 なんのことかと言うと、いま目の前に転がっているお姉さんについて。

 失礼は承知のうえで『転がっている』と表現するしかない。気絶はしているけど、倒れてはいない。何ぐり返しっていうんだっけな、この体勢。こんなの、ナーナの寝相ぐらいでしか見たことがない。

 チャイナドレスなんか着ちゃって、絶対クール系キャラでいこうと思っていただろうに、これは気の毒と言わざるをえない。

 

「でも、でも、やさしくけったもん……」

 

 手をもじもじさせて、声も徐々に小さくなりながらも弁解を試みるナーナさん。

 優しく蹴ったというのは、たぶん『手加減した』と言いたいんだと思われる。足だけど。

 まあ、考えてみればナーナが普通の人間をまともに蹴っ飛ばしたのは初めてのこと。辻さんには一発も当てたことがないし、恩納さんはたぶん、蹴っても悦ぶだけであんまり効かないし。

 ナーナとしても、蹴った相手がこんなに飛ぶとは思ってもみなかったんだろう。

 

 なぜこんな状況になったのかというと。

 単純な話、我が家でナーナとのご飯中にこちらのお姉さんが襲撃してきたのだ。

 

『喜結院さまのご命令により、あなたの首をいただきばうむ』

 

 といって、お姉さんは背後からナーナに蹴られて、隣の部屋まで吹っ飛んだ。『いただきばうむ』になってしまったのは、口上(?)の途中で蹴られたから。

 ちょっと美味しそうだなと思った。

 いただきバウム。

 

 念のために補足しておくと、ナーナが他人に危害を加えることはほぼないし、もちろん私がナーナを他人にけしかけることもない。ただ、私の身に危険が及ぶとナーナが守ってくれることはある。

 私がムームに襲われた時は割って入ってきてくれたし、今回の件もそういうこと。

 

「ナーナは私を守ってくれたんだもんね?」

「そうなのー!」

 

 なのでまあ、人を吹っ飛ばしたのは悪いことなんだけど、怒るに怒れない。実際にナーナのお陰で助かったんだし。

 お礼にジャーキーをあげて、頭を撫でた。

 

「ありがとうねぇ」

「んふふふふ~」

 

 さて、それはいいとして。

 吹っ飛ばし後、このお姉さんが持っていたスマホに着信があったので咄嗟にお姉さんの声と口調を真似て話をあわせたところ、お相手がお姉さんも言っていた『喜結院さま』で、さらに話の流れでその本拠地っぽいところに行くことになってしまった。

 このお姉さんが起きてくれれば、さっさと帰ってもらってそれで終わりにもできるんだけど、まあお姉さんが起きるにはまだしばらくかかるだろう。

 

「……行くかあ」

 

 正直いってすごく面倒くさいけど、そうも言ってはいられない。

 行くって言っちゃったし。

 

「おでかけ? ナーナもいく?」

「うーん、ナーナはお留守番かな」

「えー……」

「このお姉さんが起きるかも知れないから、一緒に居てあげて?」

「わかった!」

「ごめんなさいもしようね」

「うん」

 

 それから。

 お姉さんをベッドに運び、お姉さんに読んでもらうためのメモを書いてナーナに持たせた。このお姉さんのターゲットは私だから大丈夫だとは思うけど、一応ナーナに手を出すような気を起こさせないため。まあ手を出したところでまた『ばうむ』だろうけど。色んな意味で、余計な怪我を増やさないため。

 ついでに『ナーナにもおてがみちょうだい』と言われたので、それはそれで書いてあげた。

 

 さて。

 電話の内容から、相手の数が最大三人であること、建物の中にいること、その建物内には他に巻き込む可能性のある人は居ないらしいと分かっている。

 

「……ふーむ」

 

 ちょっと寄り道して、車を借りていこう。

 この間、潰れてしまった『事務所』に丁度いいのがあったはず。

 

 早く終わるといいなあ。

 

☆登場人物紹介

 

・喜結院桃鶴(きゆういん とうかく)

 新興宗教『白玉教』の教祖。お金が大好き。

 裏で色々と悪いことをしていたが高確率で九重に(たまたま)台無しにされるので、けっこう怒っている。

 

・蝶々

 喜結院の側近のチャイナドレスのお姉さん。暗殺スキル持ち。

 白玉教の教義には心酔しているが、正直いって喜結院にはとっくに失望している。

 喜結院の指示で九重家を襲撃するが返り討ちにあい、九重家のベッドでナーナに見守られたり見守られなかったりしながら療養中。

 

・五階堂舞(ごかいどう まい)

 喜結院の世話係のミニスカメイド。ウェーブがかったセミロングのツインテール。髪色は向かって左が赤で、右が黒。染めているので頭頂部は黒い。

 以前勤めていたお屋敷を九重に爆破されて無職になったのち、喜結院に雇われた人。

 喜結院のことを『きーくん』と呼ぶ。

 お料理が得意なので常に包丁を持っている。

 

・五所側川愛武(ごしょがわがわ らぶ)

 喜結院の世話係のミニスカメイド。黒髪の姫カット。男。

 以前勤めていたお屋敷を九重に爆破されて無職になったのち、喜結院に雇われた人、その2。

 よくストロング系のお酒やエナドリの缶にストローを刺して飲んでいる。

 エッチなことが得意。

 なんでもできる。なんだってできる。

 

・九重(ここのえ)

 ナーナの飼い主。

 淡白なようでいて、ものすごく面倒くさい人物。

 よく命を狙われる。




続き、がんばって書きます。

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