狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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長くなっちゃったのでまずは喜結院サイドだけ
これまでに匂わせていた色々な描写を沢山回収しています

九重サイドはこれから書きます
頑張ります


スピンオフ:九重びより(後)喜結院サイド

 白玉教本部ビル、跡地。

 地下シェルターにて。

 

 跡地。

 

 私の城とも言うべき、白玉教本部ビル。

 それがつい先ほど、跡地と化してしまった。

 正確には瓦礫の山だが。

 いや、さらに正確に言うならば地下シェルターへの退避後に『大きな爆発音』とその直後の『建物が倒壊する音』を聞いただけなので、そう考えれば瓦礫と化したのが別の建物である可能性もなくはない。なくはないのだが。

 まあ十中八九、爆発したのは我が白玉教本部ビルの1階に突き刺さっていたという4tトラックであろうし、倒壊もそれによるものだろう。

 

 とても、つらい。

 

 しかしまあ、ある意味では幸運と捉えることもできる。これほどのことがありながら、現状私は無傷なのだ。

 地上に戻った暁には、さすがは教祖さまと信者たちに祝福をもって迎えられることだろう。

 この場所は私と蝶々、そして舞と愛武しか知らない。何も知らない者が見れば、本部ビルの爆発倒壊からの無傷での生還はきっと奇跡のように映るだろう。『辛くとも好機を信じ堪え忍ぶ』でお馴染みの白玉教、いまこそ堪える時。

 ひとまずはそれを励みにして、この状況を切り抜けるとしよう。

 切り抜けられればの話ではあるが。

 

 ともあれ、まずは整理。

 

 蝶々との電話を済ませ、お疲れさま会の準備をしながら彼女の帰還を待っていたところ。そろそろ戻る頃かと思ったタイミングでビル内に轟音が響きわたった。

 愛武に様子を見にいかせたところ、1階のエントランスに4tトラックが突き刺さっており、その場でなぜか花瓶を並べていた人物に『1階はもうすぐ爆発するので危ないですよ』と言われたとの報告をうけた。ついでに、その人物というのが先ほど蝶々が始末したはずの九重氏であるとも。

 なんとも、情報量の多いこと。

 

 愛武が九重氏の顔を知っていたのは他でもない、以前の職場が爆破された日に姿を見ていたからだそうで。

 なんにせよ。

 怨敵とも言うべき九重氏の言うことを真っ向から信じるのもどうかとは思ったが、1階で爆発が起きるというのならその上に居る我々は避難しなくてはいけない。そういった訳で、地下シェルターへ移動したところ、いくらもしないうちに爆発と倒壊の音が聞こえたというのが現在までの流れ。

 まあ、ビルは倒壊したが出口がないわけではない。仰々しく『無傷での生還』などとは言うが、別の出口から外に出ればそれで終わる話。

 しかし、ひとつだけ。

 そのままにしておく訳にもいかない、片付けなくてはならない問題がある。

 

 今、ここには私と舞と愛武、そして九重氏が居る。

 ちゃっかり、居る。

 呼んでもいないのに飲み会についてくる人のように、しれっと、自然に、居る。

 舞にも『きーくん、どーすんのこいつ』と耳打ちされたが正直どうしたものやら。

 あまりにも自然に居るものだから先ほどお互いに簡単な自己紹介などしつつ『いやあ参りましたねどうも』みたいな会話を交わしてしまったが、よく考えると、よく考えなくとも、九重氏がここに居るのはおかしい。そして非常にまずい。

 九重氏の始末を済ませたという蝶々の姿がないまま、九重氏が現れるということの意味。そして、九重氏はこの爆発と倒壊を引き起こした張本人である可能性が濃厚でもある。

 身の危険を感じる。

 しかし、このまま何事もなくお出口はあちらですさようならというわけにもいくまい。

 どうにもならないトラブルが起きた際に無理やり暴力で解決していただく、いわゆる『ケツ持ち』の方々にも高いお金を支払ってはいるものの、それも今回のような場合では何の意味もなさない。

 

 するか、対話。

 

「……どうぞ、お座りください」

「あ、どうも」

 

 九重氏に椅子を勧めて、舞に缶コーヒーを持ってこさせた。

 このシェルターには、仮にここに閉じこめられてもしばらく食い繋ぐことができる程度には食料の備蓄がある。

 冷蔵室も冷凍室も、それなりの大きさのものがある。食事も用意しようと思えば可能だが、今日は別に、まあ。

 まあ。

 

「それで……あの、お伺いしたいことは山ほどあるのですが」

「いいですよ、どうぞ」

 

 なんだろう。

 たったこれだけのやりとりで、早くも『話が通じなさそうだ』と予感させられた。

 既に不安だが、気を取り直して。

 

「まず、その……『蝶々』という女性がそちらを訪ねたと思うのですが」

「蝶々さん、ですか?」

「ええ、チャイナドレス姿の……」

「あ、この人ですかね。今はうちで寝ています」

 

 そういって、九重氏はポケットから何やら取り出してこちらへ差し出した。

 受け取って見ると、それは紛れもなく、蝶々の運転免許証(もちろん本名入り)だった。

 

「たぶんしばらく動けないと思いますが、ちゃんと生きていますよ」

「そ、そうですか」

 

 返り討ち。

 元よりそう考えるのが一番自然であるとはいえ、あまり考えたくはなかった。

 しかし、そうなると不可解なのは蝶々との連絡のなかでの言葉。

 

「蝶々ネキ、殺ったんじゃなかったの?」

「……そのはずです」

 

 ご本人を前にして言うのもおかしい話ではある。

 しかし舞も言うように、あの時の話によれば、九重氏の始末はあの時点で完了していたはずなのだ。

 

「ああ、あの時の連絡ですかね。あれは私です」

 

 九重氏は蝶々にそっくりな声で、そう言った。

 あの時、我々が蝶々だと思って話していたのは、蝶々の声真似をしていた九重氏だったということ。確かにそれならば説明がつくのだが、そんなめちゃくちゃなことがあるなどと誰が想定するだろうか。

 残念ながら、あったのだ。いま目の前で実演されてしまった。だから何も言えない。

 文字どおり、絶句するほかなかった。

 

 とは言え、黙ってもいられない。

 既に結構な疲労感に襲われているが、疲れている場合でもない。

 話はまだ済んでいない。全然済んでいないのだ。

 

「……次の質問です」

「あ、はい」

「このたびの、白玉教本部ビルの爆発と倒壊に関してお伺いしたいのですが……それも、あなたの仕業という認識で間違いありませんか?」

「ええ。ちゃんと全部倒壊したかは分かりませんけど」

 

 なんだか少しズレた返答をされたが、間違いはないようだ。

 

「トラックの入れかた、頭からじゃなくケツから入れてるあたり突入慣れしてるよね、きみ」

「ああ、あれはつい癖で……前から入れると危ないですし」

「並べてた花瓶も爆弾?」

「そうですね。1階さえしっかり吹き飛ばせれば建物全体を倒壊させられるので、そのために広めに配置を……」

「よーやるわ」

「どうも」

 

 なんだか愛武と会話が弾んでいるようだが、咳払いをひとつして軌道修正。

 

「ええと……つまりそれは、やはり我々に対する報復というか……」

「そうですね、報復というか反撃というか。こちらも一応、殺されそうになっているので、お返ししなくてはと」

「……なるほど」

 

 一応、筋は通っている。

 要するに、蝶々が秒で返り討ちに遭い、反撃のために九重氏が乗り込んできたというのが現在の状況。

 しかし。

 

「それを言うならば……そもそも我々があなたの命を狙うのも、原因はあなたの側にあるのですが」

「え、そうなんですか?」

「はい。あなたの行動によって、我々はたびたび多大なる不利益を……え、あの、ご存知ないのですか?」

「ええと……すみません、言われれば思い出すかとおもうんですが、例えばどの話ですか?」

「……」

 

 絶句に次ぐ絶句。

 まあ、九重氏の行動がことごとく我々に不利益をもたらしていたからといって、さすがにその全てが意図的なものであるとまでは考えていなかった。

 だが、それと同様に、まさか何ひとつ心当たりがないというような反応をされるとも思っていなかった。

 

 しかしまあ、段々とわかってもきた。

 いちいち絶句していては九重氏との会話はできないのだと。

 

「富之山豪豪氏、ご存知ですね?」

「あー」

 

 さすがに忘れてはいなかったようで安心した。

 いや、安心するのもおかしいが。

 

 富之山氏、彼は自室で謎の爆発によって亡くなった。

 報道などでは爆発の原因は不明とされているが、真相は九重氏が仕掛けた爆弾によるものであると、舞と愛武から聞いている。

 富之山氏が亡くなる直前、彼は九重氏と会って話していたのだ。

 

「彼は、我々にとって非常に重要な取引相手でした。それに……ここに居る、舞と愛武も元は富之山氏のところで働いていたメイドなのですよ。富之山氏が亡くなったことで、職を失ったふたりです」

「そうなんですね。あ、じゃあそのお二人も天井に張り付いたりできるんですか?」

「なんですかそれは」

「……そんなんできるの、メイド隊長だけだって」

「元、ね」

「メイドに『隊』ってつくことあるんだ……」

「ってかあの屋敷、癖の強いメイドも多かったけどアタシらなんか全然まともなほうだったよ」

「はあ」

 

 苦々しげな顔をして反応する舞と愛武。

 にわかには信じがたいが、当時の同僚にそういう人が居たのだろう。『天井に張り付いたりできる』って、なんだ。

 それは果たして『そういう人』で片付けてもよいのか。

 

 まあ、ものすごく気になるが今それを深く考えても仕方がない。

 掘り下げたい気持ちを抑えて、話を戻そう。

 

「……他にも、我々が密かに販売を行っていた『お薬』が摘発された件に関しても、あなたが大きく関わっていると聞いております」

「それって……もしかして、料金表やらなんやらを図書館の本に挟んで隠していた……」

「やはり、ご存知でしたか」

「まあ……あれを見つけて通報したのは確かに私ですけど、その情報が漏れるとは思いませんでした」

「ほほ、あなたから通報を受けた当人が親切に教えてくれたのですよ」

「……署長さんが、ですか?」

「いかにも。警察署長である彼のお孫さんを一時的に『お預かり』させていただいたことがありましてね、お迎えにいらした彼が話してくれたのです」

「『お預かり』……ですか」

「ええ、何か?」

「いえ」

 

 少し、喋りすぎてしまったかも知れない。

 

「ともあれ……いま挙げたように、あなたの行動によって我々が被った損害はとても甚大なものなのです。申し訳ありませんが、その命を狙わせていただく理由としては十分かと」

「そうなりますかね」

「ええ」

「ふーむ……」

 

 九重氏はアゴに指をあててしばし考え込んだのち、口を開いた。

 

「もし……仮にですけど、私があなたたちにとって不利益になるような行動を控えると言えば、それで終わりになりますか?」

「……検討はさせていただきますが」

 

 九重氏に対する報復感情はある。

 あるにはあるが、こちらとて、報復のたびにこのような『反撃』をされていては命がいくつあっても足りない。ビルも足りない。

 今さらだが、どちらかが折れて済む話ならばそれもいいだろう。

 しかし。

 

「まあ、無理なんですけど」

「でしょうな」

 

 話しながらも、そんな気はしていた。

 これまでの九重氏の反応の薄さから察するに、九重氏が我々にもたらした不利益の数々は、恐らくひとつ残らず『たまたま』の産物なのだ。

 たまたまである以上、控えたり辞めたりできるものでもないだろう。

 

 そして我々も、もはや『九重氏に邪魔されて困るようなこと』を控えたり辞めたりできる状況にはない。『ケツ持ち』の方々とのお付きあいもあるのだ。

 あちらもあちらで、最近何者かに事務所をひとつ潰されて大変だと聞いているが、それはさておき。

 

「つまり……どちらかが死ぬまで、この関係性は終わらないということでしょうか」

「そう、なりますかね」

 

 そこまでは言っていない。

 言っていないが、考えれば考えるほど、そう考えるしかない。

 

「当たり前ですけど、私は大人しく殺されるつもりはありません。今の暮らしが楽しくて仕方ないんです」

「ほほ……そうですか」

「ええ。ですから、私の今の暮らしを壊そうとするのであれば全力で抵抗します」

「……このようなタイミングになり申し訳ないのですが、我々があなたを雇い、味方として迎え入れるという手段もありますよ?」

「お断りします」

「でしょうなあ」

 

 信頼など、ないに等しい。

 それはお互い様だが。

 

「今後とも、殺意を向けられれば殺意でお返しします」

「……やってみなさい」

「はい」

 

 この関係性を長く続けても得はない。

 ここで討つしかあるまい。

 幸い、ここならばいくらでも隠すことができる。

 私一人では心許ないが、ここには舞と愛武も居る。なんとかなると信じて、やるしかない。

 

 私は、懐に忍ばせていた文字通りの懐刀に手をかけた。

 

 が、同時に悟りもした。

 考えが甘かった、と。

 

『今後とも、殺意を向けられれば殺意でお返しします』

『……やってみなさい』

『はい』

 

 たった今。

 そのまま、文字通りのやり取りをしたばかり。

 私が懐刀に手をかけたから。殺意を向けたから。

 九重氏は、すでに構えていた。

 

 淡々としている。

 先ほど『いやあ参りましたねどうも』などと言葉を交わした時と表情が変わらない。きっと、ビルに爆発物を満載した4tトラックを入れる時も同様だったのだろう。

 そういう人なのだ。

 だから私に殺意を返す時も、こんなにも自然で、無造作で、淡々としている。

 そこには躊躇もなにもない。

 

 九重氏が私に向けた、玉のように真ん丸の銃口が、白く光るのが見えた。




九重サイドを書くか
ムームが恩納さんからお小遣いをもらうお話を書くか
ナーナの雨の日の散歩を書くか

迷っちゃいますね
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