狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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疲れちゃったね。
ちょっと眠ろうか。


ナーナねむり

 我が家には、狼が住んでいる。

 名前はナーナ。

 

 私がナーナを拾った日から、何年が経っただろう。

 ナーナがこの家を出ていく時のことについて想像を巡らせたこともあった。ナーナにとって理想のオスが現れてその子と暮らすことになるとか、ナーナが私やこの家に愛想を尽かすとか、色々な可能性を考えた。

 結果としてそれらの思考は全てが無駄で、最後までナーナがこの家を出ていくことはなかった。いや、厳密にはまだ最後の時を迎えてはいないけれど、そうなる可能性は限りなく高い。たぶん。

 近頃のナーナは昔のように走り回るどころか出歩く体力もすっかりなくなり、ベッドの上で過ごす時間が長くなった。

 怪我でも病気でもない。

 原因は、老化。

 元々、ナーナは成長が恐ろしく速かった。

 まあ速いというのは少し語弊があるかも知れない。人間から見れば速いというだけで、狼としては標準。一説によれば、メスの狼の寿命は14,5年程度が標準らしい。そう考えれば、不思議でもなんでもない速度ではある。

 ナーナを拾った当初は幼かったとまではいかないものの小柄で痩せていた記憶がある。でも、それから数年でどんどん成長して大きくなった。ピーク時にはプロレスラーかと思うほどがっしりとした体型になってしまい、サイズの合うワイシャツを探すのに苦労したりもした。今となっては何もかもが懐かしい。

 そして、成長の速度は老化の速度でもあるということ。

 現在のナーナは、あの頃に比べるとすっかり痩せて小さくなった。黒かった髪はほとんど白くなり、抜け毛も増えた。

 大好きだったビーフジャーキーを噛む力はもうなくなり、食事は老犬用の柔らかいドッグフードを少し食べるだけ。まあ食欲がないわけではなく、そもそもの食べられる量が少なくなっただけのようだ。胃が小さくなったというのが正しいかも知れない。

 スプーンを使って食べるのが好きなのは、ずっと変わらない。

 食事が終わると、寝室に引っ込んでお気に入りの毛布に包まっている。寒いのかと聞くと『寒くない』と答えるけれど、本当に寒くないのか意地で言っているのかはよく分からないので、念のため部屋を暖かくしている。今のところ『暑い』とは言われないので、とりあえずこれでいい。

 私も寝室で過ごすことが多くなった。

 ベッドの脇で本を読んだり、ナーナと話したり、一緒にベッドで眠ったり。仕事も休んで、なるべく一緒に居てあげるよう努めている。

 可愛いねと言って頭を撫でてあげると、しわしわの顔をもっとしわくちゃにしてにっこりと笑う。そして、同じくしわくちゃの手で私の手をとり、嬉しそうに頬ずりをする。

 たぶん、というかほぼ間違いなく、ナーナがこの家を出ていくことはない。でもきっと『さよなら』の時は近い。

 その時を迎える、その日まで。

 残り少ない日々を、大切に。

 

 そう、思ったところで目が覚めた。

 

 えらくリアルな夢だった。

 部屋を見渡すと、まだ暗く朝日も差し込んでいない。早朝というよりは深夜といったところ。早起きさんのナーナもまだ起きていない。

 そう言えばと思って隣を見ると、ナーナが私の手を掴んで頬ずりしながら、その手を枕にして気持ちよさそうに眠っていた。

 なるほど、夢の原因はこれか。

 

「よだれが…………」

 

 まあ、なんだ夢だったのかで済ませる内容でもなかった。ナーナと長く暮らすことになれば、いずれは今見た夢のような日を迎えることにもなるだろう。

 覚悟はしておこう。

 そして私は、枕にされているほうと反対の手でナーナの頭を撫でた。

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