狼少女を拾ったら飼うことになってしまった。   作:紅福

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いばり。『威張り』ではありません。
じゃあなんなんでしょう。
変換してみると分かるかも知れません。


ナーナいばり

 我が家には、狼が住んでいる。

 名前はナーナ。

 

 つまり、ナーナは狼だ。

 狼のはずだ。少なくとも犬扱いされると怒る。

 とは言え、あくまでもナーナの自己申告だから、ナーナが狼である証拠がないと言えばない。でもわざわざ確かめようとも思わないし、確かめる方法も特に思いつかないので普通に狼だと思っている。

 でも、たまに、この子は本当は自分のことを狼だと思い込んでいる柴犬かなにかじゃないかと思うことがある。

 

 端的に言えば、ナーナはアホだ。

 

 まあアホな狼が居ても変ではないとは思うし、事実上アホの例として柴犬を出したのは柴犬に失礼だったかも知れない。賢い柴犬だって沢山居る。それこそ、ナーナより賢い子だって居るわけで。

 閑話休題。

 どちらかと言えば親バカの部類の私が擁護を諦める程度には、ナーナはしっかりとしたアホだ。間違っても『うちのナーナちゃんはお利口さんなんですぅ~』とは口が裂けても言えない。お利口さんは尻尾をぶんぶん振りながら生ゴミの匂いを嗅いだりしないので。

 

 ただ、考えてみればナーナは拾った子だから正確なところは知らないけれど、年齢はまだ一桁台のはず。人間に換算すればとっくに成人している年齢とはいえ、それはあくまでも肉体面での話。生まれてから現在まで過ごした年月が変わるわけではない。狼としてのペースで成長するものだから身体つきだけはどんどんみっしりとしていくけれど、中身は『○歳児』と呼んで差し支えないものになっている。

 アホと言うよりは、歳相応に幼いだけなのかも知れない。

 しかしまあ、どうだろう。同年代の人間の子供と比べたら、ナーナの知能は標準レベルと言えるだろうか。

 

 うーん。

 うーーん。

 あまり深く考えないほうがいいような気がする。

 

 視点を変える。

 他の狼と比べてみた場合どうか、と考えてみる。

 そうなるとムームがどう見ても賢いお陰で、ナーナは狼としてもそんなに賢くはないんだろうなという想像が容易に働いてしまう。悲しいことに結論は変わらない。揺るぎない。

 ただまあこれに関しては、ムームが標準以上に賢すぎるという可能性も十分にあるけれど。

 つまりムームは賢すぎるし、ナーナはアホすぎる。

 たぶん、ムームとナーナのちょうど中間ぐらいが狼にとっての標準なんじゃないかなと思う。知らないけど。

 

 要するにナーナのことをただアホと言うと語弊が生まれてしまうのだ。中身が歳相応に幼いからそう見えるだけという点を加味してあげないといけない。とは言え、同年代の人間や狼に比べたら標準なのかと考えると、そこは遺憾の意を示さなくてはならない。どこからどう見ても、きちんとしたアホ。

 だから、加味すべき色々な事情はあるにしろ『端的に言えば、ナーナはアホ』なのだ。

 まあ、ここまで散々アホアホ言ったけど、アホであることが悪いとは思っていない。アホだなあと思うだけ。時代は多様性。

 

 そうしてナーナの中身の幼さに思いを馳せたついでに、ナーナの見た目が幼かった頃、つまり拾った当初の頃の思い出に思考をスライドさせる。

 トイレトレーニングにもまぁーーー苦労した。

 拾った当初、ナーナは水洗トイレのことを水飲み場だと思っていた。それがつまりどういうことなのか、深く考えるとこちらのメンタルがダメージを受けそうだったからとりあえずそこからは目を背け、とにかくそこは水飲み場ではないんだよと教えることに専念した。そのために、恥ずかしながらトイレの使いかたを実演してみせたこともあった。

 それでもなかなか覚えてくれなかったものだから、アプローチを変えて『じゃあ要するに水飲み場はどこなのか』という点を明確にするために水道の使いかたを教えたら、それはそれでまた覚えてもらうのが大変だった。蛇口をひねる力加減が難しかったようで辺りを水浸しにしたことも一度や二度ではない。最終的にナーナ用のコップ(プラスチック)を買ってあげたことで、ようやくナーナが水道を使いたがるようになってくれた。それに伴ってトイレの使いかたも理解してくれて、それで事態は沈静化した。

 大変だったなあ。

 

 幼い繋がりで言うと、ナーナは教育テレビが大好きだ。年齢的にもなにか琴線に触れるものがあるのか、よく観ている。テレビで覚えた体操を真似して見せてくれることもある。

 お留守番の最中の暇潰しとしてリモコンの使いかたを教えてあるから、他のチャンネルも見ようと思えば見られるはずだけど、教育テレビ以外のチャンネルに興味を示しているところはほとんど見たことがない。ビーフジャーキーのCMを見た時に、よだれを垂らしながらこちらに意味ありげな視線を向ける程度。

 

 怖い番組はどうやら苦手らしい。

 教育テレビにも、なかには怖い番組が時々混じっている。明らかにホラーとして作られたものもあれば、ホラーではないんだけど雰囲気が独特なせいで多くの子供のトラウマになってしまうものまで。

 そういうものを見てしまうとナーナは目に見えてテンションが低くなるし、一人でトイレにも行けなくなる。そして怖さを紛らわすためか、水を飲む頻度が上がる。

 更に、ナーナは臆病な癖に強がりなので『怖いから一人でトイレに行けない』とは絶対に言わない。そこはこちらが察して、黙ってトイレについていってあげたり『自分がトイレに行きたいからナーナについてきてもらう』という体裁を取るなどしなくてはならない。

 そうしないと、どうなるか。

 ここまでが前振り。

 ここからが本題。

 

 とある夜の会話。

 

「ナーナ、寝るよ」

「ううぅん」

「どうしたの?」

「なんでもない……」

「トイレ行く?」

「いかない」

「本当?」

「ほんと」

「じゃあ、行きたくなったら起こしてね」

「だいじょうぶ」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみー」

 

 そして翌朝。

 布団に湿り気を感じて目を覚ました私が見たものは。




尿(いばり)。
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