グリーンだけどレッドに勝てない   作:ぐりーん

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VSピカチュウ XX / プロローグ

 

 ゲームにおけるポケモンのステータスを決定する要素として種族値・努力値・個体値からなる三値というものがある。あくまでゲームのパラメータであるし、グラフィックでない生き物としてのポケモンの能力は数値として目に見えるわけではないので完全にそれらの概念が定着しているわけではないだろうが、部分的に通ずるものはある。

 

 種族値なんかは一番分かりやすいか。生き物としての多様性、それによる明確な差異。

 ゲームではある程度レベル差があればどうとでもなるが、現実においては鼠が熊にはまず勝てないように、体格差や筋力量からくる生物としての強度の差はゲームより顕著とも言える。

 

 次に努力値。ゲームでは数値の上では合計510まで振ることができ、1つのステータスに対しては最大255(切り捨て値云々はおいとく)まで。努力値を振ることで比例した数値をステータスに上乗せできる。つまりその限られた配分のなかで如何にそのポケモンに適した自慢の調整を施すことが出来るかという、ゲームにおいては戦略を決定づける上で最も重要な要素であった。

 翻って現実ではどうかというと、もちろん努力や経験による蓄積は同種族の個体と比較すると目に見える違いを齎す訳だが、明確に数値として現れる訳でもないので、ゲームの要素をしっかり踏襲しているかは分からない。

 強いて言うのであれば上限値の要素は感じる。鍛えれば無限に強くなるわけでは当然ない。技量は兎も角、筋トレで得られる効果には天井はあった。

 ただ、全体で振ることが出来る努力値の上限。これはあまり感じない。ゲーム的に言うなら全ステに255振れる感触だ。もちろん筋力量を上げすぎて敏捷性に影響が出るとかはままあるのだが、他のステを上げきったあとで、いざ別のステを鍛えようとしたら何故か一向に成長しないというような謎現象は起きない。

 

 とまあ、ゲームと現実のポケモン育成における類似性や差異について語ってきたが、俺が思うゲームの仕様とはもっともかけ離れているパラメータが個体値だ。

 要するにその個体としての才能を表すパラメータで、同種であっても最終的なパラメータの上限が変わってくる。

 6Vが云々というのは今ではポケモンを詳しく知らない層にも結構知れ渡っているだろう。対戦においては型に応じて有効でないステを除いた5V以上の個体を前提として戦略を組む。相手の物理攻撃力を参照するイカサマ対策でこうげきのみ逆Vと呼ばれる補正ゼロの個体値を持つポケモンを採用するケースもあるが、まあそこは余談である。

 

 でだ、ここで言う才能というのはフィジカルエリートであるか否かを指すのだが、俺から言わせれば明らかに身体能力の範疇に収まらない才能を持っていたり、個体値という言葉で片付けられない、同種と比較しても隔絶した能力を持つ個体が存在する。これらの個体を指し示す言葉は見聞きしたことがないので、便宜上俺は異常個体と呼んでいる。

 俺が観測した異常個体を列挙すると、筋肉密度が通常種の10倍はあるカイリキーとか、動体視力が異常すぎてこうそくいどう中やしんそくの軌道上に置き撃ちして急所を的確に射抜いてくるインテレオンとか、"リフレクター"と"ひかりのかべ"を複合した障壁を複数展開してシールドビットみたいに運用するフーディンとかが該当する。

 正直、どいつもこいつも個体値とかVとかいう一言で済ませていいような奴らではない。そんな外れ値のような異常な個体がこの世界には確かに存在する。

 

 そして、今俺の目の前にいるピカチュウもその中の一角だ。

 

 .........正直早すぎて目で追えねえ。

 紫電を纏って高速で飛び交うその姿は凄まじく速く、夜景のような光跡しか目で捉えることができない。

 

 ピカチュウのすばやさ種族値は90。まあそれなりの数値だが、上を見ればそこまで速くはない、ハズだった。

 このピカチュウは明らかにそこから逸脱している。一般ポケモンの中でも最速の"すばやさ"を持つテッカニンより体感上素早く感じる。

 

 種はある。ピカチュウの纏っている紫電こそがその素早さの正体の一つ。

 神経伝達バイパス。脳から肉体に流れるはずの電気信号を身体より素早く電気を通す空中から四肢に直接叩き込んで肉体を駆動させている。

 人間の反応速度の限界は0.1秒と言われているが、ピカチュウは人間よりも小柄なので更に短く、そしてこのピカチュウはそれよりも遥かに短い反応速度で動いている。

 つまり滅茶苦茶速く足を回転させて素早く動ける訳だが、それだけで光跡しか見えないような速度に至る訳がないので、他にも幾つかギミックがある。あるんだろうが、ぶっちゃけ他は何をやっているのか分からない。

 

 まあ、分からないなりにやりようはある。点や線で捉えられないのなら面で捉えるのが定石だ。

 

「ドサイドン、"ロックブラスト"!」

 

 とある細工に徹していたドサイドンが俺の指示でようやくピカチュウに戦意を向け始める。

 徐にその砲腕を掲げ、前方に突き出す。

 

 ドサイドンの両手には穴が存在している。そこに岩や土塊を装填して筋肉の圧力によって猛烈な勢いでそれを敵にぶつけるのが"ロックブラスト"。それなりの質力を馬鹿げた速度で射出するその技は質量兵器といっても差支えがなく、さながら固定砲台というような様相を呈している。

 

 無論、あのピカチュウ相手に的当てをするのはまずもって不可能だ。

 あれは的を絞らせないように出鱈目に動き回っているだけではない。

 射線上に攻撃を置こうとしても、思考と肉体の反応とのタイムラグが限りなく0に近いあのピカチュウは、相手の動きを見てからコンマゼロ秒で現在の速度を維持しつつ回避行動に移ることが出来る。

 

 ならどうするか、その対策は既に仕込んである。うちのドサイドンは仮想敵としてこのピカチュウとの戦闘のみを想定してチューンした、対異常個体ピカチュウ用のドサイドンだ。

 普通対策なんかしなくても勝てるはずなので、ピカチュウ用のドサイドンってなんだよって感じだが。

 

 んで、これが異常個体ピカチュウを倒すために仕込んだ策の一つ。

 

 通常"ロックブラスト"は筋力による加圧で一固めにした岩を吐き出す技だが、うちのドサイドンはそれをさらに圧縮し、粉々と言わずとも程よく砕き、一塊にした砲弾ではなく、いくつもの弾片を作り出すことができる。

 早い話が散弾銃だ。威力はかなり下がるが、攻撃範囲が格段に広いため、避けきれず、防ぎきれない。

 

 バトル開始前から事前に弾を装填し終えているドサイドンは既に砲撃準備を整えている。その構えを見て、ピカチュウはジグザグに的を絞らせない動きを始めた。

 まだ撃たない。彼我の距離はそれなりにあるが、それが理由ではない。

 ショットガンというとゲームでは有効射程が短い代わりに威力が高い武器として扱われるが、現実のショットガンの有効射程は30mから50mほど。ライフルと比べれば劣るが短すぎもしない。ドサイドンのそれもおよそ同じ程度。この距離でも十分に当たる。

 むしろ引き付けすぎると一瞬で懐に入られるからいますぐにぶっ放した方がいいのだが、それをいますぐに実行しないのはタイミングの問題だ。あれだけの速さだ、適当に撃つとタイミングによっては掠るくらいしかしない。ベストはピカチュウが地面を蹴って進行方向が定まったタイミングで着地地点に置き撃ちすること。

 といっても速すぎて目で追うのがやっとなので、見てから撃つなんてことはできないし。指示でワンテンポ遅れることを加味すると、不可能に近い。

 

 だがある瞬間だけは、ピカチュウの動き出しをこちらでコントロールすることができる。今発射タイミングを見極めるふりをしているのは、その布石だ。

 

「撃て」

 

 俺の指示に先に反応したのは、ドサイドンではなくピカチュウだった。

 

 アニメで描かれるポケモンバトルにおいては、トレーナーが指示しそれをポケモンが実行する、という構図が主流だ。ゲームのシステムを作劇に落とし込む上ではそう表現するしかないのもそうだし、現実のポケモンバトルの実態もそう離れてはいない。問題はその頻度だ。

 

 俺たちは逐一ポケモンの行動を指示するなんてことはしない。トップトレーナーが鍛え上げたトップアスリートたるポケモン達の目まぐるしく戦況が変わるバトルにおいては、はっきりいって指示を挟み込む隙はあまりない。ポケモンたちは自立して思考し、予め決めた戦略に則って行動する。

 むしろ下手に指示を出すと、ポケモンの動きが乱れて劣勢に陥ることすらある。

 故に俺たちはポケモンの邪魔にならないよう、慎重に指示出しの要否を見極める必要がある。

 

 それにだ、考えたことはないだろうか。ポケモンに指示した内容はそのまま相手にも筒抜けだ。

 「これからあなたをこういう風に殴ります」と、そう宣言しているようなもの。相手がどのタイミングでどう攻めてくるか分かっていれば対応は難しくないし、怖くない。

 トレーナーは言わずもがな、優れたポケモンは人語もある程度理解するし、指示出しは結構なリスクを孕んでいる。

 だからトップトレーナーは必要以上の指示出しはしないし、それすら暗号化していたり、符牒を予め決めておいて言葉を用いない意思疎通を図ったりする。

 

 だから、目の前の状況はいたって順当な結果と言えた。

 

 あの異常極まるピカチュウは当然のように人語を解する。思考と実行までの間隙が無に等しい奴の反応速度は手持ちたるドサイドンよりも遥かに速く、俺の掛け声と同時に回避行動を取っていた。

 

 いったいそのちっぽけな脳ミソで何をどうしているのやら、周囲の状況を高度に把握し、即座に実行してのけるそのバトルセンスは驚愕に値する。

 するが、想定通り。お前ならそれくらいはやってのけると信じていた。だから最初からソレは作戦に折り込んでた。

 

 ピカチュウの動きはまるっきり見えないが、俺の指示出しを受けてその対応を即座に実行してくるということは最初から読んでいた。

 つまるところ言い換えれば、それは俺がピカチュウの行動をコントロールできる唯一のアクション。

 

 ドサイドンに予め仕込んでいた指示がある。

 俺が撃てと命じたら、即座に射撃せず、一拍おいて相手の移動方向の先に撃ち込め。

 

 そこからは想像通りの結果となった。

 

 俺の掛け声に反応して動き出したピカチュウは、しかし即座にロックブラストを発射せず、見に入ったドサイドンを見てそれを罠と悟ったようだった。

 しかし既に地面を蹴やり、空中にいたピカチュウにはその瞬間、即座の方向転換は叶わなかった。

 そして、移動先を見切ったドサイドンの拡散型ロックブラストがその攻撃範囲にピカチュウを捉えた。

 着地の瞬間、通常のロックブラストと明らかに違う攻撃範囲の広さを見て取ったのだろう、ピカチュウは身を躱しての回避を諦め___超高速移動による攻撃範囲からの脱出を図った。

 これまでのようなジグザグな移動ではなく、直線的な距離を稼ぐ動き。はたしてそれにより散弾銃もかくやという石礫の嵐から一瞬で離脱する。

 と、同時に抜け目のないピカチュウは、直線移動による確実な隙を突き、ドサイドンのもう一方の砲身によるロックブラストを回避先に撃ち込まれるだろうということを読んだのだろうか、高速回避の瞬間に"みがわり"を生み出して、二方向に分かれた。

 

 正直上手いと思った。"みがわり"はよく見なくとも本体との見分けは容易だ。

 しかしこの刹那の判断が要求されるこの瞬間、"ロックブラスト"の影に隠れ目視が難しいこの場面において、どちらが本体かを即座に判断はできない。

 通常であれば二択を強いられるし、どちらを撃つか一瞬でも迷えばその間に体勢を立て直してくるだろう。

 

 だが俺の答えはいたってシンプル。どちらも撃つ。そんだけだ。

 

 一般的にドサイドンの砲腕から放たれる岩石砲の装填弾数は両腕分の二発のみ。それを凌がれれば、一度地面を掘削するなどして岩石や土塊を装填をしなければ次弾は撃てない。

 無論そんな分かり易い弱点をそのままにしてこの場に送り出すほど俺はバカじゃねえ。

 言うなれば刻み撃ち。装填した弾片を複数回に撃ち分ける訓練をドサイドンには仕込んである。無論一発あたりの弾幕の密度や威力は下がるが、ピカチュウの矮躯であればそれでも効果を見込める。

 

 "みがわり"諸共砕かんとドサイドンは一切の躊躇もなく二つの敵影に向けて散弾を撃ち放った。

 

「は?」

 

 ここまで読み通りだった試合展開。想定ではこれでピカチュウに痛痒を与えて、その足を封じる算段だった。

 しかしこの瞬間において想定していたどのパターンにも当てはまらないその行動に思わず困惑が漏れた。

 

 敵影の一つ、ドサイドンに向かってくる残像の片割れが、先ほどの回避行動から微塵も速度を落とさず直進、散弾の弾幕の中に進んで自ら突っ込んできた。

 

 一瞬やけっぱちかと思ったが、大きく踏み込み、既に宙空にあるピカチュウの姿勢には明らかな意図があった。

 足を突き出し、ドサイドンに対して姿勢を垂直にして飛び込んでくるそれは、被弾面積を最小限にせんと、咄嗟の判断で行われた最適行動だった。しかも足先に尻尾を掲げ、"アイアンテール"によって硬質化したそれを盾にしている。

 

 正直やばいと思った。ここにきて命中率と試行回数を重視して威力を疎かにしたツケが回ってきた。

 ピカチュウの"ぼうぎょ"力であれば容易くぼろ雑巾にできる程度の改良版"ロックブラスト"だったが、"アイアンテール"の衝突には力負けする。

 

 いっそ無慈悲なほど予想通りにピカチュウは散弾を凌いで間合いを詰めてきた。

 彼我の距離はおよそ10mほど。かなり近いしビビったが、まだ慌てる時間じゃ______は?なんか一瞬で背後を取られたんだが。"でんこうせっか"???これまでのは最高速度じゃなかったのかよふざけんな!

 

 ちょうやべぇ.........!。

 

 ドサイドンは寸胴みたいな体型に加え、短足で、しかも300キロはある重量級。別に悪口を並べたわけではないが、見てわかる通りその動きは鈍重極まる。振り向くという動作にさえ、数秒を要する。つまり背後を取られた今、ドサイドンは無防備な状況にある。

 

 反転が早い。慣性を感じさせない速度で、"でんこうせっか"からタイムラグなくドサイドンに向かってピカチュウが仕掛けてきた。

 

「"しっぽをふる"ッ!」

 

 内心くそテンパっていたが、思考だけは冷静に判断を下していた。

 

 "しっぽをふる"、ゲームにおいては相手ポケモンの"ぼうぎょ"ランクを1段階下げる変化技だが、この世界では別にそんな効果はない。尻尾を振ったくらいで岩や鋼が軟化するなら、それはそういう超能力と呼ぶべきだろう。まあ、敢えて言うなら相手の油断を誘ってガードを下げさせるくらいはできるかもしれない。それもリーグで出てくるような歴戦のポケモンたち相手に通用するとは思えんが。

 それはそれとして、俺が指示したのは読んで字のごとく、尻尾による迎撃。ポケスペでもこういう使い方をしていた記憶がある。

 背後の敵を攻撃可能なドサイドン唯一の技だ。たかが"しっぽをふる"と侮るなかれ。尻尾の先端にボール状の岩塊が着いたドサイドンのそれは、遠心力と重量によって最小限の動きで相手を撲殺する鈍器と化す。

 

 それをピカチュウの踏み込みタイミングで咄嗟に指示した。この距離だ。宙空にいる状態でこれまでみたいな回避行動は取れな_____まじかよ。

 

 ブラフを掴まされた。踏み込むと見せかけて、その場で足踏みしてピカチュウは静止していた。

 その眼前を猛然と振るわれたドサイドンの尾が敵を掠めることもなく通過する。完全にスカされる。

 

 今の行動を、死角にあるのでドサイドンは知覚できていない。つまり明らかに俺を意識した罠。こいつ、トレーナー相手に駆け引きを挑んで来た。バトルセンスじゃ片付けきれない異質さに、思わず恐怖がせりあがってくるのを感じたが、それ以上に一つの感情が胸の内から湧いてきた。

 

 ふざけやがって。意趣返しのつもりかよ齧歯類ごときがよ。

 

「なめんじゃねえよ!!!」

 

 ドサイドン特有の尾の形状により、"しっぽをふる"によって発生する遠心力はかなりのもの。それに逆らわず、片足を軸にその場で回転することにより勢いをもって振り向く。曲芸じみた動きだが、これまでのトレーニングの中でそれが可能であることはドサイドンに教えたことがある。それを想起していたのか、指示もしていないのにドサイドンはこの土壇場でそれを実行した。

 

 ピカチュウの"こうげき"力でドサイドンを仕留めるには"きゅうしょ"、即ち頭部への"アイアンテール"直撃が必須条件。ピカチュウとドサイドンの体格差から考えて、ピカチュウは攻撃するために一度跳躍する必要がある。

 

 嚙み合っていた。回転の勢いをそのままに"メガトンパンチ"を繰り出すドサイドンの攻撃と、"しっぽをふる"回避直後に跳躍し、宙にいたピカチュウ。完全な直撃コース。これまでのような超スピードによる回避などまずもって不可能な完璧なタイミング。

 対異常個体ピカチュウを想定し、それ以外をほぼ捨て去った歪極まる育成論によってなし得た、異常なまでの執念の具現たる俺のドサイドン。それだけのことを為して、漸く掴み取ったこの一瞬。

 

 それを当然のようにピカチュウは台無しにした。

 

 身動きの取れない宙空でピカチュウは一回転し、迫りくる"メガトンパンチ"に対して上から"アイアンテール"をかち当てた。そして、その流れに逆らず、"メガトンパンチ"の勢いを利用して大きく空へ飛びあがる。

 回避と攻撃準備を兼ねたその一連は神業と言うほかない。異常な身体操作によってなし得る、絶技。

 

 その時点で結果が見えた。空を飛んだピカチュウは更に回転し、自由落下と遠心力によって決してその矮躯のみでは発揮し得ぬ威力で以て、ドサイドンの脳天に"アイアンテール"を直撃させた。

 

 "きゅうしょにあたった!"ってやつだ。

 

 ドサイドンの巨体が力なく沈む姿を見て、諦観にも似た思いでボールに手をかけた。

 ドサイドンの"ぼうぎょ"力ならまだ"HP"は残っている。しかし、確実に脳震盪を起こした身体で無理をしても、待っているのは蹂躙だ。それにほぼ無防備な状態での頭部への直撃、脳へのダメージを考慮すれば、戦闘続行は不可能だろう。

 

「ばけものめ.........」

 

 幾度となくついた悪態に、ピカチュウは涼しい顔をして応えてくる。相変わらず、憎たらしいほどの不遜ぶりだ。

 

「だけどな、勝負はまだこれからだぜ」

 

 ピカチュウと、その先で佇むそいつを睨め付ける。俺のオリジンであり、人生の最終目標であり、ライバル。赤い帽子がトレードマークの、最強のトレーナー。

 

「なあ? レッドよ.........」

 

 能面みたいな面構えで、感情の読みづらいレッドが今この瞬間何を考えてんのか何を感じてんのか、長い付き合いだがさっぱり分かんねえ。もしかしたら俺と同じくらいこの勝負に入れ込んでくれてるのかもしれないし、歯牙にすらかけていないのかもしれない。

 だけどそんなことはどうでもいい。レッドがどう考えようとどうだっていい。たとえ手の届かない星に本気で手を伸ばすくらいの愚行だったとして、それは俺が諦める理由には決して足りない。

 

 星を撃墜してやる。どれだけ時間がかかっても。どれだけの代償があろうとも。泥を啜ろうが、手足が動かなくなろうが、何がなんでもこいつを倒す。

 それが俺だ。それだけが俺だ。目的も手段も理屈もなにもかも破綻していたとして、その一筋だけが、それこそが俺の生きる意味だ。

 

 ドサイドンを戻し、二匹目のボールに手をかけながら、いつもの俺らしく不敵に笑ってみせる。

 

 これは俺がレッドを倒すまでの物語だ。

 

 

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