グリーンだけどレッドに勝てない   作:ぐりーん

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VSレッド 1

 

 それは俺がトキワシティのトレーナーズスクールに通いだしてすぐの頃だった。

 健康優良児たる俺ともあろうものが、不覚にも熱を出してあまつさえ倒れた。40度を超す高熱にうなされ、しばらく寝入った俺は、全快してから俺の中にいつの間にかソレが入り込んでいることに気付いた。

 

 言ってしまえばそれは知識だった。見たことも聞いたこともねえような他所のポケモンの知識。そいつが何が得意で、どういう技を覚えて、どういう生態をしているか。ポケモン博士の爺ちゃんのとこに遊びに行っては色々と触らせてもらってる身としては、確かに同年代と比べればその手の知識が多いのはそうなのだが、明らかに異常な精度の知識であることは、寧ろその経験があったからこそ気づけたともいえる。

 

 それよりももっとおかしいのは、ポケモンを題材としたアニメやゲームの数々の知識だ。無論、その手の創作は現実にもごまんとありふれているので、その内容自体には特段思うところはないのだが、なぜかその中に俺が登場する作品が存在したことだ。

 

 俺ことグリーンはその作品における主人公のライバルとして存在していた。こういうの、なんて言うんだ?メタフィクションっての?結構な衝撃を受けた。つまり俺のいるこの世界はどっかの誰かが考えた絵物語ってことなのか?とかなんとか哲学的な思考に依っていきそうになったが、答えの出ないことを延々と考えることは頭が痛くなってくるのでやめた。

 問題はその作品での俺の扱いだ。言ってしまえば主人公のかませってやつ。ちょこちょこ主人公の前に現れては負ける、主人公が成り上がる上での試金石あるいは踏み台。挙句のさんぱちがチャンピオンになって速攻で主人公に負けたうえで爺ちゃんに説教されるってなんだこれ。

 

 むかつくぜ。一体全体この主人公_____レッドってのはどこの馬の骨だ。見たことも聞いたこともない、木っ端みてえなこの無口のコミュ障野郎に、トップトレーナーとなるべくして生まれたサラブレッドたるこの俺様がどうしてこうもボコボコにされにゃならんのか。

 

 まあ、所詮脳内に突然生えてきた泡沫みたいな妄想の産物だ。たかがゲームのシナリオ通りに現実の物事が進むわけがない。気にすることはない。それより注目すべきは、この膨大なポケモンの知識だ。これらはおそらく俺以外知りようがない知識の源泉だあくまでゲームの知識に紐づいたものなので現実にどの程度当てはまるか検証は必要だろうがうまく利用すれば大きなアドバンテージにともするとチャンピオンにちか________

 

「レッドとかいう野郎はどこにいやがるッ!!!!!!」

 

 やっぱむかつくもんはむかつく。俺はポケモンスクール内を駆け回って、レッドなる奸賊を探し回った。俺の異様な雰囲気を感じ取ったのか、学友はそいつの居場所をあっさりとげろった。隣のクラスらしい。

 

「よお、てめえがレッドか?」

 

 現実世界で初めて対面したそいつはムカつく安物の赤帽子は被っていなかった。遠目でぱっと見た感じどこにでもいる普通のガキンチョという風体。話に聞く限り、無口でクラスに馴染めていないらしい。はっ、ざまあないぜ。

 声に気付いてやや机に突っ伏していたそいつは漸く顔を上げた。.........悔しいが思ったよりきれーな顔してやがる。中性的な顔つき、大人用のマスクでもしたら顔が覆われて見えなくなるんじゃないかってくらいの小顔だ。知らなきゃ一瞬女の子かって思うような小奇麗な面だ。俺の次くらいには顔がいいと認めてやってもいい。

 問題はそいつはパチリスみたいに頬を膨らませて、何かを口につめこみながらもごもごと何かをしゃべりかけかけてきたということ。

 

「.........口の中のもん飲み込んでからしゃべれよ」

 

 そこでハッとしたレッドは噛みもせず中のものを飲み込んだ。

 

「ちゃんと噛めよ!」

「飲み込めって言ったからそうしたのに........誰?」

 

 無表情に、しかし確かに釈然としませんって表情を張り付けてレッドは誰何してくる。こいつ、ぱっと見の印象より行儀が悪いな.........。まあ、いい。とっとと用事を済ませよう。

 

「俺はグリーンてめーを_______」

 

 そこで大きな腹の音が響いた。音源は目の前。周囲で事の成り行きを見守っていた連中が、それを聞いてクスクス笑い出したのが小さく聞こえた。

 

「飯時に悪かったな。先に食っちまってくれていい」

「いや、もうごちそうさましたから大丈夫」

「は?まだその菓子パン一つしか食ってねえだろ」

 

 トレーナーズスクールでは特に給食とかは出ない。自前で弁当を持ってくる。基本的には親に作ってもらったやつを持ってくるが、こいつは。

 

「うん、今日もこれだけだから」

 

 別に珍しくはない。共働きで忙しいつって、お弁当代だけ渡されてコンビニの弁当とか買って食ってる奴もいるしな。ただ育ち盛りの子供に菓子パン一つ渡してってのはちと釈然としない。

 

「.........ちょっと待ってろ」

 

 訝し気な目を向けてくるレッドを無視して席を立つ。こいつを探すのに躍起になって飯も食わず出てきたので俺の分の弁当は残っている。そいつを持って戻ってくるとレッドの前で広げた。

 

「み、みせびらかし.........?」

「ちげーよ」

 

 なんて性格の悪い奴なんだと、人の気も知らず憤慨するレッドに少しムカッとしながら、弁当を手でレッドの方に寄こしてやる。

 

「.........なに?」

「好きなやつを食っていい」

「.........なんで」

「俺のライバルともあろう野郎が不健康にも昼に菓子パン一つなんてこの俺が恥ずかしいからだ」

「いつから僕たちライバルになったんだっけ」

 

 知るか、俺が聞きてえよ。黙って弁当を向こうに寄せると、「そこまでいうなら.........」と口を開けた。そのまま数秒無言の時間が過ぎる。

 

「なんだよ」

「いや、おはし持ってきてないから」

「食わせろってか!」

 

 意外と面の皮が厚いなこいつ。ちょっとびっくりしたぞ。そのまま口をだらしなく開けたままぼけーっと動く気がなさそうだったので、仕方なく箸を掴んだ。

 

「.........何が食いたい」

「ほんとに食べさせてくれるんだ」

「ッ、てめえがっ!」

「じゃあからあげ」

「くッ.........!」

 

 おかずを口まで持っていっては咀嚼し、食べ終えたら次のおかずを名指ししてくるので望みのものをくれてやる。そういう作業を何度か繰り返してレッドは満足したようだった。

 

「けふ。もういいよ、おなかいっぱい」

「そうか。美味かったか」

「まあまあおいしかった。ありがとう」

「そうか、まあまあか。よかったな」

「うん」

 

 なんかもうちょっと疲れたな。今日は顔みせだけのつもりだったんだが。

 随分とこじんまりした自分の弁当箱を見てちょっと後悔しながら思わずため息を吐いた。

 

「で、誰だっけ」

「.........さっき一応名乗ったろ」

「うん。でも興味なかったから流しちゃった」

 

 さっきから薄々感づいてきたが、別にこいつ無口でも無感情でもないな。何考えてんだかは分からんが、はっきりモノは言う奴だ。なんか前知識とパッと見の外見で幸薄なタイプかと思ったが、予想から外れた人物像で少し戸惑いを隠せない。しかしまあ、なんだかんだで俺に興味を持たせることはできたようだ。なんか餌付けしたみたいな感じでちょっと嫌だが、まあ結果オーライ。

 

「俺はグリーン。いつかてめーを倒す男だ」

「いや、さっきのライバルもそうだけど、なんで」

「理由なんかねえよ。俺が喧嘩を売った。お前は売られた。男なら四の五の言わず買えよ」

「ぼく女だよ」

 

 ?なんて?

 

「だからぼく女だから。買わなくてもいい?喧嘩」

 

 俺は即座に隣の席で野次馬してた野郎の首根っこを捕まえてエビデンスを取る。どうやら間違いないらしい。

 レッドが.........女?いや、ゲームではレッドは男主人公の名前だったはず。女主人公ならデフォルトネーム変わってリーフとかブルーになってたはず。じゃあ人違い?いや、他にレッドって奴がこの学校にいないことは下調べ済み。いや、そもそもこの学校に通っていないってこともあるのか?でもマサラタウン出身ならこの学校くらいしか選択肢はないはず。いや、そうか。時流って奴なのかもしれない。最新作ではわざわざ性別決めないらしいし。

 

「女の子でも四の五の言わず買えよ」

 

 男だろうが女だろうが関係ねえ。むかつくやつはぶっ飛ばす。それが俺だ。

 

「ん。じゃあさ、グリーンが僕と友達になってくれたら考えるよ?」

「は?何言ってんだお前」

 

 なにやらレッドが戯言をほざきだしたので、いまさら何言ってんだこいつって表情を臆面も隠さず返してやる。

 

「飯いっしょに食ったんだから、もう友達だろ。つーかてめー成長期なんだから飯はちゃんと食えよ。親に言ってましなもん用意してもらえ。それが難しかったら俺も考えてやるから、とにかくそこはなんとかしろよ。おい、聞いてんのか。なに笑ってんだ、俺はまじめな話をだな」

 

 レッドとの出会いは、ちと俺の考えていたものとは違った。よく分かんねえ奴ってのは思っていた通りだったが、その方向性がちょっと想定からかなり外れていた。

 いまのところ、今のレッドとゲームにおけるレッドには結びつきが見えないが、まあ、レッドが俺の思っていたレッドとは別の存在だったとして、それはそれでもまあいいかと、こいつのかなり分かりづらい笑顔を見ていたらそう思えた。

 

 ちなみに、後から判明したことだが、別にレッドはネグレクトを受けていたわけではなかったようだ。なんというか、家庭の事情というか、料理スキルの欠落というか、ともかく苦肉の策とレッド自身の不健康な趣向が合わさってあのような食生活となっていたようだ。

 

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