グリーンだけどレッドに勝てない   作:ぐりーん

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VSコラッタ 前半

 

 ポケモンリーグチャンピオン。各地方に点在するポケモンリーグが認定する、その地方における当代最強のトレーナーを示す称号だ。ポケモントレーナーを志す人間なら、まず夢見るそれは、どうやらゲーム内においてはエンドコンテンツを楽しむための通過点に過ぎないようだった。なんだそれ、普通それがゴールみたいなもんじゃねえの?それ以上一体何と戦うってんだよ。

 

 色々価値観をぶっ壊されそうな謎知識に苛まれてはいるが、例に漏れず俺自身が目指していたその目標は変わらなかった。

 姉ちゃんも今ではすっかり現役を引退しているものの、かつてはプロトレーナーとして名を馳せた生粋のブリーダーだし、爺ちゃんもずっと昔ポケモンリーグで優勝した経歴を持つという。家族としてそれに続きたい、否ぶっちぎって超えたいという野望は今でも胸の中で燻っている。

 

 となれば、俺が手にしたこれらの知識を活用しない手はない。爺ちゃんの研究所の手伝いをこなしつつ、プロの試合のビデオを見て研究し、知識と現実のすり合わせを行っていく。

 どうせならポケモンの育成も並行してやりたかったが、ポケモンの所持ならまだしも育成が許されるトレーナー資格の取得は15歳からなので、法的にそれは無理だった。アニメとかだと10歳で成人扱いとかそんな設定があった気がしたんだが.........。所詮物語の中の設定にすぎないということなのか、やはり現実との相違点はまばらに存在しているみたいだ。

 

 まあ、そんな感じでしばらく研究してみた結果言えることは、あまりバトル方面で役に立つ機会はなさそうだなといった感じ。

 第一に変化技、特にステータスのランク変動を行う系の技は一部を除き軒並み死に技と化している。というより、ゲームの仕様とは異なる用途の技として確立しているというべきか。要検証だが、少なくとも積み技で全抜きエースなんて真似は到底できなさそうである。

 それに"なみのり"とか"たきのぼり"みたいなインフラ系の技については、ゲームでは有用な水技として使われていたが、こと現実においては文字通り水面を泳ぐ技術としてしか使われていないようだ。まあ確かに、"ハイドロポンプ"とかならともかく、波を起こすようなポケモンの貯水能力を大幅に超える膨大な水をどっから出してきてんのって話だしな。

 そんな訳でゲームの技の仕様をそのまま受け取って活用はできなさそうだ。

 

 ただし、育成方面についてはかなり利用できそうな感触だ。爺ちゃんを始めとして様々な研究者達が長年の観察を経て得られるポケモンの生態や習得可能な技術を俺は既に手にしている。爺ちゃんの手伝いがてら論文を盗み見た限りでは、研究不足で世に知れ渡っていないものもたくさんある。無論、技の仕様と同じで実際には.........というものもいくつかあるだろうが、育成するポケモンの可能性や完成系が見えていることはかなりのアドバンテージなんじゃないか。

 

 ちなみにだが、爺ちゃんや他の連中にはこのことは教えていない。普通に頭がおかしい奴って思われるのがオチだろうというのが一つと、俺だけの知識を下手に他のやつに漏れる可能性を潰したいというのが最大の理由。

 だってさ、ぺらぺら知識をひけらかして自分のアドバンテージを失ってたら世話ないだろ。わざわざ自分が不利を背負うような真似をする必要性を感じない。

 それに、これが一番大事なことだが、それが原因でいつか大事なバトルで負けた暁にはきっと俺様は憤死してしまう。過去の自分を滅茶苦茶罵倒することになるだろう。未来の俺様に怒られたくはないので、この件は胸に秘めることにした。

 

「グリーン!レッドちゃん来てるわよぉ」

「はーい!今行く!」

 

 玄関の方から響く姉ちゃんの声になるたけ大声で返す。昨年のポケモンリーグ決勝戦を流し続けるテレビを消し、ビデオデッキからVHSテープを取り出してケースに仕舞う。今までなんとも思ったことなかったけど、あの知識を得てから、いまいち現代の機器は古ぼったく感じてしょうがない。

 

「おはよグリーン」

「よぉ」

「よぉじゃないでしょ!この子は全く.........」

 

 知り合って初めて知ったが、レッドは俺が思うより結構近所に住んでいたことが分かった。俺はかなり活動的な方なんで、近くの子供連中は軒並み知り合いだと思ってたので、少し驚いたが、単純に休みとか放課後は家に引き篭もってたらしいので顔を見なかったんだろう。俺達くらいの歳でもう引き篭もり予備軍だったとは恐れ入る。俺が知り合ったからにはもうそんなこと許さねえがな!

 そんな感じで俺の家を知ったレッドはちょこちょこウチに寄るようになり、なぜかその流れで俺とレッドはここ最近一緒に登校するようになった。いや、こっぱずかしいから一人で行けよと一回言ったんだが、その時なんかすげえ顔してその日俺を置いて先に帰ったと思ったら姉ちゃんにチクってて何故かこっぴどく怒られてからは本件について特に物申すことはやめた。

 

「あ、これ今日の弁当な」

「ん」

 

 マサラタウンからトキワシティまでの道中、つまりは1番道路の半ばで思い出したように鞄から弁当袋をレッドに渡す。余談だが、ゲームでは野生ポケモンが飛び交う街同士の道中は現実では思いのほか道が整備されていて、如何にもな草むらなんかはなく、人や車が行き交っている。ちょっと外れると途端に野生ポケモンの縄張りなので、そこはポケモンを連れていなきゃ関所の人に止められるが。

 

 で、本題だがなぜかレッドの弁当はうちで作っている。まじでなんで?と思われるかもだが俺もなんで?と思っている。発端はレッドの我儘ではあるんだが。なんでも「責任取って」だと。どこでんな言葉覚えてきたんだマセガキと罵倒すると、昼ドラと端的な回答が返ってきた。元引き篭もりらしい、いい答えだ。

 当然レッドの親にはめっちゃ遠慮されたんだが、なぜか姉ちゃんが出張ってきて場を収めた。俺の弁当は忙しい合間を縫って姉ちゃんが作ってくれているので、その本人がそう言うなら否やはないと俺は黙認するつもりだったが、なぜか俺が作ることになっていた。俺は猛抗議したが、到底聞き入れられなかった。弟は基本姉には勝てないのだ。

 情にほだされて生き物に一度でも餌をあげたのなら責任を取らなければならないのだと、力説する姉ちゃんの後ろで激しく頷くレッドに対してペットと同じカテゴリでいいのかと思ったが、俺の中の認識もあまり変わらなかったので、特に何も言わなかった。

 そういうわけで急遽料理スキルを習得することになった俺だが、まだ未熟もいいとこなので、レッドには言われたい放題されている。毎日毎日やれ何点だとか、味が薄いとか、前の味付けの方が好みだったとか、悔しすぎて頭がどうにかなりそうだ。

 

 随分と様変わりしてしまった己の日常を懐古しながら、元から言葉数の少ないレッドとの道中を静かに歩む。

 

 さて、トレーナーズスクールで学べることは基本的な一般教養もあるが、やはりポケモンに関する授業が半分を占める。といってもやれガブリアスの種族値はどうとかというものでは当然なく、学ぶことは本当に基本的なことで、今の俺からすると基礎も基礎すぎて、知識として得られるものはあまりない。

 しかし、実技については俺も本気を出さざるをえない。そう、トレーナーズスクールの実技とは即ちポケモンバトルそのものである。といっても、あくまで使用するのは学校側が学生の授業目的で育成している低レベルのコラッタなのだが。低レベル帯でもポケモンバトルはポケモンバトル。百聞は一見に如かず、イメトレや映像では得られない体験がある。

 それに俺は爺ちゃんの手伝いでもよくポケモンとは触れ合うので、学生相手なら無双できて気持ちいしな。

 

 そんなわけで俺達はクラス総出で外に出て、みんな与えられたコラッタと思い思いにコミュニケーションを取っている。俺は早速この後の実技に備えてコラッタにいくつかの仕込みを行っていたところだった。今日はクラス合同での授業とのことだし、他所のクラスの女の子の前で不甲斐ないバトルを見せるわけにはいかねえからな。

 そうしていくつかの仕込みを終え、いざバトル相手として組んだクラスメイトとおっぱじめようとしたところで、先生から声がかかる。出鼻をくじかれた形で釈然としない気持ちを隠しながら先生のとこに向かうと、なぜかレッドがいた。いや、そういえば相手のクラスってレッドのいるとこだったか。

 なんとなく話が読めてきたが、そうでないことを祈って念のため話を聞いてみた。

 

「クラスの皆で二人組をくませたんだが、今日一人病欠でな、レッドがあぶれてしまったんだ。組んでやってくれないか」

「お前友達いねえの?」

「グリーンだけだよ」

「お前ちょっとは言葉を選べよ」

 

 予想通りだった。レッドのやつは無口だし、積極性もなければ愛想も欠片ほどもないので、人の輪に放り込むと基本的に浮くし、避けられている。そんな奴を初見で友達認定した挙句、そこそこつるんでいるので、最近はなんか周りの連中にもレッド係として認識されている気がしていたが、どうやら先生公認の役職となったようだ。

 

「でも俺組んでる奴いるし。な?」

「僕は構わないよ?」

「お前に聞いてねえよ」

「俺も別にいいよ。こいついっつも手加減しなくてつまんないからさ」

「お前いつもそんなこと思ってたのか.........」

 

 今度から少しくらいは手加減してやるかと、ちょっとショックを受けつつ、結局そういうことになった。

 バトルコートを隔てながらレッドの様子を見やる。曲がりなりにも実技演習なんだから、わくわくしてもよさそうなもんだが、レッドの表情は相変わらず冴えない無表情だ。

 ちなみにバトルコートはテニスコートの半分程度の広さだ。プロのそれと比べると格段に狭いが、コラッタ二匹がじゃれ合う分には十分すぎる。

 

「お前、いつも組んでる奴とかいないのか?」

「いない。僕とやると皆怖がっちゃって組んでくれなくなる」

「そんなことある?」

 

 レッドの様子見がてら話を振ると、ちょっと怖いことを言いだした。怖がるって何?

 コラッタ同士のバトルで何やったら相手に精神的ダメージを与えられるんだよ。このレベル帯のバトルなんて、言ってしまえば先にたくさん"たいあたり"を食らわせた方が勝ちのゲームだぞ。シンプルすぎて、できることなんか限られてると思うが。

 

「だからさ、グリーンは僕を怖がらないでいてくれるよね」

「は?誰が誰にビビるって?」

 

 こいつ.........!

 薄々気付いていたが基本的に俺をなめていやがるッ.........!

 そこそこ長い付き合いになってきたが、レッドとバトルするのはこれが初めてだ。ここらで一発身の程ってやつを教え込まにゃならんらしい。お前が本当に俺の知るレッドなのか、ここで確かめてやるよ。

 

「そういうセリフは俺に勝ってからほざけよなッ!」

 

 威勢よく吠えながら、俺はコラッタのボールを放った。

 

 




たくさんの感想と評価、本当にありがとうございます。

また、誤字報告をくださった皆様につきましては大変お世話になっております。推敲は適宜行っているつもりなのですが、我慢が利かずに書き上げた端から投稿ボタンを連打しているので、本当に助かっております。今後ともよろしくお願いいたします。

感想については全て目を通しております。このような形で具体的な反応をいただけることはとても励みになっております。返信については全てとは言えませんが、取っ掛かりがあるものにはなるべく返していければと思います。
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