グリーンだけどレッドに勝てない   作:ぐりーん

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VSブルー 1

 

 報告があります。レッドに勝った!!!!!!

 「グリーンだけどレッドに勝てない」完!!!!!!!

 

 というのはまあ冗談だ。いや、勝ったことじゃなくて後半の部分。信じらんねえだろ?ふふ、「俺も」なんて謙遜はないぜ。こいつは当然の結果だからな。支払った途方もない努力に対する妥当な報酬だ。

 まあ、聞いてくれよ苦節三年に及ぶ俺の戦いの歴史を。

 

 レッドとの初バトルを終えた後、リベンジの機会は早々にやってきた。当然復讐に燃えていた俺は前回の反省を踏まえ、より練り上げた戦法でレッドに挑み______なんか順当に負けた。前のような劇的な逆転もなく、なんか恐ろしく淡々とダメージレースに負けて、負けたのだ。

 言ってしまえば、一夜漬けのテスト範囲を間違ったようなもの。レッドは個体によって戦法を変える。いや、そいつの個性を活かした戦い方をさせているべきというべきか。ともかく、再戦したレッドの戦い方は前回とまるで別人かと思うほどだった。

 そこで悟った。レッド相手に過去の戦い方の対策をするだけでは足りないと。扱うポケモン、しかも個体別に手を千変万化させるレッド相手に過去の分析は意味が薄い。ないのではなく薄いというのがミソだ。つまり言いたいことは、意味が出る程度に分析を積み重ねること。データを大量に取り、統計すること。

 

 トレーナーズスクールの初等部で学生が取り扱えるポケモンはコラッタのみ。実際にはポッポなんかもいはするが、実習において使えるのはコラッタだけ。学生同士で同条件のバトルを課すことでバトルの基本を学ばせることに加え、危険性が低いということでそういうことになっているらしい。

 ちなみになことを言うと、ポッポとコラッタも似たようなものじゃないかと思うかもだが、はっきり言って"ひこう"タイプのポッポの方が圧倒的に有利だ。ゲームでは攻撃はお互いに当たるし、両者の間にそこまで差はなさそうだが、現実において飛行が可能であるということのアドバンテージは絶大だ。分かり易く言えば、"ひこう"タイプはやろうと思えばずっと"そらをとぶ"状態を継続できる。当然、地上にいるポケモンの近接攻撃はまず届かないし、精度の高い遠距離技を持っていなければ勝負の土台にすら立てない。そのうえで、仕掛けるタイミングは"ひこう"タイプ側が持っている。無論、近づくことになるのでカウンター自体は可能ではあるが、そもそも勝負のトリガーを片側しか持っていないという時点でその不利は明白だろう。

 

 話が逸れた。つまり俺が言いたかったことはだ、学校中のコラッタ全匹分のレッドが取りうる戦法を収集し、それらすべて対策を生み出せばレッドに勝てんじゃねえのかってことだ。無論、すべての戦法を一緒くたに対策できるものなんてあるはずもないが、コラッタの識別を可能とすれば、レッドがその試合の中で使う戦法は知れる。

 それからの俺は早かった。学校中のコラッタというコラッタを調べ上げた。先の作戦を遂げるにあたって、レッドの扱うのがどの個体のコラッタか判別がつかにゃ話にならん。俺にレッドみたくパッと見でそいつのステータスを見極める力があれば楽だったが、常人たる俺にそんなこと出来るわけもないので、地道に識別方法を探った。長いことそうしていると、コラッタ一匹とっても思いのほか特徴があるものだということが分かった。知ってたか?コラッタなんてぱっと見どいつもこいつも似たような顔してると思うかもしれんが、よく見ると割と個性があるんだぜ。まじで。

 その後はラベリングだ。レッドがどの個体でどのような戦法を取ったのか、というデータ取り。さしものレッドも流石にコラッタ一種だけであれば、個体ごとに戦術を変えられるわけもなく、それはいくつかのパターンに収束するようだ。それでも二桁あるのはドン引きしたが。ともかく、実戦を観測し、それにより各コラッタをパターン別に分けていく。基本的に俺が身をもってデータ取りを行ったが、いつも一緒という訳もないので、他の奴に記録を頼んだこともある。このあたりで俺の敗北数はとんでもないことになっていたが、そこからは目を逸らした。普通コラッタでそんなたくさん殺しのバリエーションは出てこねえよ。

 とまあ、そうしてレッドの手の内を赤裸々にし、その全てに完璧な対策を立てる。そして当日レッドの手にしたコラッタから戦法を割り出し、あとはそれに応じたガンメタ戦法を叩きつけるだけ。

 三年間という時間の大半をコラッタに費やした俺は、とうとう初の白星を掴み取ったという訳である。今の俺はコラッタ界隈最強を名乗っても許されるだろう。

 

 見たかレッドこの野郎!ざまあみさらせこんちくしょうが!お前がどんだけ強いと言ってもな、所詮人間の域を出やしないんだから、この俺様が絶対に勝てないなんてありやしねえんだよ!!!!!

 

 なはははは!!!!!.........馬鹿か俺は!

 

 三年だぞ!旅に出る前の貴重な準備期間のうち、その三年をコラッタ研究なぞという将来欠片も役に立たない胡乱な研究に浪費してしまったのだ。レッドから可及的速やかに勝ち星を奪うという目先の欲に駆られて!

 

 .........まあ、流石にここまでやればレッドに勝ちうるという結果が分かっただけでマシか。さしもの奴も、自分の戦法に対する徹底的なメタ戦法を前に、かつそれに対する幾つかの対策への対策を事前準備してしまえば、少なくとも試合の上では難なく倒せてしまうことは分かった。今後学校を離れた後も、この方向性で進めて問題ないというお墨付きをもらったようなもんだ。流石の俺も結果の出ない試みを永遠と続けられるだけのメンタルは持ち合わせていない。この勝ちがあるからこそ、俺はこれからどれだけ敗北を重ねても前を向き続けられるだろう。.........なんか最初から負けること前提の思考になってるのがくそムカつくな。

 とはいえだ、最終的に勝ったとはいえここまで積み重ねた負債も大きい。あいにくと、俺は最後に勝ったから俺の方が強いとは思えないタチだ。レッドに安定して勝てるようになって俺は初めてあいつより強いと胸を張ることができる。そのためには、まずは俺が一勝をもぎ取るために支払った数多の敗北という負債を帳消しにする必要があるだろう。

 

 そんなわけで俺も13歳だ。トレーナーズスクールも中等部へと移り、これまでのように私服ではなく制服の着用が義務付けられるようになった。襟付きのシャツに美しい肩のラインが出るジャケットを着こなす俺様は相も変わらないクールガイっぷりに拍車をかけている。

 でもなぜかモテないんだよな。なんか女子連中からは遠慮されがちというか、遠巻きにされている。やはり初等部の頃にやったコラッタ研究の奇行が響いてるということだろうか。

 

「おまたせグリーン」

 

 で、制服制になって一番違和感があるのはこいつ。レッドが女だったという衝撃的な事実が発覚してからも、こいつの性別を意識することはあんまりなかった。てのもレッドに私服は基本的にダボっとしたゆるい服装がメインだったので、面が中性的なのと肩にかからない程度の短髪なのも相まって、ぱっと見で男にしか見えなかったというのがある。そのおかげでレッドが女であることは特に気にせずここまでつるんできたのだが.........馬子にも衣裳ってやつか、さしもの俺もその事実を直視せざるを得ない。

 

「よぉ。.........なんか、スカート短すぎね?」

「お父さんと同じこと言ってる」

 

 女子制服を着こんだレッドはよく見なくとも女の子って感じだ。これまで着用していたものと違って、緩やかに体のラインが出るブラウスを着れば、まあ.........なんというか、起伏がしっかり存在していることを確認できる。そして、制服のスカートだ。ズボンしか履いているとこを見たことがないレッドがそれを履いているとこは俺としては凄まじい違和感だ。無論、似合っていないことはないが、ないんだが.........なんだか脳みその奥の方で何かが異音を立てて崩れているような気持ちだ。

 

 それにしてもスカートが短すぎやしないか。足首から太腿の半ばまですらりとした玉足が露出している。視覚を占める肌色の面積が多くて落ち着かない。そりゃ親御さんも自分の娘がなんか変なのに引っ掛けられないか心配になるってもんだろ。親父さんの気持ちはすげえ分かる。

 ちなみにレッドの親とは何回かあったことある。俺自身、ぱっと見チャラそうに見えるから仕方ないんだが、最初の頃の親父さんの態度は冷たかった。なんか敵を見るような眼をしていた。最近は誤解も解けたのか、そこそこ打ち解けてきた。あんまり活動的でない自分の子供のことをよほど心配していたのか、ことあるごとにレッドのことをよろしく頼まれている。別にそこまでレッドのことは構ってやってるつもりはあんまりないので、そこまで頼まれるとなんかばつが悪いんだよな。

 

 視線を真ん前に固定して、なるべく下を見ないようにして登校の時間を耐え凌ぐ。なんかレッドは不満そうな顔をしていたが、そこは努めて無視する。絶対感想なんか言ってやんねえ。

 

 始業式を終え、教室に戻る。今年はレッドも同じクラスらしい。自分の机で相変わらずこじんまりしてるレッドといくつか言葉を交わしていると、先生が入ってきてホームルームを始めたので自分の席に戻る。

 なんか転校生が来るとか先生が話しているが、正直あんまり興味はなかったので視線は前を向きながらも、上の空で自分の世界に潜る。

 

 旅に出るのは高等部に上がってから。課外授業をメインとした選択科目があり、学生は一年ほど自由時間を与えられ、その中で何かしらの成果を出すことを求められる。ジムチャレンジもその成果の一つとして計上できる。事実上、トレーナーとしてのスタートラインと言える。

 旅までおよそ三年、あまり時間がない。俺のトレーナーとしての実力ははっきり言ってレッドと初めて会った頃からさして変わっていない。先の勝利はあくまで今出来ることをなんとかこねくり回して無理やりなんとかしただけに過ぎない。つまり、出来なかったことが出来るようになったとか、劇的に成長したとか、そういうことでは決してない。一応、この謎知識の研究はこれまでしっかりと続けてきているし、将来的に手持ちとしたいポケモンの育成論なんかもいくつか考えているので、何一つとして準備が進められていないとか成長できていないわけではない。

 が、レッドを打倒するという目標を考えるとまるで足りていない。正直なところ、これからのレッドの成長が恐ろしい。これまで育成も何もしていないコラッタだけであそこまで好き勝手やられていたのに、その制約が取っ払われてしまったとき、奴は一体どうなってしまうのだろうか。最適な訓練と数多の経験を積んだ熟練のポケモン達に、それを操るレッドというのはあまり深く考えたくはない。

 指数関数的に成長を遂げるであろうレッド相手に、俺が出来ることはスタートダッシュ前になるたけ距離を稼いでおくこと。でなければ俺は完全にレッドにおいて行かれる。その確信がある。

 焦燥感が募るが、成長の糸口は見つからない。俺自身が早熟すぎるのもあって、今出来ることは粗方試してしまっているからだろう。謎知識で試せることは無限にあるが、ポケモンが手元にない今、それが可能なのは旅に出てからになる。トレーナーとしての実力を上げるためには、今の俺の発想で出てこないことを試す必要がある。となれば、やはり修行回を挟む必要がある。

 ポケスペ時空の俺とは似つかない俺は幼少期にジョウト地方はタンバシティのジムリーダー、シジマさんの道場を訪ね、武者修行に励んでいたというエピソードがある。ネットで調べる限り門下生の募集は行っているようだったし、俺もそれに倣うのは有りかもしれない。

 

「ちょっと」

 

 シジマさんは現実においてもプロリーグで活躍されている選手だ。そういう熟練のトレーナーに師事することは俺が殻を破る上で役に立つはずだ。なんかネットの評価を見るとトレーナーに必要ないことばかりやらされるみたいなマイナス評価が目立つが、今の俺にはまさにそれこそ必要な要素ではないだろうか。となれば夏休みの期間を使って訪ねるのも手かもしれない。ちと身内の威光を借りる形で情けないが、爺ちゃんの名前を出せばある程度融通してくれるかもしれないし。

 

「ねぇったら」

 

 修行となると本来は腰を据えて励む必要があるので、まず夏休みいっぱいはそっちでかかりきりになるだろう。むしろ一か月じゃ足りないくらいだが。

 問題はレッドだな。あいつ俺以外友達いないし、夏も俺がいて当然だと思ってる節があるから間違いなく拗ねる。爺ちゃんに迷惑をかけるかもしれないが研究所の手伝いとかさせる形でウチや研究所の連中に面倒を見てもらおう。

 そこらへんも詰めることを考えると、やはり言い出すのは早い方がいいな。となれば早速今日には爺ちゃんに話すか。夕食の時とかで。あとは先方の都合とかも聞いて_______

 

「おい」

「痛ってぇ!」

 

 唐突に後頭部を殴打されて、顔面から机にぶつかる。超いてぇ。たんこぶ出来てないだろうな.........。

 

「なにしやがる!」

「おほほほ、ごめんあそばせ?でもね、こんな美少女がせっかく話しかけてやってるのに、無視する方がどうかしてるわよ?」

 

 いつの間にか俺の席の傍まで近寄ってたそいつに当然の抗議をせんと振り向くと俺の視界に入ったのは巨大な起伏そのものだった。.........でかいな。ブラウスがはちきれんばかりのそれは明らかに同年代のソレではない。レッドの何倍の圧があるんだろうなんて思考がちらつく。

 その暴漢は腕を組んでさもソレを強調するように押し上げる。すっごい。

 

「久しぶりねグリーン。相変わらずほっそい身体してるわねぇ。ちゃんとご飯食べてる?」

「あ?お生憎様、こちとら君みたいなまぶい知り合いはいな_______」

 

 反射的に断りをいれながら、釘付けになっていた視線を上げ、相手の顔をようやく視認して固まる。

 確かに見知った顔だった。成長し、記憶のソレとはずいぶん様変わりしているが、その悪戯気に挑発的な笑みを浮かべるその表情には見覚えがある。同時に、封印していた恐ろしい記憶の数々が蘇り、思わず声が上ずるのを感じながら、そいつの名を呼ぶ。

 

「おまっ、まさか.........ブルー、なのか」

 

 そいつ______ブルーはようやく気付いたかなどとでも言いたげな表情を浮かべながら、俺の「どうか違いますように」という切実な祈りが込められたか細い声に溌剌と答えた。

 

「そのまさかよ。喜びなさい。マサラタウンのブルー、堂々の帰還よ!」

 

 絶対他の男連中に根掘り葉掘り事情聴取をされるんだろうなと、諦観を覚えながら、レッドに加えブルーという厄介者が増えたことに絶望した。

 

 

 

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