† 9月10日、貴族ナイトフォール領。
婚約者を探していた。
降り注ぐ藤色の雨に打たれ、瓦礫の山からは薄ら紅色の流れが溢れる。
そこに確かに、いるはずの存在を。
「……っ! っ!!」
爪が割れ、血が滲む手で。
草色の煉瓦をかき分け、灰色の鉄筋を引き抜く。
灰塵に塗れた泥を掘り進めた。
「……何をしてるんだ」
声をかけられても。
少女は手を止めなかった。
「なぜ、そんな奴の死体を探してるんだ……」
問いかけられても。
少女は振り向かなかった。
長く乱れた黒髪を気にも留めず。
特徴的な山吹色の瞳で、瓦礫の下に埋もれているはずの誰かを懸命に探し求めている。
「これで、……お前はあれの婚約者でなくなる」
「……」
「お前を苦しめ続けてきた日々はもう終わりだ。聴くに堪えない罵倒も、理不尽な叱責も……!」
「…………」
確かにそうだ。
語りかける男の言葉に偽りはない。
少女、アメリア・クレイトンにとって、婚約者の死は間違いなく平穏な日常への扉だ。
彼さえいなければ。
ベリアル・ナイトフォールさえいなければ、少女の身に不幸はなく。
アメリアは、ただただ普通の女の子として暮らせたに違いない。
そんなことなど、誰から見ても明らかだった。
でも。
「お前の望まぬ婚約も、やっとなくなったのだぞ!」
これはアメリアの望まぬ婚約ではない。
それだけは譲れない。
「……違いますよ」
「何ッ!?」
「……」
けど。
目の前の男に伝えるほどのことでもない。
だから、アメリアは再び自分の作業に戻った。
その様子が気に食わないのか、男は睨み下ろし続ける。
理解ができなかったのだ。
なぜ目の前の少女は自分に靡かないのか。
少なくない面倒を引き受けたにも関わらず、その報酬たる少女が得られないのか。
目の前の少女を突き動かすものはなんなのか。
「僕のものになるつもりはないのか」
「……」
「……、そんな屑に固執し続けるつもりなのか……!」
無視。
その反応だけでも、目の前の女の意思はわかった。
それでも。
最後の望みにかけて。
自分の下卑た欲望を隠すようにして、男は続ける。
「最後に聞く。
「……ふっ」
「何がおかしい!?」
一笑に付され、敏感になっていた男は声を荒げた。
「ナイトフォール家も、クレイトン商会も関係ないです」
「なんだと……!?」
「この婚約は、私と彼のものなので」
そう呟くように言うと、アメリアは再び黙した。
もはや交渉は決裂。
手に入らない。
ならば。
ならば、いっそう。
癇癪を起こした子供に似た感情だ。
手に入らないのならば、壊してしまいたい。
それをする自由を、男は持っている。
「……ッ!」
震える手で懐から導力銃を取り出す。
そして、照準を少女に向け――。
「おっとダリウス様、それはやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「……!」
トリガーに指をかけていたダリウスの後ろから、スーツ姿の男が現れた。
整った金髪のダリウスに比べて、スーツの男は身なりこそ清潔だが、乱れに乱れた黒い髪をバンダナで適当に結んでいる。
「お前か……。なぜ邪魔をする」
「それはダリウス様が一番知っているはずでは?」
軽薄そうな、それでいて深い声で続けるスーツの男。
「アメリア・クレイトンちゃんは俺たちが持っている最後の切り札。ここで感情に任せてやっちまうのは、勿体無い」
「……」
「ま、どうしても気に食わないのなら、俺には止められませんがね」
手に握った藤色の液体で満たされた瓶を揺らすスーツの男。
煽るような物言いだったが、ダリウスは男を睨みつけて感情を抑える。
「……ちッ。お前の言うとおりだ。だけど、このまま放っておいていいのか」
「ひとまず、放っておいて問題ないのでは? ここで死体を漁り続けるだろうし、俺たちは死体に興味はない」
「……ああ、そうだな」
「鍵さえなければここからの脱出も不可能。アメリアちゃんにその気もなさそうだ」
言いたいことを終えたのか、スーツの男は飄々と立ち去っていく。
その後ろ姿を確認すると、ダリウスは一息を吐く。
「ふん、そうやっていつまでもやっていろ」
憐れむような表情で吐き捨てると。
立ち去った。
残されたアメリアだったが。
「……ッ!?」
瓦礫の下から。
わずかな温もりが蠢いた。
いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!
この人まーた改稿してるよ、と思われるかもしれませんが、申し訳ございません……。小説を書くほどに新たな発見の続きで、それを反映させたくなってしまうのです。ひとえに私の素人さが原因ですが、どうかお付き合いいただければ嬉しい限りです。
ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!
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イージー(無双タイムだ!)
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ノーマル(現状維持!)
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ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
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ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)