尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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アメリア⑪ 初デート(後)

 †8月10日昼過ぎ。視点:ベリアル

 

 

 冷めやらぬ熱気で頬を赤く染めながらも、先ほど見た非現実的な体験を語るアメリア。

 

「すごい作品でしたね! 主演のサフィナさんの演技は圧巻でした!」

 

 その通りだ。

 おおよそ日本では感じられなかったような臨場感だった。

 

 魔導技術で再現された風に靡く大草原という舞台は、まるで観客を実際にそれを山から見るような錯覚に陥らせるものだった。

 複数の属性の魔法を複雑に組み合わせて再現された、4Dなども超える臨場体験。

 

 草原からくる瑞々しくも渋みのある風には、かすかに野花の香り。

 場面が変わって、煮えた溶岩の上を一条の紫がかった燐粉が漂い。

 少女が身を投げた瞬間、渦を巻いてドラゴンの鱗に吸い込まれていく。

 

「ドラゴンの生贄にされた少女が、その背に乗る……」

 

 鉱石のような鱗を持つ飛龍が飛び立つ姿など圧巻で。

 観客の頭上をギリギリで飛び去る場面では、振り返りながら大歓声が起きていた。

 

「でも、愛する村と敵対してしまうんですよね」

 

 密かに少女を火山の主の生贄として育てていた村人たち。

 そんな彼らの前に現れたドラゴン。

 

 無害なドラゴンを村の一員として迎えてほしいと懇願する生贄の少女の言葉が耳に届くことはなく。

 恐れ慄く人々は、高名な勇者たちを呼び寄せて飛龍狩りをすることとなった。

 

 その戦いもまた、圧倒的なものだった。

 圧倒的な強敵として君臨する勇者たちを、まるで舞うようにして戦うドラゴン。

 血で血を争う壮絶な闘争の末、「龍王討ち取ったり!」と、傷だらけで斃れゆくドラゴン。

 

「あれは本当に奇跡でしたね……」

 

 慟哭する少女を全ての騒動の元凶としてその場で殺めようとした村人たちの前に現れたのは。

 鱗粉を散らせながら同心円の光を放ちながら、龍王の死体から生まれた王子。

 

『生贄の娘よ。選べ。この地に縛られるか、自分で風を掴むか』

 

 その言葉に、王子の手を取り。

 村を捨てて少女と王子は遥か遠くへと飛び去る。

 王子の棲まう龍の居城へと。

 

 そして彼らのダンスとともにクレジットが流れ、舞台に出演した人々が全員登場し、一礼したのちに湧き上がる大歓声で、劇は終わるのだった。

 

「あの奇跡がなければ……」

 

 どこか含みのある声。

 どうやら本当に感情移入している様子だ。

 俺も思わず自分の見解を喋っていた。

 

「果たして、あの小娘にとって、”奇跡”が救いだったと思うか?(奇跡がなくても、少女は幸せだったと思うよ)」

「……どういうことですか?」

「あれは”生贄”として育てられた。だが、最後には己が意志を決めた(最後には自分のわがままを通したからね)」

 

 微妙に捻じ曲がった言葉だったが。

 大意は伝わっただろう。

 そう思ってアメリアの顔を見てみたのだが。

 

「……」

 

 と、若干呆気に取られた表情。

 察するに、何言ってんだこいつって感じかな?

 僅かに落胆しながら歩いていると、

 

「ベリアル、……様にも意外な一面があるんですね」

「この俺が貴様如きに推し量れると思うな(どういうこと?)」

「映画を見て評論するなんて……。どうせ、あんなの作るものに過ぎない、なんて思ってそうでしたけど」

「ふん、所詮想像の範囲内だ(いい映画だったよー)」

「の割には、映画の時すっごく楽しそうな顔をしてましたよ」

 

 イタズラっぽい表情でこちらを見るアメリア。

 そりゃそうだ。

 “俺”はともかく、俺は心から楽しんでたからね。

 

「出来の悪さに嘲笑してただけだ(面白かったからねー)」

「またそんなことを……。もういいです」

 

 そう言うと、軽く不機嫌になった彼女の歩く速さが変わった。

 ずんずんと先へ進む彼女に置いていかれないように俺もついていく。

 

 映画を見た後何をするか決めていなかったのもあって、彼女が先行してくれるならそっちの方がありがたかった。

 甲斐性のない男と思われるかも知れないけど、残念ながら俺はアメリアの王子様じゃない。

 

 雑踏の中、彼女の落胆した背中がやけに小さく見えた。

 

 

 夕食時。

 

 日が沈み始め、とりあえず駅近くの手頃なレストランに入る。

 チグハグな関係ながらも、楽しかったなーなんて寂しい気分になるが。

 ……センチメンタルになるには、早すぎるか。

 帰宅時刻になった小学生の夏休みのような気分は帰り道にでもとっておいて、今は夕食を楽しもう。

 

 そう思って、二人して黙々と出された料理に手をつけていると、

 

「ベリアル様」

 

 と、アメリアは語りかけて来た。

 彼女を傷つける言葉しか吐けないので。

 顔だけをあげて、俺は黙ることにした。だけど。

 

「無視しないでください」

 

 アメリアはまっすぐ俺の目を見ながら言ってきた。

 

「貴様に俺の行動を指図される覚えはないが?(どうした?)」

「……そうですね」

 

 そんな俺の言葉に、またも気を落とすアメリア。

 これだから、あんまり答えたくなかったんだよなぁ……。

 

「……無視してもいいです。でも、少しだけ私の話を聞いていてください」

 

 真剣な顔で、彼女は続けた。

 

「ベリアル様は……、なぜ私を連れて首都に来たんですか?」

 

 

 †同日夕刻。視点:アメリア

 

 

 私は答えを知ってる問いかけをしました。

 でも、ベリアルは仏頂面のまま押し黙っています。

 私のために出かけたことくらい、……言われなくてもわかっていました。

 そして、……ベリアルが答えないことも、わかっていました。

 

「ベリアル様は、なぜ私が婚約者となったか、知っていますか?」

 

 だから、私は彼が知らないだろうことを話すことにしました。

 

「ナイトフォール家の威光だ。クレイトン商会はそのおこぼれに預かろうとしているのだろう?」

「……ええ。確かにそうかも知れません」

 

 屋敷での孤立具合からして、聞かされなかったのも納得です。

 あそこでまともにベリアルとコミュニケーションをとっていたのは、アズーリさんくらいなものだから。

 

「借金です」

 

 だから私は、ベリアルを試すことにしました。

 

「私がベリアル様の婚約者になった理由は、父の借金です」

「……?」

 

 意外そうな顔をするベリアル。

 

「クレイトン商会もついに斜陽か?」

「もちろん母の商会が危ないなんて話ではないです。……父が一人で背負った借金ですよ」

 

 泥酔姿の父を思い出しながら、

 

「ある賭博場で父はこっ酷く負けたらしいです。詳しい内容は知りませんけど、それで借りてはいけない場所から、クレイトン商会の名前で大金を借用して……」

「……どうした、続けろ。貴様の不幸話はいいつまみになる」

 

 そんなことを平気な顔で言うベリアル。

 ……たとえ本心じゃないかも知れないとわかっていても、少しずつ自分の中の怒りが増えていると感じました。

 

「……ルーカス様がその肩代わりをしてくれたのです。そしてその代わりとして、私がベリアル様の婚約者になりました」

「……」

「だから、私はベリアル様が何を言おうとも従うしかありません」

「…………」

 

 私の話を聞いて、黙るベリアル。

 彼にしては……、自分の立場が一方的なものだと判明したでしょう。

 

 貴族と商家の政略結婚。そういう意味で、ベリアルと私の関係性が破壊されてしまうような行動を避けていた可能性があります。

 それこそ、私を無理やり襲えば、この婚約が消えてしまいかねない。

 それが今まで彼の倫理的なストッパーになっていたけど。

 

 この時点で、私は彼にとって、言うことに逆らえない都合のいい女になったはずです。

 

『フヒヒヒヒ、ならばお前のことは好きにしていいんだな』

 

 などと言って、暗がりに連れ込んで好きにしても、誰にも何も言われません。

 ……そんなことをされるのが怖くないわけじゃないですが、……それでもベリアルの本性を見られるならと思って話したのです。

 いざとなれば、……ダリウス様から頂いた逃げ場も。

 そう思いながら、懐にある鍵を握り込みます。

 

 ですが……、

 

「貴様は……」

「……っ」

 

 低く唸る声に、思わず体がこわばり。

 

「貴様は、何がしたい?」

「……?」

 

 でも。

 問い返され。

 一瞬返答が思いつきませんでした。

 

「私が、何がしたいか、……ですか」

「ふん。……いずれにせよ、貴様が好きなようにしろ」

「……」

 

 私の好きな……。

 私は、……。

 

「でも、クレイトン商会として、私は……」

「随分と物分かりの悪い小娘だな。俺は、貴様の好きなようにしろと言ったはずだが?」

「そんなのはしたくても……」

 

 できない。

 私は商会のため、……お母さんのために……。

 そのためなら、目の前の男にどうされようとも……。

 

「自らの運命を他人の手に委ねるなど、貴様はそれでも生きているつもりか?」

「え?」

 

 けど。

 意外な言葉が返ってきました。

 

「父の借金がどうした? それで貴様は抗うことをやめて、俺の婚約者になったと?」

「……」

「生まれがどうした? それが諦めて救いを待つ理由か?」

 

 珍しくその仏頂面の中に怒りを込めて、ベリアルは問いかけてきました。

 

「もはや哀れすぎて笑いすら出んわ! そんな傀儡もどきが婚約者など……」

 

 容赦のない私への罵倒の言葉。

 こめかみに手を当てながら、ベリアルはレストランにいるということも忘れて怒鳴り続けます。

 

「“俺”の顔に泥を塗るつもりか!?」

 

 どこまでも自分のことしか考えていないような言葉。

 いつも通りといえばいつも通り。

 

 でも。

 なぜか。

 なぜか無性に腹が立ちました。

 

「婚約はあなたの父が決めたでしょ! 私は父に何も知らされなかったです!」

「無知が言い訳になると思っているのか?」

「だったら、どうしたらよかったんですか!?」

「意思を示せ!」

 

 いつものような酷い言葉遣いのベリアル。

 でも。

 彼から出る言葉は……。

 なぜか普段のような痛そうに見えるだけの柔らかいケーキでできた匕首ではなく。

 鋭い短剣のように心に刺さるものでした。

 

「私が行かなければクレイトン商会に大きな迷惑になるんです!」

 

 初めて彼と交わした心の会話のような気がしました。

 望まない婚約で貴族に嫁ぐこととなった女の丁寧なだけの上部の言葉と、努力家で映画を見て子供のような笑顔をする態度だけは尊大不遜な男の子。

 そんな欺瞞に満ちた上っ面だけの関係がやっと変わりそうだというのに。

 私は叫び返すしかできませんでした。

 

「ならば拳を握れ! 歯を食いしばれ! 理不尽に抗え!」

 

 兄との戦いで圧倒的な絶望の中でも立ち上がり続けた少年は、逃がさないとばかりに私を睨みつけてきました。

 ……私に逃げ場を提供したダリウス様とは、真逆です。

 

「あなたほど私は強くないんです!」

「それがどうした! 勝てないからと諦めるのか? 負けるからと逃げるのか?」

「あなたみたいに身勝手になれません!」

「ならば他人に自分の運命を如何様にでも捻じ曲げさせると? 負け犬根性の染みついた小娘らしい考えだな!」

 

 そんなことを宣うベリアル。

 私だって……。

 

「私だって、できることならベリアルみたいに好き勝手にやりたかった! ベリアルみたいに、誰の目も気にせずに、好きなように生きたかった! でも!」

 

 私は息が続く限り叫んだ。

 

「私はベリアルと違ってお母さんがいる! 兄さんもいるし、友達だっている! クレイトン商会だって、それに負けないくらい大事なの!」

「だからどうした!?」

「あなたにはわからないだろうけど、私には裏切られないものがあるの!」

 

 わかっている。

 私が勝手に責務を背負ったつもりなだけだって。

 でも。

 

「逃れえぬ悲運のヒロインのつもりか!?」

「そんなのは、あなたのせいで……!」

「王子様が所望なら、ダリウスにでも媚びていろ!」

「なっ!?」

 

 よりによって。

 あなたが。

 そんなことを……!

 

「そうやって責任だの、責務だのに逃げ続けていろ! 自らの意思すら欺瞞で塗り固めてな!」

「だからって! あなたみたいに、周りに迷惑をかけるなんてできない! あなたみたいに……! 周りの気持ちを蔑ろになんてできない!!」

 

 私は泣きじゃくりながら、叫んだ。

 

「私は……、私は、ベリアルの婚約者になんかなりたくなかった!!!」

 

 

 †視点:ベリアル

 

 

 手ひどく振られる、というのはこういうことを指すんだろうなぁ。

 顔にかけられた水を、紙袋にしまっている着てきた貴族服で拭う。

 

 レストランを出ていってしまったアメリアを呆然と見ながら、俺は小さくため息をついた。

 

 ……あれは“俺”の言葉じゃなかった。

 確かに“俺”の無駄に上から目線の味付けがされた言葉ではあったけど。

 あれは間違いなく俺の言葉だ。

 

 その暗い運命に身を任せてほしくなかった。

 待ち受ける碌でもない結末(凌辱エンド)に辿り着いてほしくなかった。

 何よりも、どんな形であれ、……彼女が幸せな結末(ハッピーエンド)に行き着くように……。

 だけど、そんな俺の身勝手な言葉は、彼女を傷つけてしまったのだろう。

 

 俺はこの世界で何も背負うことはなかった。

 だって、俺はいきなりここに連れてこられただけだから。

 

 けど。

 彼女はその小さな背中にいろんなものを背負っているのだろう。

 そんな彼女が俺の無責任な言葉に怒るのも当然だ。

 

 しばらく自己嫌悪に苛まれながらも、一応は出された料理を喉に無理やり流し込みながらも平らげる。

 美味尽くしだった異世界の料理は、どれもがゴムとダンボールの味しかしなかった。

 

 彼女はクレイトン商会の娘だ。首都で泊まるところに困ることもないだろう。

 茫然と会計を済ませて家に帰ろうと思ったとき、

 

「彼氏くん、彼女のこと追わなくていいの?」

 

 なんて気遣いをしてくれた店員に、俺が行っても仕方ないだろうと返答しようとしたところで、はたと思い出した。

 

 この世界の原作。

 それは凌辱ゲー。

 一人になった女の子に容赦ない毒牙が迫る世界。

 

 ――アメリアが危ない!!

 

 そう思った俺は、適当にカウンターに高そうな紙幣を数枚投げ捨てて、店を飛び出た。

 

 先ほどまで星が見える晴れていた夜空は、鉛のように曇り始めていた。




 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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