尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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アメリア⑫ 火蓋

 

 †8月20日夕刻。視点:ベリアル

 

 

 雨足が強くなり、先ほどまでポツリポツリと滴るようだった水滴が、目を開けづらくなるほどに降り注いでいる。

 傘を差していない人もいなくなり、不幸にも傘を持ち歩いていなかった人たちは軒下に並んで雨宿りをしている。

 幸いまだまだ夜にしては早い時間で、あちらこちらの店から漏れ出る光と、最近整備された街灯のおかげで人探しに問題はなかった。

 

「チェック柄のワンピースを着た女を見たか!?」

 

 威圧するような声で問いかける。

 なりふり構わず目についた人に。

 

 肩にまで伸びた長い髪に雨水がひっついて気持ち悪い。

 ああ!! むかつく!!

 

「くそっ! どこまで行ってんだよ!!」

 

 怒りと焦りが絵の具のように混ざったような、イライラが止まらない感情で叫ぶ。

 先ほどからどこかに向かって走っていた彼女を見かけたという話は聞くのだが、どこに入ったとかいう情報が一向に得られない。

 こんな雨の中でなんでそんな距離を移動するんだよ!

 

 徐々に減りつつある通行人。

 でも、彼女の消息を失うわけにはいかない!

 とりあえず目の前の、派手な花柄の和傘で歩く人に聞いてみよう!

 

「おい! そこのお前!」

「?? ほぇ? ……妾のことか?」

 

 高い女の声で、なんか独特な一人称が返ってきた。

 

「そうだ、貴様以外にいないだろうが!! チェック柄のワンピースを着た、15歳くらいの女を見かけたか!?」

「は、はぁ……? そのおなごなら、先ほど首都ホテルに入って行ったぞ?」

「そうか! 恩に着るぞ!!」

 

 と、”俺”の口から珍しく感謝の言葉が出てきた。

 ……けど、それに気を配るほどの余裕もない。

 

 一目散に聳え立つ首都ホテルに駆ける。

 バロック様式の、白い大理石で作られた彫刻や装飾が溢れるエントランスのアーチを通る。

 

 金箔をあしらった壮麗なシャンデリアが高い天井で煌々と輝き、磨かれた花崗岩の床や壁に反射している。

 ギュッギュ、ギュッギュと濡れた靴底をうるさく鳴らせながら走り、ホテルの受付に問う。

 

「アメリア・クレイトンという女を知らないか?」

 

 日本の常識からすればそんな個人情報をホテルが渡すわけがない。

 だけどここは異世界。

 もしかすると、鬼気迫る”俺”の様子を見て納得してくれないものかと思ったが……、

 

「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、アメリア・クレイトン様については存じ上げません」

 

 けど、流石にそううまくいくわけではなかった。

 だからと言って諦めるわけにはいかない。凌辱ゲーの世界、何があるかわかったものじゃないのだ。

 ため息が出そうなのを我慢し、

 

「カーキ色のワンピースにチェックのロングコート、ロングブーツを履いた女だ。さっさと答えろ!」

「そうおっしゃられましても……」

「チッ! 俺はベリアル・ナイトフォールだ!! 伯爵家のナイトフォール家の人間だ! 俺の話が聞けぬのか!?」

「……では、少々お待ちください」

 

 そう言うと、受付で俺の対応をしていた褐色の肌の女性は受付の奥へと向かった。

 

 焦る気持ちはありつつも、どうにもならないのはわかっている。

 無駄に長い金色の髪の毛を絞って雨水を落として、頬を滴る顔に付いた雫を袖で拭き取る。

 

 すれ違うホテルの客たちに怪訝な顔で見られながら、受付カウンターで待っていると、

 

「では、ご案内させていただきますね」

 

 と、受付の奥から戻ってきたホテリエは、エントランス奥にあるエレベーターまで俺を招いた。

 たどり着いた先、長い絨毯を通り、通された部屋。

 

 大きな木製の机の向こうで座るのは。

 機能美に溢れながらも、素材の僅かな光沢がカジュアルさを醸し出す、軍服のようなジャケットを身につけた、黒い短髪の女性。

 

 誰だ……?

 少なくともアメリアではないのははっきりしているのだが……。

 

「ベリアル・ナイトフォールという名前だったわね?」

 

 冷めた目で“俺”を観察しながら、その女性は問いかけてきた。

 

「そうだ」

「私はエレノア、このホテルの支配人をしているわ」

「下民などの名をいちいち覚えるつもりはない」

 

 挑発するような言葉をあげる“俺”だったが、

 

「あらそう。確かにルーカス卿の御曹司様ともなれば、私程度の名前など歯牙にも掛けないでしょうね」

 

 そんな“俺”の態度を皮肉りながらも、気にしたような雰囲気ではない。

 それはそれで多少ありがたいが、今は彼女――エレノアの感情よりも大事なことがある。

 

「身分をわきまえる程度には学があるようだな。ならば相応の態度を示し、俺にアメリア・クレイトンの居場所を話せ」

 

 いちいち上から目線だけども、一応言いたかったことは言えたはずだ。

 対してエレノアは、凛とした表情を崩さず、

 

「アメリア・クレイトンねぇ……。彼女に何か用事かしら? それを確認しない限りはなんとも返答できないわね」

「……」

 

 暗に彼女がこのホテルにいることを仄めかすエレノア。

 ……ひとまずアメリアの消息を失うリスクはなくなった。

 だが、クレイトン商会の娘を誘拐し、監禁している可能性は否めない。未だ素性のわからない目の前の女が、悪党かどうかすらわからないのだ。

 

「アメリア・クレイトンは俺の女だ。(はぐ)れたから連れ戻しにきただけだ(婚約者です)」

 

 よくもまあ、こんな酷い言い方になれるものだと感心するレベルだ。

 対して澄ました顔から一転、何言ってんだこいつと言う顔でこちらを見るエレノア。

 

「あなたの女……? 彼氏か何かかしら?」

「俺を貧民と同格扱いをするつもりか!? あれは俺の奴隷だ!(一応婚約者です)」

「奴隷……。一応知っていると思うけど、人身売買は大陸通商会議で禁止されているわよ?」

「そんなこと”俺”が知ったことではない!(知ってますよ)」

 

 うーん。

 俺、知ってたんだけどなぁ。

 まさかのまさか、魔王領と呼ばれる場所で執り行われたという、大陸のほぼ全ての国家が参加した、後先にも一度しかない大会議。

 大陸シリーズにも幾度か名前が出ているのだ。

 ……って、今はそっちじゃない。

 

「御託は飽きた。さっさと俺の奴隷の居場所を吐け、下民(それよりも、アメリアの場所を教えてください)」

「……残念だけど、君に彼女の居場所を伝える理由はないわね」

 

 やっぱりこうなったか。

 口は災いの元と言うけど、こんなんじゃ取りつく島もないだろう……。

 こうなればホテルの入り口で張り込みをするか、部屋を一つ一つ尋ねるか……。

 どちらにせよセキュリティに蹴り出されそうではあるが。

 

 などとどうしたものかと悩む俺だったが、

 

「身の程を弁えろ、下民!!」

 

 どうやら”俺”はそんなまどろっこしいことは気に入らなかったらしい。

 ”俺”はエレノアに一歩踏みだす。

 俺にでもわかるような怒気を孕んだ声音で、”俺”は続けた。

 

「あの女の居場所をさっさと答えろ! でなければ――」

「あら、脅しのつもりかしら? 興味があるわ、君が私にできる脅迫の内容が」

「貴様……!」

 

 ”俺”が取り続ける失礼な態度にご立腹の様子のエレノア。

 挑発するようにこちらを睨みつけてくるのだが。

 そんな様子など目に見えないのか、”俺”は腰につけた装飾用の直剣を抜き取ると、

 

「命が惜しくば、言葉に気をつけることだな。俺は気が短いぞ!」

 

 直剣を剣先をまっすぐエレノアに突きつけ、

 

「貴様を斬り刻んでから、あの女を探すことだってやぶさかではないからな」

 

 脅した。

 

 散々に最悪を超えた状況だ。

 もはや芸術の域だろう。

 アメリアを探すどころか、ホテルのセキュリティから逃げて、警察――共和国では守護騎士団という名前の組織から隠れることが先決になりそうである。

 

「そう、力づくなのね? か弱いお姉さんじゃ君には敵いそうにないわ、ベリアルくん」

「ほう? 物分かりはいいみたいだな」

「だから、相応しい人に任せるわ」

 

 立ち上がるエレノア。

 絵になるようなスラリとしたモデル体型だ。

 

「リーネちゃん、お願いしていいかしら?」

 

 そう彼女が言うと、

 

「契約前なんだけどなぁ……」

 

 部屋の奥にあったドアから、少女が歩いてきた。

 長く色素の薄い金髪と、燃えるような朱色の瞳。小柄ながら威圧感は凄まじい。

 露出の多めな紫のプロテクターと、弾帯に刃物類や投擲物を体のあちらこちらにつけている。

 

「君たちの仕事がどんなものか、見せてもらういい機会と思わない?」

「報酬が出ない仕事は受けちゃいけない決まりなんだけど……」

「一応、未来のクライアントよ。サービスくらいしてくれたっていいじゃない?」

「……はぁ。わかったよ」

 

 言いながら俺の前まで歩き、腰に携えた岩のような刀を担ぐリーネと呼ばれた少女。

 

「念のために確認だけど、リーネとやる?」

 

 少しだけ掠れた、それでいて冷え切った声。

 

「貴様が相手だと?」

「死にたくなかったらやめといた方がいいよー」

「ガキ風情大した自信だな」

「うーん、少なくとも君よりは訓練してる方だと思うけどね」

 

 まじまじと俺の体を見ながら返答する赤髪の少女。

 握りしめた刀からわずかに熱量が溢れた。

 

「できれば外でやってもらえるかしら? ホテルでボヤ騒ぎを起こしたくないの」

「……注文が多いなぁ。わかったよ」

 

 返答とともに部屋から退出するリーネ。

 ついて来いということだろうか。

 

 ……あまり気乗りしないなぁ。

 アメリアのことが心配なのもそうだが。

 あのいかにもな格好で弱いことはないだろうし。

 

「どうしたの? 今更怖気付いた? その方が楽なんだけど」

「調子に乗るなよ、小娘」

「……、面倒くさいなぁ」

「急がなくてもいいのかしら? 躊躇っている間に、あなたの”奴隷”アメリアがどうなっても知らないわよ?」

 

 入り口で待つリーネを睨む。

 ひとまず戦うしかないようだ。

 目の前の女、エレノアからアメリアの情報を引き出すためにも。

 

「そこで座って待っていろ。この小娘の首級を持って、貴様から情報を吐き出させてやる(俺が勝ったら、アメリアの場所を教えてくれるんですね)」

「あら。そうなったら考えてもいいわ。あなたが生きていればね」

 

 そんなことを宣うエレノア。

 つかみどころのなさそうな女だとは思ったが……。

 やはりここは凌辱ゲーの世界ということか。

 

 戦う理由はできた。

 彼女の言葉の真贋は判明しない。

 だけど、俺は万が一にもアメリアに危険な目に遭ってほしくはない。

 

 エレノアを一瞥し、リーネの待つ入り口に向かう。

 

「身の程を知らしめてやる(相手してやるよ)」

「今からでもやめといた方がいいと思うけどねー」

 

 戦う前だが、それでもわかる。

 これは格上戦だ。

 この世界に転生してのち、経験した全ての戦いと等しく。

 

 アズーリとの一戦は、フライングで行ったラストダンジョン。

 ダリウスとの一戦は、負けイベント。

 

 ならばこの一戦は。

 アメリアの命運を決める一戦の可能性が高い。

 チュートリアルは終わったのだ。

 

「生きて帰られると思うなよ?(負けないぞ……!)」

 

 アメリアのために――、

 この世界で唯一、彼女を傷つけるしかできなかった俺相手にすら、真剣に相手してくれた彼女。

 俺のせいで危険な目に遭っている彼女のためにも。

 

 ――負けるわけにはいかないのだ。

 

 

「そういえば」

 

 煌々と燃え盛る岩刀を振り上げながら、金髪灼眼の少女は続けた。

 

「自己紹介忘れてた。傭兵軍黒獅子連隊の見習い隊長、リーネ・アテレオ」

「傭兵軍、だと?」

「うん。手加減とかそういうの苦手だから、期待しないでね」

 

 振り下ろされる豪炎。

 飲み込まれないように、歯を食いしばった。

 




 きな臭くなってきました。
 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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