尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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アメリア⑰ 婚約

 †視点:アメリア

 

 

 大嫌いな男。

 傍若無人で尊大不遜。

 周りに迷惑しかかけない。

 

 そんな男が。

 大嫌いなのに。

 

 心配そうな顔ひとつもしないでずっと仏頂面で。

 お母さんにも酷いことを言い続けて。

 私たちを助けたのに、澄ました顔でカッコつけて。

 

 大嫌いなのに……!

 

 力んだ心の勢いが、まるで振り下ろすことができない拳のように失速していきます。

 それもこれもベリアルのせいです。

 ……彼の行動が理解できません。

 

 彼――ベリアルがここにいる理由。

 お母さんが言うには、……ベリアルは土砂降りの中私を探し続けたらしい。

 

 なぜ……。

 なぜなんですか。

 私を探し出したところで、何かするわけでもないのに。

 私に指一本すら触れるつもりもないのに。

 

 怒りたい気持ちでも、なぜか……。

 ベリアルが私を探していたと聞いたとき、……心が暖かくなったような気分になってしまって……!

 

 微かな目眩と騒ぐ心で、私は訳もわからず。

 部屋から出ようとするベリアルの手を握って――。

 

 バシッと繋がれた手を離されました。

 

「あ……」

 

 当然です。私のこの行為にはなんの意味もありませんし、ベリアルが立ち止まる理由もありません。

 だけど、拒絶されたことで胸にチクリとした痛みが走りました。

 

「ど、どこに行くの!?」

 

 とりあえず、そう尋ねてみたのですが

 

「外にいる奴らを蹴散らしてくる」

「危ない、よ……」

 

 私が弱々しく返すことしかできませんでした。

 

「貴様、誰を心配しているつもりだ?」

 

 凄むようにして、私を睨みつけるベリアル。

 その普段と異なる雰囲気。私にはわかります。

 彼は今、本当に苛立っているのだと。

 

 その理由は。

 どう考えてもわかりません。私のせいなのか、私のせいじゃないのか。

 ()()()()()()()()()を察するには、私たちは余りにも一緒に過ごした時間が少なすぎるのです。

 

「俺は貴様の主人ではなくなった。今更気を引こうなど、遅い!」

 

 倒れている男の四肢を縄で拘束しながら、ベリアルは私に叩きつけるように宣言しました。

 それが意味するのは……。

 そんな簡単なこと分かっているのに、なぜか私は……。

 

「婚約などハナからなかった。貴様の願い通りにな!」

「……ッ」

 

 彼の口から聞きたくなかった。

 飛行艇のエンジン音がうるさく。

 何もなくしていないはずなのに、胸の中を喪失感の波が凪いで行きました。

 

 誰も知られずに毎日研鑽を積み。

 自由に出歩けない私を、従者だなどと言い訳をして劇場にまで連れ出し。

 追いかける必要もないのに、土砂降りの中で私を探して。

 

 そんな彼の行動がどれも意外で。

 だからこそベリアルの気持ちに興味が湧いて。

 少しは分かり合えそうかもしれないと希望を抱いて。

 

 それでも、私は今まで彼のことを知ろうとしていませんでした。

 その結果がこれ。

 

 ベリアルが私を傷つけた、と思えば気が楽です。そうすればこの物語の悪役はベリアルだけだから。

 でも、私はベリアルの何も知らない。

 

 眼に見える彼の悪さだけ。耳で聞く彼の噂だけ。

 私はそれしか、目の前の男の子を知らない。

 

「私の願い……」

 

 彼の先ほどの言葉を少し反芻してみます。

 私の願いは……。

 

「……ベリアルは、私が嫌い?」

「……ッ」

 

 私の言葉にたじろぐベリアル。

 その変わらない表情でも、瞳の奥から戸惑いの色が見えています。

 彼を覆う、悪者というヴェールを外してみれば……。

 

「……ああ、貴様とはこれまでだ」

「そっか」

 

 覗き見える、堪えるような感情。

 他人に対して悪感情しか抱かないはずの男の子が。

 こんなにも表情豊かで……。

 

「なんで、……私を追ってホテルまで来たの?」

「……」

 

 再び答えに困るベリアル。

 ……しばらく待ってみたのですが。

 仏頂面の男の子は黙することで誤魔化すと決めたみたいです。

 

「なんで、私と一緒に映画を見たの?」

「……」

「なんで、ルーカス様とダリウス様の誤解を解こうとした私を黙らせたの?」

「……、誤解ではない!」

 

 いつもの勢いはどこへやら、ベリアルは苦し紛れに反論してきました。

 誤解ではないって……。『嫌がる女を無理やり屈服させる愉悦』とか何とか言ってたのを忘れたわけでもないはずなのに。

 それとも、本気で私相手にそんなことをしたつもりなのかな?

 

 ふふっ。

 それこそありえません。

 私がベリアルに屈服なんて……、どう考えてもありえないよ。

 

「私はね、……案外ベリアルのこと嫌いじゃないよ」

「脳にウジでも湧いたか? それとも、ついに気が狂ったか」

「……確かに、おかしくなったって言われても仕方ないかも」

 

 ベリアル。

 目の前の男の子は。

 ひどく不器用でした。

 

 言いたいことを素直に伝えられず。

 いつだって仏頂面。

 誰にも理解されないし、いつだってひとりぼっち。

 

 私は……、もっとベリアルのことを知りたいと思ってしまいました。

 

「私との婚約を破棄したい?」

「ああ。二度も同じことを言わせるつもりか?」

「それ()私のため?」

 

 嘘を言わせない。

 私はまっすぐその澄んだ翠玉の瞳を見つめました。

 

「……、ナイトフォール家の栄光に縋るつもりだっただろうが、そんな企みは――」

「ありがとう」

 

 私のちっぽけな眼力に、彼を素直にさせる力はなかったようです。

 でも、その瞳の奥の真実の一欠片は掴めた気がします。

 

 彼の上辺の言葉なんてどうでも良かった。

 その取って付けたような貴族の振る舞いも。

 

 私のために婚約を破棄させようとしていた目の前の男の子に、私は呟くように話しかけました。

 

「私は……、誤解してたみたい」

「……?」

 

 ベリアルの険が取れた困惑の表情を見て、少し笑い出しそうなのを堪えます。

 ああ。やっと納得できました。

 

『自らの運命を他人の手に委ねるなど、貴様はそれでも生きているつもりか?』

『意思を示せ!』

『勝てないからと諦めるのか? 負けるからと逃げるのか?』

 

 彼からかけられた言葉。

 過酷な運命の星のもとで生まれた彼の生き方。

 

 それは全て――、私が自ら進んで、望まない婚約を破棄させるため。

 運命に抗う術がないと嘆いていた小娘を奮い立たせるための……。

 

 ……。

 最後に、もう一度だけ。

 どうしても確認してみたかったので。

 

「ベリアルはどうしても、私との婚約を破棄したい?」

「くどい! 三度目だぞ」

 

 覚悟が見えるその宣言。

 何があっても覆すつもりはない。

 ベリアルはそう言うつもりでしょう。

 

 私たちの関係性はここまで壊れてしまっていたのです。

 望まぬ婚約を、彼はどうしても解消しないと気が済まない。それはひとえに、私のため。

 

「うん、……わかった」

 

 彼がどれほど頑固なのか、それは彼の一心不乱に鍛錬を続ける姿で知っているつもりです。

 だから私は彼の望みを受け入れることにしました。

 私たちが望まない婚約はもうこれで終わり。

 

「ふん、時間を掛けさせやがって」

 

 力なく吐き捨てるベリアルは、再び部屋を出ようと歩き出したので。

 

「……?」

 

 もう一度その手を取ります。

 先ほどとは違って強く。ベリアルが逃げられないように。

 振り解こうとするベリアルの手を、精一杯の力で握りながら、

 

「意思を示せ、だったよね?」

「はぁ?」

 

 ベリアルからもらった言葉を返し、私は続けました。

 

「誰にも望まれなかった婚約は破棄されました。なのでもう一度、婚約を結びましょう」

「?? 何を言っているんだ貴様?」

 

 壊れてしまった関係性はもう諦めましょう。初めから間違っていた道を歩み続けるほど、私たちもバカじゃない。

 けど壊れてしまったら終わりじゃない。

 もう一度、始めればいいだけの話。

 

「私はもう一度、ベリアル様と婚約を結びたいです」

 

 自然と心臓の鼓動が早くなるのを感じます。

 少しばかり頬が熱くなるように思えました。

 ホテルに流れる空気のせいか、自分でも信じられないほどに大胆になってしまった気分です。

 

 でも、ここまで来て、逃げるつもりはありません。

 

「……残念だったな。ナイトフォール家の威光をクレイトン商会にもたらそうと――」

「――いいえ。ナイトフォール家もクレイトン商会も関係ありません。これはベリアルとアメリアの婚約です」

 

 これは私――私たちの物語。

 他人に操られた運命ではありません。

 悲劇のヒロインが主人公に救われる話、そんなものはどこにもありません。

 

「嫌ですか?」

「ッ! ……」

 

 もしも。

 ベリアルが私のことが嫌いだったら。

 婚約なんて話は無理です。

 

 でも。

 どこか鳩が豆鉄砲を食ったような表情のベリアル。

 目の前の男の子が嫌じゃないのなら。

 

「私たちの婚約、ゼロから始めましょう」

 

 柔らかく微笑みます。

 けど、ベリアルを見つめる視線は外さない。

 

 ああ。

 私は随分に身勝手になってしまったようです。

 誰のせいでしょうか。

 

「……なぜ俺が……」

 

 未だに抵抗を続けようとするベリアル。

 でも、私は決してベリアルの瞳から目を逸らしませんでした。

 

 私の想いから、彼を逃さないように。

 

 ………………。

 

 そして、先に折れたのはベリアルでした。

 

「好きにしろ」

 

 そう言うと、ため息をつきながら、その場にドガっと座り込むベリアル。

 

 やったっ!

 心の中で少しだけガッツポーズ。

 自分の意思を通すってこんなに気持ちいいんだなぁ。そう思えてなりません。

 

 けど、喜んでばかりはいられない。

 一度小さく息を吐いて、私はベリアルの手を離し、ベリアルと初めて出会った時と同じく肩に乗せました。

 

 さあ、もう一度物語を始めましょう。

 

「お会いできて嬉しいです、ベリアル様」

 

 初めまして。

 私の婚約者様。

 

 この婚約が綺麗事に終わらないのはわかっています。

 父の借金、クレイトン商会、ナイトフォール家。

 それらが背景にありながら、乙女の夢見る恋などは望むべくもないでしょう。

 

 でも、この一瞬だけでもいいから。

 手から伝わる彼の温もりを感じていたい。

 

 この気持ちが何なのか。

 私たちがどうなっていくのか。

 

 今はまだわかりません。

 でも、私たちはやっと、スタートラインに立てた気がしました。

 

 

 †8月20日21時48分

 

 

『本部から全部隊に告げる。デルタとの連絡が途絶えた。付近の部隊は4階西に向かい、状況を確認せよ。その後、全隊員22:00(フタフタマルマル)まで母艦に帰還せよ。繰り返す、22:00(フタフタマルマル)まで母艦に帰還せよ』

 

 




 あともう一悶着ある予定です!

 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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