尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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アメリア⑱ 決戦――12分

「それで、ここで何が起きているのか把握しているのか?」

 

 対面のエレノアに尋ねる。

 短い黒髪の下は包帯で額を巻いている。血が滲んでいる様子はなく、応急措置にしては悪くないものだろう。

 

 隣にはアメリアが座っている。

 先ほどの男が背負っていた魔導銃を、今日買ったばかりのパーツ類で改造中だ。

 

「気絶している人々に、充満している霧。さらには飛行船を持った傭兵からの襲撃。何も知らないとは言わせんぞ」

「……ええ。私の知っている限りのことを話させてもらうわ」

 

 息を吸うと、エレノアは琥珀色の瞳を揺らした。

 

「この霧の正体はおそらくヴェリタス。大陸東部原産の一年草から抽出される興奮剤の一種よ」

「興奮剤?」

「クレイトン商会では扱っていない薬だからそれ以上のことは知らないのだけど、最近では映画劇場でも使われ始めている話を聞くわ」

「劇場……。私たちが見た映画劇にも使われていた気がする。あの時は色まではわからなかったけど、似たような匂いを感じるよ」

 

 思い出しながら語るアメリア。

 残念ながら、俺には覚えがない。興奮していて気づかなかっただけなのか、それとも鼻が悪いのかは知らないが。

 

「騎士団やハンターギルドはどうなっている? なぜここまでの騒ぎに駆けつけない」

「騎士団は、……中には私たちの商会が気に入らない人がいても仕方ないけど、ハンターギルドが動かない理由はわからないわ」

「貴様、共和国政府に恨まれるような立場なのか」

 

 伝統的な名前を使っているだけで、騎士団とはいわば共和国警察である。

 いくら気に入らないからといって、テロ事件に駆け付けないのなら信用問題に発展しそうなものだが……。

 

「ごめんなさい。あなたをこんなことに巻き込んでしまって」

 

 そう言って頭を下げてくるエレノア。

 今更すぎる話ではある。

 どことなくアメリアの風貌が感じ取られるような女性に頭を下げられるのは、なんとも言えない居心地の悪さがする。

 

「俺は気にしていない。なにせ、そこの小娘の婚約者だからな」

 

 正直なところ、先ほどのアメリアの言動については混乱しているままだ。

 アメリアが何をどう思っているのかはわからないが、ひとまず事実は事実として頭に入れて処理する。

 詳しいことはこの事件が片付いてからおいおい考えていけばいいだろう。

 

「小娘じゃありません。アメリアって呼んでください」

「今はそれどころじゃ」

「……アメリアと、呼んで」

「……」

 

 ……アメリアがやたらと情緒を乱してくるのだが。

 強まる飛行船の掃射音のなか。

 整った瑞々しい容貌の女の子から、真っ直ぐ視線で射られる。

 

「アメリア。……これでいいか?」

「はい」

「ふん。全く、面倒だ」

 

 努めてアメリアと意識すると、”ベリアル”は俺に応えてくれた。

 珍しいこともあるものだ。

 満足そうに頷くアメリアは、魔導銃の整備を終えたのか立ち上がる。

 

「ヴェリタスはホテル中に散布されたんですよね。おそらくホテルの換気システムに細工をされているはずです。それもその中枢、屋上の換気扇に」

「換気システム、だと?」

「はい。この量を人力で散布は不可能なはずです」

 

 それはその通りだろう。

 もしも人力だとしたら、警備員どころか客全員が異常を察知するレベルだ。

 

「なのでとりあえず、この部屋だけでも換気システムを閉ざしちゃいましょう」

 

 そう言うと、アメリアはロングブーツを脱いでベッドに上がり、天井の通気口に手を伸ばす。

 どうやら手動の扉がついているようで、ガラガラと音を立てて通気口は塞がっていく。

 

「あとは助けが来るまで待ちましょう。いざとなれば魔導銃もあります」

 

 そう言いつつ、アメリアは購入したばかりのカーキ色のワンピースを揺らした。

 ……こんなときでもなければ、その美貌で目の保養をしていただろうけど。

 少しばかり残念な気持ちになりながらも、俺は持ってきた直剣を握り直した。

 そんなときだった。

 

 ――プスッ、……プチチチ……。

 

 テロリストが持っていたであろう叩きつけられた無線機がスパーク音を放つ。

 何を思ったのか、アメリアは無線機を拾い上げる。

 

「……これくらいなら」

 

 魔導回路に数度手早く手入れをすると。

 数秒後に、無線機は低い女の声を放送した。

 

『本部から全部隊に告げる。デルタとの連絡が途絶えた。付近の部隊は4階西に向かい、状況を確認せよ。その後、全隊員22:00(フタフタマルマル)まで母艦に帰還せよ。繰り返す、22:00まで母艦に帰還せよ』

 

「よくやった」

 

 珍しく素直にアメリアを褒めてくれるこの口。

 この情報がなかったらいつ来るかわからない助けを待つ羽目になっていた。

 

 ここは4階西フロア。デルタと呼ばれているのはおそらく今地面で縛られている男だ。

 部屋に飾られた時計を確認する。

 現時刻は21時48分。

 12分ここを死守すれば、テロリストは撤退する。

 それだけなら、なんとかなるだろう。

 

「俺が囮になってやる。お前たちは隠れていろ」

「待ちなさい! 相手は武装しているテロリストなのよ!」

 

 エレノアの声を無視してドアに向かって歩き出す俺だったが。

 ガシッと肩を掴まれる。

 

「待ってください! 私も!」

「足手纏いだ。手を離せ」

「危険よ! あなたたちはこの部屋で待機して、ホテルの構造を一番知っている私が……」

「私も行きます。銃の整備も終わったので、チャージさえすれば岩竜だって一撃で仕留められる戦力です!」

「ダメだ! 貴様がついてきては、囮の意味が!」

 

 言い合っていると。

 無線機から再び声が響いた。

 

『本部から全部隊に、告げる。お知らせとオマケだ。撤収は二二〇〇厳守。門限を守れなかった悪い子は永遠のおねんねをしてもらうことになりました、とさ。散布ガスに致死毒を上乗せておくから、死ぬ気で間に合わせるんだよ』

 

 あの不吉なスーツ男の声だ。

 

『な、貴様何を勝手なことを!』

『いいじゃないか。あんたたちの目的はエレノア・クレイトンの殺害。いかなる手段を持ってしても、って上から厳命されてたはずでは?』

『それとこれは……ッ! お前たち! 何をしている! なぜ私に刃を……!』

『あ、そうそう。余っていたヴェリタスの原液、飛行船内に間違ってこぼしちゃったので、その掃除も頼みますよ』

『貴様ァアア――ッ!!』

 

 その叫び声と共に、応急の手直しをされた無線機は最後のスパーク音を発して文鎮と化した。

 

 もはや言い争っている暇すら無くなった。

 12分という余裕が。

 12分というタイムリミットに変わった。

 

 布団をちぎった最低限のマスクをして、俺たち3人は屋上に向かうことになった。

 

 

 †21時49分

 

 

 部屋を飛び出すと、すでにそこは地獄と化していた。

 ホテル内のあちらこちらから銃声が鳴り響き、流れ弾がガラスを破砕していく。

 制圧用に使用されたであろう手榴弾などの爆破音や振動も絶えず伝わっている。

 

 廊下から続く広場には、似たような黄土色のプロテクターを身につけた傭兵同士が戦闘を繰り広げ。

 遠目からでもわかるほどに、非常階段に進むにつれて戦闘が激しくなっている。

 

「お前ら一体どうした!! 急がないとみんな死んでしまうぞ!!」

 

 そう理性的に叫ぶ声に対して。

 

「俺たちを捨て駒のように扱いやがって! 殺してやる!!」

 

 先ほど俺が制圧したやつのように、錯乱したような暴れる声。

 何が起きているのか、おおよその予想はつく。

 例の興奮剤(ヴェリタス)が原因だろう。スーツの男が何かしらをしたと想定してもいい気がする。

 

 だが今はその考察を進めても仕方がない。

 まずは”致死毒”をどうにかしないと、俺たちを含めたホテルにいる人全員の命が危うい。

 

「ホテルの構造に詳しいと言ったな。ここから最も速く屋上に辿り着くルートを教えろ」

「ええ。西の外れの非常階段の手前に従業員専用の通路があって、そこは認証カードがなければ通れないはずよ。けど……」

 

 廊下の向こうを見て言い淀むエレノア。

 その視線を追うと、先には暴徒化し襲い来る傭兵を相手に、部屋から持ち出したであろうベッドやソファーをバリケードに数人が戦っていた。

 

「あのバリケードの向こう側に通路があるのよ」

「……チッ」

 

 もう一度広場の方に目をむける。

 広々とした中央階段があり、屋上までの距離では一番の近道だが。

 上層階から襲い来る暴徒数十人を相手に、テロリストたちが苦戦を強いられている。

 銃撃の効果が薄いのか、白兵戦にまで追い込まれており、勝機は薄そうだ。

 

 ならば腹を括るしかない。

 

「突破する」

「……正気かしら」

「命が惜しければついてくるな」

 

 吐き捨てると、走り出す。

 防戦一方な傭兵連中を掻い潜る。

 

「なっ!? お前は誰だ!?」

「そんなことを気にする暇があったら、敵が誰か見極めろ愚図ども!」

 

 家具類を飛び越え。

 バリケードの破壊をしていた斧兵を槍兵を確認すると。

 手始めに斧兵の背後から直剣を斬り下ろす。

 

 ――キンッ!!

 

 プロテクターとの接触で閃光が走るが。

 そんなことを気にせず反す刀で斧兵の脇腹に向けて振り抜く!

 

「ぐっ!?」

 

 たまらず吹き飛ぶ斧兵を横目に。

 バリケードの破壊は止めて、こちらに槍を向けている槍兵に集中する。

 

「死ねえええッ!!」

 

 振り下ろされる槍を。

 渾身で体を捻り。

 紙一重で避ける――!

 

 忘れてはならない。

 いくら不意を突いたとはいえ、鍛錬しかしていない小僧に比べて確実に相手は格上。

 油断の一才を捨てる。

 

 振り下ろされた槍の(きっさき)は、弧を描きながら追いかけてくる。

 直剣を腹に擦り付けるように柄と刀身を握り構え、その横薙ぎを防ぐ。

 

「……ッ!」

 

 が、力負けして、数歩退かされた。

 アキレス腱を引き締めて体幹を素早く立て直す。

 槍兵の次の攻撃、愚直な突きを正面から迎え撃つ!

 

 懐直前に進級してきた矛先を――!

 

「――ッらァアア!!」

 

 胸前で構えていた直剣で無理やり弾くッ!

 ガキンッという鈍い音と共に、大きく槍を弾かれた槍兵。

 だが、俺も勢い余って直剣を落としてしまう。

 

 こうなれば……!

 

「うぉおおおおお!!!」

 

 ガラ空きとなったそいつの胸に。

 あらん限りの力で握り込んだ拳を叩きつける!!

 

「がッはぁ……!」

 

 肺の空気を叩き出された槍兵は呻き声を上げると、その場にうずくまる。

 それを確認して、落としてしまった直剣を拾おうと向かうため。

 振り返ると。

 そこには――!

 

「ぶっ殺してやるぅぁあああ!!!」

 

 振り上げられた斧の銀閃。

 血走った瞳と、涎が垂れる歪んだ口。

 

 一瞬の空白。

 全てが遅く見えて。

 だけどどうにもならないと悟るしか脳は働かず――。

 

 ――ズドンッ!!

 

 鼓膜を突き破るばかりの爆裂音に。

 現実が戻ってきた。

 

「……!?」

 

 驚きのあまりに何も言葉を発せなかったが。

 振り下ろされた斧が空中で爆散し、破片が雨のように落ちる.。

 その勢いのまま斧兵が壁にまで吹き飛ばされていた。

 

 爆裂音のした方向を向くと。

 

「大丈夫ですか、ベリアル!」

 

 バリケードに大穴を開けたであろう少女が、凶器の魔導銃を握ったままこちらに走ってきていた。

 岩竜だって一撃で仕留められるってのは誇張じゃなかったのか……。

 ……婚約者じゃなかったら、漏らしてたところだぞ。

 

「あ、ああ。助かった」

 

 素直になる”俺”。おそらく命の危険を感じたのだろう。

 

「チャージに少し時間かかりますが、これで私は足手纏いではありません」

 

 足手纏いなのはむしろ俺じゃねえかと思えてくるぞ。

 だが、緊張の糸が息に緩んで、おかげで手の震えがおさまってきた。

 

「あんたら助かったぜ!」

「恩に着る!」

 

 呆然としていた俺の隣を、先ほどまでバリケードで待機していたテロリストたちが走りすぎていった。

 っと、時間を無駄にしている場合じゃない。

 

「従業員専用の通路はこっちよ!」

 

 先導してくれるエレノアについて、俺たちも屋上に向かうこととなった。

 

 

 †21時54分

 

 

 たどり着いた屋上。

 換気システムの出口に繋げられた大型の魔導装置が怪しく光る手前。

 飛行船が船首をコンクリートに打ち付けられるように墜落炎上しており。

 尋常になく濃く広がる藤色の空気。

 

「これはこれは。一番乗りはやはり君たちだったか」

 

 燃え盛る火柱を背景にスーツの男は髪を乱しながら嗤う。

 

「ベリアルおぼっちゃまに、アメリアお嬢ちゃん、エレノア会長。俺の用意した余興はいかがだったかな?」

「貴様、ふざけているのか?」

「はっはー、これは手厳しい」

 

 戯けたように両手を振るスーツの男。

 彼に対してエレノアが歩み出た。

 

「毒ガスの散布なんておかしなことをやめなさい。どれだけの犠牲者が出ると思っているの!」

「うーん、昏睡した一般客1200名、逃げ遅れてしまうテロリスト300人、あとは紛れ込んだ数人のハンター。ざっと1500程度だろうね」

「あなたは……っ! 何が要求なの!?」

 

 尋ねるエレノアに対して、首を傾げながらスーツの男は答える。

 

「何か勘違いしているようだな。おじさんは何かをして欲しいから脅しているわけじゃない。強いて言えば私利私欲のためってやつだ」

「ならば力づくでも止めるしかありません……!」

 

 魔導銃を抱えて、アメリアは山吹色の瞳に意思を宿した。

 

「はっはー。いいね、その反応。おじさん惚れ惚れしちゃうよ。だけど残念ながら力づくってのはおじさんの得意分野じゃないから、相応しい相手を用意してあげたよ」

 

 スーツの男は横にずれるように歩く。

 すると、その後ろから白金の甲冑姿の騎士が歩み出た。

 甲冑の隙から長く流れる金髪しかその容貌を窺い知る術はない。

 

「目の前にいるのは旧貴族制の生き残りと、クレイトン商会の関係者。あんたなら何をすべきかわかっているだろ、テロリストのリーダーさん?」

「……言われずとも」

 

 炎の中を歩き進み、換気扇の魔導装置にまでたどり着いたスーツの男は、懐から緑に蛍光を放つ液体が入った小瓶を取り出す。

 そして装置に小瓶を取り付けると宣言した。

 

「さあ、踊りたまえ。おじさんはこれでいとまさせてもらうが、ね」

 

 銀色に煌めく騎兵槍(ランス)を抜き取り。

 女騎士は低く声を上げた。

 

「お前たちがいる限り共和国に未来はない。その血肉を革命の礎に捧げてもらう」

 

 振り上げられた騎兵槍に。

 聖なる光が宿り。

 雨脚が割れた。

 

 

  ☆ステータス☆

 

 【名前】女騎士

 【基礎レベル】100以上

 【技量レベル】100以上

 【魔法属性】光

 【魔法詳細】不明




 二人が力を合わせれば、どんな壁だって乗り越えられる。ということで、高めの壁を作っておきました!

 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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