尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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アメリア⑤ ダリウスとベリアル

 †7月23日昼過ぎ。視点:アメリア

 

 

 重厚な扉の先。

 辿り着いた花園。

 そこには小さなテーブルと椅子。

 

「来てくれたか、アメリアちゃん」

 

 私を見つけて、ダリウス様が声をかけてきました。

 物柔らかな声音。ベリアルとどこか似ている雰囲気はあるものの……。

 

「こっちへおいで。一緒にお茶をしよう」

 

 ダリウス様はにこやかに椅子を勧めてきました。

 

「え、ええっと……」

「遠慮しなくていいんだよ。せっかくここまで来たんだから、ね?」

 

 甘く誘うようなダリウス様の声音。

 無碍に断るのも失礼なので……。

 

「それでは……」

 

 しぶしぶ椅子に腰掛けると、すぐにダリウス様が香り高い紅茶を注いでくださいました。

 覗き込むと、水面には私の顔が。

 

 ……紅茶だからというには説明しきれないほどに紅潮していて。

 何を期待してしまっているのか、心臓の鼓動が耳鳴りのように聞こえ始めていました。

 

 花園の雰囲気に悪い方向で影響されてしまったのでしょうか。

 それとも、ベリアルなんかと比べものにならないほどに貴族らしいダリウス様がいらしたからなのか。

 誤魔化すようにカップを手に取ろうと手を伸ばしたのですが、

 

「淹れてから時間が経っているので、新しいお茶を用意しますね」

 

 横から声が。

 アズーリさんが紅茶を取り上げてしまいました。

 

「あれ……?」

 

 いつの間にいらしたのでしょうか。

 最初からいた気がしないでもないけど……。

 ……紅茶に伸ばした手の先がなくなったものですから、少し戸惑っていると、

 

「アメリアちゃんは、この花園に来たのは初めてかな?」

 

 退出アズーリさんを尻目に、ダリウス様が尋ねてきました。

 

「……ええ。とても美しい場所ですね」

「そうだろう? 退屈している迷い花にはピッタリの場所さ」

「……?」

 

 一瞬頭の理解が追いつかなくなりました。

 

「おっと、美しく花開いている自覚がなかったのかな。だとしたら――努力もしないし才能もないただの穀潰しの弟は、随分と無垢な宝石を手に入れたものだ」

 

 そして困惑と共に、少しずつ羞恥心が芽生え始めていることに気づいてしまいました。

 ……褒められて、いるのでしょうか……。

 ダリウス様が着ている裾の長いケープが揺れ、光沢のある赤の裏地がちらりと覗きます。

 心なしか、その赤色が眩しく感じられました。

 

「無垢な花には風が必要だ。優しく囁いて、少しだけ道を逸れさせるような……危うくて、甘美な風が」

「……」

 

 ダリウス様は一体何を……?

 戸惑いはありますが、言葉を一つ一つ思い出しながら、紐解いていきましょう。

 

 無垢な花、これは私でしょうか。……自意識過剰じゃなければ。

 そして、……道を逸れるような、危うくて、甘美な風。

 危うくて。

 甘美な。

 

「……えーと……」

「ああ、すまない。分かりにくかったかな?」

 

 申し訳なさそうに微笑むと、ダリウス様は続けました。

 

「君には羽を伸ばして休む日が必要だってことさ」

「羽を伸ばして……」

「そう。ベリアルのことなんか忘れて、……いや、その双肩にのし掛かる重荷を全て解き放ってね」

 

 ……、重荷。

 

「君が置かれている立場はわかる。クレイトン商会、そしてナイトフォール家。共和国を左右するような関係性の鍵だ」

「……それは」

「君に課された役割がこれからの未来に関わるだろう」

 

 うまく働かない頭で。

 ダリウス様の話を咀嚼します。

 ……共和国随一の商会と、大貴族。私の父の取り決めとはいえ、政略結婚としての重要性は、想像できないほどに高いのでしょう。

 ベリアルの兄にして、ナイトフォール家の長男、ダリウス様なら、それについてもよくわかるはず……。

 

「だけど、少なくともこの花園にいる限り、君はただの女の子だ」

「ただの、女の子?」

「ああ。ここには、ベリアルが決して踏み込めない」

 

 そう言いながら、ダリウス様は懐から魔導具を取り出します。

 ……不思議な形。宝石を通した軸を周りに、同心円型の金属が数重に重なり合ったような……。

 まるで……、

 

「まるで、ジャイロスコープみたいかな?」

「……そ、それはなんですか?」

「この花園の鍵さ。入り口の扉を開く、代々伝わる古代遺物なんだ」

 

 それを私に手渡すダリウス様。

 今すぐにでも魔導回路を解析したい欲望を抑えて、

 

「これを私に……?」

「ああ。逃げたくなったら、いつでもここに入るといい」

「……ありがとう、ございます」

 

 感謝の言葉を述べます。

 なんだかまとまらない思考では、今すぐにこの遺物の解析は不可能なので。

 ひとまずは脳裏から忘れましょう。

 ……魔導具を手に入れたら、調べずにいられないのは私の悪い癖ですから。

 

「その代わりといってはなんだが」

「はい……?」

「あの弟、ベリアルをなんとかするために君の力が必要になるかもしれない」

 

 ベリアルを、なんとかする?

 それは、……どういう意味でしょうか。

 くすんだ瞳に吸い込まれるような錯覚に落ちる私に、ダリウス様は続けました。

 

「君だってベリアルとの婚約は受け入れ難いだろう? だから、僕の手助けをして欲しいんだ」

「て、だすけ、……ですか」

「うん。もちろん、難しいことを頼む予定はないから安心していいさ」

 

 どこか危険な着地点に話が入っている気が……。

 

「僕なら、きっと君を幸せにする」

「し、……あわせに?」

「ああ。君は僕になくてはならないピースなのさ」

 

 息をするのを忘れるような感覚に……。

 

「ベリアルさえいなければ、君は……」

 

 ゆっくりと私の頬に伸ばされるダリウス様の手。

 それを呆然と……、

 

「――お待たせしました! こちら、新しいお茶です」

 

 という大きな声にハッと我に帰りました。

 俯いていた顔を上げると、こちらに伸ばしていた手を引いている仕草のダリウス様。

 その前に、私たちの間に挟まるようにして立つアズーリさん。

 

「……あっ、ありがとうございます」

「いえいえ」

 

 笑顔で返答するアズーリさん。

 少しばかりバツが悪そうにしているダリウス様は、アズーリさんに対して、

 

「おっと、君のことを蔑ろにしたいわけでは」

 

 と、言い訳のような、弁明のような言葉を発し始めていましたが、

 

「いえ、気にしていませんから。それよりも、そろそろお時間です。急がないと教練の講師がお怒りになりますよ」

「もうそんな時間なのか。……彼女の怒りを買うのは避けないとね」

 

 そう言いつつ立ち上がるダリウス様。

 

「またね」

 

 そう短く言うと、ダリウス様はアズーリさんと共に花園から出て行ってしまいました。

 

 ……ここは私にとっての逃げ場。

 でもなぜか。ここにい続けるのは憚れました……。

 

 落ち着かせないと。

 一言二言に過ぎない、ちょっとした言葉で()()()揺れ動き過ぎている心を。

 

 そう思いながら。

 自室に向かいました。

 

 

 †7月26日。視点:ベリアル

 

 

 直剣振り回すの楽しい!!!

 

 袈裟斬り!

 撫で斬り!

 逆袈裟斬り!

 

 一瞬にして、仮想敵までの間合いを詰め!

 平突刺!

 その勢いのまま、飛び上がり!

 回転斬り!!

 

 素晴らしい!

 素晴らしいぞ、ベリアル!

 

 かれこれ一週間近くかかったけど、やっと仮想敵である彼女――アズーリにダメージになるほどの一撃を入れられた!

 ……とはいえ、この攻撃の間に数十回は殺されている計算だが。

 

 何をしているかって?

 鍛錬場を使って修行中である。

 残念ながら俺の知っているこの世界で敵になり得る存在は、あの死闘を繰り広げたアズーリだけ。なので仮想敵は彼女しかいない。それでも彼女との立ち合いの度にゆっくりと伸びていく剣筋の速さと鋭さ。

 この2週間にして、わずかだが、着実に自分が強くなったと実感できた。

 

「最低限は……クリアかな?」

 

 感覚で言えば、レベルは上がっていて数レベル程度だろうか。

 ゲームなら、一週間も毎日プレイすれば余裕でアズーリに追いついたであろうが、流石にそんなわけにはいかなかった。

 当然だ。

 そんなにすぐ強くなるなら、この世界は達人しかいなくなる。

 

「はァアアアア!!!!」

 

 叫びながら、先ほどのコンボを繰り返す!

 そして回転斬りののちに――!

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

 跳ね上がりながら横斬り!

 その勢いで――、

 兜割り――!!!

 

 ドガッ! と打ち下ろされた剣が鍛錬場の地面に突き刺さり、土塊が舞い上がる。

 

「ふふ、ふはははは!!!」

 

 思わず笑いが出る。

 ゲームでの縛りでは、コンボを数種類しか設定できなかった。

 だけど、今は自由自在だ!

 ……戦う相手も同じだけどね。

 けど、それこそが楽しいのだ!

 

 オンライン環境という箱庭。

 最強論議が最終的に結論に至り。

 結論のコンボのみばかりが採用される世界。

 そんな停滞した環境を味わうことはもうない!

 

「最強を目指す……!」

 

 結論ではない。

 至った境地などではない!

 いまや最強は――目指し続けられる!!

 ゴールはもうない。

 果てなき航海にこそ、人は夢を見る!

 

 ……って熱くなりすぎか。

 ベリアルくんの厨二病がうつってしまったかも知れない。

 

「ふぅ……」

 

 一度呼吸を整え、休憩のために座る。

 この世界、原作が開始するのはおそらく“俺”ベリアルがゲームの舞台、士官学院に入学する年。

 現在14歳のベリアルが15歳になる半年後だ。

 ……飛び級とかの可能性はないわけではないと思うが、周りの“俺”の評判を見る限り、そんな優秀だとも思えない。

 というわけで、とりあえずは士官学院を目指すことになるが……。

 

「けど……、アメリア……だよなぁ」

 

 “俺”の婚約者、アメリア・クレイトン。

 彼女の特徴――。

 

「あの周囲からかけ離れた可愛さ」

 

 幼いながらものぞかせる傾国の美女の片鱗。

 それに、

 

「芯が強そうで、……俺にすら律儀に挨拶してくれるほどの真面目さ」

 

 ……18禁のゲームならば、そういったヒロインが毒牙にかけられるのはあるあるの展開だろう。

 事実、彼女のムフフなギャラリーはそれなりの数があったはずだ。

 だけど、いくら自分の命が大事とはいえ、婚約者にBAD ENDをさせるわけにはいかない。

 

「アメリアは士官学院には行くはず。……てか、俺のせいで行けなかったとかは絶対ダメだろうな」

 

 その上。

 凌辱ゲーのヒロインがほぼ確定している彼女を、原作開始後に俺の目が届かない場所に置くのは危険だ。

 俺は知っている。

 凌辱ゲーでは、単独任務に出たヒロインは大抵碌な目に合わないって。とある魔界の住人と対峙する忍者のゲームも言ってた。国民的凌辱ゲーの話だし、おそらく間違いない。

 となると、問題は彼女の学院入学まで俺はどうすべきか。

 

「無干渉でい続けるべきか? いや、けど……」

 

 原作LHで“俺”はおそらく彼女に酷いことをしていたはず。

 その境遇をバネにして、彼女が頑張ったとしたら……。

 その場合だと、無干渉ではダメだ。

 だからと言って彼女に酷いことをするのはない。そういう展開を壊すために俺がいるのだから。

 

「“俺”の言葉じゃ、学院に行ってもらいたいって伝わらなさそうだしなぁ」

 

 罵倒しかしないもん。

 あ、けど。

 一応俺が言いたいことは全く伝わらないわけでもない。……いや全く伝わらないこともあるけど、最悪のニュアンスをトッピングしながらものすごく遠回しに、一応言いたいことを喋ってくれることもある。

 つまり。

 

「コツコツとちょっとずつ頑張って伝えよう」

 

 彼女の攻略のためにも。

 そうしよう。

 決心し、俺は再び剣を握る。

 

「さあ、修行だ!」

 

 さっさとアズーリに追いつくぞ!

 そう思っていると、

 

 ガタッ!

 

「?」

 

 ドアが閉まる音がした。

 振り返ると、鍛錬場の扉が閉まってる。

 あれ? 閉め忘れた扉が風でしまったのかな?

 

 ま、いいや。

 今日はあと12時間。

 飯の時間を抜いたら11時間しかないぞ。

 

 

 †同時刻。視点:アメリア

 

 

「最強を目指す!」

 

 一心不乱に剣を振い続けるベリアルは、獰猛な笑顔でそう吐き捨てるように言いました。

 毎日見ても飽きない剣捌き……。

 縦横無尽に乱舞していたベリアルは、剣を地面に突き立て握り、それに体重を乗せながら、上がった息を少しだけ吐いていました。

 

 扉から盗み見をしている私の様子には気づいていないみたい。

 私が普段よく見る煌びやかな貴族服ではなく、運動のしやすいシャツを、まるで洗濯中のように汗でびっしょりと濡らしながら、休憩に入ったようです。

 

 ……部屋に引きこもっているか、それとも街に遊びに行っているか。

 この家の使用人さんたちはそう言っていたのですが……。

 そんな様子は全く見られません。

 

 ベリアルは、そのまま考え込むようにして座り込みました。

 ……なんだか先ほどの綺麗な剣舞をもう一度見たかったなと、名残惜しくも部屋から離れようとしたのですが……

 

「けど……、アメリア……だよなぁ」

 

 そんな声が聞こえて、

 

「え?」

 

 と振り返りながら声を出してしまいました。

 バレたら酷いことをされるかも知れない!

 そう思って心臓の鼓動が速まったのですが、……ベリアルは聞こえていなかったようです。

 先ほどの運動で、疲れていたのでしょう。

 

 けど、ベリアルが私の名前を出したということは……、おそらく碌なことではないのでしょう。

 彼は何をしようとしているのか。もはや想像もつきません。ですが……、いずれこの身に起こること。諦めながらも、私は盗み聞きを続けることにしました。

 

「あの周囲からかけ離れた可愛さ」

 

 ……。

 もはや彼にどんな言葉をかけられても、褒められている気分にはなりませんでした。

 ベリアルのことだから、どうせ私のことをどうやって犯し、穢すことしか考えてないでしょうから。

 ただその日がいつやって来るのか気が気ではありません。……せめて、彼が今の所その剣術の鍛錬のみに気が行くことを祈るしかないです。

 

「芯が強そうで、……俺にすら律儀に挨拶してくれるほどの真面目さ」

 

 …………。

 なぜ私のことを褒めるような言葉を……?

 ……少なくとも、ダリウス様よりはわかりやすい言葉ですが。

 挨拶すらしてもらえないかもしれないと自覚しているのならなんであんな態度をしているのやら……。

 

「士官学院には行くはず。……てか、俺のせいで行けなかったとかは絶対ダメだろうな」

 

 ?

 …………。

 ???

 

 す、少し混乱。

 え? なんで?

 あれほどに私を小馬鹿にしていたベリアルが……?

 というか、そもそも私が士官学院を目指していたなどと言ったことはないはずで。

 

「無干渉でい続けるべきか?」

 

 そんな混乱している私に構わず、彼はそんな言葉を言いました。

 なぜ? なんで??

 どう考えても、ベリアルが何を考えているのか理解できません。

 

 彼はなぜ私を士官学院に行かせようと? それも、自身の影響で私は行けなくなるかも知れないことを危惧しているのでしょうか?

 むしろ家で私を飼い殺すつもりだったのではないかとばかり思っていたのですが……。

 

「“俺”の言葉じゃ、学院に行ってもらいたいって伝わらなさそうだしなぁ」

 

 ベリアルは……、私が士官学院を目指してほしいと思っている……?

 ……また何か特殊な性癖によるプレイの一種……、というわけないですよね。え? 士官学院に行かせるプレイ?? そんなの私が読んだことのあるどんな官能小説にも……。

 

 こ、こほん!

 それは今どうでもいいとして!

 確かに、彼の言葉はどれも私を手ひどく罵倒しているだけのもので……、そんな言葉では私には何も伝わらないでしょうけど……。

 でも実際に何か行為に移すといったことはありませんでした。

 

「コツコツとちょっとずつ頑張って伝えよう」

 

 そんな言葉と共に再び立ち上がって剣を握るベリアル。

 心なしか、顔の険が少し取れたような……。

 

 ……彼は本当にベリアルですか?

 ダリウス様曰く、努力もしないし才能もないただの穀潰し。メイドさんたち曰く、強く出れる相手にだけ威張る癇癪持ちの小悪党。

 私を想像もつかないような極悪非道な手で、その欲望の赴くままに、人としての尊厳を忘れさせるような酷いことを画策していた婚約者。

 今鍛錬室にいる、あなたは……誰ですか?

 

 と、彼はもはや別人かと疑い、自分でもわかる百面相のような表情をする私だったけど、

 

 バタン!

 

 と、風に煽られて鍛錬室の扉が閉まり、ビクッと跳ね上がってしまいました。

 




 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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