尊大不遜な転生悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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 やっぱ一話を短く切り上げられない……。一万字行かなかっただけマシかな……?


アメリア⑦ 決闘(前)

 負けイベント。

 それは多くのストーリーRPGに存在するイベントの一種。

 ヒロインとの出会いから始まる物語は、チュートリアルである主人公が対処できる程度の困難を乗り越え、その後に主人公が目指すべき乗り越え難い壁を示すのだ。

 程度にもよるだろうが、立ちはだかる高壁に理不尽に叩きのめされることによって、主人公は立ち上がらなければならない理由を作るのだ。

 

「お前には痛い目を見てもらわないといけない!!」

 

 ならば、この邂逅はその負けイベントの一種だろう。

 目前で黄金の剣を抜き取った“俺”の兄であるダリウス。

 “俺”の知識によれば、俺の2歳ほど年上で、士官学院でも優等生で、次期当主……いわゆるベリアルという闇に対する光とでも言える存在。

 俺が個人的に感じる彼に対する評価はともかく、ゲームのキャラクターとして、彼が勧善懲悪の善であることは間違いないはずだ。

 

「さっさと剣を取れ!」

 

 当然だが、現時点のベリアルに勝てる由もない。

 ……いや、ダリウスのレベルはわからないけどね。ただ、“俺”の知識によれば、ダリウスはかなりの実力者で、逆立ちしても勝てない相手だ。

 

 ただ、アズーリの一戦に比べれば、幾分か楽ではある。

 あれは負けイベントというよりか、自ら藪を突いて出した蛇――もとい魔王だ。チートコードを使って初心者のままラスダンに突入したみたいな話で、負けイベント以前の問題。

 

「……」

 

 悪役の一人であるベリアルのために、原作開始前にわざわざこんなものが用意されている、なんてのは正直考えづらい。

 だけど……、俺はこれを負けた方がいいと睨んでいる。

 

 その理由はおいおい説明するとして、……負けイベント上等だ。

 勝ってはいけない勝負だというのはわかっている前提として。

 

「貴様の心臓を引き摺り出して、門に飾りつけてやる(かかってこいよ)」

 

 今はこの神経を逆撫でするような挑発の言葉もありがたい。

 

 なぜなら。

 俺は今――、

 

 はらわたが煮え繰り返るほどにイライラしているんだ。

 

 

 †視点:アメリア

 

 

「はぁ……っ、はぁっ……、は……ぁっ!」

 

 呼吸に苦しさを覚えながらも。

 どうにかして立ち続けます。

 

「…………っ」

 

 視界の端が暗く、パチパチと無数の小さい火花が散っているように見えますが……。

 なんとかして、正気を保たないと……!

 

 生まれて初めて味わう、気が遠のくという感覚。

 今まで感じたこともないような、意識の苦境。

 それを乗り越えてでも……。

 

「許さん……、許さんぞ!!!」

 

 叫ぶダリウス様。

 

「吠えるな、類人猿」

 

 冷静に返すベリアル。

 

 それは、……一方的な戦いでした。

 予想通りと言えば……、予想通り。

 

 ダリウス様の振るう黄金の剣の一撃!

 

「ぐっ……!」

 

 真正面から直剣で受け止めたベリアルだったけど。

 呻き声を上げながら大きく弾き飛ばされました。

 体格の差も大きく、ダリウス様の攻撃に全く太刀打ちできる様子にはありません。

 

「ち……ッ! はァア!!」

 

 飛ばされながらもなんとか、剣を地面に刺しながら勢いを消したベリアル。

 汚く舌打ちをして再び叫び声を上げながらダリウス様に肉薄します。

 

「甘い……ッ!」

 

 それも軽々と躱されてしまう。

 

 勝てるわけないのに……。

 何を意地になっているのかわからない。

 ただの失言、それを謝れば済むだけなのに。

 

 ベリアルの攻撃に少し距離をとったダリウス様。

 その荒々しいだけの一撃が空を掠めたのを確認して、ダリウス様はベリアルに踏み込みます。

 

「臭うな……」

 

 ただ静かにダリウス様の黄金の剣の軌跡を見つめるベリアル。

 

「何ッ!?」

「貴様から漂う腐臭がな!!」

 

 咆哮とともに、ベリアルは再び荒々しく直剣を振るい上げ、

 

 ガキンッ!!

 

 剣と剣がぶつかり合い、眩しい閃光を弾き出します。

 大して体勢を崩していないダリウス様。

 倒れそうになりながらも、さらに一歩を踏み込むベリアル。

 

「随分とそこの小娘に執心のようだな!」

 

 さらに荒々しい一撃。

 

「アメリアを、お前のような出来損ないから、守ってやるんだよ!」

 

 一歩下がるダリウス様。

 

「守って()()だと!? いよいよ目が節穴だな!!」

 

 ベリアルの捨て身の突き。

 

「ぐ……ッ!」

 

 余裕なく、堪らず剣の身で受け止めるダリウス様。

 

「そこの女が、貴様程度の都合に救われるほどに――!」

 

 前の口調に戻ったベリアルは、

 

「勝手が押し通せると思い上がっているのか!!」

 

 直剣の軌跡は見えず。

 斬りあげられたダリウス様が、鍛錬室の壁に叩きつけられていました。

 

「どうした! そんなものか!!」

「……ッ!!」

 

 急いで剣を構え直すダリウス様。

 

「……っ!」

 

 なぜか……。

 ただ立っているだけなのに。

 ダリウス様が体を動かすたびに、視界が歪むような錯覚に陥って……。

 

「……くく、……はははは!」

 

 歪んだ視界で、ダリウス様はおかしな嗤い声を上げました。

 

「最低限手加減をしてやろうと思ったけど、もうやめだ」

 

 そして。

 その宣言とともにベリアルに踏み込んだダリウス様は。

 縦横無尽に剣を振いはじめました。

 

 ああ。

 だから私も思ったのです。

 頑張ったけど。

 ベリアルは負けるだろうと。

 

 防戦一方になっているベリアルを見ながら、私は何だか奇妙な気分になりました。

 なんで、ベリアルは戦っているのか。

 ダリウス様は、無神経に不遜な言葉を吐くベリアルに激昂したのでしょう。

 でも、ベリアルは……、何のために……?

 

「そうまでして、婚約者を手放したくないのかね、出来損ないめ!」

 

 ダリウス様の嬲るような攻撃に耐えながら、

 

「……ッ! 知るか!」

「哀れなものだと思わないかい! お前のようなやつの婚約者になるなんて!」

 

 それでも、なお戦い続けるベリアル。

 

「俺には関係ない話だッ!」

「ならば、何に抗っているというんだ!!」

 

 身体中に傷をつけた埃だらけのベリアル。

 今まで続く数合の激突。

 その技のキレも、速さも、力強さも。

 全てにおいて劣っているのが、ベリアル。

 

 でも――。

 その全てを、ぼろぼろになりながらも、気迫で押し留めてみせたのも、ベリアル。

 

「とうに! 覚悟は……ッ! できている!!」

 

 覚悟……?

 彼が覚悟を持つほどのこと。

 それは何なのか。

 

 致命傷だけをかろうじて避けながら、ベリアルは叫び、

 

「貴様如きに、負けている暇はないッ――!!」

 

 防戦一方だった戦いへ、叛逆を始めました。

 

 その様子を見て。

 私は……。

 何を見ているのか、わからなくなりました。

 

 ……、ダリウス様は、私を守るため。ベリアルの婚約者である私を奪うため。

 おそらくですが、間違いないでしょう。自分が争われる立場になるなんて、つゆほども思いませんでしたが……。

 これまで私に語りかけていた言葉の数々も……。それで納得です。

 

 では、ベリアルは?

 彼は何のために、戦っているのでしょうか。

 

 ……屋敷に来たばかりの私だったら、彼をただ血を求める獣だと決めつけていたでしょう。

 けど。

 彼は今、何か得体の知れない恐怖に抗っているような……。

 

 そんな私の困惑を知ってか知らずか。

 

「うおおおおッ!!」

 

 叫ぶベリアル。

 

 なぜか。

 おかしいことに。

 徐々に。……少しずつ戦いの趨勢は変化しているのです。

 

 素人目でもわかるほどに、ダリウス様が数段階以上上手だというのに……。

 ダリウス様が放つ全ての攻撃に、ベリアルは対応し始めている、……んでしょうか?

 

 ダリウス様が出す突きを半身でひらりと躱し、続く横薙ぎを直剣で受け止め、さらに踏み込んだ袈裟斬りに対しては跳ねながら退いていく。

 そのどれもが、あと一瞬でも遅れていたら避けたり受け止めたりはできない攻撃ばかりです。

 

「く、……くくくッ!」

「何がおかしい!!」

 

 不気味に笑うベリアル。

 それに対して怒鳴り返すのがダリウス様。

 

「貴様がまさかその程度の雑魚に過ぎんとすら気づけなかった、そんな己の無知に対する嘲笑だ!!」

「ほざけ、穀潰しがッ!!」

 

 再び――、衝突。

 その結果は……、火を見るより明らか。……のはずだった。

 

「――ッ!?!?」

 

 遂にはダリウス様の全ての攻撃を。

 鍛錬を隠れて見ていた時の舞うような体捌きで。

 まるで未来予知のようにして紙一重で躱し続けたベリアル。

 

 ついには。

 

「かァア!!!」

 

 大きく振り上げた直剣で一撃を返しました。

 少しだけ。ほんの僅かにベリアルの、いつも何かに対して怒り続けているような表情に、喜色が見えた気がしました。

 

 努力など一切しない男。

 私が彼についてこの屋敷で一番よく聞いた噂。

 だけど……。

 

 自らが勝てそうにもない相手に食い下がり、わずかな勝機に手を伸ばし続ける目の前の男が。

 無数に傷を負いながらも、戦う相手にわずかな一撃を入れられて喜ぶ男が。

 まるで、自分が少しでも強くなるきっかけならばと、闘志を燃やす男が。

 努力をしない男のはずが――。

 

「小癪な……!」

「たかが格下に一撃入れられた程度で再び癪に障るとは、貴様も所詮その程度の小物か。愚かで哀れな男だ」

 

 その剣の鋒をダリウス様に突きつけました。

 たった一撃。けどそれは、手も足も出ない方が当たり前な状態での下剋上。圧倒的なジャイアントキリング、番狂わせ。

 そんなちっぽけな窮鼠の一噛みが、圧倒的強者であるダリウス様を……

 

「許さん……、許さんぞ!!!」

 

 激昂させることになりました。

 

 

 




 いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!

ベリアルくんに難易度を設定してあげてください! 現状はノーマルです!

  • イージー(無双タイムだ!)
  • ノーマル(現状維持!)
  • ハード(血湧き肉躍る苦闘を!)
  • ナイトメア(世界の深淵を覗こう!)
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