背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか?   作:ばばばばば

10 / 14
弱さを強さと嘯く惰弱

 B級での洗礼を受けた俺達はそれでもこの地上で生きている。

 

 ここまでくれば綺麗ごとではない、相手がこちらを殺す為に手段を選ばないなら、俺達もいかなる手段を使ってでも生き残るだけだ。

 

 

「手前の鉄塔の下、3段重なったコンテナが見えるか?」

 

「あぁ、見えてる」

 

 

 今俺達がいる場所は南方にある埠頭、……という施設らしい。

 

 埠頭と言われるその施設は海にある。

 

 見果てぬ地平、無限の塩水、知識では知っていた海という場所。

 

 あまりに先が見えないような場所じゃ、遠い向こう側が平らな線になること、空と海の青の間で作られるその線がこんな美しいものであること、俺がドリフターにならなきゃ一生知らなかった。

 

 青い水のおかげで俺だって水を見れば恐怖はある。

 

 だが初めて海を見た時、俺はそんな青い雨への恐怖ではなく、そのあまりに雄大で美しい青色に涙を流した。

 

 

「そのコンテナの右、運搬ロボットの前、標的のクレイドルが見えるか?」

 

「目視した」

 

 

 人類はかつて、この青い地平を渡る“船”という乗り物を作りそれに乗ってこの無限に思える海の向こうへ渡ったらしい。

 

 実際に海を見るまで、陸地より海の方が大きいなんて言われてもピンと来ていなかった俺には想像もつかないようなスケールの話だ。

 

 埠頭とは、その海を渡る船の拠点、ここからさらに別の陸へとを旅する者達が集まる場所。

 

 今は放棄されており、船もありはしないが、それでもこの場所そのものが始まりを予感させる。

 

 俺の胸をくすぐる。

 

 心の中に冒険心が湧きたつ、この海の果て、一体どんな景色が待っているのかと胸の高鳴りが抑えきれなくなるような興奮。

 

 

「距離313メートル、左からの風プラス3度、……照準補正完了、いつでも撃て、……………………命中! 背を向けた! 続けてコフィンを狙え!」

 

 

 

 だが、俺達はこんなにも狭い場所で殺し合ってる。

 

 

 

「標的撃破確認……! 次だ」

 

 

 スコープの視界は極小で、周りの風景なんて分かりはしない、俺は彼女の指示に従い、ただ、余分な思考を削ぎ落して引き金を引くだけの装置に徹する。

 

 

「……よし! 今見えてる狙いの上、いや違う、もっと奥の波止、……そうだ、そこの海を跨いで運搬ロボットが並んだ場所、そこに標的が2体、見えるか?」

 

「目視した」

 

「二体とも背を向けてる、手前からやるぞ、距離366メートル、左からの風変わらずプラス3度、……照準補正完了、いつでも撃て」

 

 

 俺は彼女の声に従い指を弾き続ける。

 

 手に取るように分かる相手の驚愕、やたらめったらに機体を振り乱す動揺、続けての射撃を受けて変わる恐怖、仲間が目の前で爆散した後の恐慌、……そして己の死を予感した後に訪れる絶望。

 

 

「盗賊団撃破、よくやったユナイター、とりあえずは埠頭での盗賊団撃破依頼は達成した」

 

「……あぁ」

 

 

 ドリフターをやってれば、こういう依頼は嫌でも来る。なんなら避けようが向こうからも寄ってくるんだ。

 

 この程度でいちいち心を揺さぶられる必要もない。

 

 

「ユナイタ―、安心しろ私が隣にいる」

 

「へっ、急になんだ?」

 

「君がクレイドルとの戦いを避けていることは分かっていた。君の心理的負担を心配しただけだ」

 

「そりゃ、真面に戦えば負けるのは俺だからな、そりゃ気を張るぜ」

 

「そうではなく、君の心への負荷を考慮してだ」

 

 

 メイガスの言葉に対して俺は軽く笑う。

 

 

「おいおい、一応俺は軍属だったんだぞ? 対エンダーズがもっぱらとはいえ人型を撃つ訓練はしてきた。まぁ、いい気分ではねぇが、相手は誰だろうと食い物にする盗賊団、後悔はねぇよ」

 

 

 実際は、クレイドルに近づこうと機械操作や整備の資格を取りまくったおかげで、軍での俺の仕事は物資や人員の輸送回収を多く任されていた。

 

 俺が生き残れたのはそのおかげがデカいだろう。

 

 まぁ下層出の俺は集積地点から前線への特に危険なルートだけを押し付けられていたが……。

 

 部隊内の中じゃそんなことはなかったが、人手不足のため他の部隊へわざわざ補給しに行くと“補給輸卒が兵隊ならば、テレビ、冷蔵庫もクレイドルの仲間になるだろうな”なんて揶揄されたものだ。

 

 俺は小銃も持ってない民間徴用ではなく、前線でもしっかりエンダーズ相手に扱き使われていたのでやっかみとしか思えない。

 

 

「本当に平気……、ってのはちげぇが納得してる。負担も少なかった。アンタと危険がないように狙撃ポイントまで練ってから挑んだんだ。一方的にやれて楽なもんだぜ」

 

 

 いや、案外、真正面で撃ち合った方が気分は楽だったのかもしれない、そんな考えがよぎるが、目の前の心配そうな顔をする彼女相手にそんな表情は見せられない。

 

 俺はドリフターとして成長しなければいけない。

 

 

 では次の俺の課題は何か?

 

 

 その答えは単純だ。

 

 俺はいまだにクソ弱ぇつう話だ。

 

 

「とはいっても遠くで的当てだけして俺が強くなれてるわけでもねぇ……、互い交戦距離に入ってからの戦い方がなっちゃいねぇんだよなぁ……」

 

「まずは盗賊団の根城になっている農耕プラントで腕を磨くのはどうだ? あそこの奴らは盗賊団の中でも一兵卒並みの兵装だ。そこから奴らの根城に近い場所で腕を上げていけばいい」

 

「そうするか」

 

 

 彼女の意見に同意しながらも、俺は根拠のない予感があった。

 

 このまま盗賊団と戦っていけば盗賊団と戦う上で、コツの様なものは掴めるかもしれない。

 

 だが、それでも俺の中の闘争の意識はきっとそこで頭打ちになる。

 

 

 それじゃこの先、地上では生き残れない。

 

 

 ありとあらゆる手練手管を振りかざし、ただ相手を捻じ伏せ、支配し、圧倒的な殺意を持って敵を抹殺する漆黒の意思。

 

 

 それに抗えなきゃ近いうちに俺は確実に死ぬ。

 

 

 それを振りかざす存在は何か?

 

 つまるところ俺達ドリフターだ。

 

 

 それに抗うために、俺は一体何をすればいい?

 

 

 

 

 

 

 

 俺は胸の奥で解決できない焦燥感を抱きながらも、地上へ綱渡りに近い出撃を繰り返した。

 

 

「……今日は残念だったな」

 

「あークッソ! あの賞金首の野郎、あんなところに待ち構えやがって!!」

 

「南方中央の戦場跡地西……、エレベーター待ちの間、海を一目見たいと言い出したのは君だったと記憶しているが?」 

 

「うっ……、い、いやよ? あの薄ぐれぇデコボコ景色からあの両側崖の細道を通ると、高い丘からバッと青い海が見えるだろ? あんな絶景何度見ても病みつきに……」

 

「君があそこを通って初めて海を見た時、いたく感動していたのは知っているが危険を考えろ。緩やかな直線の傾斜、前方高地の身を隠せる岩場は自然の防塁、まさに奇襲しろと言わんばかりの地形だろう」

 

「グぅ……」

 

「それだけじゃない、その前の探索では、北方の取水施設北西のわざわざ稼ぎが少ない外周を移動してエレベーターに向かった時もだ。トンネルを無警戒に抜けた先で脇から賞金首のショットガンの餌食になった」

 

「あ、あそこは良いだろ! 貴重な素材もある! それにあのトンネルを抜けたあとの緑に覆われたビル群はなんか幻想的じゃねぇか!? 都市遺跡も良いが、あそこと違った平坦な道をクレイドルで駆けるとメチャ爽快だろ!」

 

「前者はともかく、後者はおかしいだろうに」

 

「…………言ってて自分でも思ったが、流石に悪かった」

 

 

 圧倒的正論にもはやぐうの音も出ない俺。

 

 俺は地上に出て何度も賞金首から撃破されることがあった。

 

 それでも俺が生きているのは賞金首の機嫌によるもの、“また元気になって稼いで貢いで来い”という歪んだ善意からくる情けだ。

 

 

「俺もいつ死んで、地上の寄生型エンダーズが巣くうクレイドルの残骸、そのお仲間になってもおかしくねぇぜ……、今の内にでも媚び売っとくか?」

 

「全く君は何を言うんだ……、そうならないように油断をするなといつも言ってるだろうに」

 

 

 俺は誤魔化すように、コンソールを眺める。

 

 

「はぁ……、一応は協会本部から新しい依頼が来ているぞ」

 

「確認っと、……っておいおい、またリペアキットの輸送任務!? しかも今度は70個だぁ!? クッソまたクソみてぇな任務じゃねぇか!!」

 

「AO結晶の供給安定化のための立ち入り調査とは銘打っているが、実際は協会と敵対するサンジョベーゼファミリーへの攻勢をかけるための物資輸送だろうな」

 

「ったく……、こっちはもう戦争屋じゃねぇんだぞ? くだらねぇことに巻き込みやがって」

 

 

 そうは言っても俺達協会員の元締めである以上、無視はできない、いや、無視どころか唾を吐きかけたいがそれはできないのだ。

 

 

「……ん? なぁ、この依頼文に書いてある輸送先の“ターミナル入り口に入るためのキー”ってなんだ?」

 

「むっ、少し待て調べる。…………どうやらターミナルの入り口にはセキュリティドアに厳重なロックが掛かっていて、そこを開けるために解除キーが必要になるようだ」

 

「いや、でもそんなもの協会から送られて来てねぇぞ?」

 

「そういえば。以前の依頼達成時にこの任務の報酬でキーを買って次の作戦に備えろと言っていたな、ショップに追加されているようだぞ」

 

「はぁ? ……まさか俺達に自費で買えってのか!? クソが……、確か前の依頼報酬は4500だっけか? じゃあその解除キーとやらも結構値が張りそうだな」

 

 

 余りの理不尽に怒りが収まらないが、彼女の言葉を聞いて、俺はモニターにショップの情報を出し、目当ての品を探す。

 

 

「しっかし、本当になめくさりやがって……、おっ、あったな、値段は…………、30000!? はぁん!! さんまん!? 」

 

 

 白目を剥きながら俺はコンソールへ叩きつけそうになる両手を鉄の意思で宙に浮かべていた。

 

 

 バードウォッチャーの一式を揃えるには大体40000、その中で30000だ。

 

 これは依頼ではなく搾取といって何ら間違いはないだろう。

 

 

「き、き、聞きたくねぇが報酬……、肝心の報酬は……?」

 

 

 俺の様子を見て、彼女はゆっくりと首を振り、静かに告げた。

 

 

 

「5400だ」

 

 

 

 その言葉を聞いた時、俺の中の何かが切れる音がした。

 

 

「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!!! リペアキット分の報酬にすら届いてねぇじゃねぇか!?」

 

 

 賞金首になる奴の気持ちが分かりかけた。

 

 別に協会員の敵になりてぇわけじゃねぇが、協会は糞だ! いや悪だ!!

 

 こっちを舐め舐め、弱みを握ぎ握ぎ、足元を凝視してきやがって!

 

 

「ギギギギ……!!」

 

「こんな時に言うことではないが、一応この依頼を達成した暁にはA級ライセンス試験への許可を出すそうだ。……まぁこっちがある意味本当の報酬と言ったところだろうが……、流石に阿漕と言わざるを得ないな」

 

「グッ……、A級……! 一流ドリフター……! 一獲千金……!!」

 

 

 俺は人間の言葉を忘れかけるが彼女の言葉を聞き、何とか正気を保った。

 

 

「ここは上へ登るための上納金として納得させるしかあるまい……」

 

「………………はあぁぁぁぁ」

 

 

 俺は深く、そして重い溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺は協会の糞みてぇな依頼を達成すべく北方へと出撃する。

 

 

「……まさかターミナルの解除キー、使い切りで30000だとはな、これでしくじったら俺は破産だぜ」

 

 

 そんなボヤキを呟きながらも俺の言葉には僅かばかりの張りがある。

 

 

「おまけにリペアキット70個、いつものJBでは過積載をどころか一歩も動かせない、そのおかげでようやく君は折れてくれたな」

 

 

 そう、ターミナルの解除キーが使用できるのは一回だけ、その高額な品をJBを使って何度も往復していては俺が破産する。

 

 上位の機体はセーフポケットに入る重量も大きく、ターミナルの起動キーも保護できることからも、彼女の提案を俺は受けた。

 

 

 そう、俺は今、バードウォッチャーに乗っている。

 

 

「っても、メインはJBだ。けっして浮気した訳じゃねぇんだぜ……、今回の依頼はヤベェから仕方がなくそうしただけで……」

 

「君は何に対して謝ってるんだ……」

 

 

 そうは言ってもこのバードウォッチャーに乗って一歩動かした瞬間、そのエンジンの唸りから来る力強さに、俺は腰砕けのようになってしまう。

 

 

「うぉ……、すげぇ出力、こ、こんなのに乗らされたら……、や、止めてくれ、俺には拠点に愛機のジャックボックスが……!!」

 

 

 抗う俺に、バードウォッチャーは“先輩のこと気にしてるんですよね? 私のブースターを吹かしてみて下さい、あの人のこと置き去りに全部忘れさせてみせますよ”と恐ろしいことを嘯く。

 

 

「過積載でこ、この機動力……! あ、あぁ!! 頼む! もっと優しくしてくれ!! そんなに早く動かないでくれバードウォッチャー! 今ここでJBと比べてどっちのエンジンが体に響くかなんてそんなこと聞かないでくれ!!」

 

「一人で何をやってるんだ君は?」

 

 

 この俺の暴走は丘陵地帯を余計に走り回り、無駄に時間を潰して、彼女に本気の説教を受けるまで続いた。

 

 

 

「時間を浪費した。いくぞユナイター」

 

「悪かった……、ついエキサイトしてしまって……」

 

 

 ようやく北方の南、つまりは東部地方の中心であるターミナル、その入口へと俺達は向かった。

 

 

 俺達の目的地であるターミナル、そこはエンダーズ共の巣窟、チェイサー、ゲイザー、クロウラー、そしてその上位種がわんさかいる危険地帯だ。

 

 流石に俺も意識を切り替えて慎重に進んでいく。

 

 

「エンダーズ撃破、……よし、冷静に敵を処理しながらすすめ」

 

「了解」

 

 

 なるべく高地に陣取りながらの移動、俺は慎重に慎重を重ねながらターミナルへと到着した。

 

 

 

「クレイドルの起動音を確認」

 

 

 

 その一言に、俺の全神経の感度が高まる。

 

 

 幸いにして俺は高所、岩陰に隠れているため、相手の音の出所を探す。

 

 ちょうど、音の発生源はここから遠くに見える目的地、中央ターミナルのセキュリティドア

 

 

 そこにはバーストアサルトライフルを構えたバードウォッチャーの姿が見えた。

 

 

「……識別完了、所属は協会員」

 

「かち合っちまったな、なんでこんな時に限って……、いや、こんな時だからか」

 

「そうだな、おそらく向こうもこちらと同じ依頼を受けていたのだろう」

 

「相手も気を張ってる。……刺激するのも悪いから識別は送らず*1このまま、向こうの仕事が終わるまで待つぞ」

 

「わかった。」

 

 

 向こうの協会員はセキュリティドアを開けるため、ドア前に暫く待機した後にターミナルへと入っていった。

 

 

「ターミナルには貴重な物資も多くあると聞いている。運が悪かったな」

 

「依頼をこなせりゃそれでいいさ、それにわざわざドアを開けてくれたんだ。確か少しの間は開いたままなんだろ? こっちの解除キーが一つ浮いた。今度ここらが落ち着いた時にでもその貴重な物資とやらを取りに来ようぜ」

 

「そうだな」

 

 

 そんな風に俺達が待機していると、いくらかの時が経ってからドアが開く。

 

 協会員のバードウォッチャーがターミナルのセキュリティドアから出てきたのが見えた。

 

 その様子を眺めると自分の仕事を終え、その場から離れようとしているようだ。

 

 

「じゃあ、お次は俺たちの番――」

 

 

 その時であった。

 

 俺からは見えない物陰から機体が飛び出す。

 

 

「新たなクレイドル、……識別は」

 

「ッ! 賞金首か!」

 

「待てユナイター!!」

 

 

 ライフルを構える俺に彼女が制止をかける。

 

 

「ここから撃っても距離による減衰でロクなダメージは与えられん!」

 

「じゃあすぐに……!!」

 

「近づくには時間が足りん! 敵はジュリエッタアンバーの賞金首、賞金額は50万の格上だ!」

 

「だったら見殺しにしろってのか!?」

 

「……そうだ。見殺しにしろ」

 

 

 彼女の言葉に息がつまる。

 

 これ以上の問答は不要だった。

 

 

「そんなの、俺は……! ……俺は嫌だね!!」

 

「待て! もう戦いは終わる!!」

 

 

 俺が、岩陰から飛び出した時、爆発音が遠くから微かに聞こえる。

 

 残骸と化したバードウォッチャーを漁る賞金首、せめてベイルアウト出来たと信じたいが、この距離ではそれさえも分からない。

 

 

「ッ……! 隠れろユナイター!!」

 

 

 戦闘後の賞金首は慣れたように油断なく警戒を行っている。

 

 そしてこちらをしっかりと確認した。

 

 ライフルを構える俺に、敵のアンバーは片手をあげてこちらにコンタクトを取る。

 

 

「賞金首よりコンタクト、……どういうつもりだ?」

 

 

 俺も彼女同様に困惑したが、その後すぐにその意味に気づく。

 

 それはただの挨拶ではない

 

 

 

 “俺はお前を見つけたぞ?”

 

 

 

 次いで、お前はどうするつもりだ? まるでそう問いたげな不気味な視線。

 

 

「…………識別を送れ」

 

「なに? ……いや、了解した」

 

 

 その圧に押されて、俺は同じように識別信号を送る。

 

 

 それを確認したアンバーはクルリと背を向けて走り去っていった。

 

 

 圧倒的な敗北感と無力感、そして情けないことにそれ以上の安堵が俺に訪れる。

 

 

 

「はぁ、はぁ……クッソ!!」

 

 

 操作デバイスに拳を叩きつける俺の手は弱々しい。

 

 

「おれが馬鹿やってねぇで早く来てりゃ……!!」

 

「どうだろうな、君が早くにあそこにいれば、先に来ていた君を見て、向こうの協会員は君と同じように遠くから君を伺い、……そして今、我々がいた場所に立っていただろう」

 

 

 同じ協会員でありながら、俺は協会員を見殺しにした。

 

 きっと向こうも同じようにそうしただろう。

 

 理屈ではわかる。

 

 理屈では分かるが、俺はそれをどうしても心で納得できなかった。

 

 

「っは……、なにが協会員だ。この地上で背中を預けられる奴は一人もいねぇのかよ……!」

 

「……私がいる」

 

「…………わりぃ、すこし冷静になった」

 

 

 彼女のその慰めの言葉のおかげで、俺は何とか地上で立つことが出来ているのが情けない。

 

 

「……賞金首は?」

 

「目視できる範囲にはいない、まっすぐに離れた様子を見るに、付近にはいないとは思うが、慎重に降りるに越したことはない」

 

「了解」

 

 

 セキュリティドアの前、そこは事前に彼女から上位種のエンダーズがいると告げられていた場所であるが、今見えるのはエンダーズの残骸だけであった。

 

 恐らく先ほどの協会員が綺麗に排除していたのだろう。

 

 ドアから少し離れた場所にある協会員の残した品を見つけ動きを止める。

 

 

 ……それを漁る気にはなれなかった。

 

 

「いいのか?」

 

「いいんだよ」

 

 

 俺はそのまま通り過ぎてドアへと向かう。

 

 

「ユナイター、ドアのロックがかかる前に急ごう」

 

「あぁ」

 

 

 資材の納入箇所は入り口のすぐそこにあった。

 

 そこから少し奥を見れば、ターミナルの内部は高さのある倉庫の様な構造になっている。

 

 資材は既にないのだろう、軽く覗いた奥に見えるコンテナは既に開けてあるため、俺は直ぐに踵を返す。

 

 

「……ユナイター、ここ最近の協会員の撃破傾向を調べた直したが、どうやらこの物資輸送依頼、賞金首側にリークされている可能性がある。敵方の妨害か、それとも単なる金目的か、とにかく待ち伏せには注意しろ」

 

「了解、……今の協会じゃどっから漏れても不思議じゃねぇよ」

 

 

 意を決して、ドアをくぐり素早く障害物へ身を隠す。

 

 そして注意深く周囲を確認すると音が聞こえた。

 

 

 特徴的な脚部のローラー音に俺は固唾を飲んだ。

 

 

「ユナイター」

 

「分かってる」

 

 

 おおよその相手の位置を確認、まっすぐにこちらへと近づく音を聞くに、賞金首ではないと願っていると、相手の姿が露わになる。

 

 

「識別終了、所属は協会員」

 

「装備情報の参照を頼む」

 

「了解、……解除キーにリペアキット多数保持、不審箇所は見当たらない」

 

「……通りで音がうるせぇと思ったぜ、へっ、あんだけ積めばそうなるよな、識別を出してくれ」

 

「了解」

 

 

 俺のコンタクトに相手の協会員はすぐさま返信をよこす。

 

 互いにじりじりと道を譲りながらすれ違うと、お相手はドアの中に入っていった。

 

 

「では我々も帰還するか」

 

 

 彼女の提案に、俺は気まずそうに返答を返す。 

 

 

「あー、ちょっと、ここら辺で休憩しねぇか?」

 

「なにを言って……」

 

 

 そう言いながら周辺を警戒し始めた俺の姿を見て、彼女はため息をつく。

 

 

「ガードマンの真似事か?」

 

「いいや、休憩中にバードをウォッチングだ」

 

「私にはバードのウォッチャー(見張り)に見えるがね」

 

「あぁ? それどういう意味だ?」

 

「なんでもないさ」

 

 

 俺はそのジョークを理解できずに困惑するが、彼女は困ったように笑い、しばらくして目を伏せる。

 

 

「君の美徳をまた一つ見つけた」

 

「近くにいるんだから一個と言わず何個も見つけていいぜ、……でなんだよ」

 

「例えば私の話にはいつも興味津々なところか、これはもう見つけていたが」

 

 

 なんならアンタに関することの大抵に俺は興味津々なんだぜ。

 

 そんなことを考えていると、伏せられた彼女のその目に憂いが含まれていることに気づいた。

 

 

「だが、その美徳はこの地上じゃ通用しない、……君は甘すぎる」

 

「……渋い感じのテイストを目指してるんだがな」

 

「いつも冗談で誤魔化すところも減点だ」

 

 

 どうやらこれは時々くる。冗談が効かない類の時の説教らしい。

 

 

「君のその弱みはいつか君の身を危険に晒す。残酷で在れとは言わない、ただ君に強くあって欲しい」

 

 

 ……そりゃそうだよなぁ

 

 ガキみたいにはしゃいで、この大地を駆けまわりたいとか、海の向こうに漕ぎ出したいとか、本当は馬鹿にされるから言わねぇけど、この大空を飛んでみたいなんて考えてる阿呆は、この先長くねぇよな。

 

 

「その強さっつーのは例えば目の前で死んだ仲間の残骸を漁ったり、自分の周りの一切を信用しないとかか?」

 

「……そういうこと、なのだろうな……、いやすまない、自分から提案をした癖に不明瞭だった。君のその甘さが弱点だと思う、……だがそれを好んでいる私もいる」

 

「まぁ正直、この地上に染まらないで生延びれるほど俺に腕はねぇし、さらに言うなら染まり切っちまえる程オツムも心も強くねぇときてるんだもんなぁ……」

 

「……たとえどんな君になっても、私は君の横にいる」

 

 

 彼女に言われて、俺が今まで感じていた俺に足りない何か

 

 それをおぼろげながらに気づかせてくれている。

 

 だが、それは……

 

 それで俺は本当にいいのか?

 

 

 そんな俺の思考は物理的な衝撃によって中断される。

 

 

「あ?」

 

「ユナイター!!」

 

 

 背部に感じる強烈な衝撃、凄まじい音がしたはずだが俺にその音は聞こえない。

 

 ただ頭の中全部を真っ白に塗りつぶされる。

 

 

「背後からの攻撃!! クソッ! あの協会員めッ!! ユナイター? しっかりしろユナイター!!」

 

 

 …………? なんだぁ?

 

 オイオイ、こんな別嬪さんの綺麗なお口からクソなんて汚ぇ言葉が出ちまったよ。

 

 覚えさせちまった奴はクソだなクソ。

 

 

「衝撃で意識が……、起きろ!! ベイルアウトをしろ!!」

 

 

 そうだ。ベイルアウトだ……。

 

 これしねぇとウチのメイガスが持ってかれちまう。

 

 それだけは死んでも許されねぇよな……。

 

 

「ユナイター!!」

 

「…………ッ!?」

 

 

 コイツは人狼協会員の襲撃だ!!

 

 賞金首と違って、垂れ込まれたら不味い身の上になるこいつらは、下手したら俺達の口を封じに殺しに来る。

 

 

 

「クソッたれがぁッ!!!!」

 

 

 意識の混濁から抜けた俺は何よりもまずベイルアウトの操作に手を伸ばした。

 

 

 

 この狭い皿の上、アメイジアの真上で俺達は殺し合う。

 

 ここには大地も大空も大海原だってあるのに奪い合う。

 

 この世界はそういう風に作られちまってる場所らしい。

 

 

 

「……ありがとよバードウォッチャー、おめぇ程のいい男じゃなきゃ流石に死んでたぜ」

 

 

 

 なんとなく分かってはいたが、俺はドリフターになるのに決定的な何かが足りない。

 

 それに気づけるか、その前に俺が死ぬか。

 

 多分だが、俺に残された時間は少ない。

 

 

*1
本作ではクレイドル間のコミュニケーションとして固定のエモートを相手に送ることが出来る。特に使用される『あいさつ』のエモートは所属を明らかにする重要なエモートで戦闘中でもなければ挨拶を返す場合が多い。たかが挨拶と侮るなかれ、挨拶は融和的な意味もあるが、このゲームにおいて“私はここにいてあなたを見ている”といった戦闘を避ける意味合いで使われる場合があることも確かである。アイサツは大事なのだ




ここまで読んでくれた君!もういい加減素直になってもいいんだよ!!
迷わず買おう! 買えば分かるさ!!
このゲームでしか得られない体験を君に!『SYNDUALITY Echo of Ada』発売中!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。