背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか?   作:ばばばばば

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汝の隣人を赦せよ

 俺は拠点の椅子に座りながら眉間をこれでもかと揉みこむ。

 

 

「まさかライセンスA試験を達成して意気揚々と報告をしたら、“よろしい次が最終試験だ”。なんて真顔で言われるとはなぁ……」

 

 

 そういうことは事前に言えと怒鳴りたくなる気持ちを抑えて、俺はその依頼文を見た。

 

 依頼内容は単純な撃破任務

 

 チェイサーの上位種と盗賊団、その両方の一定数討伐

 

 これだけなら、今まで協会から舐めさせられた辛酸に比べれば楽な部類の任務と言えるだろう。

 

 問題は――

 

 

高級(レア)装備と高級(レア)武装で撃破することだぁ……? 楽に言ってくれるぜ全く……」

 

 

 より上位の機体(クレイドル)……、それはただ単に金を積めば手に入るというわけではない。

 

 通常の装備と違い、より上位の装備*1は市場に流通していないのだ。

 

 ネストのドリフターパスでの報酬か危険な地上から旧アメイジア製の高級素材を集めてクラフトラインで作り上げなければいけないため、その入手手段は限られる。

 

 

「一応、作れるか確認してみたんだが、胴体の素材がネックだな……、組み立てる部品が足んねぇ。……これ作るだけで拠点の資産の半分は持ってかれるじゃねぇかよ」

 

 

 大きくため息をつきながら、クラフトラインで足と腕の高級パーツが組み立てられていくのを見て、なんとか正気を保とうとする俺。

 

 

胴体(ボディ)ネック()? 自分で言ってて意味わかんねぇな、ツッコんでくれてもいいんだぜ?」

 

 

 作り上げられていくバードウォッチャーの上級(レア)装備、その色は優雅な水鳥を思わせる白に似た銀色。

 

 A級のパーツをふんだんに使って作り上げられていくその様子は何時間眺めても飽きないが、肝心のボディパーツの素材を集めにいかねば完成しない。

 

 

「名残惜しいが、そろそろ地上に出撃と行くっきゃねぇよな? おーい」

 

 

 ……先ほどから一人で喋っている俺はすぐ横にいるはずの彼女に声をかけた。

 

 それでも彼女は作り上げられていくクレイドルをぼんやりと眺めたままである。

 

 

「なぁ、聞いてるか?」

 

「ん、あぁすまん、出撃の話か……、そうだな、第二世代コフィンシェルの作成に必要なレインジェムだな、以前発見した場所からみて群青湖や取水施設の水場で見つかるだろう」

 

 

 普段より凛々しい彼女がぼんやりした姿を見せるなんて、珍しいものを見た気分だ。

 

 いや、ひょっとして彼女もクレイドルが作り上げられていく光景を見て、ようやく巨大ロボの良さに気づいてくれたのか……?

 

 

「まぁなんだ。とりあえずはいつも通りに仕事をしながら素材も狙っていくぞ」

 

 

 いよいよA級と意気込んでいた俺に、協会は冷や水をかけてきやがった。

 

 早くクレイドルを完成させなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな意気込みを持って俺達は地上へと出撃していった。

 

 

 

 

 

 

「取水施設かぁ……、ここも群青湖より敵は弱いとはいえ侮れねぇんだよなぁ」

 

 

 北方西に位置する取水施設、中央の取水塔を囲むような岩場には様々な施設が置かれ、非常に高低差の大きい場所だ。

 

 一番低い位置の水場に目的の素材があるとはいえ、そこには徘徊するゲイザーやチェイサーも多く、その隙を狙って高地から襲撃してくる賞金首もいるため気は抜けない。

 

 

 周りを警戒しながら俺は探索を続けるが、その結果は芳しくなかった。

 

 

「っち、空振りだな、目当ての素材もねぇしAO結晶でも掘って帰るか?」

 

 

 俺はエンダーズを間引いていきながらAO結晶の方に近づいていこうとする。

 

 

「ん? ……、なんか匂うな……」

 

「どうした。ユナイター」

 

 

 エンダーズを処理しながらAO結晶に近づくが、どうもいつもと比べ違和感を感じる。

 

 景色を眺めながら、その違和感の正体を探ると答えは直ぐに出た。

 

 

「なぁ、いつもはもう一体くらい、ゲイザーがいなかったか?」

 

「そうだな、ちょうどあそこの高台にいる場合が多いが……」

 

「なんか怪しいよなぁ……、一度下がって上から降りてくぞ」

 

 

 

 俺は自然な動きを心がけて、まるで周囲の物資を回収にでも行くように何気なく大回りしながら、その場を離れる。

 

 そしてそこから慎重に高台に登れば案の定、他のクレイドルがいた。

 

 

「どおりで物資も荒らされてねぇのに、高台に被る位置のゲイザーだけいねぇと思ったぜ、識別は?」

 

「識別……、相手は賞金首だ」

 

 

 向こうもこちらの動きを気にしていたのだろう、ちょうど銃で互いを狙いつけるように睨み合う。

 

 

「ユナイター、今すぐの逃走を提案する」

 

「どうせこの位置じゃ、互いにどうもなんねぇだろ? 敵の装備は?」

 

「……ショットガンに、実弾系ライフルだ」

 

 

 ならば俺は、アイツの位置を協会員に共有するだけでいい、時間は俺達に味方する。

 

 

「動いたぞ!! こっちを襲う気かもしれ――」

 

「いや、逃げんだろ、奇襲がバレて位置まで晒されてんだし」

 

 

 しばらく睨み合うが、相手の賞金首はこちらが何もせずにいることを確認すると、ゆっくりと実を隠し、奥の岩場へと消えていく。

 

 

「まぁ、ないと思うが、戻ってくるかもしれねぇし、ここは諦めて群青湖を回って帰るか」

 

「……あぁ」

 

 

 その日の探索は目的こそ達成できなかったが、AO結晶はそこそこ稼いで帰還する。

 

 

 そこから5回ほど出撃を繰り返すが、穏やかなものだった。

 

 手堅く稼ぎ拠点の資源が増えていくことには、素直に満足感を感じてしまう。

 

 だが、肝心のパーツの素材を見つけることはできないでいた。

 

 

「クレイドルの素材は店売りで買えないこともないが、値段が馬鹿みてぇにたけぇしなぁ……」

 

 

 拠点で背もたれにどっかりと体重を預ける俺。

 

 そんな風に唸りながら、俺は目の端で彼女を見る。

 

 

 何か考え込むような真剣な顔をしたかと思えば目を伏せる。

 

 そして気づいたようにこちらの方へ盗み見るように目を向ける彼女。

 

 俺は痺れを切らして、彼女がこちらを見るタイミングに合わせて首を捩じる。

 

 

「なんかあったか?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 そう、……なのだろうか?

 

 確かに、コフィンシェルでのトラブルシューティングや自己診断では問題は無いようではあるが、最近はどこか変だ。

 

 もう流石に慣れたはずのエンダーズと会敵すれば過剰な安全策を提案するし、クレイドル音が聞こえた時は即撤退、賞金首出現の報を聞いた時なんてすぐさま帰還エレベーターに乗って帰る様に指示を出してくる。

 

 まぁ、それも間違いとは言えないが、そんな風に地上で動き回ってたら稼ぎにならない、どうしてもリスクを取らねばいけないのがドリフターってヤツだ。

 

 

「なんか、俺に言いたいことでもあるんじゃねぇか? 足りねぇこととか、直して欲しいとこととかよ」

 

 

 俺は憂いを含んだ彼女の目を見返して問いかけると、その口が小さく開いた。

 

 

 

「ユナイターは、その……、前にあの協会員が言っていたことをどう思う……?」

 

 

 彼女の言葉を聞いて思い返すのは、あの賞金首上がりの協会員との会話。

 

 

「前に言われたあれか……」

 

 

 今更ながらに言われてみれば、彼女の口数が少なくなったのはあの時からだったようにも思える。

 

 

 あの協会員は俺に足りない部分を指摘した。

 

 

 これからA級で生き抜くために必要な心構えの話。

 

 

「……まぁ、正論だよなぁ、むこうの言うとおり、依頼とか任務で盗賊団を殺すのは耐えられても、自分の意志だけで相手の命を奪ったことが俺にはねぇ……、ここまで来て情けないがな、思えばいつも俺は誰かに撃てと言われて撃っていた」

 

 

 クレイドルの戦闘に迷いなど持ち込んでは勝てない。

 

 よーいドンでの戦闘などありえないのだ。

 

 咄嗟の殺し合いへの意識の切り替え、それが出来ないものがA級に登ればただ死ぬだけ。

 

 

 道理だ。

 

 

 俺はこのままA級に登れば死ぬだろう。

 

 だからこそあの協会員も、取り返しがつかなくなる前に殺ってしまえと言っていた。

 

 

童貞(殺しの初体験)なんてさっさと殺って捨てちまえ、そんで酒なりダウナードラッグをキメて寝ろ 最悪な目覚めだがそれで一皮剝ける”

 

 

 エレベーターが降りた後、俺の甘さを指摘しながら、あの協会員はそう言って薄く笑った。

 

 

 ……アレから俺はいまだに童貞のままだ。

 

 

「殺る……、つもりはある。そうしないとA級に上がれねぇってんならな、……最近悩んでるように見えたのはそれか? 俺が情けねぇ姿ばっかり見せるもんだから……」

 

「いや、そんなことはない……、君は研鑽を積んでいる。ドリフター相手だって……」

 

「肝心の実践がまだなんだけどな」

 

「君ならやれる。この前だって私が先に気づくべきだった賞金首を見つけていた。君は強い、そうだ。君は死なない……」

 

 

 普段の自信に満ち溢れた言葉ではなく、まるで自分に言い聞かせる様な彼女の話し方。

 

 その彼女の言葉の端からにじみ出る不安を己の頼りなさのせいだと思った。

 

 俺は未だに自分の意志で引き金を引けていない。

 

 

 「……情けねぇ」

 

 

 彼女に聞こえぬように小さくもらす言葉。

 

 彼女の不安を払拭するためにすべきことを考え、それが出来ていない不甲斐なさから、俺は自分の拳を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして再度決意を新たにした俺は地上へ出撃する。

 

 それでも目的の素材は見つからない、俺はそれが、A級に上がる前にやるべきことをやれというある種の猶予にも感じた。

 

 

 

「……都市遺跡は空振り、取水施設を経由してレインジェムを探すか」

 

 

 

 俺は賞金首を探しながら取水施設を目指し、朽ちたビル群を進む。

 

 今の俺に、時の流れと自然の力強さを感じるようなその美しい景色を見る余裕はない。

 

 賞金首がよくいるビルの合間などの地点を潰しながら慎重に確認していき、たどり着いた取水施設外周、その入り組んだ岩場を進む。

 

 そんなふうに移動していると、彼女がふと声をあげた。

 

 

「これは……」

 

「どうした?」

 

「いや、何でもない、余計な情報だ無視してくれ」

 

 

 彼女の目線を辿る。

 

 そこにはいくつかの装飾が掘られた四角い石が等間隔に置かれていた。

 

 

「そう言われると気になるじゃねぇか、この……、なんだ? 建物の基礎みてぇなのがどうかしたか?」

 

 

 いや、規則的に置かれてるからと思ったが建物の基礎が石はおかしいか、よく見れば文字が掘られているからモニュメントか?

 

 でもこんなに無駄に置いちゃ場所の無駄だし、本当になんだこれは?

 

 俺は不思議そうにその存在理由が不明な物体を眺めていると、彼女が答えを教えてくれる。

 

 

「……これはおそらく墓だろう。地上の人間や昔の人類はこういう風に人を弔っていた」

 

「あー墓か! へぇ地上だとこんな形してるのか」

 

「……知らんのか? その焼いた灰を埋めてあるのがここだぞ?」

 

 

 その言葉を聞いて、俺はギョッとして踏み出しそうになったクレイドルの足を止める。

 

 

「えっ、まじか? 土地のねぇアメイジアじゃ、遺体は丸ごと骨まで焼いて処理してたけどよ……、焼いた灰なんてそこらに撒いて捨ててるのかと思ってたぜ」

 

 

 

 俺は、先ほどまで何かの建物の残骸としか思わなかったその石の塊をしみじみと見つめた。

 

 

「まぁ、天寿を全うできる奴なんてそういねぇ、俺達みたいな奴は墓にも入れねぇだろうな」

 

「アメイジアにも似たようなものはあっただろ?」

 

「アメイジアで死んだヤツのログがつまったターミナルのことか? アレは違くねぇか」

 

「人類は旧時代より故人を偲び、供養し、先祖を敬うため、あるいは心の拠り所とする場所としても墓を作ってきた。広義ではアメイジアのデータベースも墓と言えるだろう」

 

 

 俺は悪趣味にしか思えなかったが。アメイジアのターミナルじゃ金を払えば遺影(ホログラム)、さらに金を積めばAIで疑似的な会話もできるようなのもあったことを思い出す。

 

 そんな省スペースに尖ったアメイジアであるので、死んだ記念に個人のデカい石碑を建てるなんて、偉業を為した国家元首クラスじゃなきゃ出来ない贅沢だろう。

 

 目の前のもはや誰も来ないであろうにも関わらず遺っている石の塊をみながら俺は唸る。

 

 

「いや待てよ、……よく考えりゃ俺だって下手すりゃ、とうの昔にクレイドルの残骸の中か?」

 

「……やめてくれユナイター」

 

「俺にしちゃ豪華な墓だ。へへへ、コイツは悪くねぇことを聞いちまったな」

 

「やめてくれ……!」

 

 

 俺がいつも通りの冗談を言うと、彼女は少しだけ大きい声で俺の話を遮る。

 

 

「お、おぅ、冗談だよ、冗談、悪かったって」

 

「冗談でもそんなことを言うのは止めてくれユナイター……」

 

 

 

 俺はどうやら彼女を怒らせてしまったことに気づくと、あわてて釈明しようとする。

 

 だがその前に彼女がこちらを見て何か言いたげにしていることに気づいた。

 

 

「……君と以前……、天国の話をしたのは覚えているか? 」

 

「天国の話……?」

 

 

 その言葉に俺は虚を突かれる。

 

 

 そんな一言を呟く彼女も自分の言葉に驚いているようだったが、意を決したようにこちらの目を見てから言葉を続けた。

 

 

「善人だろうと悪人だろうと、人は皆死んだら天国に行けたらいいと、君は言った」

 

「は? いや、そんなこと言ったか?」

 

 

 脈絡のない会話に俺は動揺しながらも、過去の記憶を必死に掘り起こそうとする。

 

 

「言っていたさ。私はそれを聞いて、その考えがとても気に入った。君らしい考えだと思ったよ」

 

「それ言った奴、多分適当こいただけだぜ」

 

 

 死んだらそこでお終い、脳というCPUが稼働しなくなり、俺の意識というOSがクラッシュする。

 

 基本的にはそう考える俺がそんなこと言うだろうかとも思ったが、今までの彼女との思い出を振り返ればいつか彼女と宗教の話をしたことを朧気ながらに思いだす。

 

 

「たしか前そんな話してたような……? まぁ、アンタが覚えているならそうなんだろ」

 

 

 死んだ後にも世界があるとは思えない、しかし、もしもあるならそれでもいい、そのくらいの浅い考えだったと思うが。

 

 そんな風にそぞろな意識で思い返していた俺に対し、こちらを見る彼女は余りにも真剣な表情であった。

 

 

「人には人の天国がある……、なら私達は? 私達メイガスは死んだあとはどうなるんだ? そんなものはないのか? それともそこは君達と別々の場所なのか……?」

 

 

 彼女らしくない、迷いを多く含んだ声色。

 

 俺はそれに驚いてしまい、気の利いたこと一つ言えずに固まってしまう。

 

 

「私は……、いつまで君の隣にいれるんだ……?」

 

 

 しかし、彼女のその少し震えたような声を聞いた時、俺の口は自然と動いていた。

 

 

「よく分かんねぇけどよ、アンタのその考え方、俺も気に入ったぜ」

 

「え……」

 

 

 そもそも、天国なんて信じてもいない。

 

 だが、もしもそんな良い所があるっていうなら、アンタがいないのは流石にナシだろ。

 

 

「そうだよな、どうせ天国なんて場所があるなら、行きてぇヤツ、会いてぇヤツ、全員居て良いんじゃねぇか?」

 

「それは……」

 

 

 都合がよすぎるとでも言いたげな彼女に、俺はなるべくお茶らけて笑いかける。

 

 

「そもそもがあるかもわからねぇ場所を勝手に言ってる奴がいるんだ。俺が好きに決めて何が悪い?」

 

 

 俺のお道化た言い方に、彼女の顔に落とし込まれた寂しそうな影がほんの少しだけ薄くなる。

 

 

「俺の天国に俺の愛機のジャックボックスやバードウォッチャー達がいるのは当然だよなぁ? ……もちろん良ければアンタもな」

 

 

 俺の馬鹿げた空想、それでも彼女の顔の曇りを取るために必死に考えた戯言。

 

 それはほんの一瞬だけ、彼女の憂いを取ったかのように見えたが、次の瞬間には直ぐに彼女の顔に影を落とす。

 

 

「……君は、底抜けに甘いな、……甘すぎるよ」

 

 

 彼女の言う通り俺は甘い、ドリフターに必要なものを手にしていない、未熟すぎる。

 

 その言葉を俺は彼女からの諫言だと受け取った。

 

 

「……わかってる。いい加減、甘ちゃんで許される場所じゃねぇ、俺は生きてやらなきゃいけねぇ」

 

「あぁ、そうだ……、君のそれは、切り捨てるべき、……だがそれは」

 

 

 その弱さが彼女にこのような顔を浮かべさせてしまってるというのなら、俺のすべきことは決まっている。

 

 

「……どうやらダメだな、処理システムに重大なエラーが発生しているようだ……。最近は特に酷い……、帰還後に一度メイガスラボで総点検をした方が良いかもしれん」

 

「……わかった。帰ったらすぐに手配するが……、大丈夫か?」

 

「戦闘支援に支障はない、無視してくれ、きっとおかしいのは私なんだ」

 

 

 

 普段の彼女らしくない言動、俺は探索を早めに切り上げて帰還エレベーターへ向かう。

 

 

 AO結晶の稼ぎは少ないが、素材はそこそこ拾えた。

 

 総合的にはそこまで悪い収入ではない。

 

 何度も謝る彼女に言い聞かせながら俺達は拠点に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点に戻った俺は直ぐにメイガスラボへ、連絡を取る。

 

 

 かなり待たされるだろうと思ったメンテナンスの依頼は俺の予想に反し、直ぐにでも受け付けてくれた。

 

 もちろん一番近い日で俺は予約を取り、当日に彼女と共にメイガスラボへ向かう。

 

 

「別に一人でもこれたというのに……」

 

「じゃあ終わったら迎えに来るからな」

 

 

 

 集合して直ぐに俺達は分かれる。

 

 彼女は予約してたメンテナンスルームに向かい、一方で手持無沙汰な俺は受付の待合室へ戻った。

 

 

「生きてたんですね、B級ドリフターとして活躍されているみたいで何よりです」

 

 

 奇縁というしかないが、久しぶりの受付は、いつか、自分がメイガス作成をオーダーした時に対応していた人物であった。

 

 

「驚いたな、同じ顔を見るとは」

 

「こっちのセリフですよ、二度と顔を見ないドリフターが大半ですから」

 

「言いやがるぜ、全員の顔なんて覚えちゃいないだろ?」

 

「問題ない良い利用者より、問題ある厄介な利用者の顔の方を覚えてしまうものですよ」

 

 

 ……今に思えば多くの恥をここで晒してきた。

 

 願わくば覚えてくれない方が良かったと思いながらも、一応の挨拶を俺は返す。

 

 

「あー、悪かった。いや悪かったです。そちらこそおかわりなくてなによりだ?」

 

「慣れない言葉遣いしなくても良いですよ、ドリフターなんて荒っぽいのが普通ですから」

 

 

 今日はウチのメイガスを見てもらうのだからせめて丁寧な態度を……、そう思って捻り出した口上を受付は呆れの混じった半笑いで返してくる。

 

 

「それにしても変わられてないのですぐ気づきました。普通は運よくドリフターの方々と2度目に会う時、大体の場合は雰囲気が変わってらっしゃるものなので」

 

「そりゃ、普通はな……、俺みたいな変わらねぇ奴の方がダメなんだよ」

 

 

 何気ない会話のつもりで話したその一言に、俺は少しダメージを受けてしまう。

 

 

「そうですか? 2か月でB級は早い方だと思いますよ、それに二度目に会うドリフターの方々は妙な圧があって私は好きじゃないですね」

 

「上に行くやつはそうなんだ、ライセンスだって早いヤツは1週間たたず上がる奴もいるんだぞ?」

 

「そうですね、それで1か月たたずに居なくなります」

 

「……まぁ、そういう奴もいるけどよ」

 

 

 以前ここに来た時はこっちが話をしたくとも、にべもなく会話を打ち切ってきたというのに、なぜか今回は逆であった。

 

 

「少し前までは協会の所為で、ドリフター達がひっきりなしだったんですけどね、今は余裕をもって働けるので話し相手ぐらいはあってもいいんです」

 

「そりゃどうも」

 

 

 そんな身勝手なことを言われながらも、拠点に籠り気味な俺は何気ない雑談に興じてしまう。

 

 メイガスの話や、メイガスにつける最新のオプションパーツの話などしていれば時間は瞬く間に過ぎていった。

 

 

「……っと、今何時だ? そろそろメンテナンスの方は終わりそうか?」

 

「すごいタイミングですね、ちょうど終わるころ合いです」

 

「前に、ウチのメイガスを頼んだ時、他のドリフターがメンテに来てたからな、そろそろだと思ったんだよ」

 

「あぁ、そういう……、毎日よく飽きもせずに来てましたね」

 

「実際、飽きないからな」

 

 

 思わず話し込んでしまったが、どうやらかなりの時間が経っていたらしい、彼女のメンテナンスは終わったようで、その結果が一足先に俺へと渡された。

 

 

 俺はその半分も分からない詳細なパラメータを斜め読みしながら、最後の一枚だけを読み込む。

 

 

問題なし(オールグリーン)か」

 

「メイガス自身からの希望とのことですが、問題は見当たらなかったようです」

 

「そりゃよかった……、って待てよ、ウチのメイガスが調子悪いって言ってんだ。本当に大丈夫なのか?」

 

 

 疑うような俺の言葉に、受付は少しだけ機嫌を損ねてしまったような目をするが、それでも俺はその目に抵抗し、確認の意味を込めて聞いてみる。

 

 

「……貴方が読み飛ばしたデータにちゃんと書いてありますが、今回は不調ではなくメイガスの最適化と自己更新のぶつかり合い、言ってしまえば貴方との関係に対する新たな進展を迎えたということです」

 

「あーどういうことだ?」

 

「最近、メイガスとの間で変わったことがあったでしょう?」

 

 

 関係に対する新たな進展……、そう言われて俺がまず思い浮かぶことは――

 

 

「……おいおい、とうとう見放されちまったのか?」

 

「メイガスは契約者の隣人として寄り添います。馬鹿な考えは止めてください」

 

 

 俺の考えは幸運なことに一蹴される。

 

 

「これは基本的に喜ぶことです。メイガスの契約者に対する理解が深まり、自己変革を迎えている。それが良い悪いに関わらず、興味深いデータですのでラボとしては継続して確認したいところですね」

 

「悪いとか言ってんじゃねぇか、こっちはたまったもんじゃねぇぞ」

 

「それはこちらには関係のない話ですので」

 

 

 一言何か言ってやろうとも思ったが、その通りなので俺には何も言えない。

 

 

「特に、恐れや不安……、人とメイガスのクオリアは違うのでこれをリアルタイムで観測できるのは非常に有意義ですね」

 

「おいおい、実験のつもりか?」

 

「一応は研究員の身分ですので遠からずですね、主任から協力要請が来ています。メイガスに対する貴方の認識を調査(インタビュー)しても?」

 

 

 その言い様を聞いて流石に俺も眉を顰める。

 

 

「実験どころかこっちは実験体扱いかよ、それこそコッチには関係のな――」

 

「協力してくれる場合、メンテナンス費を10%割り引いてくれるそうです」

 

「……まぁ、関係なくはないかもしれねぇよなぁ……!」

 

 

「……では彼女がどのようなことを恐れているか契約者としての認識を教えていただいても?」

 

 

 貧乏が憎いぜ……、そんなことを思いながら俺はため息をつく。

 

 

「あー、心当たりはあるぜ」

 

 

 俺はどう考えてもこれだろうなという考えが一つあった。

 

 

「まぁ、この先俺がドリフターやれんのか心配なんだろ、成長しない俺をアイツは情けなく思ってることだろうぜ」

 

「というと?」

 

 

 受付は手元のコンソールを操作しながら、俺の言葉と何かを見比べるように、モニターに目を移す。

 

 

「まぁ、あー、なんだ……、ドリフターなら当然のようにできることが俺にはできねぇ、それどころか逃げてる節すらある。それが出来なきゃこの先ドリフターやるなんて話にならねぇくらい大事なモノのが俺にはないんだよ」

 

「なるほど、命乞いをする賞金首を見逃すへっぽこと……」

 

「ぐっ、な、なんでそれを……!」

 

「研究員ですから」

 

「マジかよ研究員すげぇ……!!」

 

 

 相手はこちらへ馬鹿を見るような目を向けてくるが、俺はエスパーじみてこちらの弱みを見破ったその知力に恐れおののくだけだった。

 

 

「そうだよ、軍じゃ上官の命令、ドリフターじゃメイガスの指示を盾にしてきた。呆れられるのも無理はねぇ……」

 

「そうですか……、道理で雰囲気が変わってないと思いました」

 

「……俺だって馬鹿じゃねぇ、やられたらやり返すぐらいの気概はあるさ。今だって賞金首稼ぎ(バウンティハンター)の真似事をしている。一線を越える覚悟くらい俺にだってある」

 

「そういう、一人目とかにいちいち拘ってるあたり、向いてなさそうですけどね」

 

「グッ……、と、とにかく、俺はA級に上る前に、俺一人でもやれることをアイツに見せて安心させなきゃいけねぇんだよ……!」

 

 

 受付はモニターに映る何かと俺を見比べた後、大きなため息をつく。

 

 

「そんなことしないでもメイガスはあなたの隣にいますけどね」

 

「アイツに並んでもらうだけだろソレ、俺は並びてぇんだよ」

 

 

 受付はしばらく俺と話を続けた後、モニターから目を外す。

 

 

「これで終わりか?」

 

「えぇ……、もうすぐあなたのメイガスもこちらに来ますよ」

 

「そうか、助かったぜ」

 

 

 受付はその言葉を聞いて立ち上がろうとする俺に声をかける。

 

 

「知っていますか? 人類の隣人たるメイガスの、製造後の性格形成は契約者との関りで大きく変わります」

 

「そりゃそうだろうな」

 

「その場合多くは2種のパターンの面で、あるいは複合的にそれぞれ契約者に最適化されていくと言われています。一つは補完的に、一つは強化的に、契約者の人格に合わせて反映されます」

 

「……なんか難しい話だな、お前知ってるか? 本当に頭良いヤツは馬鹿にでも分か――」

 

「似た者同士か、性格が真逆になります。長続きする夫婦みたいなもんです」

 

「……お前頭がいいな」

 

「そうですね、それでいうなら、あなた達は……」

 

「なるほど、じゃあ俺達の場合は補完的……、正反対だな!」

 

「……馬鹿は話を最後まで聞かないから始末が悪い……、いいですか? 貴方達の場合は――」

 

 

 そんな会話の途中で俺の目の端に彼女が写る。

 

 

「来たみてぇだ、わりぃ、もう行くぜ」

 

 

「……どっちに転んでも研究データとしては有益です。せいぜい生きてまたここにこられることを祈ってますよ」

 

 

 

 俺が彼女に駆け寄る最中、後ろから言われた言葉は断片的にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として彼女に問題はなく、俺の不甲斐なさへの心配が行き過ぎた結果、彼女の不調を引き起こしたのだと、俺は理解した。

 

 拠点に帰った後で読み飛ばした検査結果を詳しく見れば、ここ最近の彼女に対する特定の処理に負荷がかかっている。

 

 調べたところによると、これは現状に大きなストレスを抱えていることを指し示し、その原因はどう考えても俺であった。

 

 そして俺が思うに、その解決方法は単純明快だ。

 

 

「今回は装備を整えて出る……、賞金首も探していくぞ」

 

「……分かった。サポートする」

 

 

 普段の武装ではなく、地雷やグレネードなども積んだ対クレイドルを意識した装備。

 

 

「今日で決めてやる……」

 

 

 早く、彼女の隣に並び立たなければいけないと、俺はJBに乗り込み地上へ出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取水施設の水場に転がるソレを見た時、俺は思わず大声をだしてしまった。

 

 

「レ、レインジェム……!!」

 

 

 物事とは不思議なもので、あれだけ欲しても見つからなかった物が、それを止めたとたんに見つかるというのだから遣る瀬無い。

 

 

「賞金首はどうするユナイター」

 

「……安全第一、セーフポケットに突っ込んで、ここらの結晶掘ったら帰るぞ、もちろん賞金首にだって会うかもしれねぇ、そっちも並行してだ」

 

 

 当初の予定ではそのまま群青湖に行くはずだったところを切り上げて、俺は目的を切り替えることとなる。

 

 賞金首を探したいところではあるが、それにだけかまけていてもドリフターとしての生活の方で首が回らなくなってしまう。

 

 賞金首は倒さねばいけないが、そもそもの目的は装備のための素材集め、考えた俺はマップを開いてエレベーターの位置を再確認した。

 

 

「……丁度、近くに結晶があるな、これを掘って今日は早く店じまいにしようや」

 

「了解した。この位置だと高台にあるAO結晶だな」

 

 

 この取水施設は高低差のある地形であり、賞金首による高所や物陰からの奇襲が多いため、俺は慎重に周囲の安全を確認しながら登っていく。

 

 

「……クレイドルの機動音を確認」

 

「どこだ。 ……下か?」

 

 

 ……今回は前回と違い、スナイパーライフルを持ち込んでいる。

 

 睨み合いで終わらせるつもりはなかった。

 

 

「いや、これは……、私達のいる高台の方だぞ」

 

「……しかし音を出してまっすぐ進んでくるな……、あーこりゃもしかして」

 

 

 俺がその予想を口に出そうとした時。

 

 目的の結晶の地点、マップ上のそこで強いAO結晶波を探知した。

 

 

「ユナイター、他のドリフターが結晶を採掘している」 

 

「先に取られちまったな……、慎重に動き過ぎたか……」

 

「悪いことではない、それに相手が協会員かは不明だ。しっかり確認しておけ」

 

「了解」

 

 

 俺達はその音を出すクレイドルを確認するため、背後に回るような位置から相手をのぞき込む。

 

 

「識別は協会員だ」

 

「あー、結構デカい奴だったな……」

 

 

 背を向けてAO結晶を採掘するバードウォッチャー

 

 この取水施設は賞金首が多い、それはつまり協会員も多いということ、AO結晶の採掘がかち合うことも少なくない。

 

 俺は結晶を諦めて帰還することにした。

 

 

「ここまで近づいちまった。驚かすのも悪い。こちらの識別を送ってくれ」

 

「了解」

 

 

 こちらが識別を送り、片手をあげて見せると、向こうも同じように手を止めて識別を送ってくる。

 

 

「デカいAO結晶だな、まぁ頑張って稼いでいきな、向こうへ帰還宣言を頼む」

 

 

 そうは言いながらも、相手の詳細を参照し、警戒は怠らない。

 

 

「ユナイター、装備に不審な点は見当たらない、持ち物の中も不審なところはないな」

 

「レインジェム持ってるじゃねぇか……、やっぱ協会の依頼で奪い合いが起きてるんじゃねぇのか、これ……」

 

 

 今まで探しても見つからなかったのは、他の協会員に先手を取られていたのかもしれないと、俺は考え脱力してしまう。

 

 

「まっ、こちとら協会員、賞金首みたいに奪うなんてリスクは負わねぇから早くエレベーターに乗って………………」

 

 

 

 そして、俺はあることに気づく。

 

 

 

「……………………おい」

 

 

 

 相手の詳細データ、そこに表示される文字。

 

 

「ユナイター」

 

 

 恐らくそれに気づいたのは彼女もであろう、低く響く声を俺に向ける。

 

 

 

 分析した相手のクレイドル、それと同時に表示されるドリフター名。

 

 

 俺達にはその名前に見覚えがあった。

 

 

 

 

「識別照合、コイツ……、以前私達を殺しにきた協会員だぞ……!」

 

 

 そう、忘れもしない、クソ野郎が俺の目の前にいる。

 

 俺からバードウォッチャーを奪い取った協会の裏切者。

 

 俺はそれを目の前にして、奥歯を噛み締める。

 

 

「どうする?」

 

 

 彼女のその言葉で俺は怒りに染まった意識から戻された。

 

 

「どうする、ユナイター?」

 

 

 彼女の問いかけ、その意味は分かり切っている。

 

 これはまたとないチャンスだ。

 

 俺が覚悟を決めるためのまたとない機会。

 

 

「やり合うぞ、構えろ」

 

「……了解」

 

 

 向こうはバードウォッチャー、しかし俺は高地に陣取っていて、装備の優劣はない。

 

 

 おそらく、向こうもこちらの名前を認識した頃だろう。

 

 こちらを目の前にして一触即発の――

 

 

 

「は?」

 

 

 

 俺は相手の行動を見て間抜けに口を開く。

 

 目の前のバードウォッチャーはクルリと振り返り、俺に背を向けたまま悠長に採掘をし始めたのだ。

 

 何をしてるのか理解が出来ない俺は呆けてしまう。

 

 

「……あぁ、そうか」

 

 

 そして混乱する俺の脳内が答えに到達すると同時、俺の臓腑は煮えたぎった。

 

 

「おまえ、俺を殺そうとしたことも忘れるぐらい、どうでも良いのか……、きっと殺した奴の名前すら……」

 

 

 俺の中に初めてどす黒い何かが湧きだす。

 

 

 ……もしも、殺すだけというのなら、賞金首なんかよりも簡単に狙いやすい相手がすぐそこにいることを俺は知っていた。

 

 その時の俺はそれを知りながら、やろうとは思わなかった。

 

 

 なら今は……?

 

 

「ユナイター」

 

「分かってる」

 

 

 その無防備な背中へ、一歩、また一歩と近づく。

 

 よくもまぁ、おめおめと俺に背を向けられたものだ。

 

 誰かに背を向けるのも論外だというのに、よりにもよってお前が殺し損ねた男だぞ? どうして背を向けられる?

 

 やる側ならやられる可能性を考慮してねぇのかよこのクソ野郎は……

 

 

 いや、分かってる。

 

 

 どうでもいいんだろ? 俺を殺しかけたこと、お前がやったこと。

 

 

 お前は自分が撒いた悪意を自分だけは受けないと思ってる。

 

 

 そんな短慮だからこうなるんだぜ?

 

 

 

「ユナイター、左腕(チェーンソー)の範囲に入った。」

 

 

 

 そうだ。 あの理不尽をお前にも味わわせてやる。

 

 この地上はそういう風にできている。

 

 理不尽を押し付け合う、不条理の世界、ただ生きるだけで全てを奪われる地上の地獄。

 

 同じ目に会え、俺と同じ、それでイーブンだ。

 

 

 撒き散らされる理不尽に抗うな、そのまま他人にその理不尽を押し付けろ。

 

 

 だから俺はお前と同じようにお前を……

 

 同じ……、ように……。

 

 

 同じ……?

 

 

 

「ユナイター?」

 

「……ッ」

 

 

 俺の中の何かが邪魔をする。

 

 

「どうした? 敵は背を向けている! チャンスだ!!」

 

 

 この世の理不尽

 

 いつだって俺に吹き付けてきた逆境。

 

 

「AO結晶を掘り終わってしまう! 今ならやれる!!」

 

 

 俺はそれに抗い続けてきた。

 

 そして今、ようやく奪われる側から奪う側になれる。

 

 これはチャンスのはずだ。

 

 そうだ。抗うのを止めて、この殺意に身を任せてしまえばいい……!

 

 

 

「ユナイター!!」

 

 

 

 

 

 しばらくのち、俺は足元に転がる残骸を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

「ユナイター……、帰ろう」

 

 

 採掘され、砕け散った。燃料にもならないAO結晶、それだけが散らばる地面を見つめながら、俺は自分の太ももに拳を叩きつけた。

 

 

「はっ……、まさか仇すら殺せねぇ玉無しだとはな…………」

 

 

 結局俺は自分を死地に追いやった奴でさえ殺せなかった。

 

 エレベーター内で揺られながら、俺の首は力なく揺れ、彼女に合わせる顔がないと面は下がる。

 

 

「……ユナイター、君は何故あの時、攻撃しなかったんだ?」

 

 

 彼女の端的な質問。

 

 自分の覚悟が口先だけだったことが露わになる。

 

 

「腹の底から黒いもんが湧いて、俺はそれに従って相手をぶん殴ればいいはずだった」

 

 

 そうだ。それでよかったはずなのに俺はそうしなかった。

 

 

「……そんで、アイツの背に近づいて、向こうの機体に腕を振りかぶる自分が映った」

 

 

 そこに歪んで映る自分を見た瞬間、俺は固まってしまった。

 

 

「そしたらなんか、ムカっ腹にきちまった。殺意より、そのイライラが勝っちまって、血が頭に上って……、気づいたらあの野郎がいなくなってた」

 

 

 説明としては下の下。

 

 自分でも分からないものを説明したせいで、中身のないクソの様な話を俺は吐き出す。

 

 

「……わりぃ」

 

「そうか……、君は……」

 

 

 俺の言葉に彼女は小さく独り言を呟く。

 

 度重なる最後通告を無視し続けた俺に対する当然の判断。

 

 

「私じゃ君について行けないのかもしれないな……」

 

 

 その彼女のトドメの一言を俺は静かに目を瞑って受け入れた。

 

 

 

 

「……それでも私はメイガスだ。君の隣に……」

 

 

 俺はドリフター失格だ。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の探索の成果により、装備は整った。

 

 ドリフター失格の俺は、ドリフターライセンスA最終試験へ挑む資格を手にしてしまう。

 

 

 

 

*1
このゲームは撃破されれば全てを失う緊張感を持つPvPvEのエキストラシューター。そしてプレイヤーが操作する機体は店売りのアンコモン装備以上のものを乗ろうとすると、その入手難度は跳ね上がる。一線級の機体の値段は200万、クラフトで作っても費用と時間がかかるため、このゲームにおける高級機体の価値が際立っている。(運営より近々入手難度の緩和を行うつもりであるとの発表はされている)




もう購入したと思うが改めて言わせてくれ!

緩やかに終わりゆく世界で人類が経験する 最後のすれ違いの物語……!
君とメイガスが織りなす人間模様は千差万別!!
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