背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか? 作:ばばばばば
相も変わらず地上はクソッたれな青い雨が降り続いているが、晴れて俺はドリフターになった。
そしてそこから今更過ぎる機体操作とAO結晶採掘についての講習を受け、協会が紹介する幾つかの拠点の中から、俺達の選んだガレージへと移り住むための準備をしてきたわけだが、その様子を表すならこうだ……。
講習、申請、申請、申請、申請、講習、申請、申請、申請、講習、申請。
はっきり言ってもうモニターに映る文字を一文字たりとも見たくない、彼女が手伝ってくれなければ俺は今ごろ頭がおかしくなって青い雨の中を駆け出していただろう。
「ユナイター、これから君を全力でサポートする、よろしく頼むぞ」
「はっ、今更だ。アンタがいなきゃこっちは今ごろ宿無しだぜ、まぁ………」
俺は少し改まった挨拶をする彼女の目線を斜めに受け、三日かけて最低限の片づけをした辺りを見回す。
「宿にしては風通しが良すぎねぇか……? クソ、何が“拡張性の高いガレージでございます”だ。骨組みだけ渡されて拡張性もクソもねぇだろうがよ」
何ということだろうか、我が栄えある最重要拠点であるガレージを刮目せよ。
アメイジアの上流階級じゃ観葉植物を育てるなんてお高貴な戯れをされてたそうだがここも引けを取らない様相を呈している。
赤茶黒の剥がれた鉄板の床から伸びあがる草共の鬱陶しいほどの生命力がボロボロの鉄錆に自然色のアクセントとなり
空を見上げれば絡み合う植物が吹き抜けの天窓を作り、屋根はその役目を清々しいほど放棄している。
実質この満点の空を天蓋としているのだから、さぞ通り抜けた青い雨が鉄板の床に跳ね、俺の生命を震わせる感動的な音を奏でてくれることだろう。
「いや、俺、このままじゃ死ぬだろこれ、雨に晒されてお陀仏じゃねぇか」
最低限の機材を運んでおいただけの場所、俺はそれでもここを拠点と呼ぶが、他人が廃墟と言ってもそれは仕方がない。
俺が肩をすくめておどけると、彼女は少し笑ってくれる。
「最低限の寝床は確保した。それに手入れしがいのある良いガレージじゃないか」
「物は言いようだな、手入れする場所しか見当たらねぇぜ」
「そう悲観することはない、ピットガレージは広い、古いが電源は生きてるし工作用のアームは直せば使える、それに………」
「それに?」
彼女は少し確認を取る様にこちらの目をのぞき込む。
「なんだかんだ文句を言っても、ここにきてから君は楽しそうに見える。違うか?」
「……………………………まぁ、悪くはねぇ」
なんというか、そうだな………、彼女と出会って一か月ほど経ったが、おそらく俺は一生彼女に頭があがらないのではないかという予感を感じていた。
冷静に考えてみろ、あれだけこんな相棒が欲しいと願った相手が理想そのままの姿で俺のところに来て俺の夢を手伝ってくれているんだぞ?
自分を大きく見せて恰好を付けようが、頭も力も向こうが上で、ここまでくるまでもおんぶに抱っこ、初めの虚勢なんて秒で剥がれ、俺はせめて情けない姿を見せないように踏ん張るだけで精一杯ってもんだ。
「依頼を受け、金を稼ぐ、基本はその繰り返しだ。そうすればガレージを整えることもできるだろう」
俺の選んだIB-α-09型は教官型メイガスと同じタイプだ。
俺が新兵の時の教官は彼女と同型だった。
下の毛も生え揃わないうちに男しかいねぇ場所にぶち込まれ、毎日クソみてぇなシゴキを受けるなか、唯一厳しさの中に優しさを見せてくれる軍属のメイガス達、その結果、俺達新兵の初恋はメイガスに奪われていく構造なんだ。
今に思えば、休暇の体力錬成の見回りが女性メイガスだと明らかに人数多いし、訓練の気合の入りようも違ったのだからバレバレだったなアレは……
人間の上官共にそんな鼻の下伸ばした態度が見つかればさらにどやされ、人口抑制の為に配られた性欲減衰薬を飲まされちまうから必死に悟られまいとしていたものだ。
あれを飲むと酷く落ち込む奴もいて、だから合わせて感情サプリと一緒に飲まされるんだが、無気力なのに命令に全力で従う心と体のズレが戻った後に辛かったことを今でも思い出す。
そんな軍のクソみたいな禁欲生活の所為で性癖が歪んでアニキ趣味に走る奴もいたもんだ。
それを考えれば俺なんてまだ健全な方だろう。
だから俺みたいにメイガスが初恋になることぐらい軍では普通で、……っていや待て、だからって俺は別に自分のメイガスに初恋のあの人を映してるわけでは……!
「どうしたユナイター? 片付けだけで今日はもう遅いが明日の依頼の確認か」
ふと我にかえると彼女の顔が俺の横にある。
声をあげないのが奇跡だった。
俺は偶々モニターに映りっぱなしだった、最近のドリフターの情報をさも見ていましたという風に目を細める。
「いや、協会が大手を振ってドリフターを集めちゃいるが、話題が尽きねぇなと思ってな」
そう、今やここら一帯のネストを牛耳ると言っていいほどの力を持つ『協会』
エネルギーを制する者が世界を制するなんて、どこかのネストのお立ち台で扇動者崩れが叫んでいるのを聞いた気がするが、まぁそいつの訳の分からない主張の中でその一点は事実だ。
そんな協会がクレイドルをばら撒いてるってレベルで放出してんだから昔のアメイジアの管理の厳しさから考えれば、ぶっ飛び過ぎて笑っちまう。
表に出ない協会員未満の下っ端はメイガスもなしに結晶掘って来いなんて言われている奴らもいると聞くがゾッとしない
「少し前の状態を考えれば 君のドリフターへの申請が遅れたのは、逆に良かったかもな」
「いや、これそういうレベルの話か?」
俺は地上で起きた様々な戦闘ログを漁る。
最初期の協会員は皆、エース級の凄腕で強い、強いってことは何をしてもいい、早い話が自由だ……、いやこれ本当にやべぇな、自由というよりは
いきなり協会が最高級品のクレイドルなんて宝の塊を放出した結果、その機体を狙った他のドリフターたちが殺到し、機体を強奪し合うという事態が多発*1した。
しかも腕に覚えのある有望なドリフターをなりふり構わず集めたもんで、とりあえず機体をくれるなら名前ぐらい貸してやるかと考えた荒くれ達も混ざり、協会員同士でも機体だけ奪って華麗に賞金首に転向するヤツもいたもんだから、こんな中に放り込まれたら俺は間違いなく直ぐに死んでいただろう。
「下手な注意を引くぐらいなら売った方がマシだな、まずは手ごろな機体で慣れて、そこからは各ドリフターの判断で一つ下の装備や武器を潤沢に揃えた方がいい」
いや、でもそうは言うが渡されたのはあのボウイラビットフレームの特殊機体だぞ?
傑作機と名高い、まさに万能を体現したボウイラビットシリーズをベースにしたカスタム機、確か名前はデ、デ……、なんだったか……?
大容量バッテリーによる長時間活動と高い機動能力を実現している一方で、何よりもアレは全ての攻撃を弾くと言っていいほど壊れない。
とにかくエンダーズだろうが、クレイドルのエネルギー弾や実弾だろうが寄せ付けない高い耐久力とクレイドルに必要な全ての性能を高い水準で纏めたハイエンド機体だ。
それを売る? しかも特別仕様の一品物を?
できない、たとえ乗ったら殺されるとしても、俺には売れない、理性では分かっていたとしても素直に売ることなんて俺にはできない。
「……まぁ、持ってねぇ俺にゃはなから関係ねぇ話だけどな」
「そう腐るな、君もいつか乗りこなすときが来るさ」
「馬鹿言っちゃいけねぇぜ、あの機体は今でも協会から配られちゃいるが一流様限定だ。俺が持ってる下位のドリフターパスじゃ貰えないし、この先で地道にやっても製造ライセンスすら取れやしねぇのは知ってるだろ?」
「なに、いつか君が戦い、その時に勝ち取って堂々と乗ればいい」
俺はそんな夢みたいな話を聞いて、つい吹き出してしまう。
「っは、冗談きついぜ、ド三流の俺に言って自分で笑っちまわねぇのか?」
「いや? 事実であればなにも」
「はっ……」
クソ、あークソ、なんだよそんなこと真顔でよ。
「……はは、そうかよ」
アンタいちいち、かっけぇんだよ、んでそのマジの目を向けられて軽く冗談で流す俺がクソだせぇなぁ……。
「……まぁ今、地上は少し落ち着いたってところか、AO結晶そっちのけでやってる戦争さながらのドンパチがようやく収まったはいいが、協会が欲しい肝心のブツが集まらねぇってもんで、今じゃ俺でもドリフターだ」
次の協会の公式記事にでかでかと書かれた“ドリフター 一獲千金時代到来*2”の文字
陽気な男女5人が巨大なAO結晶の前にクレイドルを止めて、思い思いに弾けた姿を映した画像であるが、それを見て思うことは……
「胡散臭ぇな……、いや俺が所属してる組織だけど」
「うーむ……、AO結晶はエンダーズを引き付ける……、だがその前に青い雨が降りかねない外で生身の活動は私たちメイガスがある程度天候予測ができるとしても非常に危険だ。君は真似するなよ」
どうも協会から出してる協会員募集の記事の一つらしいが、ギラギラとした一獲千金感が前面に出過ぎて非常に怪しい気配を放っている。
そうは言っても俺のケツ持ちが協会だ。
そして協会の駆け出しドリフターに求められていることはたった一つである。
俺は先日協会から送られてきた依頼内容の音声データを再度確認した。
〈お前が新人の協会員か、ドリフターの仕事はAO結晶を採掘しエネルギーを供給することだ。お前のメイガスとクレイドルコフィンが飾りでないのなら地上からAO結晶を持ち帰って来い〉
はい、的外れー。
俺の心配は俺がメイガスとクレイドルのお飾りじゃねぇかってことに決まってんだろバーカ。
「明日が初出撃だが君ならやれる」
「やれなきゃドリフター失格だからな」
「私と君のクレイドルがそうはさせないさ」
内心の不安を押し殺し、冗談っぽく話す俺はまさに明日に出撃予定である。
俺は改めて自分の愛機の方へと顔を向けた。
「まぁ確かに俺にはコイツだっている。精々気張るさ」
青みがかった鉄色を基本として、武骨に角ばったボディ、一本立ったアンテナと脇のカメラ。
名前は『ジャックボックスシリーズ』通称JB*3
アメイジアで最も広く使われたスタンダードなクレイドルの一つ。
今のドリフターたちには無償で貸与される最低限のスペックしか持ち合わせていないなんて評価だがとんでもない。
最低限のスペックしかない? 違うね、コイツは何だってできるし何所だって行ける。
外で活動するのに必要なスペックと実際の運用の天秤を狂気的なまでに突き詰めたコイツは、クレイドルとは何かを雄弁に語る名機中の名機だ。
部隊単位で運用することを前提とした整備のしやすさと部品の信頼性、実弾やエネルギーどちらも装備を選ばず扱える汎用性、馴染みやすい操作感と考えつくされて配置されたコクピットには思わず感嘆のため息が漏れるほどだ。
協会で配られているJBは軍用とは違うが、その機体フレームは同じで、様々な用途にカスタムできる拡張性の高さも魅力だろう。
「エンジンであるAO機関の効率からして考えたヤツは天才だぜ……、考えつくされたエネルギー効率で機動力や積載量だって出力から考えりゃぶっ飛んでる。昔のクレイドルじゃエンダーズが取りつかれちまえばそのまま壊されちまったもんらしいが、近距離で駆動する格闘戦に特化した特殊なマニューバはこのJBシリーズが完成させて他の機体に分かれたといっても過言じゃないんだぜ! それにコイツの凄い所は………!!」
ふと話を止めると、こちらの話……、と言うより熱が入った俺を楽しそうに眺める彼女がいた。
「いい、続けてくれ、もっと君の話が聞きたいんだ」
こんな恥の上塗りを続けられる訳ねぇだろ……
「あー、まぁ、エンダーズ相手に戦うなら十二分すぎるほど高性能な機体ってことだな、以上、終了」
「なんとなくわかってはいたが、君は本当にクレイドルが好きなんだな」
「掘り下げなくていいぞ」
「初めてこのガレージにジャックボックスが受け渡されたその日の夜はコクピットで寝ていたじゃないか、流石に体に悪いから止めさせた時の君の不服そうな顔を覚えてる」
ガキみてぇに飛び回らなかっただけ、あれでも自制してたんだぜ俺は……
「……それはここの雨漏りが心配だっただけって言っただろ、それに俺は正規の訓練を受けちゃいねぇがパイロット訓練でそう言うのもあんだよ! 俺はただでさえ遅れてんだから……」
それらしい言い訳も彼女には全く効かず、嘘偽りのない直截な言葉を俺に向けてくる。
「何を恥ずかしがる。好きであること、熱意を持つことほど上達への近道はない、君のドリフターとしての得難い資質だ」
「へいへい」
ちがう、好きと上手くやれるってのは天と地程の差があるんだよ
……こんな雑な配給みたいに配られているジャックボックスですら、当時の俺は乗れなかったんだから
「……ユナイター」
「なんだよ」
「君の熱意は本物だ。だからこそ、その卑屈さは君を腐らせる。大丈夫だ背中は任せろ」
はぁ……、おい、俺とアンタは相棒なわけだが、会って間もない関係だぞ。
別に死線をくぐったわけでも、長い付き合いのダチってわけでもねぇ。
そんな奴に信じて俺の命を懸けるだ?
「俺が信じてるのはアンタと自分のクレイドルだけだ」
「よろしい」
思考を飛び越して出てきた真逆の本音に、俺は内心で口をあんぐりと開けてしまったが、今更取り消すようなこともできない。
「……まぁ、俺にはそれくらいしかない訳だからな」
彼女は俺の下手な誤魔化しに“これ以上は掘り下げないでおいてやる”と言った感情がありありと見える様子を見せながら、その大人びた顔貌に悪戯っぽい表情を浮かべる。
「もう遅い、今日は体を休めるために寝た方が良い、子守歌だってしてやるぞ?」
「ハッ、俺はガキか? ……ぜひお願いするぜ、添い寝は可能かい?」
「もちろん、クレイドルじゃないちゃんとした寝床でなら」
「……なんだ、どうせアンタの子守歌を聞くなら
短い間で俺の冗談を学習し、とうに超えてしまった彼女に対して、俺の選べる戦術など撤退しかなく、せめてもの捨て台詞を吐いて一人で寝床に潜った。
そしてようやく離脱できた俺は横になって独り言ちる。
「俺には出来すぎた相棒たちだぜ、全く」
明日の出撃への緊張は相当だったのだろう、ガレージの整理以上に心が疲れ切っていることを寝床に入って実感する。
重くなっていく目蓋、さっきの会話全部が俺の緊張を取るためのモノだったのだろうと今更ながらに気づく。
俺は一生彼女に頭があがらないのではないかという予感が確信に変わったのを感じ、明日の出撃に備え眠りについた。
可愛いAIロボに心癒されよう!
カッコいいロボが好きな人も大歓迎!!
闘争を求めるどころか互いの闘争を押し付けあう『SYNDUALITY Echo of Ada』が君を待っているよ!!