背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか? 作:ばばばばば
俺は感情抑制サプリを飲み下す。
しばらくすると心が落ち着き、思考がクリアになっていく感覚を感じる。
俺はそのまま、少しはマトモになった頭で今日の出撃についての目標を確認した。
“要注意協会員”とは協会が指定する“過去に協会員へ攻撃を行った者”に与えられる識別。
裏切りは軍なら問答無用で処罰が与えられるタブーであるが、ドリフターはその特殊な立場、またAO結晶の不足により、猶予期間として協会よりこの識別状態が与えられる。
協会員に戻るには協会員への貢献、なによりAO結晶の採掘、他には賞金首の撃破、エンダーズや盗賊団といった撃破推奨目標の討伐が設定されている。
要注意協会員の状態では他の協会員から襲撃されてもその協会員にお咎めなし、下手に反撃し撃破すれば、警告のうえさらに非道な行為を続けたとみなされ協会から除名、晴れて賞金首となる。
つまり今の俺はかなりまずい状況だ。
とにかく協会員に戻るため。俺は出撃してAO結晶を稼ぐ必要があるだろう。
「ユナイター……、感情サプリを摂取した状態での出撃は推奨しない」
俺は横にいる彼女を見る。
昨日と違い、俺は彼女の目を見て話した。
「いいやアンタも知ってるだろ? 確かにサプリの過剰摂取は中枢神経系の機能を低下させるが、軍のサプリは同時に集中力や覚醒度を高める成分を混ぜている。むしろ適切な使用は推奨されている」
「……期限切れの薬だろう、それに
「問題ない、薬を使用せず過緊張で出撃するよりは安全だ」
昨日まで考えていたことが些事に思える。
確かに前回、俺は誤って協会員を撃破したが、それは運が悪かったからだ。
例えばあの時、逆に俺が先にエンダーズを倒していれば、振るわれていた刃は俺を襲っていただろう。
「薬で過度なストレスを抑制した場合、精神が不安定となるリスクが報告されている。出撃は推奨しない」
「出撃する。準備しろ」
そもそも、こんなことは考えてもどうしようもないことであり、俺が今することは資金の調達といち早く協会員へ戻ることだ。
「……了解、わかったユナイター、だが無理だけはしないでくれ」
「あぁ」
彼女の目が揺れる。
俺はそれを見て、クレイドルへ向かう前に隠れてサプリを追加で内服した。
エレベーターが上昇する。
地上に着く直前、彼女がこちらに声をかけてくる。
「……安心しろ、隣にいる」
その言葉に俺は応じず、クレイドルは地上へ足を踏み出した。
出発地点は都市遺跡西の岩場。
出撃後の俺の動きに問題はなかった。
いや、いつもの過剰な緊張がない分、良好といってもいいぐらいだ。
これならばいつも薬を使用するべきだと思ったぐらいである。
「ゲイザーに見つかった。注意しろ」
初めて戦うエンダーズにも感情は揺らがない。
空飛ぶ星状の物体、中心のコアから幾つもの触手をたなびかせるエンダーズ。
ドリフターにとって、最も厄介と言われる敵。
地形を無視しこちらを追い回す様を見て、
移動砲台のように上空から放たれる強力なエネルギー弾は当たり所が悪ければクレイドルの耐久を一瞬で奪い去るだろう。
そんな普段ならば泡を食って対峙していただろう敵を前に俺は落ち着いていた。
下手に動かず、ゲイザーが射撃姿勢を取って空中で制止するまで待ち、照準を合わせる。
「くるぞユナイター」
止まったところにすかさず相手のコア目掛けてライフルで射撃。
エネルギーを高めゲイザーが回転しながら射撃準備をしようとお構いなく攻撃し続ければ敵のコアは砕け、地面に墜落した。
「ゲイザー撃破」
問題はない、俺は発見したエンダーズを撃破しながら岩場を降りてゆく。
問題ない、俺はドリフターとして問題ない、やれる。
俺はやれる。
「ユナイター、感情サプリの追加内服は止めろ」
彼女にそれを指摘されて、俺は無意識で胸のピルケースをまさぐっていることに気づいた
「薬物の
幾つかの言い訳を思いつくが、俺は最低なことに話をそのまま誤魔化すように無視した。
「……マップを確認する」
「了解、だがこのことについてはの話は終わりじゃないぞ、……帰還したら話そう」
そんな言葉を交わし、帰還地点とAO結晶の位置を確認すると、クレイドルのコンソールに突然通知音が響く。
「協会からだ。……盗賊団の幹部が出現、位置は……、まずいなすぐ目の前だ。迂回を提案」
「了解」
俺は戦闘を避けるための迂回路をマップで確認、現状、俺の位置は高地を確保しているため、索敵を行う。
そして、眼下に広がる地形を確認するため注意深く岩下を覗き込むと、盗賊団はすぐそこにいた。
「……見えるのは2体、盗賊団のクレイドル……、しかも装備を見るに精鋭だ。盗賊団幹部は見えないようだがまだ他にも何体かいるぞ」
クレイドルが固まって移動しているが、幸いこちらに向かってるわけではない、今逃げれば何の被害もなく避けられるだろう。
その時、目の前の盗賊団が慌ただしく動き出し、銃を抜いて射撃体勢を取り始めた。
「銃撃の音を確認、落ち着け、どうやらこちらに気づいたわけじゃない。……エンダーズに応戦してるのかもしれないな」
しかし、それは違う、盗賊団の途切れない射撃音に抵抗するように、疎らなライフルの音。
銃撃戦が行われている。
その意味を理解した瞬間、俺の脳内にいつかの俺が殺したクレイドルの光景がフラッシュバックする。
「バイタルの異常を確認、落ち着けユナイター、隠れたまま呼吸を整えろ」
薬で抑えていた感情が揺り戻され、過呼吸を引き起こしたまま、あの爆発音が何度も、何度も脳内で繰り返されていく。
「大丈夫だ。一時的なものだ。私の声を聞け、ゆっくりと息を吐け」
銃撃音の一つ一つの破裂音が、あの爆発音を想起させる。
そして、マシンガンの連続的な音を聞いた時、俺は恐慌状態のまま、ブースターを吹かせた。
「ユナイター!?」
「誰かが襲われてる!!」
「まてユナイター、落ち着け! 盗賊団狩りの可能性もある! 加勢する必要があるかはまだ……!!」
「こんな
崖を駆け、岩場の陰となった場所から飛び出すと、すぐ目の前は火線が飛び交う戦場だった。
ボロボロになった協会員のJBを中心に、その周りを盗賊団のクレイドルが群がる様に蠢いている。
心臓が一際大きく跳ねる。
薬で抑えていた激情が決壊寸前だった。
「ユナイター! 戦闘は推奨しない!!」
その言葉を無視して、俺は盗賊団の背中目掛けて銃撃を浴びせる。
せめて逃げる突破口を広げるための援護射。
だが、気を引けたのはせいぜいが盗賊団二人
追い詰められた協会員は数と性能、その二つにすりつぶされていく。
「あぁ……!!」
いつかのように爆散するJB、ベイルアウトが間に合ったのかすらもこの距離では分からない。
その光景を見た瞬間、俺の感情も爆発した。
「テメェェらァ゛ァァ!!!!」
作戦も何もありはしない突貫。
この時、敵は何体だの、どこにいるだの俺の頭にはない。完全な錯乱状態。
ただやたらめったらに左腕の鋸刃を振り回し、目の前のクレイドルに叩きつける。
「ぶっ壊してやる!!」
敵は一瞬怯むが、すぐさま同じように格闘戦に切り替えると俺の機体を殴り返す。
それどころか横から撃たれるマシンガン、援護のために近づく機体、それらに囲まれて、俺の機体の耐久は一瞬で底をつく。
もはや動かなくなったJB
それでも俺は操作デバイスを馬鹿みたいに動かした。
「クソッ! 動け!! 殴らせろ!!」
「ユナイター!! ベイルアウトだ急げ!!」
「くそがぁ……、なんでだよ、クソッ……!」
焦げ付くにおいがコクピットまで回ってきた時、俺は特殊フィルムで覆われた緊急脱出用のボタンを拳で叩きつけた。
強制的に開くコクピットの隙間から手が伸び、俺の襟が掴まれると引きずり出される。
為すがままにしていれば力強く体を抱き込まれ外へと飛び出す彼女。
一拍おいて、俺のJBは濛々と白煙をまき散らしながら爆散した。
「舌を噛むなよ……!」
地面への着地の衝撃と煙で俺はあたりの状況など把握できていない。
瞬間的な加速に体を揺さぶられ、舞い上がる爆煙に咽ていると、狭い場所へと俺の体は押し込まれた。
「静かに、近場の瓦礫の隙間に隠れたが、じき見つかる。君一人で帰還エレベーターへ向かえ、わかったな?」
俺は状況の半分も理解できないまま染みる目を無理やり開けると、彼女の顔の輪郭がうっすらと見える。
「あ、アンタは!? 」
「攪乱を試みる。 敵がこちらに食いついたら儲けものだ」
あの囲まれた状態では逃げたとしても大した距離ではなかったのだろう、まだ周囲にクレイドルの駆動音が聞こえる。
「待て! 待ってくれ!!」
「君は生き残れよユナイター」
「お、俺はアンタがいないと……、アンタがいないと何にもできないんだ!頼む! 置いていかないでくれ!!」
俺が恥も外聞もなく情けなく喚くと彼女は俺の口に人差し指を当てる。
「静かに、……なぁ、君は君が思うよりなんだって出来る」
「違う! 俺はッ……!」
彼女は最後に微笑むとそこらに散らばった残骸で隙間に蓋をする。
「夢を叶えろよユナイター」
薄い壁越しにそう呟いた彼女がそこから駆け出した音が聞こえる。
そして、クレイドルの駆動音
次第に音は遠くなり、耳をうつのはいつの間にか降り出した雨音だけ。
どれだけの時間が経っただろうか、外は既に薄暗い。
俺が真面にモノを考えられる状態になったのは、薬が抜け、次第に強くなる雨が、この瓦礫の小さなスペースに染み出し始めた頃である。
俺は瓦礫の隙間から外を見る。
雨のおかげで消えた砂塵、そのおかげでバラバラにされた俺のJBがよく見えた。
ご丁寧に、細かくばらされ、まともなパーツは取られたのだろう、無残な姿を晒している。
己の無能を噛み締める。
俺の無力さでJBと彼女を失った。
人生が終わったかのような最悪な現状。
後はここで何もせずに雨に打たれ、そのまま苦しみの中で悶え死んだ方が楽だろう。
瓦礫の天井は既に雨が滴り始めている。
直にここも雨に濡れる。
このまま己の無力さに苛まれ命を終える。
3流ドリフターに相応しい末路だ。
胸をまさぐればお馴染みの抑制サプリ、俺はそこから手から薬ピルケースを逆さにし、手の平にこぼれる程の薬の山を掴む。
そして今まさに俺の頭の上に水滴が落ちようとしていたその時――。
俺は薬を地面に叩きつけて狭い空間で身を捩らせながら、軍用レインコートを天井に当てて無理やり補強しようと動き出す。
「クソッ! クソッ!! クソがっ……!! なに一人でラクになろうとしてやがる!!」
彼女が置いていったサバイバルキット、そこに入った携帯ダクトテープで無理やり廃材を繋ぎ合わせ、雨の侵入を防ごうとする。
「なにができんだテメェはよ! アイツが不憫でならねぇ!! 俺に会わなきゃもっと優秀なヤツに出会えて幸せになれたぜ!! なぁ無能野郎!!」
廃材の屋根の下、レインコートを内幕のように広げ、身動きしなければ人ひとり分濡れないスペースを何とか作り、そこで身じろぎせずにじっと身をひそめる。
「……夢を叶える? 一獲千金? テメェみてぇな惨めな弱者に叶えられるわけがねぇだろ」
だが真に惨めなことは、この人生が終わったかのような状況でも俺の人生は続いている事である。
それでも彼女は生きろと言った。
俺は寒さで震えながら、隙間から侵入する雨を防ぎ
もう失くした彼女との日常を思い返しながら一夜を耐えた。
……空が白み始めた時、雨は止んでいた。
相変わらず俺の心内は晴れないが、外の世界はそんなことは考慮せず、この大地から登る太陽は涙が出るほど美しい。
「クレイドルもメイガスもない、……まぁ普通に考えたらドリフターは廃業だな」
絶望的な現状に乾いた笑いすら起きる。
残骸と化した愛機、そして空になったコフィンシェルを眺めて独り言ちた。
「……一流ドリフターになりたいだの、一攫千金だの、あんなのただのカッコつけだったんだぜ」
つい先日、思わず彼女にそう虚勢を張ったことを思い返す。
「アンタ本当に何でもできるからなぁ……、何にもできない俺が張り合おうとしたら、そんなバカな戯言で誤魔化すことしかできねぇって、あんときは思ってたんだ」
さらに愛機の残骸に近づき、煤けたカメラアイを乾いた布で撫でる。
「お前にも悪いことしたな、本当は一生手放さないって思ってたのに俺の所為でこのざまだ」
失ってしまったもう一人の相棒に俺は謝る。
「……でも、俺はドリフターをやるよ。どうにかして新しい機体を手に入れて、……そんでまた戦う、メイガスだって……、いや、メイガスはもう載せない、ハハ、つーかもう組めないだろうけど、やっぱ俺にはアイツだけだ」
俺の腕がド三流だろうと、メイガスもクレイドルもなかろうと、俺はそれでもドリフターを名乗り続けてやる。
「だがまずその前に――」
「だがまずその前に生きて帰らなければ話にならんぞユナイター?」
背後から聞こえる声に俺は弾かれるように振り返る。
そこには少し服が汚れながらも変わらない彼女が腕を組んで立っていた。
「な、なんで生きてやがる!?」
「青い雨が幸いしたのもある。敵の追跡もそこそこだった。なにより奴らの懸賞金目当てで協会員が列をなして戦闘になってな、何とか逃げ延びることが出来た」
俺は口を開け閉めしながら、間抜け面を晒す。
「それにメイガス抜きでドリフターを目指すのは止めておけ、君は危なっかしいからな」
「ど、どこから聞いてやがった!?」
「さぁ何のことやら、まずはエレベーターを目指すぞユナイター、今青い雨が降らないとは限らない」
喜びと混乱でない交ぜになった俺は歩き出した彼女に追いすがろうと駆け出す。
「ま、待ってくれ!」
「君は私の助言をあれだけ無視したのに聞かなかっただろうに、今更都合がいいとは思わんか?」
「そっそれは……、いや待て、お前だって俺が行くなと言ったのに勝手に出ていきやがって……!」
「勝手に?」
その一言で彼女は振り返ると、何も言わずにこちらをジッと見つめてくる。
その目を向けられて、ここまでの全てが自分の所為であると思い出せば、言葉の勢いはしぼんでいく。
「勝手に? なんだ?」
「……悪かった」
「よろしい」
俺が平謝りすると彼女は表情を緩める。
「だが、私も悪かった。隣にいる、そう約束したのは私だ」
「……んなワケねぇだろ、今回はアンタを無視して暴走した俺がクソだった」
「それでもだ」
彼女はこちらに向き直ると改まって真剣な目を向けた。
「……なぁユナイター、私はいつも君の隣にいる。だから君も私の隣にいてくれないか?」
「今日の俺の情けなさを考えろ、アンタの隣にいたいなんて、そんな厚顔無恥なこと言えねぇよ」
「茶化すな、真面目に答えろ」
俺は彼女には何があっても敵わないことを再認識し、これもいつものように肯定の返事を彼女に返した。
「……了解」
「よろしい」
ドリフターとしてたった3回の出撃
そのたった3回の出撃の中で俺は仲間を殺し、惨めな敗北を経験したのだった。
失敗の味は苦くて痛い。
それでもドリフターならその敗北と後悔の味を噛み締めて進まなければいけないのだろうか
チキショ~~~~~~!!!!
と、高らかに叫びたくなるような、熱中の後に訪れる死。
その「散り際」が美しいほど、あるいは面白いほど、その記憶は強くプレイヤーの記憶に刻まれ、唯一無二の体験となる。
『SYNDUALITY Echo of Ada』は、そんなふうに散ったときに思わず叫びたくなって、「聞いてくれよ、こんな死に方をしたんだ!」と友人に自慢したくなる……そんな作品に仕上がっている……………………らしいぜ!!!!
君達も実際に『SYNDUALITY Echo of Ada』プレイして確認してみよう!!