背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか? 作:ばばばばば
「ちくしょう……、ここからの帰還は見送るか……」
俺は目の前で下降していくエレベーターを指をくわえて見ていることしかできなかった。
「協会員からしてみれば要注意協会員は敵か……、場合によってはそれ以上の仇だ。大事を取って接触は避けていくしかあるまい」
今、俺は盗賊団に襲われてから何度目かの出撃、要注意協会員から協会員へ戻るためのAO結晶掘りに精を出していた。
そんな結晶掘りの帰りのエレベーターを待っていると同業者が現れたのだが、その反応はやはり厳しい。
銃口と敵意を向けられた俺は大人しく距離をとり、別のエレベーターを探すしかなかった。
そして、ようやく予定より遠くの帰還エレベーターを使って地下へ帰還することが出来たのだ。
「地上より帰還する……、よくやったユナイター」
「他の協会員に会えば、向こうの警戒心が肌で分かる。こっちも気を張っちまうぜ」
自業自得とは言えため息をつくと彼女は静かに首を振る。
「警戒だけならまだマシだ。ルーキーの多い今だと銃を向けられるぐらいだが、上に行けば問答無用で襲われるほど要注意協会員は目の敵にされている」
要注意協会員を殺しても協会員は何のお咎めもない、逆に要注意協会員が協会員へ反撃して相手を撃破すればこちら側が晴れて賞金首となるのだから、前回の奇跡的生還から俺の緊張が途切れた日はない。
「とはいえ、無抵抗で殺されるぐらいなら戦ってでも生きろよユナイター、賞金首になっても私は君の隣についていく」
「冗談よせよ、ならねぇし、なってもどうせすぐにおっ死んじまうさ」
そうは言ったが、彼女の目を見るに全く冗談を言ってるようには見えない、そうならないためにも早く協会員に戻らなければいけないだろう。
「今、ドリフター振興協会は見境なくドリフターを協会員にしているが、その所為で協会員のモラルは無秩序状態だ。お前にも前に伝えただろうが同じ協会員の物資や装備を狙う輩が跋扈している」
「聞いたよ、偽装協会員とか人狼協会員*1とか呼ばれてる奴らだろ?」
人狼ゲームと呼ばれている歴史あるゲームの名を冠しているが、つまるところ奴らは協会員の皮を被った狼。
奴らは協会員の振りをしてこちらに肉薄し、先制の不意打ちを行ってくるらしい。
ここで厄介なのは例えどれだけ疑わしくても協会員同士では先制した者が要注意の扱いを受けるということ。
先に撃てばこちらが要注意になる協会の杜撰な
「味方の振りをした敵などただの敵よりも厄介だ。わざわざ協力申請をしてエンダーズと戦っている隙に襲い掛かるような卑劣な手口を使う者もいる……、奴らの手口は巧妙化している。なんどもいうが例え同じ協会員だろうと決して背を見せるなよ」
「分かってる。そんな奴らと一緒にされちゃたまんねぇぜ、だから早く協会員に戻らないと……」
「お前も直に奴らが厄介な理由がすぐに分かる。ほら来たぞ」
彼女の言葉に協会からの通信が届く。
協会から来たその事務的な連絡の内容は俺が協会員に戻ったという待ち望んでいたはずの内容だ。
だが俺は喜びよりもまず困惑した。
「いや待てよ、俺はまだあれから3回ぐらいしか出撃してねぇぞ……!?」
「分ったかユナイター、現状協会員に戻るのはそう難しくない、賞金首に堕ちても金さえ払えば協会員になることを協会は許している。……いやそれどころか公に推奨している」
例え、同じ協会員を殺してもこの程度で元の協会員に戻れる。
仲間殺しを犯した俺を協会は容易に許してしまったという事実に俺は震える。
「エネルギーを制する者が世界を制する。金に糸目をつけずエネルギーを採掘するドリフターを抱き込むのは、敵対する地上のネストに対する非常に有効な攻撃だ。……その所為で様々な出自の協会員が同じ場所に送られ、ヒリついてるのが現状となってしまったのだがな」
アメイジア崩壊後、地下のネストを拠点とする旧アメイジアの住人達と、元より地上で暮らしていたネストの住人の対立はさらに深まった。
もともとアメイジアは都市生活の莫大なエネルギーを賄うために周辺のAO結晶を武力で独占していた過去がある。
軍じゃ地上のネストが確保していたAO結晶を奪い取るような作戦もあったことは公然の事実だ。
表じゃアメイジア内部にある超巨大AO結晶だけで半永久的に都市のすべてのエネルギーを賄えると豪語しても、そうじゃないことはあそこに住む全員が知っていた。
そんな今まで隔絶した軍事力でAO結晶を独占していたアメイジアが崩壊し、その技術まで流出してしまっている今、地上と地下の対立意識は争いを生んだ。
実際にそこらかしこで武力衝突が起きているなんて話はしょっちゅう耳にしている。
「今は自由な
まったく、少ない人口でどこもかしくも争いだらけ、まじで世の中いかれてやがる。
世間話をすれば、世間はロクでも無いので話は暗く重い話になってしまうのはどうにかならないものか、そう考えた俺は何となしに彼女に話題を振ってみる。
「景気のいい話はないのかねぇ……」
「景気のいい話……、かは分からんが、いまドリフターの一部で保険金を利用した金稼ぎが話題になっている」
「おぉ、金稼ぎの話か、そうだよそういう話を聞きてぇんだよ俺は」
俺は目を輝かせながらその話がどういったものか彼女に聞く。
「そうだな……、コンプライアンスなど皆無な我々ドリフターではあるが、クレイドルの装備や物資に対する保険があるのは知ってるな?」
「あぁ、地上で撃破されて生還出来たら、かけた装備分の保険金が帰ってくるってやつだろ」
ちなみに俺はかけてない、地上では撃破=死亡が当たり前なのになぜ保険を掛ける意味があるのかと思っていたので、概要を聞いただけで使うことはないと俺は判断していた。
「つまりだな、高額装備に保険をかけて出撃、地上の安全な場所でベイルアウトを行い、保険をかけた装備を隠し持って地下に戻る。これを繰り返せば理論上は莫大な保険金をせしめることが出来る。金銭の受け渡しは機械的に行われるから後はその繰り返しだけで億万長者だ」
「おいおい、きちまったようだなぁドリフター一攫千金時代」
「もちろん違法*2なので直ぐに対処されたぞ」
「おいおい、もう終わっちまったよドリフター一攫千金時代」
まぁ、どう考えてもド違法もいい所なのだから仕方がないだろう。
「やった奴等は記録を遡及されたようで、莫大な金額を請求されたそうだ。破産したドリフターも多いが上手くやった奴は稼いだ金を装備に変えてそのままドリフター稼業をやってるそうだな」
「ぶっとんでるな……」
「まぁ保険屋は地上と地下、どちらのネストにもまたがった経済組織だ。どこに行こうとも借金はついて回る。まともな生き方はできんさ」
景気のいい話を聞けるかと思えば、この世の無法っぷりに頭が痛くなるだけだった。
「まったく世も末だな……」
「安心しろ、まさに今が世の末だ。人類の隣人足らんとする私たちメイガスは君達の繁栄と復興を望んでいるのだがね」
彼女がらしくもない、捻くれた冗談を言う。
「へっ、その俺みたいな冗談笑えないぜ」
「むっ……、君に合わせてみたのだが……」
「アンタはアンタでいいのさ、んな所を学習しなくてもいいんだよ」
そんな風に会話は続き、俺達は拠点へと戻るのであった。
何はともあれ、罪を背負いながらも俺は協会員に戻ることが出来た。
「クロウラーに発見されたぞ」
「くそ、距離を取って……」
「オーバーヒート状態だ! 迎撃しろ!!」
「死ねぇ! この陰険短足爆弾野郎!! グワアァァ!!!!」
「……2体のうち一体を撃ちもらしたな」
「お、俺のJBに傷が!?」
「ブーストエネルギーは切らすな、不測の事態に備えて半分はキープしろ、最終的な移動速度はそう変わらんと教えただろう」
「す、すまねぇ……」
その間はまぁ、ヘマこいてメイガスに叱られるのは変わらないが、それでもなんとかドリフター稼業っていうものに慣れ始めてきた。
「大仕事だったぜ……、ようやくガレージと推定リビング付近の草を撤去できたな」
「いちおうまた鍋を作ってみたぞ」
「おぉ……、まぁ、助かるぜ……」
「今度はキノコも入れてみたぞ」
「いただくか……」
「そんな渋い顔をするならキッチンを直せ、キッチンを整えて食品プリンターがあれば私ももっと君の栄養に気を使ったものが作れる」
「その前にアンタのパーソナルスペースがまだだろ、メイガスの処理能力をあげる強化装置、それにコレクション棚とかが……、あとクレイドルのためのガレージだってもっと改修が必要で……」
「確かにそれで私達の機能は万全になるが……、いや、この言い合いはもう何度しても君が折れないから置いておこう、その後は絶対に君の生活スペースの改善に金を使ってもらうぞ」
「いやよ、クラフトラインでの浄水フィルター作りがかなり安定して稼げるだろ? だからもっとクラフトラインも増やしてぇし、作るにも金が要るからさらに浄水器を……」
「そんな風に自分に無頓着でいるといつか痛い目を見るぞ」
「いやそんな顔すんなよ、今、浄水フィルター作りが熱いって話で持ち切りなんだって、貧乏ドリフターは皆が狂ったように浄水フィルターを作ってんだよ!」
「君達ドリフターはそんなに浄水フィルター*3を作ってプールでも建設するつもりか?」
ひたすら地上でAO結晶と物資を集め、拠点を拡充していく。
目が回るほどの忙しさではあるが、それでも俺は充足感を感じていた。
「旧アメイジア政府の奴ら……、クソみてぇな依頼を吹っ掛けやがって、何が旧政府だ。どさくさに紛れてアメイジアの武器を抑えただけの軍閥のくせに……」
「エンダーズの駆除依頼に加えて撃破する武器を指定されてるな」
「なんでアイツらの為にエンダーズ駆除するってのにわざわざ割高な武器をアイツらから買うんだよ」
「まぁ落ち着け、君は同じ武器を使いたがるが、それは最低限の性能だ。一つ上の性能の武器に慣れるのもこの先君には必要になるだろう」
「へいへい、どうせ俺は貧乏性だぜ」
「それでなくても依頼相手の心証を良くすれば、より優れた装備の購入許可やクラフトライセンスも融通される。そう臍を曲げるな」
「はぁ……、ゴマすりゃこの先こんな割に合わない依頼は減ると思いたいぜ……、いやまさかもっと酷使されるとかならねぇよな*4?」
「いずれ待遇も改善する……、改善するだろう……、改善に期待して……、まぁそこはある程度の身の振り方を考えるべきだろう」
「くそったれめ……、やるしかねぇのは分かってるが、どこに行っても結局は下っ端か……、はぁ……、大人しく稼ぎに出るとするか」
「他に並列してこなせる依頼があれば確認するといい、メイガスラボから紹介されたアーティファクトフォーラム、あそこの旧文明の発掘による解明なんて、君、結構乗り気だったじゃないか」
「あー、あそこかぁ……」
「君のドッグタグにつけてる旧時代の造形品の話でかなり盛り上がっていたと記憶しているが?」
「いや、あの後それを売れと言われて喧嘩になっちまった。俺のもってるのが "極東地区の旧時代偶像崇拝における
「ううむ、極東文化はここから最も遠く、故に想像力が掻き立てられて、様々な学説が飛び出すからな」
あれだけ人をかき集めているというのに、ドリフターに振られる仕事は全く減らない。
それでも俺はただがむしゃらに依頼をこなしていった。
そして幾つかの時が過ぎる。
「……ユナイター、協会からの依頼……、というよりは通知だ」
「あ? なんだ、ようやくAO結晶の買い取り額の見直しか? アイツらどんだけ俺達ドリフターの足元を見りゃ気が済むと――」
「ドリフターライセンスB試験の連絡だ」
「――まぁどうせクソみたいなお小言で……、ってなんだって?」
「B級ライセンス昇格試験の通知だ」
「……だれ宛てに?」
「君に決まってるだろ」
俺は何度か瞬き、短くない時間呆けた後で口を開く。
「いや、待て待て、ちょっと待て、だって俺はちょろちょろ遠くからエンダーズを間引いて、コソコソと結晶を掘って這いずりながら帰ってるだけの底辺ド三流ドリフターだぜ?」
「そうだな、己の安全マージンを理解し、確実に撃破可能なエンダーズを摘み取り、一定量の安定したAO結晶を採掘し、……そして必ず生きて帰ってくる一端のドリフターだな」
いや、アンタ誰のこと言ってるんだよ、そんな手堅い中堅みたいな奴は知らねぇよ。
「どうした? 顔がニヤついてるぞ」
「ニヤついてねぇ!」
「じゃあ見せて見ろ、ほら、隠すなユナイター」
「いやだね……! アンタの方がニヤついてるじゃねぇか!?」
「もちろん、ユナイターへの正当な評価で笑みが止まらんな」
俺は落ち着きなくガレージを歩き回って背を向けるが、彼女は俺の前を遮るように立ち塞がる。
「何が評価だってんだ。まだ試験の許可だけじゃねぇか、喜ぶのは早ぇよ」
俺があらん限りの力を込めて、今にも緩みそうな顔を引き締めると彼女はツカツカとこちらの目前に近づいて仁王立ちになる。
「そうだ。まだ早い」
突然彼女はまつ毛が触れかねないと思うほど顔を寄せて俺の目をのぞき込んでくる。
驚きに跳ねる心臓。
「私の話をよく聞け」
「アイマム」
切り替わる真剣な目と声色、地上で俺を補佐するそのよく響く声を聴いただけで、ただそれだけで俺の浮ついた意識が一瞬で地に足つき、背筋は伸びあがる。
それを確認した彼女は顔を離して話を続ける。
「ドリフターに夢見た者は多い、だがあれだけ人を集めて今もドリフターとして生きてる者が何人いる?」
「増えてない、むしろ減ってる」
俺の端的な返答に彼女は頷き、強く言い含めるように話し始めた。
「では君はどうだ? 死んでるか?」
「いいや、生きてる」
「そうだな、一流も一攫千金もまだ遠い、だが君は生きて、そこに向かって進み続けている」
彼女が目を逸らさなければ、俺も逸らせない
俺は強くない、だがなぜかオレより強い奴の屍の上に立っている。
臆病さか、生き汚さか、それとも運か、俺はなぜかドリフターとして生き延びていた。
「認めろユナイター、君は挑む権利を持つ者だ。今は自分でそう思えなくてもいい、だがそう信じる私に答えろ、返事は?」
彼女に答えろと言われれば俺の口と心は何よりも早く動き出した。
「了解」
彼女は満足そうに微笑むと、髪をたなびかせ、こちらを横目で見ながら通り過ぎる。
「まずは昇級試験に向けて鍛えなおす、明日から忙しくなるぞ」
彼女がやれると言えばその颯爽と歩き出す横に意地でも食らい付いていくことに俺は何の躊躇もなかった。
クレイドルを帰還エレベーターへシュゥゥゥーッ!!
超!エキサイティン!!!!
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