背中を晒す3流ドリフターはアンドロイドと一獲千金の夢を見るか? 作:ばばばばば
互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。
一人が組織の為に、組織が一人の為に。
だからこそ地上で生きられる。協会員は兄弟、協会員は家族。
B級ライセンスを取得し、より危険な地帯に出撃していた俺たちであるが、やるべきことは変わらない。
日々AO結晶を掘って、物資を集めて、エンダーズを倒す。その繰り返し。
初めは警戒していたが、一向に出会わない賞金首に俺の警戒は一段下がっていた。
……まぁ、つまり油断していた。
昔の奴らが言う地獄とは地下にあったらしいが、この地上こそがそうであることを俺は忘れていたのだ。
「帰還エレベーターを呼んだ。気を抜くなよ」
「了解」
場所は都市遺跡、崖に挟まれた勾配の多い地形、自然の緑に呑み込まれたビル群、そして崩れた建造物が死角を多く生み出す場所である。
「しっかし何度通っても、すげぇ坂だな」
下には自分が通ってきた急勾配、そして上には反り立つ崖。
間に挟まれるような位置にあるエレベーターの上で、その絶景から俺は思わず空を見あげる。
「ん?」
その姿を先に見つけられたのはそんな、よそ見をするような目線の偶然だった。
ほんの一瞬、見上げた崖上の影が蠢く。
「クレイドル発見! 所属は……、構えろ!」
「ま、まてまだ相手の照合が……」
敵味方の識別が行われるその一瞬、上にいる未確認機は一気に崖からこちら目掛けて飛び出してくる。
俺は愚かだった。
相互に相手を認識した状態でこちら目掛けて向かってくる奴がどんな奴か、理論的に考えれば分かるはずなのに、芯の部分で理解できていなかったのだ。
ようやく相手の識別が判明した時、相手方のクレイドルは目前に降り立っていた。
赤い宝石に蜷局を巻く蛇、サンジョベーゼファミリー所属、協会と敵対する賞金首の識別。
「クソッ!!」
俺がマシンガンを構えた瞬間、既に敵方の銃口はこちらに狙いをつけていた。
光る銃身と同時に体へ叩きつけられる衝撃。
賞金首の用いる実弾式のショットガンの散弾は俺から思考の余裕を削り取る。
「ユナイター!!」
狙いすら覚束ないまま、せめて一撃、そう思い狙いつけるガンカメラに写っていたのは、こちらに向かって鋸刃を振りかぶる敵クレイドル、ジュリエッタ アンバーシリーズ*1の姿であった。
俺はアラームが鳴り響くコクピット内で、歯を噛み締めながらベイルアウトを行った。
…………そして崖下のビル、その生い茂る木々の隙間に射出された俺の元へ、彼女が来た。
「無事かユナイター、外傷は?」
「……ねぇ」
戦闘時間で言えば10秒……、いや5秒、たったそれだけの時間で俺は手も足も出ずに叩きのめされた。
正直言えば彼女が来るまで放心状態で動くことすら忘れていたぐらいだ。
「……敵は追ってきてるか?」
「いいや、遠くで隠れて確認していたが荷物を漁って直ぐに立ち去ったようだ」
「見逃されたのか? ……俺を探して殺すことだって出来たはずなのに」
俺の言葉に彼女が複雑そうな表情を浮かべる。
「奴ら賞金首にとって協会員は稼ぎを集めてくれる大事な獲物だ、無限に金が湧き出る宝箱を壊す愚者はいないというわけだな」
「俺のJBが……、奴ら舐めやがって……」
……相対して一撃も食らわせることなく負けた自分が情けない
幸いと言っていいのかは分からないが、撃破された地点はエレベーターの近く、生身でこの危険な地上を移動する距離は短くすみ、ほどなくして俺は先ほどの場所へ戻ることが出来た。
「集めた貴重な素材とAO結晶だけが綺麗に抜かれているな」
「JBは? せめてエレベーターに載せるまでは動きそうか?」
「ダメだな、エンジンから駆動系まで全部壊れている」
「……そうか」
せめて命があったことを慰めにすればいいのだろうか、しかし壊れてしまったJBを前に俺はそんな風に思える余裕はない。
「帰還しようユナイター、ここにとどまり続けるのは危険だ」
彼女に声をかけられるまで、俺は拳を握り込むことしかできなかった。
こうして初めて賞金首に撃破された俺は、命からがら拠点へ戻り、クレイドルを手に入れるため様々な申請書の処理に追われる。
新しいJBを供与されるまでの期間*2、拠点で手持無沙汰な俺はコンソールを前に依頼内容の吟味や情報の収集に努めた。
「なぁ、敵の使う実弾系兵器*3、俺達協会員も買うことはできないのか?」
「……欲しいのか?」
「いや、敵をぶっ倒したいなら素直に高級装備で固めて地上に出てるさ。武器のスペックが分かれば多少は逃げ方も分かるかと思っただけだ」
そもそも俺達協会員は対クレイドルだけを意識して装備を揃えるわけにはいかない、エンダーズや素材の収集、やるべきことが多い俺達はそもそもの時点でまず、賞金首に出会わない、避けることを重視して動くべきだろう。
……そういう意味では、先日の撃破は俺の油断による部分もかなり大きかったはずだ。
「……調べりゃ今まで俺が出会わなかったのが不思議なくらい賞金首の襲撃は多いみたいだな……、エレベーター待ちでの襲撃*4、遠方からの狙撃*5、……エレベーター前の地雷設置*6、好き放題やってやがる」
「これから出撃する上で賞金首の連中は避けて通ることは出来ない、今回生きて帰れたことを教訓に次に生かそう」
彼女の言葉に頷きながら、俺は今ある依頼にざっと目を通していく。
「協会の連中からは盗賊団の撃破か……、危険性もあがってきたな、旧アメイジア政府の連中からは拠点確保準備……、内容は……、リペアキット60個輸送の輸送任務か、こりゃなかなか骨だぞ、……ってこのリペアキットこっちで用意すんのか!? くっそ報酬は9000だと!! 購入するだけで報酬の半分以上が持ってかれるじゃねぇか!」
相変わらずこちらにケンカを売ってるとしか思えない依頼の内容に俺の心はささくれ立つ。
〈ヨシオニュース*7! 毎日同じAO結晶の採掘で疲れた? お金を払えば協会員のプロフィール画面から協会を脱退して自由になることが出来る!〉
「……なぁ、拠点に置いてあるこのラジオ付きのぬいぐるみ持ってきたのってアンタか?」
「いや、いつの間にか置いてあったぞ、君の趣味じゃなかったのか?」
「ちげーよ、たしか協会の研修動画の通知とかもしてたが、この放送、協会がやってんのか? アイツら頭が湧いてんのか?」
「いや……、協会公式という話は聞いていないが……」
苛立っているときに流されるこちらを煽ってるとしか思えない内容の放送にさらに怒りが募る。
そんな風に依頼文に目を通していると、気にかかる依頼が目に入る。
「メイガスラボから研究用素材の調達か……」
依頼内容はメイガスの記憶野における研究に必要な素材の調達、この依頼自体は気にかけるべき点はない。
だが俺は以前、メイガスラボから通達されたある依頼を蹴っていた。
「君は受けなかったが、以前に盗賊団に奪われたメイガスの身代金を運ぶ任務があったな……、依頼文を見るに、奴らは金だけ受け取って約束を反故にした。そして別のドリフターに依頼を出して取り戻したが、そのメイガスは初期化されて記憶は失ってしまったようだ」
「依頼を受けてもメイガスが帰ってこないのはどう見ても分かり切ってた。依頼を達成しても意味ねぇから受けなかったが……、わざわざ敵の拠点に殴り込んだ奴がいたのか、コイツはとんだ凄腕もいたもんだぜ」
「だが、結局記憶は戻ってない、可哀そうだがメイガスとしては死んだようなものだ。せめて同じユナイターの元で役立てるといいが……」
「……まぁ、ひょっとして記憶が戻るかもしれねぇ、この依頼は受けとくか」
彼女もメイガス、以前に盗賊団に殺されかけた俺にとっても関係ない話ではない。
「敵方に捕まったら俺は何の利用価値もないが、アンタはメイガス、いざとなったら敵に降ってでも……」
俺がそう言いかけると彼女は鋭い目で俺を睨む。
「ユナイターの横にあってこそのメイガスだ。初期化されて君を忘れることは私の死に等しい、君を失うことも同じだ」
どうやら彼女を怒らせてしまったようだ。
「わりぃ、縁起でもねぇこと言っちまった」
そう口では言っても、俺と彼女、もし先に死ぬようなことがあったならそれは俺が先であろうし、つい先日死にかけたばかりの俺にはそんな結末があり得ないとも思えなかった。
「だがこのドリフター稼業、いつ死んでもおかしくねぇ。どう考えても穏やかに床の上でってのは難しいだろ? まっ、どうせアメイジアじゃ労働できない年になったら皆で合同自死パーティ、軍じゃ口減らしの自殺特攻だ。こっちの方がよっぽど人間らしい」
話す内容は後ろ向きではあるが、俺の口調はお道化たように明るい、彼女はそんな俺が気に食わないようだが、このままのたれ死んでも後悔はない。
「私がそうはさせんさ、君は天寿を全うしてもらう」
「天寿ねぇ……、天から授かった寿命……、たしか宗教だっけか? アメイジアじゃ大っぴらにやってりゃ治安維持で捕まるぜ? まぁ、軍じゃ結構個人で信じてる奴はいたが」
「宗教……、君達人類のために作られた思想や観念のことだな」
「兵隊の中じゃ自分のルーツをたどって宗教を信仰してる奴は結構いたぜ? 石をパンにするヤツ崇めたり、食おうと思っても食えない高級品の豚を食べちゃいけないとか……、兵士が死んだら兵士しか行けないすげぇ良い場所に行けるって信じてる奴もいたな」
アメイジアじゃ禁止されていたが、それでも生死が近い場所じゃいくら規制しようが、どんな突拍子のないことにでも縋っちまうのはどうしようもないことだ。
「君も何かを信仰していたりはするのか?」
「俺? あー俺は特にねぇな、別に死にかけた仲間の耳元で、死んだら灰になるだけだなんて囁きはしねぇが信じてねぇなぁ」
「何か理由が?」
俺は彼女の問いかけに答える。
「宗教なんてよく知らねぇけどよ、あいつ等の話を聞くと大抵は似たこと言ってるだろ。良いことしたら楽園みてぇな場所行けて、悪いヤツは永遠に苦痛を与える場所にぶち込まれる。だけどそれをする偉いヤツは滅茶苦茶慈悲深くていいヤツらしいぜ? もう聞いただけでヤバそうじゃねぇか」
「そういうモノなのか……?」
「いやよく知らねぇ、興味ねぇし、ケツの穴小さいこと言わずに全員天国でいいじゃねぇか、それだったら俺だって信じてやろうって気になるさ」
俺の言葉の何がおかしいのか、彼女は少しだけ機嫌を直してコロコロと笑う。
「
そんな他愛のない言葉を交わしながら、出撃できない間を俺は彼女と過ごす。
「そういえば例のアメイジア事故調査委員会、本部が盗賊団に襲撃されて集めた記録ログが散逸したそうだぞ」
「マジかよ……」
「そしてその拠点をたった一機のドリフターが鎮圧したそうだ」
「いやマジかよ……!」
混沌とした時代、それでもあるところにはあるつかの間の時間。
決して安息とは言えない次の戦いの前のしばしの休息を俺は彼女と過ごした。
そうして改めて届いたJBを駆り、俺は地上へ出撃する。
「エレベーター前に地雷は……」
「ないようだ。安心しろ防衛型は地雷の位置を確認できる」
一応事前情報から横行している出撃地点への罠を確認するが、ここにはないようだ。
「しっかし、ずっとこんなのに注意しなきゃいけねぇのか……」
「エレベーターを使うのはドリフターだけじゃない、地上との主要パイプに罠を張るなどいずれ規制が敷かれる。少しの辛抱さ」
その言葉を信じて地上の探索を続ける俺
そうしてようやく見つけたマシな純度のAO結晶に近づこうとすると彼女に言葉で止められる。
「止まれユナイター」
「どうした?」
「AO結晶に地雷が付けられてる。周囲を警戒しろ」
「……マジかよ」
そう言われて周囲を見渡せば、AO結晶近くの高台から微かにクレイドルの機動音が聞こえる。
「ここは避けるか……」
「迂回ルートを提案する」
音を立てぬようにその場を離れる俺達。
人のドス黒い悪意、ただ強力な兵器だけではここまで怖気は走らないだろう。
「おっ他のクレイドルの荷物が落ちて……」
「待てユナイター」
「……まさか」
「荷物の下に地雷がある」
「またかよ!?」
「ここら一帯は悪意持つ人物の狩場のようだ。……遠くはなるが別のエレベーターからの帰還を提案」
「……了解」
結局この探索での儲けはいつもと比べ随分と少ない稼ぎであった。
以前に賞金首と出会ってから、地上の悪意はその隠していた本性をむき出しにして俺に襲い掛かってくるようだ。
その悪意は賞金首だけに止どまらない。
俺が旧アメイジアからの依頼である武装の性能評価依頼。
依頼主から指定された武装の使用をきめられたことにより、俺は普段の安売りではない高性能な武器を担いで地上に出撃する。
「こりゃエンダーズ掃除も楽になるな! 全員レーザーで穴だらけだぜ!!」
「そう思うならバードウォッチャーに乗ってもいいんじゃないか?」
「さぁ! さっさと
彼女の指摘をそれとなく受け流し、俺は依頼にあった討伐数を一度で狩りつくす。
正直銃身が焼き切れたのではと思う程に敵方へ撃ち込み、合間に手に入れた素材やAO結晶でホクホクだ。
俺は気分よく帰還エレベーターを呼び出して乗り込む。
「クレイドルの機動音を確認」
しかし、彼女の一言で俺の警戒度は跳ね上がる。
直ぐに方向を確認、音を出したままこちらに直進しているようで、どんどん近づいている。
俺は何者かが近づいてくる方向へライフルを構えた。
俺は相手方を目視、その瞬間相手は停止、こちらに手を振ってみせる。
「相手方からコンタクト、スキャン終了、相手は協会員だ」
その言葉に俺は銃眼から目を離す。
ついで相手方の協会員から帰還宣言、どうやら向こうもネストに帰りたい様である。
「ユナイター」
「あぁ、気は抜かない」
協会員の相乗りというのはないことではない、俺は最低限の警戒は持っている振りをしながらも、すでに心の闘争心を解いていた。
「ん?」
近づいてくる敵のシルエットを見て俺はふと違和感を感じる。
「バードウォッチャー装備のクセに腕だけがJB*8だ。へっ、俺と同じで金欠か?」
「……ユナイター、装備情報の参照許可をだせ」
「あ?」
「早く!」
システムタイプ防衛型は敵の装備や持ち物を見ることが出来る。
協会員としては積極的に使うこともない機能であるが、彼女の一言で俺は弾かれたようにクレイドルを操作した。
「ユナイター、装備は実弾兵器のショットガンにクレイドルパーツを2つ所持! コイツ……、怪しいぞ! 構えろ!!」
「り、了解!」
俺は近づくクレイドルの方へ銃口を向けるが、相手方は構わずこちらへ前進してくる。
いやそれどころかこちらの警戒心を見るやマシンガンを放ってきた。
「マジかよ! 撃ってきやがった!?」
「ユナイター! メイガススキルを使え!!」
「頼む!!」
俺の使用許可に合わせて彼女のホログラムは俺のクレイドルの前に飛び出し、その両の手を前方へ突き出す。
「プロテクション!!」
彼女の言葉に合わせて前方を塞ぐように展開されるエネルギーシールド、それは実体をもって相手を足止めした。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
まともな戦闘すらしていない制圧射撃だけの交戦、それだけでも俺の緊張の糸は切れかねない程に張りつめていた。
相手方のクレイドルは動きを止め、泰然と壁の向こうでこちらを見ている。
「エレベーター、もうじき帰還する」
敵方は俺の首を取り損ねたことに何の動揺もない、殺せないならそれも仕方がないかと、俺の目の前で武器も構えずにただ立っている。
にらみ合い……、いや、これでは俺が一方的に睨んでいるだけだ。
「エレベーター帰還する」
そしてその終わりは物理的にエレベーターの隔壁が降りて終了する。
人狼協会員、その本当の恐ろしさの一端を俺は骨身に味わった。
どす黒く煮詰めた悪意、それに触れながら俺のドリフターとしての生活は続く。
それでも俺はこの地上で生きていく。
「……たく、全く地上は地獄か?」
「同意したくはないが、現状は協会員とは言え信じることなどできんな……」
賞金首を避け、たとえ同じ協会員であろうと決して心を許してはいけない。
そんな日々に俺の心は荒んでいく。
「ユナイター、今日の目的は依頼じゃない、純粋に私達の生存力を高めるための戦いだ」
B級ライセンスをもつドリフターは南方への出撃が許可される。俺も依頼で南方へはそこそこの回数向かうようになっていた。
だが北方にくらべ南方のエンダーズは手強い、だからこそ、その手の強敵に対する戦い方の術を得るため、俺は北方の中心に位置する危険地帯、群青湖へ降り立っていた。
「強いエンダーズが多い場所ではその隙を狙ったドリフターも多く現れる。戦いの最中であろうと背中に気を配れよ」
「おいおい、別の訓練が始まっちまってるじゃねぇか」
周囲を駆け回るチェイサーや空を周遊するゲイザーを処理した俺は、目的の敵を発見した。
長い胴体に対を為す幾つもの腕、クレイドルも容易に両断するだろう巨大な顎。
ここらで特に脅威度の高いエンダーズであるその名は“インキュベイター”
地上のドリフター達は百足という虫に似てるなんて嘯くが、こんな化け物に似ている生き物がいるなんて俺は思いたくない。
「想定はみっちりしたはずだ。あとは結果を出せユナイター」
「了解」
クレイドルの全長を優に超えた巨体が地面を潜り蠢いている。
その地鳴りを足に感じながら、俺の手の震えを相手のせいにして俺は対峙した。
こちらを発見したインキュベイターは地面より浮上する。
それだけでクレイドルの背を越す長大な体を見せつけ、こちらを威嚇した。
「構わん! 叩き伏せろ」
俺はその威嚇を無視してその胴体に鋸刃を叩きつける。
「かってぇな!」
俺が続けて二撃目を叩き込むとインキュベイターはたまらないといった様子で地面に潜り、こちらの周りを囲むように動く。
「落ち着け、レーダーと合わせて敵の位置を追い続けろ!」
姿を隠したインキュベイターは、視覚だけでは追いきれない時がある。
俺は彼女の指示通りレーダーで表示されている位置にも注意しつつ、相手の出方を伺った。
「来るぞ!」
インキュベイターの厄介な点はその地下に潜った時の機動性もそうだが、その攻撃も強力だ。
口より吐き出される物体はそれ一つで別働するエンダーズと言われているらしい、その一つ一つがこちらを追尾して襲い掛かる。
「来るぞ! 敵斜め前方目掛けて接敵!!」
俺はその追尾弾を敵の斜め前に進むように振り切りながら近づき、その攻撃の切れ間になった瞬間に左腕を振りかぶる
「オラァッ!!」
確かな手ごたえ、確実にダメージを与えたと実感できる一撃を俺は与えた。
「そろそろ止めだ。油断するなよ」
「了解」
ダメージを蓄積したインキュベイターの動きはこちらの出方を伺うような円の動きではなく、足元ギリギリを切り裂くような楕円の動き、そしてその動きは俺を中心として徐々に小さくなっていく。
「来るぞ!!」
こちらのすぐ足元からインキュベイターの頭が起立し、こちら目掛けてその顎が開かれる。
俺はその動きを見て横へブーストを吹かす。
強烈な加速度、先ほどいた場所に剛鉄を叩き合わせたような音が響く。
それを聞いた後に俺はねじれる内臓を無視してもう一度、先ほどの場所に戻るために加速する。
そしてそこには何もない空へ咢を閉じたインキュベイターの間抜け面があった。
「インキュベイターの
「アイマム」
頭部を叩きわる渾身の一撃でインキュベイターは完全に沈黙した。
その体に纏わせる光を急速に失われていくエンダーズ、それを前に俺はようやく一息つく
「周囲警戒、油断するなユナイター」
「了解……。へへっ今のはなかなか上手くいったんじゃねぇか?」
「格闘戦だけを用いた戦闘、敵が一体だけの時のみの限定された状態だ。奴らは群れることも多い、下手な自信は油断と変わらんぞ」
相変わらず手厳しい相棒だ。
「だがまぁ、やるじゃないか、インキュベイターをJBで相手取れれば他のエンダーズにも後れを取ることはあるまい」
「ここら辺のエンダーズで言えばまだまだ対応が甘いのは残すところあと一匹ってとこか」
「最後の一体はエンダーズではあるが、アレは特殊例だ」
少しづつエンダーズに対する動きの精度を高めてきた俺であるが、この付近で危険なエンダーズはもう一匹いる。
なんならそいつはこの群青湖のすぐそこにいた。
俺が目を向けた先には倒れ込んだクレイドルの残骸……、正確にはその中に潜む粘菌の様なエンダーズ。
最近現れたコイツは“寄生型”エンダーズといい、機械を汚染、侵食し支配するといった特殊な性質を持つ。
「だが、起動前の寄生型エンダーズは近づかなければ目覚めない、君が望むなら起こして戦ってもいいぞ、今日の君の動きは惚れ惚れする程だ。ぜひ続きを見てみたい」
「無茶言うんじゃねぇ……、耐久は馬鹿みたいにあるのにまともに攻撃が通るコアは小せぇし、クレイドルの武装まで使ってくるんだぞ」
コイツに関しては対エンダーズの動きというよりは対クレイドルの動きが重要だ。
……まぁそれが俺の一番苦手な動きなんだが
とにかくコイツとまともに戦うなんて考えたくもない、素直に遠距離から狙い撃つか、チャフグレネードで攪乱して速攻で片付けるかだ。
はっきり言って今の俺の武装で戦いたい相手ではない。
「とにかく、後は適当に資材を回収して帰るぞ」
重ねて言うが近づかなければ問題はないのだ。
相手方の位置さえ理解していれば無視できる。
せっかくここら一帯のエンダーズを片付けたんだ。
この群青湖は質の良いAO結晶も多く採掘できるし、素材も貴重なものが多い。
俺は稼ぎの時間に胸が高鳴りながらもすぐさま動き出した。
「AO結晶の近く、寄生型がいるから気を付けろよ」
「分かってる。この距離じゃ動かねぇよ」
初見の残骸にしか見えないクレイドルの脇を通って動き出した時には、流石に驚きで死ぬかと思ったが、分かってしまえばどうということもない。
死んだように眠る寄生型クレイドルの目の前で俺は堂々とAO結晶を掘る。
「近くでこんな音出しても気づかねぇんだもんなぁ」
「油断しすぎるなよ」
「分かってるって」
俺が彼女に返事をした瞬間、軽く空気を割く音が一つ聞こえた。
聞きなれたそのLE系の発砲音、一向に体に訪れない衝撃に安堵する前に、俺は目の前から響き渡る重く低いクレイドルの起動音に背筋を凍らせた。
「寄生型エンダーズ起動するぞ!!」
「誰かがエンダーズを撃ちやがった!!」
あともう少しで砕けそうだったAO結晶を捨て置き、俺は全速力で群青湖から距離を取る。
「寄生型エンダーズ、撃ってきてるぞ!」
「クソッ! なんだってんだ!?」
後ろからの衝撃、コフィンに直撃しないことを祈りつつ俺は岩を飛び越えて射線を切った。
「どこの賞金首が――」
湖から完全に退避し、陸地の高台に逃れた俺は早鐘を打つ心臓を押さえつけて湖へ振り返る。
そこにはバードウォッチャーがただこちらを見つめていた。
俺の背筋にゾクりと駆け上がる悪寒、賞金首や人狼協会員にさえ感じなかった怖気を俺は感じた。
「………………識別完了、所属は協会員」
対岸のバードウォッチャーはこちらを一瞥した後、興味なさげに背を向け直ぐに暗い物陰に消えた。
激しく脈打つ心臓の熱が、体の手先に着くころには氷のように冷たく感じた。
人の底さえ見えない悪意
俺は誰かに見つかる危険性など顧みず、全速力で帰還エレベーターへ駆けた。
「ユナイター……」
「へ、へへ……、流石にビビった」
帰還エレベーターの中で俺はようやく自分の手が震えていることに気づき、操作デバイスから手を離そうとする。
だがまるで素肌で触れた氷のように張り付いて剥がれない。
「大丈夫だユナイター、私が隣に……」
「あ、アイツ……」
彼女に話しかけられていることに気づかず、俺は言葉を吐き続ける。
「アイツ、心底どうでもよさそうだった。俺が死のうが生きようが……、本当にどうでも……、面白そうとか、そんな感慨もなく俺をこ、殺しにきやがったんだぜ……、へっ、ヘヘ」
機械より無機質で洞の様なあの悪意、あんなものを人が出せるのか?
この先に進み続ける中であんな虚無の様な黒と俺は渡り合っていかなければいけないのか?
これでB級、ドリフターの道行のその半ば。
はっきり言って正気でない、立て続けに起きる戦いで、俺の恐怖はたった今、許容量をこえてしまったのだ。
別に道半ばで野垂れ死ぬ覚悟はあった。
だが、あんな怪物たち……、真っ黒に煮詰められた悪意と相対しては正気でいられない。
正直言えば思ってしまった。
いっそのこと上なんて目指さずC級で結晶と素材を集めて、手ごろなエンダーズを駆ればそれで俺は十分満足できていたのではないか?
「ユナイター」
そうだ。何より彼女がいる。
俺が折れそうになった時、いつも暖かく認めてくれる彼女が。
今もきっと凍り付きそうな俺の手の上に手を合わせて元気づけて……。
「ここで終わりか?」
「え?」
だが、彼女が俺に向けたものは、冷たく鋭い一瞥だけであった。
「ここで終わりなのかと聞いている」
コクピットに座る俺を仁王立ちで見下ろす彼女は硬質な声で続ける。
「君の夢はここで折れて蹲って終わる程度なのか?」
「……はっ、どう答えてやればいいってんだ」
「どう答えようが構わん、私はメイガスだ。隣に居よう、たとえ君が夢を、熱を、その尊さを捨て、折れて蹲っても私は君の隣にいるだろう」
おいおい、まじかよ、まじで厳しすぎるだろウチのメイガスは……
「立てとは言わん、だがここで立ち上がるのが私のユナイターだ。君はどうだ?」
その一言で、俺は腹から爆発のように湧き上がる熱に突き動かされ立ち上がる。
「夢? 熱? 尊さ? んなもん、ついさっきションベンもらしかける程ビビってた俺にある訳ねぇだろ!?」
「ほぉ?」
立ち上がれば近い位置にある彼女の整った顔、だが今更なんだ。
たかが俺が理想を込めて作った程度の完璧な造形なだけの……ウォッ!! なんだこの生き物!? 美しすぎる……!!
「いいかぁ? 俺の夢なんて大したこともねぇ俗物まっしぐら、金と名誉って奴さ!」
「なるほど」
「悪意なんて知らねえなぁ! ガンガン稼いでガッポガッポの左団扇、おまけに誰もが憧れる凄腕パイロット!! いいかぁ? そんなしょうもねぇ夢なんて簡単に叶えてやれんだよ!!」
合いの手をする彼女の唇の端がニヤリと持ち上がる。
あーくそ、俺がクレイドルの操縦うまくなる前に、アンタ俺の操縦完璧じゃねぇか
「俺の夢は一獲千金! 一流ドリフターだ!!」
一生アンタに勝てねぇな俺。
多分俺は一獲千金も一流にもなれない
だがどうもその夢を諦めることも出来なそうだと、彼女の満面の笑みにつられて笑ってしまうのだった。
協会員同士はラブ&ピース!
皆で協力しあっての協働ミッションは熱いドラマが待っている!!
生き方は君の自由だ!『SYNDUALITY Echo of Ada』協会員達は君をいつも待っているよ!