訳アリ書店と書店員 作:夾竹桃
この奇妙な書店でバイトを始めて一週間。
今日も店長は、オレンジの三つ編みを床に垂らして、いつもの本の山で寝ている。
朝起きて、緑のエプロンをつけて、二階からこの書店に降り、店長を起こし、はたきで本の埃を払う。それが一週間、毎日のことだった。
お客は一日一人、偶に来ない日もある。それでも給料は出るんだから、いいバイトだ。住み込みなのもいい。
「ふぁ……あぁ、おはようさん、要」
「おはようございます、店長。ベッドで寝て下さい」
はたきをぱたぱた振って、本に積もった埃を払い落とす。
コツは、目の焦点をずらして、
別の事を考えていると、尚良し。
鼻歌歌いながらやるのが適切な仕事と言える。
書店員のバイト、と言っても、こんな、見ただけで気分が悪くなるような類の本の仕入れなんかに関われないし……そもそも仕入れとかするのか?……やるのは店の掃除と、たまに来る客の接客ぐらい。それだって、服屋みたいに甲斐甲斐しくオススメを押し付けたりする訳でなし、声かけて放置してレジ打って、くらいだ。ぶっちゃけ、バイト雇う意味は他にあるんだろう。
人間のバイトを雇わないといけない理由かぁ……絶対に碌でもないな。
まぁ考えても仕方ない。私は流行りの曲をうろ覚えで口ずさみながら、店の掃除をしていた。
そんな日の昼。そろそろおやつの時間も終わりかな? という塩梅の時間帯。
「いらっしゃいませー」
カラカラと引き戸が開いて、客が入って来た。
ピンク色の髪を二つ結びにした女の子だ。ヒラヒラの衣装を着ていて、キラキラしたピンクのステッキを握っている。
「うわぁ……」
ちょっと引きかけたが客は客。
「ご自由に見て回ってくださいねー」
きょろきょろ所在なくあたりを見回している少女に、ゆるく声をかけて、意識を向けず、気配を消す。
店長は寝ている。やる気ないなぁ。
「わぁ、本がいっぱい……あ、お菓子の本だって!
……え? 触っちゃダメなの?」
少女は何かと話しながら本を見て回る。
店長のとはまた違う獣臭がするから、まぁ、マスコット的な存在でもいるんだろう。
余談だが、店の二階が居住スペースになっている。そして、風呂はない。私は近くの銭湯に通っているが、店長は……いやそんな話はいい。
洗いたての猫の匂いと、ずぶ濡れの犬の匂い……どっちがキツくてどっちがいいか、いうまでもないな。
少女はふと足を止め、一冊の本を手に取った。パラパラとめくり、「これだぁ!」と叫ぶ。アニメチックなリアクションだなぁ。
店長はあくびをしている。
少女が手に取り、レジに持って来たのは……
「可愛いゴーレムの作り方」
女児向けデザインのゴーレムの作り方が載った、なんだろうこれ、実用書……? だった。
「お買い上げありがとうございましたー」
税抜き価格でもそれなりにする本を購入し、財布が軽くなった事を嘆きながら、少女は店を後にする。
いやぁ。
「魔法少女っているんすねぇ」
「アレをすんなり受け入れるアンタも大概やな」
「店長的にもやっぱイレギュラーなんですか?」
「うーん……なんちゅーか、系統が違いすぎてなぁ、よう分からん。強いて言えばアレは西洋魔術なんか?」
「買って行ったのもゴーレムの作り方ですし、まぁ西洋魔術なんですかね」
「それにしたって、あのけったいな衣装と杖は……」
それからしばらく、客の噂で盛り上がる。
いくら個人情報が〜とか、プライバシーだのコンプライアンスだの言ったって、店員同士が一番盛り上がるのは客の話だ。それも変な客の。
その点、この店はそういう話に事欠かない。
変な客しか来ないのだから。
まぁでも、一番思ったのは、変身してから来店するんだなぁ、って事かな。
魔法少女
目立つピンク髪、だが、今の今まで見えていなかった隣人。
普段は中学校に通っているらしい。
マスコット的キャラクターを連れていると考えられるが、仔細不明。