訳アリ書店と書店員   作:夾竹桃

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3, 部屋

 

 店に戻るなり、店長が破顔して出迎える。

 寝たんじゃねーのかよ……

 

「おお、おかえり! 何買うたん?」

「色々ですよ、色々」

 ずっしりと重い荷物を抱えて、自室に向かう。

 すると、店長が慌てて駆け寄り、荷物を半分持つ。

「これくらいは持たせてくれや。重いやろ?」

「あら、意外と紳士ですね。ありがとうございます」

 にこにこして、荷物を持ってもらう。

 ……出来れば、買い物中からその紳士さを発揮して欲しいものだが、まぁそれは望みすぎだろう。私の悪い所だな。

 消耗品を補充したり、食料品を冷蔵庫に置いて、整頓する。

「ふぅ、こんなもんかな……」

 その様子を見ながら、店長が尋ねる。

「そういや、君が買ってきたその本は何や? 

 普通の本やけど、読むんか?」

「普通、本は読むものですし、普通の本を置いてないここが特殊すぎるんですよ」

 

 店長は頭を掻きながら、苦笑する。

「まぁ、それはそうやな。

 そういう特殊な本を読む人の為に、ここが成り立ってるわけで。

 例えば、最近来たあの少女とか、な」

「ああ……なんか、すっごい、魔法少女って感じの」

「まぁ、あの子は、ここに来るにはまだ早いと思うねんけどなぁ……?」

「何か事情でもあったんじゃないです? 

 訳アリしか来ない店だし」

 街で私服姿で友達と並んで歩いているのを見たが、知らなければ普通の女の子……な訳ないか、あんな特徴的すぎるショッキングピンク髪。

 店長はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開く。

「さあなぁ。僕らはただ、ここを提供するだけや」

 

 店長は私の部屋を見回す。

「それにしても、部屋なんでこんなに散らかってるん?」

「う、うるさいですね」

 店に来て二週間程度。六畳半の空間に、色々な紙が散乱し、ちょっと床が見えない。

 ……服とかゴミが散らかってる訳じゃないから! 

 汚部屋には分類されないから! 

 私は、紙が散らばる部屋を威嚇するように隠しながら、

「いいじゃないですが別に……」

 いや、大家は店長だから、店長がダメって言ったらそれまでだけど、一カ月風呂入らない人には、言われたくない気持ち……ぐぬぬ。

 店長は散らばった紙を見て驚いた表情を見せた後、いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。

「ほぉう? これはまた、随分と込み入った研究をしてはるんやなぁ」

 少しドキリとする。

 見られて困るものは置いていない、ただのラテン語とかドイツ語のメモだ。

「研究って……そんなんじゃないですよ。

 ただの資料ですから。

 ……てか、いつまで乙女の部屋に居るつもりですか! 

 ほら、行った行った! しっしっ!」

 乙女という武器を振り回し、店長を部屋から追い出す。

 しぶしぶ部屋の外に出ながら、ぶつぶつ言う店長を叩き出し、ふんすと胸を逸らす。

「つれないなぁ。わかったわかった、もう行くわ。

 あ、夜に時間があったら、ちょっと付き合ってくれへん?」

「いいですけど……?」

 

 首を傾げて了承する。

 店長はいつも通りの糸目で、にこにこ笑っていた。

 

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