訳アリ書店と書店員 作:夾竹桃
店に戻るなり、店長が破顔して出迎える。
寝たんじゃねーのかよ……
「おお、おかえり! 何買うたん?」
「色々ですよ、色々」
ずっしりと重い荷物を抱えて、自室に向かう。
すると、店長が慌てて駆け寄り、荷物を半分持つ。
「これくらいは持たせてくれや。重いやろ?」
「あら、意外と紳士ですね。ありがとうございます」
にこにこして、荷物を持ってもらう。
……出来れば、買い物中からその紳士さを発揮して欲しいものだが、まぁそれは望みすぎだろう。私の悪い所だな。
消耗品を補充したり、食料品を冷蔵庫に置いて、整頓する。
「ふぅ、こんなもんかな……」
その様子を見ながら、店長が尋ねる。
「そういや、君が買ってきたその本は何や?
普通の本やけど、読むんか?」
「普通、本は読むものですし、普通の本を置いてないここが特殊すぎるんですよ」
店長は頭を掻きながら、苦笑する。
「まぁ、それはそうやな。
そういう特殊な本を読む人の為に、ここが成り立ってるわけで。
例えば、最近来たあの少女とか、な」
「ああ……なんか、すっごい、魔法少女って感じの」
「まぁ、あの子は、ここに来るにはまだ早いと思うねんけどなぁ……?」
「何か事情でもあったんじゃないです?
訳アリしか来ない店だし」
街で私服姿で友達と並んで歩いているのを見たが、知らなければ普通の女の子……な訳ないか、あんな特徴的すぎるショッキングピンク髪。
店長はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開く。
「さあなぁ。僕らはただ、ここを提供するだけや」
店長は私の部屋を見回す。
「それにしても、部屋なんでこんなに散らかってるん?」
「う、うるさいですね」
店に来て二週間程度。六畳半の空間に、色々な紙が散乱し、ちょっと床が見えない。
……服とかゴミが散らかってる訳じゃないから!
汚部屋には分類されないから!
私は、紙が散らばる部屋を威嚇するように隠しながら、
「いいじゃないですが別に……」
いや、大家は店長だから、店長がダメって言ったらそれまでだけど、一カ月風呂入らない人には、言われたくない気持ち……ぐぬぬ。
店長は散らばった紙を見て驚いた表情を見せた後、いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
「ほぉう? これはまた、随分と込み入った研究をしてはるんやなぁ」
少しドキリとする。
見られて困るものは置いていない、ただのラテン語とかドイツ語のメモだ。
「研究って……そんなんじゃないですよ。
ただの資料ですから。
……てか、いつまで乙女の部屋に居るつもりですか!
ほら、行った行った! しっしっ!」
乙女という武器を振り回し、店長を部屋から追い出す。
しぶしぶ部屋の外に出ながら、ぶつぶつ言う店長を叩き出し、ふんすと胸を逸らす。
「つれないなぁ。わかったわかった、もう行くわ。
あ、夜に時間があったら、ちょっと付き合ってくれへん?」
「いいですけど……?」
首を傾げて了承する。
店長はいつも通りの糸目で、にこにこ笑っていた。