訳アリ書店と書店員 作:夾竹桃
夜になり、店長と一緒に店の前に椅子と机を出し、座る。
彼は懐から酒瓶を取り出し、二つの杯に注ぐ。
満月が二つの杯に浮かび上がる。
「今日は、君が来た歓迎会、ちゅう感じで、軽く祝おうと思ってな。
これからもあんじょうよろしゅう!」
「なるほど。よろしくお願いします」
杯を受け取り、口をつけ、顔が綻ぶ。
「んまい」
「やろ?」
にやりと笑いながら、杯を干す。彼も結構酒好きのようだ。
「君が来てくれてから、うちの本屋も随分活気が出た気がするわぁ」
「いつも閑古鳥鳴いてるような?
私の給料がどこから発生してるのか、わからないレベルなんですけど」
「それは言わんといて……
せやな、君はほんまにようやっとるで」
酒をちびちび飲み交わす。つまみは無いが甘口で飲み易く、気を抜くと、水のように呑んでしまいそうだった。
ま、酒っぽい水を出されたとしても、驚きはしないが。
「そういえば、どうしてうちのバイトを受けたん?」
……面白そうだったから、と、正直に言うのもなぁ。
あんまり、カンのいい奴と思われても困る。
「まあ、暇そうだったんで。
それに、本屋は経験した事無かったし……
住み込みってのも面白そうだなぁって。
実際普通じゃなくて、びっくりしましたが」
店長が豪快に笑う。橙色にしては、屈託のない人だ。
「アッハッハッ、そうか?
僕からしたら、君も結構面白い存在やで」
夜空を見上げながら、
「ここに来る奴らは皆、何かしら事情があるもんやと思うとったけど.君は事情もなく、ただ面白半分で来たんやろ?」
「はい」
まぁ事情があるとすれば、この世界の誰にも、私にもこの人にも関係のない所の話だから、本当に意味がない事だし……
「ま、結構楽しめてますよ」
「そうかそうか、それは何よりや」
月明かりの下で静かに酒を酌み交わしていた店長が、ふと真剣な顔で尋ねる。
「そういえば、君は……自分の能力については知ってるんか?」
「能力?」
きょとん、と首を傾げて聞き返す。
何それは……初耳なんですが。
私の反応を見て、店長はニヤリと笑う。
「なんや、自分の能力について全く知らんのか?
意外やなぁ」
「なんですか、私にも転生特典的な何かがあるんですか?
生まれてこの方感じた事ないですけど」
店長は眉を上げててじっと見つめてくる、そして大きく笑い出す。笑い上戸かな?
「ぶっ、あはははは! ほんま、君ときたら……あり得へんわぁ、転生特典? 君は本当に面白い子やな」
「最近のトレンドですよ?」
酒をちびちび飲みながら、済ました顔をする。
……普段から表情筋使ってないから、無表情のままだけど。
店長は酒杯を置きながら、まだ口元に、にやにやと笑みを浮かべている。
……その顔、嫌いな奴に似てるからやめてほしいんだよな。店長は今のところ、わりと比較的善よりの珍しい人なんだが。思わず殴りたくなる。
「そうなんか? 最近のトレンドか……
最近は言葉の流れが早すぎて、ジジイにはようわからんわ」
しばらく考え込んだ様子で、やがてこちらを見つめながら意味深な笑みを浮かべる。
「そや、君に能力の使い方を教えたるわ」
「使い方、ですか」
「せや、使い方や」
真剣な声で、
「君のその能力は、もしかしたら君を危険な目に遭わせるかもしれへん。
やから、僕が君に正しく扱い方を教えたるんや。どうや、さっそく明日の朝から始めよか?」
「ふむ。まぁいいですよ。暇ですし」
あっけらかんといい放つ。
そんな私を見て、店長はケラケラと笑う。私も少しだけ口角を上げた。
お互いににっこりと、悪魔のような笑みを浮かべて、腹の探り合いは続く。
この舌なめずりをする獣を前に、私も刃を研ぐ必要があるだろう。
その手伝いをしてくれるなら、願ったり叶ったりだとも。