訳アリ書店と書店員   作:夾竹桃

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4, 杯

 

 夜になり、店長と一緒に店の前に椅子と机を出し、座る。

 彼は懐から酒瓶を取り出し、二つの杯に注ぐ。

 満月が二つの杯に浮かび上がる。

「今日は、君が来た歓迎会、ちゅう感じで、軽く祝おうと思ってな。

 これからもあんじょうよろしゅう!」

「なるほど。よろしくお願いします」

 杯を受け取り、口をつけ、顔が綻ぶ。

「んまい」

「やろ?」

 にやりと笑いながら、杯を干す。彼も結構酒好きのようだ。

 

「君が来てくれてから、うちの本屋も随分活気が出た気がするわぁ」

「いつも閑古鳥鳴いてるような? 

 私の給料がどこから発生してるのか、わからないレベルなんですけど」

「それは言わんといて……

 せやな、君はほんまにようやっとるで」

 酒をちびちび飲み交わす。つまみは無いが甘口で飲み易く、気を抜くと、水のように呑んでしまいそうだった。

 ま、酒っぽい水を出されたとしても、驚きはしないが。

「そういえば、どうしてうちのバイトを受けたん?」

 ……面白そうだったから、と、正直に言うのもなぁ。

 あんまり、カンのいい奴と思われても困る。

「まあ、暇そうだったんで。

 それに、本屋は経験した事無かったし……

 住み込みってのも面白そうだなぁって。

 実際普通じゃなくて、びっくりしましたが」

 店長が豪快に笑う。橙色にしては、屈託のない人だ。

「アッハッハッ、そうか? 

 僕からしたら、君も結構面白い存在やで」

 夜空を見上げながら、

「ここに来る奴らは皆、何かしら事情があるもんやと思うとったけど.君は事情もなく、ただ面白半分で来たんやろ?」

「はい」

 まぁ事情があるとすれば、この世界の誰にも、私にもこの人にも関係のない所の話だから、本当に意味がない事だし……

「ま、結構楽しめてますよ」

「そうかそうか、それは何よりや」

 

 月明かりの下で静かに酒を酌み交わしていた店長が、ふと真剣な顔で尋ねる。

「そういえば、君は……自分の能力については知ってるんか?」

「能力?」

 きょとん、と首を傾げて聞き返す。

 何それは……初耳なんですが。

 私の反応を見て、店長はニヤリと笑う。

「なんや、自分の能力について全く知らんのか? 

 意外やなぁ」

「なんですか、私にも転生特典的な何かがあるんですか? 

 生まれてこの方感じた事ないですけど」

 店長は眉を上げててじっと見つめてくる、そして大きく笑い出す。笑い上戸かな? 

「ぶっ、あはははは! ほんま、君ときたら……あり得へんわぁ、転生特典? 君は本当に面白い子やな」

「最近のトレンドですよ?」

 酒をちびちび飲みながら、済ました顔をする。

 ……普段から表情筋使ってないから、無表情のままだけど。

 店長は酒杯を置きながら、まだ口元に、にやにやと笑みを浮かべている。

 ……その顔、嫌いな奴に似てるからやめてほしいんだよな。店長は今のところ、わりと比較的善よりの珍しい人なんだが。思わず殴りたくなる。

「そうなんか? 最近のトレンドか……

 最近は言葉の流れが早すぎて、ジジイにはようわからんわ」

 しばらく考え込んだ様子で、やがてこちらを見つめながら意味深な笑みを浮かべる。

「そや、君に能力の使い方を教えたるわ」

 

「使い方、ですか」

「せや、使い方や」

 真剣な声で、

「君のその能力は、もしかしたら君を危険な目に遭わせるかもしれへん。

 やから、僕が君に正しく扱い方を教えたるんや。どうや、さっそく明日の朝から始めよか?」

「ふむ。まぁいいですよ。暇ですし」

 あっけらかんといい放つ。

 そんな私を見て、店長はケラケラと笑う。私も少しだけ口角を上げた。

 

 お互いににっこりと、悪魔のような笑みを浮かべて、腹の探り合いは続く。

 この舌なめずりをする獣を前に、私も刃を研ぐ必要があるだろう。

 その手伝いをしてくれるなら、願ったり叶ったりだとも。

 

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