訳アリ書店と書店員 作:夾竹桃
翌朝、書店の奥にある休憩室で店長と向き合う。
「さあ、それじゃあ、始めよか」
店、開いてる時間なんだけどなぁ、と思いつつ、店長と向き合う。
店長は、私が何を考えているのか察したように、
「心配せんでも、今日はもう客は来ぉへんで。僕が締めといたから」
と、述べた。
彼は席から立ち上がり、壁にかかった様々な道具をかき分けて、古びた手帳を取り出してくる。
「さて、まずは君の能力を見極めなあかんなぁ」
「おお、ハンター試験みたい」
漫画で見た、という感じで、私が興味深そうにしているのを見て微笑む。
「ほな、見てみよか」
手帳を開き、「魔理符」何やら呟くと、開かれた手帳の間から煙が立ち上る。
煙はすぐに晴れ、そこには"未知の能力"と書かれていた。
思わずジト目になったのは、仕方ない事だろう。
「私の目が変でなければ、未知って書いてあるように見えるんですけど」
店長は未知の能力という文字を指先でなぞり、顎に手を当てる。
「せやねぇ、未知の能力ちゅうことやな。心配せんでも、これはただ能力の種類を表すだけで、正確な内容まではわからへんから……」
「でもこう、取っ掛かりがなさそうですね、なんらかの能力がある事しかわからない」
つまり状況が何も進展していないのである!
まぁ、火だの水だの、目に見えて単純な力では無さそうだ、というのは進展かな?
店長は、頷きながら私を見つめる。
「そうやな、それはそうや。でも心配せんでええ。
こういうのはな、ゆ〜っくり一つずつ試していくもんや。
もしかしたら、君はその能力を無意識のうちに使っとるかもしれへんで」
「ほえー」と、口を半開きにして、店長の話を聞く。
「で、これからどうするんですか?」
彼は顎に手を当て、考え込む。
「こういうのは、使って確かめてみるのが早いわなぁ。
まずは基本中の基本からやってみようか。念力みたいな、ありふれた能力ならええんやけど。
まずはここにお皿があるやろ? これに君の能力を使ってみてくれんか」
「わからないものを使えって言われてもな……」
暫くうんうんと唸る。
何か、呪文なり印なり、わかりやすい合図があれば、まだ使いやすいのに。
私が唸っているのを見ながら、店長が優しく手を添える。
「そんなに難しく考えんでもええんやで。
自然体で、できるって思いながらやってみぃ」
「できる、できる……?」
"その時、ふわっと周りの空気が
「やっぱ何も起きないですよ」
ちょっと落胆しながら、疲れたように息を吐く。
"彼も、もう微細な違和感も、意識しなければ忘れそうだ。しかし、確かに何かが起きたのに、それが何かわからない、という状況は、彼にとって、背筋が泡立つような、とても居心地の悪いものだった。"
と、その時、店の戸を叩く音がする。
客が来たようだ。やはり、閉めっぱなしという訳にもいかない、中にはきっちり、決まった日、決まった時間に訪れる客もいる。
もし締め切ったらどうなるか、あまり考えたくはない。
店長が戸の方にチラリと視線を向ける。
「ああ、客か。しゃあないなぁ……
要、ちょっと戸開けてくれるか? 僕今、手が離せん状態やねん」
「分かりました」
ごそごそと、店長は手帳を壁の物掛けに仕舞い込むのを横目に、レジに向かう。
まぁあのごっちゃりした中、元の場所に戻すのは、店長にしか出来ないだろう。私はやりたくない、なんか呪いの品とかありそうだし。触らぬ神になんとやら、だ。
店長はそういうの、その辺に放置してそうだしね(偏見)
「いらっしゃいませー」
ガチャリと鍵を上げ、がらがらと店の戸を開ける。
客は黒いローブを頭からすっぽりと被った人物だ。背が高く、手には大きな箱を持っている。客は何も言わずに店内を見回している。
常連さんだ、週一くらいのペースで来るらしい。こんな本屋に通うくらいだ、本の虫に脳を侵食されているのだろう……(失礼)
「ごゆっくり探してくださいねー」
とだけ声をかけて、休憩室に戻る。
ほっといても大丈夫、なんかしようとする人は、下手な警備システムより怖いトラップに引っかかりそうだし。
あとで見て、綺麗さっぱりいなくなっていたとして、私は全く困らないし(外道)
店長は何やら考え込んでいた。
「要、さっき、なんか感じたか?」
「何をですか?」
首を傾げて、店長を見る。
店長は少し、躊躇したように口を開く。
「いや、なんか空気が変わったような気がしてな。まあ、勘違いかもしれへんけど」
「お客さん来ましたけど、続きします?」
「ああ、あの人は時々来る常連さんやから、気にせんでええやろ。それより、君の能力診断の続きをしようか。さっきの感じ、もう一回出せるか?」
常連だから大丈夫ってのは、その、客をなんだと思っているんだろうか。(ブーメラン)
まぁ店長がいいと言うので、また椅子に座って、先程のように集中する。
「うーん、やってみます」
再び念じる。やはり変化はない。
店長が顎に手を当てて、私を見つめる。
「やっぱり、これは……
ふむ。間違いなく君から出とるんやけどな……
ちつ、全然気づいてへんのか。それとも……」
店長が考えていると、店のほうからベルの音が聞こえる。客が店員を呼んでいるようだ。
「あ、私行きますね」
考えこむ店長をほっといて席を立つ。
さっきの客が、レジで会計を待っている。
客が持っていた箱は、よくよく見ると、装丁がゴツくて鍵の必要な本だった。あんまりじろじろ見てもしゃあないので、会計をぱっぱと済ませた。
「ありがとぉございましたー」
店長は客が店を出ると、私に近づいてくる。
「さて、要。今日のところはここまでにしとこか。今日はこれ以上進めそうにないわ」
「分かりました。私もなんか、疲れました……」
私が眠そうなのを見て、店長が首を捻る。
「おや、眠たいんか? 疲れとるみたいやな……結構消耗激しいんやろか……?
ちょっと待ってな」
店長が手振りをすると、空中に小さな光が灯り、ふわふわと私に近づいてくる。
その光が私の額に触れると、少しスッキリした気分になった。
「はわぁ……あったかい」
幻想的な光景と、光の暖かさに、思わずまなじりが下がる。
私の様子に、店長も微笑む。
「そうやろ? これは疲労回復の術の一つや。
効果はほんの一時的やけどな」
効果は一時的、疲労回復……元気の前借り……
「エナドリの術って感じですね」
身も蓋もない事を言った自覚はあるが、まぁ……甘ったるいものをがぶ飲みしながら、糖分で死ぬ覚悟をするより、よほど有用かつ健康的……かもしれない。
店長が一瞬きょとんとした表情を浮かべてから、すぐに笑い出す。
「あはは! エナドリの術か、言うことないな。ほぼ正解やわ。
さあ、これで要も目が覚めたことやし、そろそろ本格的に仕事でも始めるか?」
「と言っても、掃除くらいですけどね、やる事」
店長がやる気出すなんて珍しいなぁ……明日は雨かもしれない。
ぱたぱたと本の埃を祓いながら、ふと本の背表紙を見る。「明日は晴れのち舞踏会」やっぱ変な本しか置いてないなぁ……
「最近は本があまり売れへんからな、埃ばっか積もりよるわ……でもまあ、やる事が無いわけでもないかぁ」
軽く体をほぐしながら
「ほな、今日も適当にがんばりまひょか」
「はあい」
良い子な返事をして、のんびりとはたきをふるった。