訳アリ書店と書店員   作:夾竹桃

5 / 9
5, 能力

 

 翌朝、書店の奥にある休憩室で店長と向き合う。

「さあ、それじゃあ、始めよか」

 店、開いてる時間なんだけどなぁ、と思いつつ、店長と向き合う。

 店長は、私が何を考えているのか察したように、

「心配せんでも、今日はもう客は来ぉへんで。僕が締めといたから」

 と、述べた。

 彼は席から立ち上がり、壁にかかった様々な道具をかき分けて、古びた手帳を取り出してくる。

「さて、まずは君の能力を見極めなあかんなぁ」

 

「おお、ハンター試験みたい」

 漫画で見た、という感じで、私が興味深そうにしているのを見て微笑む。

「ほな、見てみよか」

 手帳を開き、「魔理符」何やら呟くと、開かれた手帳の間から煙が立ち上る。

 煙はすぐに晴れ、そこには"未知の能力"と書かれていた。

 思わずジト目になったのは、仕方ない事だろう。

「私の目が変でなければ、未知って書いてあるように見えるんですけど」

 店長は未知の能力という文字を指先でなぞり、顎に手を当てる。

「せやねぇ、未知の能力ちゅうことやな。心配せんでも、これはただ能力の種類を表すだけで、正確な内容まではわからへんから……」

「でもこう、取っ掛かりがなさそうですね、なんらかの能力がある事しかわからない」

 つまり状況が何も進展していないのである! 

 まぁ、火だの水だの、目に見えて単純な力では無さそうだ、というのは進展かな? 

 店長は、頷きながら私を見つめる。

「そうやな、それはそうや。でも心配せんでええ。

 こういうのはな、ゆ〜っくり一つずつ試していくもんや。

 もしかしたら、君はその能力を無意識のうちに使っとるかもしれへんで」

「ほえー」と、口を半開きにして、店長の話を聞く。

 

「で、これからどうするんですか?」

 彼は顎に手を当て、考え込む。

「こういうのは、使って確かめてみるのが早いわなぁ。

 まずは基本中の基本からやってみようか。念力みたいな、ありふれた能力ならええんやけど。

 まずはここにお皿があるやろ? これに君の能力を使ってみてくれんか」

 

「わからないものを使えって言われてもな……」

 暫くうんうんと唸る。

 何か、呪文なり印なり、わかりやすい合図があれば、まだ使いやすいのに。

 私が唸っているのを見ながら、店長が優しく手を添える。

「そんなに難しく考えんでもええんやで。

 自然体で、できるって思いながらやってみぃ」

「できる、できる……?」

 

 "その時、ふわっと周りの空気が()()()。しかし目の前の真っ白な皿には何も起きない。実際に何か目に映る変化が起きた訳ではないが、彼だけが違和感として覚えた。"

 

「やっぱ何も起きないですよ」

 ちょっと落胆しながら、疲れたように息を吐く。

 

 "彼も、もう微細な違和感も、意識しなければ忘れそうだ。しかし、確かに何かが起きたのに、それが何かわからない、という状況は、彼にとって、背筋が泡立つような、とても居心地の悪いものだった。"

 

 と、その時、店の戸を叩く音がする。

 客が来たようだ。やはり、閉めっぱなしという訳にもいかない、中にはきっちり、決まった日、決まった時間に訪れる客もいる。

 もし締め切ったらどうなるか、あまり考えたくはない。

 店長が戸の方にチラリと視線を向ける。

「ああ、客か。しゃあないなぁ……

 要、ちょっと戸開けてくれるか? 僕今、手が離せん状態やねん」

「分かりました」

 ごそごそと、店長は手帳を壁の物掛けに仕舞い込むのを横目に、レジに向かう。

 まぁあのごっちゃりした中、元の場所に戻すのは、店長にしか出来ないだろう。私はやりたくない、なんか呪いの品とかありそうだし。触らぬ神になんとやら、だ。

 店長はそういうの、その辺に放置してそうだしね(偏見)

 

「いらっしゃいませー」

 ガチャリと鍵を上げ、がらがらと店の戸を開ける。

 客は黒いローブを頭からすっぽりと被った人物だ。背が高く、手には大きな箱を持っている。客は何も言わずに店内を見回している。

 常連さんだ、週一くらいのペースで来るらしい。こんな本屋に通うくらいだ、本の虫に脳を侵食されているのだろう……(失礼)

「ごゆっくり探してくださいねー」

 とだけ声をかけて、休憩室に戻る。

 ほっといても大丈夫、なんかしようとする人は、下手な警備システムより怖いトラップに引っかかりそうだし。

 あとで見て、綺麗さっぱりいなくなっていたとして、私は全く困らないし(外道)

 

 店長は何やら考え込んでいた。

「要、さっき、なんか感じたか?」

「何をですか?」

 首を傾げて、店長を見る。

 店長は少し、躊躇したように口を開く。

「いや、なんか空気が変わったような気がしてな。まあ、勘違いかもしれへんけど」

「お客さん来ましたけど、続きします?」

「ああ、あの人は時々来る常連さんやから、気にせんでええやろ。それより、君の能力診断の続きをしようか。さっきの感じ、もう一回出せるか?」

 常連だから大丈夫ってのは、その、客をなんだと思っているんだろうか。(ブーメラン)

 まぁ店長がいいと言うので、また椅子に座って、先程のように集中する。

「うーん、やってみます」

 再び念じる。やはり変化はない。

 店長が顎に手を当てて、私を見つめる。

「やっぱり、これは……

 ふむ。間違いなく君から出とるんやけどな……

 ちつ、全然気づいてへんのか。それとも……」

 

 店長が考えていると、店のほうからベルの音が聞こえる。客が店員を呼んでいるようだ。

「あ、私行きますね」

 考えこむ店長をほっといて席を立つ。

 さっきの客が、レジで会計を待っている。

 客が持っていた箱は、よくよく見ると、装丁がゴツくて鍵の必要な本だった。あんまりじろじろ見てもしゃあないので、会計をぱっぱと済ませた。

「ありがとぉございましたー」

 

 店長は客が店を出ると、私に近づいてくる。

「さて、要。今日のところはここまでにしとこか。今日はこれ以上進めそうにないわ」

「分かりました。私もなんか、疲れました……」

 私が眠そうなのを見て、店長が首を捻る。

「おや、眠たいんか? 疲れとるみたいやな……結構消耗激しいんやろか……? 

 ちょっと待ってな」

 店長が手振りをすると、空中に小さな光が灯り、ふわふわと私に近づいてくる。

 その光が私の額に触れると、少しスッキリした気分になった。

「はわぁ……あったかい」

 幻想的な光景と、光の暖かさに、思わずまなじりが下がる。

 私の様子に、店長も微笑む。

「そうやろ? これは疲労回復の術の一つや。

 効果はほんの一時的やけどな」

 効果は一時的、疲労回復……元気の前借り……

「エナドリの術って感じですね」

 身も蓋もない事を言った自覚はあるが、まぁ……甘ったるいものをがぶ飲みしながら、糖分で死ぬ覚悟をするより、よほど有用かつ健康的……かもしれない。

 店長が一瞬きょとんとした表情を浮かべてから、すぐに笑い出す。

「あはは! エナドリの術か、言うことないな。ほぼ正解やわ。

さあ、これで要も目が覚めたことやし、そろそろ本格的に仕事でも始めるか?」

 

「と言っても、掃除くらいですけどね、やる事」

 店長がやる気出すなんて珍しいなぁ……明日は雨かもしれない。

 ぱたぱたと本の埃を祓いながら、ふと本の背表紙を見る。「明日は晴れのち舞踏会」やっぱ変な本しか置いてないなぁ……

「最近は本があまり売れへんからな、埃ばっか積もりよるわ……でもまあ、やる事が無いわけでもないかぁ」

 軽く体をほぐしながら

「ほな、今日も適当にがんばりまひょか」

「はあい」

 良い子な返事をして、のんびりとはたきをふるった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。