Persona4 the NeoGetter 作:komorin
警備員たちのチェックを抜け、ネーサー基地から一台のリムジンが出てくる。
明らかに上流階級の人間しか乗れないであろう黒く高貴なリムジン。その車内にいるのは桐条グループを率いる桐条美鶴と、先月世界を救ったと大々的に報じられたネオゲッターチームのパイロット達だった。
「うお──!! すっげ──!!!」
「ええいはしゃぐな號!」
「いやでも気持ちは分かる……わかるぜ號……」
「ふふ、構わないさ。話し合いで疲れただろう、飲み物はいるか?」
「飲み物あんの!?」
つい先ほどまで緊張感が嘘のように、和やかな空気が流れる。そんな雰囲気のせいか気が抜けつつある二人。
その様子に軽く頭を抱えながら、翔は応接室での話を思い出していた。
「君たちには研究所でシャドウに対抗する力、ペルソナ能力の有無の確認をさせてもらう」
「ぺるそな……のうりょく?」
號が首を傾げる。翔と剴も聞き覚えのない言葉に疑問を持ちつつも、静かに話に耳を傾ける。
その様子を見ながら、美鶴は三人の疑問に答えるため話を続ける。
「君たちがゲッターに乗るために君たち自身の素質が必要なように、シャドウに対抗するにも素質がいる。それがペルソナ能力だ」
「ほーん……なるほどな。で、どーやってそれを調べんだ?」
「こちらが用意した資料に説明を載せている」
美鶴は机に置かれたクリアファイルを手に取り書類を取り出す。
パラパラとめくり……とあるページを三人に見せた。
「んだこれ……銃?」
美鶴が見せたページには銃型の召喚器が描かれていた。
號と剴はその召喚器の形状に目を取られる。
「ああ、こいつを自身の頭に当て、引き金を引いてもらう」
「はぁ!? んなことしたら死んじまうだろ!」
「いや、死なないぞ號。どうやら拳銃としての機能はないようだ」
翔が資料の一部を指さして、二人に見せる。
「これはペルソナの発現を補助する器具のようだ。弾を飛ばす機能どころか、弾を入れる場所すらない。どうやら内部に人の精神に作用する"黄昏の羽根"と呼ばれるものが入っていて、引き金を引くという動作とそれに伴う精神の動きでペルソナを引き出すものらしい。
ただ素質がなければペルソナを引き出すことはおろか、引き金すら引けないこともあるようだな」
「んあ……?」
「要するに……拳銃なのは見た目だけ、これはペルソナを出すサポートアイテムってことだ」
「ほー……そういうことかよ」
翔の要約を聞いて、納得したように號が頷く。その横で首を傾げていた剴が疑問を口にした。
「ペルソナの発現、ってことは……なんか出てくんですか?」
「ああ、そうだ。これは一例だが……」
そういって美鶴は資料の入っていたクリアファイルの中から一枚の写真を取り出す。
写真には野球帽をかぶった青年が写っており、そしてその背後に、
「このような形でペルソナが発現する」
「すっげ──!!!」
「號!!」
まるでアニメのようなその写真に號が思わず声を上げる。そしてそれをいつものようにたしなめる翔。
その様子を見ていた美鶴がふと笑みをこぼす。翔たちを褒めたときの笑みとは違い、それはどこか昔を懐かしむような穏やかな笑みだった。
先ほどまで見ていた責任者としての彼女とのギャップに、思わず三人の動きが止まる。
「いや、すまない。君たちを見ているとつい昔を思い出してな」
「昔?」
「ああ。私も高校生ぐらいの時分に、そうやって気を許せる仲間がいたんだ。今も勿論いる。だが……全員が残っているわけではない。」
その目が遠い誰かに向けられる…がすぐに號たちに視線を戻し、話を続ける。
「大事にするといい。仲間は、一生の宝だ」
そういって目を細める美鶴。過去の経験からくるのであろうその言葉の重みに、三人は言葉を返せずにいた。
そしてその中で號は美鶴の瞳に──―二度と会えない誰かへの、深い"情"を感じ取った。
……きっとこれ以上は踏み込むべきじゃない。流石の號も、口を閉じる。
「……さて、質問はほかにあるだろうか」
「いえ、私からは……二人はどうだ?」
「俺は大丈夫。號は?」
「問題ねーよ。つーか、早くペルソナってやつを出してみてぇ!」
先ほどの空気を変えるように、意気揚々と目を輝かせる號。
そして號に応えるように美鶴は立ち上がる。
「エクセレント! それなら早速向かうとしよう」
そして今、高級リムジンに乗り……號たち三人は美鶴と共に桐条家直属の研究所へと向かっているのであった。
ネーサー基地ではなかなか乗る機会のないリムジンにテンションのあがる號を諫め、頭を抱えつつ……そんな號の対応を剴に任せて翔は手元の資料に目を通す。
「シャドウ・ペルソナ関連事項」──―過去、桐条家が研究していたシャドウとペルソナに関する事項とS.E.E.S.……特別課外活動部が対処したシャドウ、及び使用したペルソナに関する事項が記載されているようだ。
(シャドウ……ペルソナ……どれも人の精神と深く結びついた存在……。物理的な干渉もできなくはないが、効果はそれなり。同じく人の精神から発現するペルソナでの対処が一番効果がある……まあ妥当だな。ゲッターエネルギーであればあるいは、と思わなくもないが……確証は持てない。人によっては認識すらもできない存在だ……なによりS.E.E.S.が対処したとされる無気力症、そしてそれに関連する事象は……信じがたいが、事実なのだろう。まさか我々が恐竜帝国への対策を立てている中、こんな事態が起こっていたとは……)
ぺらり、ぺらりとめくりながら翔は思案する。
(シャドウと、メカザウルス……恐竜帝国がつながっているとしたら……
資料に目を通し終え、一息つく。
「……心の力、か」
果たして自分は素質があるのか、そしてあったとして──―どのような形で現れるのか。
未知の力に不安を覚えながら窓の外を見る。
白く巨大な建物……桐条家の研究所が目前に迫っていた。
「ひっろ」
「ゲットマシンの格納庫ぐらいあんな……」
円形の巨大な空間で、號と剴がつぶやく。
美鶴に案内されたのはペルソナの戦闘が可能な実験場の一つであった。
真っ白な広い円形の空間。天井は高く、ゲットマシンを持ち込んでも余裕があるんじゃないかと思えてしまう。
部屋の上部には窓が見える。恐らくそこで號たちを観測する人員がいるのだろう。
そして実験場の真ん中には机が置かれており、その上には資料でも見た銃型の召喚器が3つ並んでいた。
「これが召喚器……」
「ああ、これを使って我々はペルソナを発現させている」
美鶴の言葉に、部屋をきょろきょろ見ていた二人も召喚器に目を向ける。
事前に聞いていなければ間違いなく本物の銃だと思ってしまうその見た目に、三人はそれぞれ違った反応を見せた。
號は感心したように見つめ、翔は興味深そうに観察し、剴は少し緊張した面持ちで見つめる。
そんな三人の様子を見ながら、美鶴は口を開く。
「それではこれより、ペルソナ能力のテストについて話をする」
美鶴の言葉を聞き、三人は姿勢を正す。
「テストはいたってシンプル。その机の上にある召喚器を持ち、自身の頭に銃口を向け引き金を引くのみ。その際、引き金を引けるか、そしてペルソナ発現できるかを確認する。ペルソナが発現できた場合は、後ほど少しだけ戦闘訓練も行う予定だ。またペルソナが発現できたとして……そのペルソナが暴走してしまった場合はその場で私が対処、即座にテスト・戦闘訓練を中止とする。
以上。質問はあるか?」
沈黙。二人は真剣な面持ちで、もう一人はすぐにでも試したい、そんな期待の眼差しで美鶴の言葉を待っている。
「よし。ではテストを開始する。三人とも、召喚器を手に取って銃口を頭に当ててくれ。
伝えておくが……暴走時の対応準備はもうできている。心の準備が出来たら、いつでも引き金を引いてくれて構わない」
彼らが召喚器に目を奪われているうちに腰につけていた自身の召喚器に手を添えながら、美鶴はテストの開始を宣言する。
そしてテストの開始宣言と共に、三人は机の召喚器を手にした。
普通の拳銃よりも軽い召喚器に、銃らしいのは見た目だけだという事実をより実感しつつその銃口を頭に当てる。
そして引き金を引こうとして──―その手が止まった。
この銃は本物じゃない。
弾はない。発射機構もない。
これは、人を殺す道具ではない。
頭では理解している。手に持った時もそれを確信したはず。
それなのに、
手元の銃から"死"の気配が染み出すように広がっていた。
「……っ」
思わず唾をのむ音が室内に響く。
目に見えない冷気が、指先から脳髄へとじわじわと這い上がってくるような感覚。
「死ぬ覚悟はあるか」……そう死神から尋ねられているような気配に、手が震える。
常人であれば慄くのであろう。震えながら、その手の銃を降ろすか……あるいは強い意思でもって無理矢理引き金を引くか。
しかし三人は違った。
ゆっくりと息を吐く。既に手は震えを止め……心臓も静かに規則的な音を立てている。
幾度となく死線をくぐりぬけてきた彼らにとってある意味慣れ親しんだ気配に微笑みを返し……三人はそれぞれ頭を撃ち抜く。
パリン、と何かが割れるような音。
それと同時に、目の前に青く揺らめく人型の異形……ペルソナが現れた。
「ブリリアント! 流石は地球を救ったヒーロー、といったところか」
彼らの目の前に現れたペルソナに感心したように美鶴がつぶやく。
「これが、ペルソナ……」
號の前には真っ赤でありながらどこかネオゲッター1を思わせる、ロボのようなペルソナが現れていた。
目は赤く燃え上がり、装甲には雷を思わせる意匠が施されている。
全体的に刺々しい装甲は、號の戦闘力の高さと直情的な性格が表れているようにも感じられた。
そしてその堂々とした立ち姿は、號の持つ強い自信と眩しいほどに真っ直ぐな心を表しているようだった。
「私の……私たちの心の力、か」
翔の前には薄緑の女性型のペルソナが現れていた。
マーメイドスタイルの衣装が強くはためく中、一切ぶれないその姿勢に翔の芯の強さを感じる。
身体と分離して浮いている腕は女性型でありながらもしなやかかつ屈強さを感じさせ、その腰に付けた日本刀を難なく使いこなす姿を想像させる。
所々に見える意匠は、ネオゲッター2を想起させた。
「うん、なんか分かる、分かるな……これは間違いなく自分だ」
剴の前には球体の水槽を思わせる大きなペルソナが現れていた。
身体の半分以上を占める腹部と思わしき部分は水槽のようになっており、その中のコアを中心に内部の水が波打っている。それはどことなく母なる海を彷彿とさせた。
そしてその腹部を包み込むように存在する上半身もまた、いくつかの球体で構成されていた。丸くがっしりとした肩に、ふわりと浮かぶ丸みのある大きな手、背中に生える2本の突起。どことなくネオゲッター3を思わせつつ、そのシルエットに剴の力強さと優しさがにじみ出ていた。
それぞれ見た目は大きく違うものの、全員が現れたペルソナに自身を感じ、確信する。
これは間違いなく自分自身であり、自分の持つ力であると。
そんな三人の様子に美鶴は安心したように腰につけていた召喚器から手を離す。
そのまま戦闘訓練に移行してもよさそうだ……そう思ったその時。
突然、三人のペルソナが乱れた。
形が歪み、輪郭がブレる。まるで映像のエラーのようにノイズが走り、次の瞬間、緑の光に飲み込まれた。
「何っ……!?」
明らかな異常事態に、真っ先に動いたのは美鶴だった。
「三人は下がれっ! アルテミシア!!」
すぐさま號たちを自身の後ろに下がらせる。
そしてアルテミシアを呼びながら、上部の窓の先で観測をさせていた風花に通信を繋げた。
「山岸! 状況が見えるか!?」
『はい! これは……稲羽市で観測した反応と同じです!』
「! ……山岸を"認めていない"謎の反応か!」
『そうです! はっきりと見えないけど、これは……ペルソナを、取り込もうとしてる……!?』
「なんだと……!?」
美鶴の眉がピクリと動く。
ペルソナを取り込む、そんなことが起きたらこの三人はどうなるのか。
数年前にみた無気力症の患者たちが頭をよぎる。
「……させるものか……! 無理矢理にでも止めてみせる! マハ──―」
「待ってくれ!!」
全体氷結魔法で止めようとした美鶴を止める声。
それは號の声だった。
美鶴の後ろで、脂汗をかきながら膝をついているネオゲッターチーム。
しかし三人とも、その目を曇らせることなく真っ直ぐに自身のペルソナを見据えていた。
「こいつは……こいつは……ゲッターエネルギーだ……!」
「一度……似たようなことがあったんです、だから、わかる……私たちに任せてください……!」
「確かに吞まれたらやべーけど……二回目ともなりゃ、どうってことありませんよ……!」
今まさに己の精神が取り込まれかけている。意識が飛んだって不思議じゃない。
だというのに、ゆっくりと立ち上がる三人。
ふらつきながらも強い覚悟を感じるその姿に……美鶴は静かに下がる。
いつでもペルソナを出せるように召喚器は持ったままではあったが、彼女は三人を信じることにした。
「……わかった。だが無理はするなよ」
「おうよ……!」
一歩、一歩と自身のペルソナに歩いていく三人。
彼らが近づくにつれ、ペルソナを包む光は勢いを増していき……その力の奔流に、美鶴も風花も圧されそうになる。
「へっ、そうだな……そうだったな……俺の、俺たちの
號が笑いながら、
「全く……もうそろそろ加減を、覚えてもらいたいものだな……っ!」
翔が皮肉交じりに、
「ホント、めちゃくちゃな力だな……でも、俺たちなら……!」
剴が困った顔をしながら、
そして彼らの手が、
カッ、と緑の閃光が爆発するように広がった。
視界が白く塗りつぶされ、空間そのものが震えるような衝撃が走る。
そして──―光が収まった実験場には、青く揺らめく3機のネオゲットマシンが、浮かんでいた。