Persona4 the NeoGetter 作:komorin
光の収まった実験場。浮かぶ3機のゲットマシン、ネオイーグル・ネオジャガー・ネオベアー。
その下でほっと息を吐くネオゲッターパイロット達に、美鶴が声をかける。
「……ひとまず三人とも、無事なようだな」
「へへっ、これぐらい余裕だっての!」
「ふ、さっきまで膝をついていた男のセリフとは思えないな」
「だはは! 言えてんなぁ」
「あんだと!?」
ゲッターエネルギーの暴走を収め調子に乗る號に、皮肉を交えて応える翔とそれに乗っかる剴。
そのままやいのやいのと言い合う號と剴をあえて止めず、翔は静かに美鶴に視線を向ける。
見ての通り、我々に問題はありませんよ──―そう言わんばかりの目線に、美鶴は笑みで返した。
「しっかし一時はどうなるかと思ったけど……ま、とりあえず落ち着いてよかったよ」
いつの間にやら言い合いは落ち着いたのか、剴が宙に浮く三機を見上げながらぼやく。
三機はまるでペルソナのように、青い光をまといながら揺らめいていた。
「ああ……しかし随分と姿を変えたな、君たちのペルソナは。……山岸、分かる範囲でいい。彼らのペルソナの状況を教えてくれるか」
『は、はい!』
実験場の天井付近から声が聞こえる。恐らく上部の窓付きの部屋からマイクで音声を届けているのだろう。
美鶴に聞かれた風花は、先ほどより落ち着いた声で説明を始めた。
『姿は大きく変わっていますが、これは変わらず皆さんのペルソナです。姿以外に変わっている点としては……その、ゲッターエネルギー……でしょうか。そのエネルギーがペルソナを包むように定着しているところですね。なのでペルソナ自体に大きな変化があるわけではないみたいです。
それと姿が変わった影響かもしれませんが……皆さんのペルソナ、中に入って操作する仕様になっているみたいですね。皆さんがパイロットだからでしょうか、コクピットのような空間が形成されているみたいです』
風花の説明を聞きながら、三人は頷く。
「……確かに。これの中に入れるはず、という感覚はあるな」
「そうだなぁ。さっきまでは無かったのに不思議なもんだぜ」
「しかしよぉ……ゲッターエネルギーってんなら、なんでネオゲッターなんだ?」
ふと號が疑問をこぼす。確かにそうなのだ。
三人の知るネオゲッターは、
その疑問に、風花が答える。
『えっと……これは推測なんですけど、多分ペルソナの力とゲッターエネルギーの相性が良くないから、こうなったんじゃないかなって思うんです』
「相性が、よくない……?」
翔が聞き返し、號と剴も首を傾げる。
『はい。三人がペルソナに触れるまで……ゲッターエネルギーはペルソナを取り込もうとしていました。恐らくなんですけど……ペルソナ能力を押し込まないとゲッターエネルギー本来の力を出し切れないのかもしれません。
ゲッターエネルギーには意思がある可能性がある、みたいな文献も見ましたし……意思そのものと、意思をもつエネルギーってなると、相反してしまうのかも。だから相反しないように、ゲッターに近くてゲッターに遠いものになったのかなって……』
「なるほど……相反する二つの意志、か……」
風花の推測に美鶴が納得するように頷く。その上で、美鶴は言葉を重ねた。
「それなら……彼らがゲッターエネルギーを制御しようとする中で、無意識のうちにネオゲッターロボの形を取ることにより、ゲッターの意志を抑えた可能性もあるな」
『確かに……その可能性もありますね』
美鶴と風花が考察をする一方で、號は首を傾げ続けていた。
そんな號の様子に気づいた剴が声をかける。
「あー……要するにな號、ペルソナとゲッターが喧嘩するから、一番ゲッターから遠いネオゲッターの形にしてゲッターが騒がねーようにしてるって感じっぽいぞ。……多分」
「なるほど?」
完全に理解はしていないようだが多少腑に落ちたらしく、納得するように頷く號。
號と剴のやり取りを聞きつつ、翔がふと目線を上空に向け直すと、いつの間にかペルソナは消えていた。
「ある程度の時間経過で消失するんだな」
ぽつりと翔が呟き、それを聞いた二人も上空に目を向ける。
そんな三人の様子を見ていた美鶴が翔のつぶやきに答える。
「意識すれば出し続けることもできるが……あまり推奨はしないな」
「そうなんですね」
「ああ、ペルソナの使用には心の力を使う。乱用すれば精神だけでなく肉体にも疲労が及ぶ。……何度かそれで体調を崩していた者もいた」
「はえー……ってなると使い時は見極めないといけないってわけですかねぇ」
「その通りだ。シャドウとの戦闘時であっても、時と場合によってはペルソナ能力の使用を控えて戦うこともある。……ふむ、丁度いいか
君たち、まだ戦う力は残っているか?」
美鶴の問いに、一拍置いて三人は返事をする。
「へ、当然!」
「俺はちょっと飯食わせてほしいっすね」
「体力は残ってはいますが、一度休憩をはさむ方がより良い訓練になるかと」
「んなっ!?」
……残念ながら回答は全員バラバラであった。
二人の気の抜けた返事に號が不服そうな顔をする。
そんな號に剴は苦笑しながら、翔は呆れた様子で答える。
「仕方ねーだろ? 號と違ってこっちは無限に体力はないんだって」
「流石に暴走しかけたゲッターエネルギーの制御はそれなりに体力を奪われる。それに普段の訓練も合間に休憩をはさみ、万全の状態でやっているだろう。まさかと思うが、普段の訓練のスケジュールも忘れたか?」
「あんだとコラ!!」
「あっはっは、ま、そういうことだからさ。ちょっと休んでからにしようぜ、號」
翔の皮肉に號が突っかかる。笑いながら剴が號をなだめる。この一日で何度も見た光景。
きっとこれがネオゲッターチームの日常なのだろう。
そう思いつつ、美鶴は三人に対し話をつづけた。
「では別館の食堂で休息をとってから、戦闘訓練に入る。丁度いい、休息の際にシャドウの話も済ませてしまおう」
「はー美味かった美味かった!」
「そんなに喰って動けんのかよ剴」
「もちろん!」
「まぁ剴だからな……大丈夫だろうさ。それより、先程の話はちゃんと理解したんだろうな號」
「あ? あったりめーだろ! その……アレだろ? 普通に殴れっけどペルソナ使って殴った方が効くって話だろ?」
ドヤ顔で返す號を見ながら、翔は食堂での話を思い返していた。
話の内容は殆どが事前にもらっていた資料の中身と同じだったので翔にとってはすんなり理解出来たものの、號には少しばかり難しかったようで。最終的に戦闘において覚えておけば良い事だけ理解させようとなった結果がこれである。
「……まあ、そこさえ理解できていれば充分か」
「それよっか戦闘訓練だよ戦闘訓練!」
「號、聞いていただろうが……今回は本格的なものではなく問題なく使えるかの確認だ。間違っても桐条さんに殴りかかったりなどするんじゃないぞ」
「しねーよ!!」
「ふふ。それはいずれな」
和気あいあいと談笑している内に3人は試験場に戻る。
「……さて、それでは早速始めよう。まずは一文字號、君からいこうか」
「おっしゃ!」
「まずペルソナをもう一度出してみてくれ」
「へいへい……ペルソナッ!」
號が召喚器を頭に当てペルソナを召喚する。青い炎とともに、真っ赤なペルソナがそこに現れた。
「山岸、彼のペルソナの様子は?」
『微かにゲッターエネルギーの反応を感じますが、安定していますね』
「……ふむ、今度は変化しないようだな」
赤いペルソナは安定した様子でそこにとどまっている。
変化の条件が気になるがそれはまた後で確認すべきか、美鶴はそう思いつつ號に目を向ける。
先ほどまで意気揚々としていた號は、自身のペルソナを見ながら釈然としない表情をしていた。
「どうした一文字」
「いや……なんつーか……なんか足りねー感じがするっつーか……」
「ほう。具体的に何が足りないかわかるか?」
「わかんねー、けど……全力じゃねーって感じ? ネオイーグルに変えられる感じもしねーし」
號自身、違和感が何なのか掴み切れていないのだろう。
言葉にできない違和感に顔をしかめる。
「ふむ……山岸、最初の召喚時と比べて変化はあるか?」
『最初の召喚時とはゲッターエネルギー以外での変化はないですね。ただネオゲッターの姿の時と比べると、この姿の時は少しステータスが低くなっているみたいです。もしかするとそれかな……?』
「なるほど。全力じゃない、という感覚はそこからくるのかもしれないな」
「弱くなってんのか?」
『いえ、どちらかというとゲッターエネルギーのブーストが無いというのが近いと思います。ゲッターエネルギーの反応も微かですし……』
風花の言葉に翔と剴が納得したような表情でつぶやく。
「確かに安定しないエネルギーではあるからな……」
「ゲッターエネルギーの不安定さに俺たちのペルソナも引きずられちまうのかもな」
「意外とめんどくせぇエネルギーだなこいつ……」
「意外とっつーか元からじゃないか? 號が真ゲッター動かしたときも大変だったろ」
剴に言われて、號は早乙女研究所での出来事を思い出す。
エネルギーを充填しても起動せず、中で操作しても動き出さず、最終的に號の「二人を助けに行きたい」という気持ちに応えて動き出した真ゲッター。
「なるほどな、ガチになんねーと力は貸さねぇってことかよ」
「さっきの暴走も私たちの"死に対する覚悟"から発生したものだろうからな。窮地に立たされない限りは基本的に変化前の性能で戦うことになる可能性が高そうだ」
「いつでもゲットマシンが出せたら楽なんだけどなぁ」
残念、とボヤく剴に笑う二人。そんな少し緩んだ空気を引き締めるように美鶴は口を開く。
「ならば尚のこと、きちんと訓練をしないといけないな。さて、最初はスキルがきちんと出せるかの確認だ。一文字、そこの青いサンドバッグにスキルを撃ってくれ。何が使えるかはわかるな?」
「おう! ……アギ!」
號がそう唱えると、目の前のサンドバッグが一瞬だけ燃え、焦げ跡が付く。
「アギの系統か……他に使えるスキルはあるか?」
「あるぜ! えーっと……ジオ!」
続いて唱えると、今度はサンドバッグに雷が落ちる。威力は先ほどの炎と変わらないようで、サンドバッグには同様の焦げ跡が付いた。
「最後はこいつだ! やっちまえホノイカズチ! 突撃だ!」
そして號の言葉に呼応し、ペルソナがサンドバッグに突進する。ゴッ、という重い音が訓練場に響くと、サンドバッグは大きなへこみを作りつつ床に倒れた。
「どーよ! 次は何すりゃいーんだ?」
「エクセレント! では次は限界までそのサンドバッグにスキルを撃ちこんでもらおう」
「……あ?」
「己の限界を知るのは戦闘において重要な事だ。今回はそれを自身で把握してもらう。何、安心しろ。多少意識が飛んでも良いよう医療スタッフが控えている。存分にやってくれ」
「いいけどよ……ネーサーに帰る時間までやっても終わんなかったらどうすんだよ」
そう簡単に倒れるわけないだろ、と言わんばかりに聞く號に、美鶴は淡々と答える。
「帰還予定時刻まで6時間はある。それだけ戦い続けられるなら、よほどのことがない限り戦闘時に困ることはないだろう。その場合は堂々と帰還するといい。……戦い続けられるのならば、の話だが」
「ああ? 言ったな? 上等! 6時間ぐらい余裕でやってやるぜ!」
にぃ、と不敵に笑うと號はサンドバッグにスキルを撃ちこみ始めた。楽しそうにスキルを連発する號に笑みを浮かべつつ、美鶴は翔と剴に顔を向ける。
「さて……では並行して橘、大道、二人にも同じことをしてもらおう。橘は赤いサンドバッグ、大道は緑のサンドバッグを使うように。まずはスキルを見せてくれ」
「「はっ!」」
深夜23時。遅い時間であるにもかかわらず、珍しくネーサーの応接室に電気が付く。
「予定より少し遅くなりました、申し訳ありません」
「お気になさらず。それで……ネオゲッターチームはどうでしたか」
「ゲッターエネルギーという不確定要素はあるものの、問題なくペルソナを発現させることが出来ていました。これならプランAで問題ないでしょう」
「そうですか。では……それに合わせていくつか装備の開発を進めましょう。近日中にうちの開発部の人員をそちらに数名送ります」
「分かりました。こちらの研究チームに話を通しておきます」
席に着きながら、淡々と話を進めていく美鶴と隼人。
いくつかの書類にお互いサインをしながら、ふと隼人が美鶴に問いかける。
「ところで、ネオゲッターチームは今どこに?」
「ああ……彼らでしたら予定通り三人とも倒れましたので、使用人に居住区の自室まで運ばせているところです」
「そうですか。では暫く訓練漬けになりそうですね」
「ええ。ですが筋がいい。すぐに問題なく実戦が可能なレベルになるでしょう」
「でしょうな」
はは、とお互いに笑みがこぼれる。
「さて、必要な書類は揃いましたね。共同作戦の詳細は今後詰めていきましょう」
「そうですね。では……本日はありがとうございました、桐条さん。今後も引き続きよろしくお願いします」
「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします神司令官」
必要な書類をファイルに収め、応接室を出ていく美鶴に一礼をし見送る隼人。
ぱたりと扉が閉まるのを確認すると、隼人は机の書類をまとめながら思考を巡らせていく。
(無事ペルソナの発現ができた。今のところは順調といってもいい。
だが懸念点もいくつかある。波長だけが観測され、実体の見えないメカザウルス。同時に発生したシャドウ反応。ペルソナに干渉したゲッターエネルギー。ゲットマシンに変化した彼らのペルソナ。
曰く彼らの"死に対する覚悟"で暴走したとのことだが、果たして本当にそうなのか?
暴走した結果、ゲットマシンに姿を変えるのも妙なものだ)
ふとシャドウに関する資料に目が留まる。
(そういえば、我々には知覚できない影時間という時間が存在したという記述があったな。……まて、
「ゲットマシンの干渉できない空間でメカザウルスが復活している……?」
行きついた一つの可能性。ないと断言できない可能性に、ため息をつきながら隼人は計画書にメモを残す。
(出来ればそうであってほしくないが、もしそうであったなら……過去のシャドウ事案を見るに干渉できるのはペルソナ使いだけになってしまう。最悪複数のメカザウルスをネオゲッター単騎で相手することになる。
それに影時間にペルソナ能力のない人が入ってしまい、無気力症になる事例もあった。ならば知覚できない空間に一般人が入ってしまい、何らかの干渉を受け精神的におかしくなる事例も発生しうるだろう)
思いつく可能性を書き留め、書類を持ち、応接室の電気を消す。
今日は寝れそうにないな、そうぼやきながら隼人は執務室に戻っていった。
───同日 ???
深い霧で満たされた空に、真紅のキューブが無数に浮かんでいる。
規則正しく並んだ柱に、縄を感じさせる意匠の赤い地面。
どこか神聖な雰囲気を帯びたその空間に、ポツンと一人の男が立っていた。
ガソリンスタンドの制服はこの空間にはあまりに不釣り合いだ。
だというのに気に留める様子もなく───男は何かを待っているかのように、ポケットに手を入れ静かに佇んでいる。
やがて霧の中から緑の光が見えると、その男は口を開いた。
「……ようこそ、外なる客人。この町はどうだった?」
光は何も言わない。ただ、淡々と輝きを放つばかり。
「素敵な町っしょ? 何もない、変わらない……けどそれがまた、ね。……進化を求める君とは合わないかもしれないけど」
穏やかに微笑みながら、男は話を続ける。
「君が来た理由は分かるよ。人の進化を求める君と、人の願いを叶える僕……共に並ぶこともあれば、衝突することもそりゃあるだろうさ」
男は語りつつ、霧の向こうを指さした。すると指した方向の霧が少し晴れ……霧の先で起きている事象が姿を見せる。
黒く粘つく影……シャドウが集まり形を成す。
その形は頭に蝙蝠の翼を持った屈強な男になることもあれば、頭に角が生えたヘルメットのような機械を付けた恰幅のいい男になったり……と定まることはないものの、どれも"人間"ではない何かの形を成していた。
そして隣ではより多くのシャドウが集まり、巨大な機械を形作っていた。しなる鞭のような物を纏う人型の機械であったり、海を思わせるクラゲ型の機械であったり、四又に分かれた凶悪な口に屈強な尻尾をもち、威厳のあるマントをはためかせる帝王のような何かであったり……その形もまた、絶えず変化し続けていた。
「見えるかい? これは人々の望みで生まれたものだ。
全部壊してほしい。何もかも無くしてしまいたい。あるいは……そんな光景を間近で見たい。そんな多くの願いがこの形を成している。君の望む"進化"と相反する願いだ」
奇妙で悍ましい光景を前にしながら、男は淡々と語る。
「生憎、
いつの間にか、男の姿は変わっていた。
白いローブをまとい、長く白い髪が静かに揺れる。
声もどこか性別を感じさせないものになっていた。
「さあ、今こそ人の願いを見極めるとき。人が進化を望むのなら、私はそれを叶えよう。人が破滅を望むのなら、それも私は叶えよう」
世界を霧が包む。
形を変えるシャドウたちも、ローブの人物も、緑の光も、全てを包み込んで……
──―霧の世界には、静寂だけが残った。